プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

侵される日常

2009-08-11 23:45:04 | SS

 朝起きて座禅を済ませ、朝食の支度にかかる。簡単にトーストを温めている間、日課としてぼんやり新聞に目を通すと、普段は見ないテレビ欄から見覚えのある名前が目に入った。
 うっかり見つけてしまったことを後悔しながら、あたしは苦笑いを浮かべテレビの電源を入れる。丁度テレビからはあの甘ったるい声が聞こえた。

「愛野美奈子です!ニューシングルリリースしました!」

 テレビの中でにこやかに手を振る友人。朝のニュースのゲスト欄にうっかり彼女の名前を見つけてしまったのだ。
 カリスマティーンエイジャー歌手だとかなんだか訳のわからない肩書きを持つ彼女は、女子中高生に非常に人気があるのだとか。
 みんな、そろってこの女に何の幻想を抱いてるのだろう。テレビの向こうでは確かに愛想がいいかもしれないが、実際の負けず嫌いで底意地悪い性格を知っている身としては、何がいいのかと思ってしまう。事実、本性を知ったら多くのファンが離れていくことだろう。
 そんな想像に意地悪く口の端が上がるのを感じたところで、焦げ臭さを感じ慌ててトースターに駆け寄った。
 
 あたしの朝食は炭に決定した。

 元・食パンをしかめっ面でかじりながら、あたしはテレビを睨む。そう、あたしは元々テレビ嫌いなのだ。緊急時のニュースなどのため便宜上家においてはいるが、自主的に見ることなどまずない。
 テレビは嫌いだった。うるさくて、あの一方的にこちらのアイデンティティを侵していくような、傍若無人な感覚が大嫌いだった。今だってテレビさえ見なければこんな不味い物を食べなくても済んだはずだ。
 それなのにいつの間にか、この女のせいで少しだけ自主的にテレビを見るようになってしまった自分にやはり苦笑いし、ちょうど切り替わった画面から逃れるようにあたしは電源を切った。炭の最後の一欠片を口に押し込み、キッチンを片付ける。

 するとそのタイミングを見計らうようにズボンのポケットから単調な電子音が響いた。電話を引っ張り出してディスプレイで相手を確認、あたしは受話器を上げる。

「・・・もしもし?」
「レイちゃん?わたし・・・亜美だけど」
「分かってるわ」

 携帯電話なんだから名乗らなくても相手は分かってるのに、相変わらずな彼女の律儀さに苦笑しながら用件を促す。

「で、亜美ちゃんどうしたの?」
「レイちゃん大丈夫?声ちょっと掠れてるみたいだけど・・・」
「・・・それは炭を・・・いや、大丈夫。何でもないわ」
「そう?あのねっ、今日、暇?」
「・・・別に予定はないけど・・・」
「折角だからクラウンに来ない?」
「・・・何で?今日は集合かかってないでしょ」
「・・・わたしがレイちゃんに会いたいから、じゃ、駄目?」
「・・・何時?」
「今からでも。レイちゃんの都合さえ良ければ」

 簡単なやり取りの後、あたしは身支度を済ませてさっさと家を出た。何故か亜美ちゃんに丸め込まれたような釈然としない気がしたが、不愉快さより苦笑いが湧いてきた。今日のあたしは一人で笑ってばかりだ。
 電話は嫌いだった。相手の都合に関係なくプライバシーに踏み込まれるあの感覚。元々人と話すことを得意とはしていない上に、相手の顔まで見えないなんて、どうしたらいいのか分からない。だからかけるのもかけられるのもどうも好きになれなかった。
 それなのに、今はそんなものを、いつでも携帯している自分がいる。戦士として便宜上受け取っただけだと言い訳しても、それだけなら、こんな誘いをされることも乗ることもないだろうに。
 「会いたい」そんな言葉で呼び出されるほど、あたしの日常に彼女達は浸透している。


「レイちゃん来た~!!」
「うさぎ!?」

 いつものように受付で怪しげなパスをかざしいつもの部屋に入る。待ち合わせのためだけの場所と思ってたし、てっきり亜美ちゃんしかいないと思っていたが、あたしを出迎えたのはうさぎだった。亜美ちゃんは静かに椅子に座ったまま、あたしに笑顔を向ける。
 ―謀られた、と思った。

「レイちゃん、ニュース見たっ!?」
「・・・は?」
「美奈子ちゃんの新曲リリース!でねっ!その曲もうカラオケで入ってるんだよ?歌うしかないじゃない!?」
「・・・で?」
「でねっ!レイちゃんにも覚えてもらおーと思って!絶対気に入ると思うよ!」
「・・・カラオケは嫌いよ」
「えぇ~もう、レイちゃ~ん!折角亜美ちゃんに呼んでもらったのに!」
「・・・最初からそーゆーことだったって訳ね」

