プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

微かなカオリ

2012-06-07 23:59:53 | SS





 なんだかまことはそわそわしていた。

「…まこと?」

 それは放課後神社にやってきたときから。
 どこがおかしいとは言わないけれど、どことなく。悪い気配は感じないけれど、少しだけ心持ちが落ち着かないようで、しきりに髪を触ってみたり、少しだけ目線が忙しなかったり。
 悪い気配ではないから放っておこうと思ったのだけど、そわそわしている目線に結構私を映してくるので厄介だ。そんな無言かつ理不尽な数分の攻防の中、折れなければいけないのは私の方だとようやく気付いた。

「…トイレなら早く行きなさいよ」
「と、トイレじゃないよ!」
「違うの?なんだかそわそわしてるから」
「だからってトイレはないだろ…」
「じゃあなんなの?」
「…別になにも言ってないだろ」
「態度が言ってる」

 ここまで露骨な態度を取っておいてなにを隠すのか。というより、気づいてほしいなら素直に言えばいいのに、と思うけど、私が素直になれと言ったら論点の違う反論が返ってきそうなので、黙っておくけど。
 悪い気配を纏っているわけでもないのに、こちらから必要以上に手を出す気にはなれない。

「…え」

 そう思っていたら、気が付いたら抱きしめられていた。服越しの微かな香りが、直接脳に浸み込んでいく感じがした。距離が近くて、こうやって抱きしめられでもしないとわからない香り。

「…あー…香水、変えたの?」
「…レイならすぐ気付いてくれると思ったのになぁ」
「それでそわそわしてたってわけ?」
「…悪いか?」

 ふてるような言葉を吐くまことに、暑いから離れてほしいと手で押すと意外と抵抗なく離れてくれた。

 彼女が香りものを好むのは知っている。うさぎも初めて会ったとき、抱きとめられたその瞬間いいにおいだと感じたと言っていた。昔からそういう性質なのだろう。わりとそういうものに敏感で強い香りが好きでない私も、不快だと思ったことは一度もない。決して強い香りではない。
 それでも近づくと確かにわかる。微かで、人の神経に障らない、甘くて脳をとろかす香り。

 この人はどうして、一度たりとも私の神経に障るにおいを纏わないのだろう。

「そんなの…さっきくらい近づかないとわからないわよ」
「そう?いつものやつじゃないからあんまりきつくならないように気を付けたんだけど、ちょっと弱かったかな」
「…そんな強くある必要もないでしょ」
「…で、どう?レイ、気に入った?」

 気を取り直したように尋ねてくるまことの表情はにおい同様に甘い。こういう表情を平気で誰にでも見せているのかと思うと、私の心は微かにくすぶった。それなのに軽く頭に酔いと似た感覚を覚えるのは、先ほどの香りのせいか。

「興味ないわ」

 そして私の交じりない本音はどうやらまことをがっかりさせたらしい。
 何を考えてるかよく分からないわりに表情は素直。彼女の少し気を悪くしたように細められる目を私は真っ直ぐ見つめた。

「…私がどう思うかより、あなたが自分の好きなものをつければいいでしょ」
「…だけど」

 そう、不愉快でなけでば香りなどどうでもいい。彼女の選ぶ香りが神経に障ったことなどないのだから、これからも好きにすればいい。周りに好まれる、周りの人間が、それこそ抱きとめられでもしなければわからないほどの微かな香りを、いつまでも纏っていればいい。

 私が好きなのは、そのさらに向こうで。

「嫌なら嫌って言うわよ。でも嫌って思ったことないから好きにすればいい」
「…もういいよ。興味ないんだろ」

 抱きとめられなければわからないほどの香り、それでも、不特定多数の人に放たれている香りになど興味ない。不快でなければ、それこそどのような香りを纏おうとも彼女の自由だから。

「ない」
「…わかったよ」

 どうやらまことはさらに気を悪くしたみたいで、先ほどそわそわしていた時よりはるかに悪い気配を纏っていた。決して私に悪意を向けているわけではないけれど、今度は私に目線を向けようともしない。

「…レイ、あたし、もう」

 帰りたいとでも言うのだろうか。だけど、そんなこと、納得できない。これだけ香りを纏わせておいて、その先がないなど。

「まこと」

 私が欲しいのは、そんな人口の香りなど纏わない、衣服越しに抱きとめたくらいの距離では分からないその香り。彼女本来の、私しか知らないその肌の、髪の、汗の、零距離の体の。

「…なんだよ」

 衣服越しの香りでは満足できない。抱きとめられただけでは物足りない。
 人工のにおいの向こう、一瞬抱きとめられた瞬間のほんの微かな香り。その、彼女だけの香りがどうしても欲しくなった。

「今日、泊まっていきなさい」

 不審そうにしかめられるその表情はいつも通りだけど。

 触れた手から香るその香りに、どうしようもなく酔いを覚えた。




                           ************************


 「態度が言ってる」は実写まこレイのやり取りですごい好きなセリフです(まこちゃんのだけど)

 タイトルだけPer○umeの曲より拝借。誰か亜美まこレイでPerfu○eのダンス動画作ってください…合うと思うんだ。 
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