 うさぎの肩越しに亜美ちゃんを睨む。すると亜美ちゃんはそこでようやく立ち上がり、困ったようにはにかんだ。

「みんなで来たほうが、楽しいかなって。それに、わたしがレイちゃんに会いたかったのは本当だし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 この人はあたしを扱うのがうまい、と自分で思ってしまう。流石は知性の戦士、と言ったところかもしれない。あたしは返事せずに自分専用の赤い椅子に乱暴に座った。
 カラオケは嫌いだった。うるさいし、音楽そのものに興味がない。そんなものに精魂傾ける人の気持ちが理解できないし、人前で歌うのは勿論、人が歌っているのにも付き合いたいなんて思わない。第一あたしみたいなのがいても場が白けるだけだろう。双方にいいことなんてないのだから、あたしはカラオケというものの存在を風景の一部としても捉えていなかった。
 それが今や、完全に生活の一部と化している。あたし自身が歌わないにせよ。

「・・・あたしは歌わないわよ」
「レイちゃ~ん!」
「レイちゃん、やっぱり優しいね」
「・・・別に」
「じゃあうさぎちゃん、みんな揃ったことだし、わたしも早速美奈子ちゃんの曲聞きたいな」

 うさぎが中央に立ちマイクを握る。そして間髪入れずスピーカーから爆音が溢れた。最早騒音と言っていいくらいだが、あたしは亜美ちゃんのセリフが気になって、その音に負けず大きな声で亜美ちゃんに訊ねた。

「みんな揃ったって・・・まことは?」
「あ、まこちゃん、何か用事があるから今日は来られないって」

 亜美ちゃんが、気になる?と目線を送ってくる。言葉に出さなくともそういう目つきだ。あたしは見なかったフリをして、一人歌ううさぎのほうを見遣った。


 ほぼうさぎのワンマンショーだったカラオケ大会、そして取りとめもない雑談大会から解放され二人と別れた後はもうすっかり日は傾いていた。そんな長い間平気でカラオケにいた自分にやはり苦笑いしつつ、何となく真っ直ぐ帰る気にはならなくて、頭にこびりついてしまったメロディーを振り払うつもりで街を歩くことにした。
 ぼんやりと自分の伸びた影を追いながらふらついていると、後ろから、どん、と背中を押された。

「よ」
「・・・ま、こと?」
「珍しいじゃん、あんたがぼーっとしてるなんて。どうしたんだ?」
「・・・別に」
「そんな隙だらけだと、取って食われるんじゃない?」
「・・・よけーなお世話」
「さては今日相当うさぎに付き合わされた?それはそれはごくろーさま」

 相変わらずこの人はお節介だ。言葉ひとつでそれを思ってしまう。

「・・・別に」
「それ、レイの口癖だな」
「っ・・・あなた、今日はどうして来なかったのよ」
「・・・別に?」
「まこと!」

 からかうような口調を諌めるように、睨み付けるように目線を上げた瞬間、額にデコピンを食らわされる。
 指一本とはいえかなり痛い。

「だっ・・・ばっ・・・ばか!何するのよ!」
「隙だらけだなー。本当お疲れ様。いや、あたしも行きたかったんだけどさ、ちょっと先約があってさ。悪いな」
「・・・先約って」

 この人には本当にペースを狂わされるばっかしだ。人のプライバシーに立ち入るのは嫌いなのに、こんなことを聞いてしまう。そしてこの人は別に自分の事を隠そうとしていないのに、言葉が足りないからなのか未だ分からないことが多い。

「・・・大したことじゃないよ。それとも気になる?」
「・・・別に」
「やっぱ口癖だな、それ」
「・・・・・・・・・・・何よ。何の用?」
「友達見つけたからって声かけちゃいけないのか?」
「・・・帰るわ」
「あ、待てって」

 あたしはこの人が苦手だった。本当に、存在の全てが苦手だ。
 この飄々とした佇まいや多くを語らない態度は勿論のこと。そもそも男に惑わされて痛い目に遭うなんて、あたしからすればばかばかしいとしか思えなかった。その上とんでもないお節介で人にもそれを押し付ける癖に、自分は全く誰にも頼ろうとしない。それが酷くいらいらさせる。
 それなのに―

「『友達』じゃなくて『好きな人』だもんな」
「―な」

 この人は勝手にあたしの中に踏み込んできて出て行かない。
 全く持って迷惑だ。本当に迷惑だ。
 テレビは電源を切ればいい。電話は出なければいい。カラオケは行かなければいい。でもそんなものと違って、こればっかりは笑って済ませられる問題じゃない。
 どうやってもこの人を拒絶できない。

「あたしこれからレイの家に行っちゃ駄目かな」
「何で」
「お疲れなレイにご飯作ってあげたいなって思って」
「・・・お節介」
「・・・それにさ、レイがあたしにだけ会えなくて寂しがってたら嫌だな、と思って」
「・・・ばか!」

 横に並んで頭をなでられる。そこで彼女を見上げると、目を細めた、穏やかな笑顔がそこにあった。

「それに、あたしだけレイに会えなかったのが寂しくってさ」

 一瞬の不規則な心臓の動きに頭がぐらりとした。表情とは裏腹の言葉に、顔に一気に熱が集まる。
 
 あたしのこの人への苦手意識はいつまでたっても消えない。誰にでも優しくて、その上何を考えているのか分からないから、あたしばっかりまことを想っているような気がして。この人にあたしがどう想われているのかいまいち分からなくて。それが悔しいし、そんな自分がみっともないし情けないし惨めだ。このままでは駄目になってしまいそうだ。
 そう思ってるのに、こんな一言で、あたしはもっとこの人に駄目にされてしまう。

「・・・駄目?今夜だけでも」

 私に目線を合わせるように、少し傾げられた首が少し幼い仕草のようで。でもそれは子どもに物を問う母親のようでもあって。

「・・・駄目に決まってるでしょう」
「えー・・・」
「・・・明日」
「・・・ん?」
「明日は用事ないんでしょうね」
「ああ、明日は何もないけど」
「・・・なら、今夜から泊まりなさい」
「・・・何で?」
「夕飯を作ってくれると言うことはそれだけ帰りが遅くなるってことでしょう。それでなくても一人暮らしなんて危ないのに、夜中に女の子を・・・あなたを一人で歩かせるわけにはいかないわ」
「あたしを襲う物好きなんていないと思うけど?それに悪いけど返り討ち!出来ると思うけど」
「あたしが嫌よ。泊まる気がないなら今ここで帰りなさい」
「あーはいはい。分かった分かった」

 昔には絶対に考えられなかった、あたしの退屈な日常を侵す侵入者達。テレビに携帯電話にカラオケに、仲間。
 そして好きな人。

 やられっぱなしは悔しいから、せめてあたしがこの人の日常に介入したって、いいと思う。それくらいじゃないと割に合わないと思う。
 思いの丈に割と言う言葉はおかしいのだろうけど。

「いやー、ほんと偶然だけど、今会えてよかったよ」
「?」
「実を言うと、今、押しかけようかな、って思って歩いてたとこだったからさ」
「・・・っ」

 でもあたしは、きっとどうやってもこの人には勝てない。

 あたしは一生この人に振り回されて、この人に屈折した感情を抱いて、苦しくて、悔しくて、もどかしい思いを抱えるのかもしれない。それ以上にこの人を離すのが苦しいから。

「・・・夕飯、何、作ってくれるの?」
「ああ、何にしようかな・・・何がいい?」
「・・・あなたの作ったものなら何でもいいわ・・・炭でなければ」
「・・・え?炭?」
「こっちの話よ」

 家族も仲間も恋愛感情も信用してなかったけど、それを克服して―でも、この人に結局は全て持っていかれてしまいそうな自分が怖い。あたしの世界に侵入してきた数々のものたちのなかでも、最も厄介な存在。あたしの苦手の全てを混ぜ込んだこの人。
 そしてそれ以上に厄介な、あたしの感情。
 この人と仲間でいたい。恋愛感情があっていたい。家族でいたい。
 
「じゃあ、早く帰ろう?」
「・・・誰の家よ」

 こんな言葉しか出なくっても、本当は嬉しいのよ?口には出さないけど。でも、みんな分かってくれるから。みんな受け入れてくれるから。


 あたしは、あたしの世界への侵入者たちを受け入れて、それらはあたしを受け入れて―あたしは今日も、そうやって生きていく。
 今のあたしの日常は、雷のように眩く、花のように美しい。


「そういえば」
「ん?」
「結局用事って何してたのよ?」
「あー・・・その」
「?」
「・・・美奈子の新曲のCD、近場の店では売り切れてたからちょっと遠征に・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 やっぱりまことのこういうところは好きになれない。

「・・・何だよ。いいじゃん別に」
「何も言ってないじゃない」
「態度が言ってる」
「何て?」
「・・・『妬いてます』って」
「・・・ばかじゃないの?」

 ・・・このままいっそ嫌いになれたらどんなに楽かと思う。

「そう見えたんだから仕方ないだろ。・・・そうだったら、嬉しいから」
「・・・ばか!」



 でも、そんなこと、できない。きっと一生―






        ******************


 レイちゃんと愉快な仲間たち。
 レイちゃんは、一番各仲間との一対一の描写がじっくり、且つ、克服していった(結果として慣らされた)ものが多い気がしたので。美奈にいじられうさに懐かれ亜美ちゃんに操られまこちゃんに振り回されて、結局はほだされてればいいさ。

 実写にときめきが止まらない(笑)


 実写では、レイちゃんのテレビと電話に対しての感覚は言及されてませんので捏造ですが、好かなさそうだと思って。実は管理人の本音も入ってます(テレビは今では普通に克服してますが、一時は本当に駄目でした。電話は駄目じゃないけどかけるの苦手)。
 カラオケも実は自主的に行くことはまずないです。誘われたら断らないけど、自分からは行かない。中学くらいまではほんと駄目で、連れて行かれてもレイちゃんの如く「あたしは歌わないわよっ」って感じでした。
 そんな私が今やテレビ作品の二次創作をして、日記でカラオケをネタにしまくってるって、人って変わるもんですねぇ(しみじみ)
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