また、下駄箱にはラブレター。
「最近増えたんじゃない?」
二人で帰ってる途中。もう下校時刻だというのに、彼女が朝下駄箱でラブレターを発見した途端噴き出した蕁麻疹が未だ引かないのを見かねたあたしは、唐突だと思いながらも切り出すことにした。
亜美ちゃんの蕁麻疹の頻度は彼女に思いを寄せている人の数に比例するわけで。実際のところ、行動に移さないだけで、きっともっとたくさんの人が密かに彼女に好意を寄せているのだろう、と思う。
勿論その全員が全員ラブレターを送ったりなどしたら、亜美ちゃんのお肌の健康は当分戻ってこないだろう。
それにしても最近、気のせいでなく亜美ちゃんが蕁麻疹を起こす回数が増えていた。
ラブレターを貰えば蕁麻疹が出る厄介な体質。恐らくそれは精神的なものなんだろうけど、何度数をこなしてもそれを克服出来ない彼女が、普段のお勉強でなら絶対にしない同じ間違いを連発しているようで。
申し訳なくもそれはどこか可愛く映る。
「亜美ちゃん、モテるんだなー」
「まこちゃん・・・からかわないで」
「いやでもキモチ分かるよ。可愛いしね」
「・・・まこちゃんっ!」
「それにね、最近・・・あたしから見ても、亜美ちゃんキレイになったと思うんだよ」
正直、本人が望んでるかどうかは別として、最近の亜美ちゃんは可愛いだけじゃなくてキレイになったと思う。というより、変わった。
今までずっと傍にいたから気付き難かったのだけど、それでも亜美ちゃんが変わってきたことはだんだん分かってきた。遠くから見てるだけの人たちには、ますます魅力的に映ったんだろう。
―これじゃあモテるのは当然だよね。
たぶん、それは、表情が以前より少し豊かになったせい。
亜美ちゃんは可愛くて、頭がよくて。でもそれ以上に優しくて、凄く魅力的な人だと、あたしは仲間になった後に知った。
それまでは人付き合いが苦手で、自分を外に出すのが苦手で、持って生まれたものからやっかみの対象でもあって、敬遠されてたからいつもどこか表情は影があったように思う。でも一旦心を許してくれたら、その表情は明るくて、優しくて。きっと、きっかけさえあれば誰にでも愛されるのに、それが苦手で。
でも、それが最近では、あたしたち以外の前でも出るようになった。
それはきっと―
「亜美ちゃんさ、自分で気付いてないのかも知れないけど、前より自信がついたんじゃない?わりと色んな人にはっきりものが言えるようになったし、表情もずっと明るくいなったし、よく笑うようになったし―」
「・・・?」
「それがきっと、亜美ちゃんが魅力的になった理由だと思うんだ」
「・・・そ、そんなこと」
「だからモテるんだねーうらやましいったら」
「まこちゃん!わ、わたし・・・本当に困ってるんだから!」
「えーでもあたしにはどうともしてあげられないしなぁ・・・」
「そう、だけど・・・」
「で、どうするんだい?」
「?」
「ラブレターの返事」
「・・・気持ちだけ、頂いておくわ」
「ふーん。ちょっとはお付き合いしたーい、とか、ないのかい?」
「・・・私はお勉強も、セーラー戦士としての使命もあるし・・・そしてなにより私なんか・・・」
「ストップ。その『私なんか』って言っちゃ駄目。応える応えないは別として、その『私なんか』を好いてくれた人に失礼だし、何より、亜美ちゃんは素敵な女の子なんだから」
「・・・そ、んな、こと・・・」
「あるだろ?あたしが保障する・・・って、まああたしに保障されたところで亜美ちゃん困っちゃうだろうけど」
「そ、そんなことない!」
「お?」
「・・・ラブレターに応えられないのは本当だけど・・・まこちゃんは・・・私から見てすごく魅力的だし・・・」
「・・・あ、あみちゃん?」
「まこちゃんが、すごく素敵だから・・・だから、わたしも、まこちゃんみたいに、素敵になりたいって・・・そのまこちゃんが、私を素敵と言ってくれるなら・・・」
「・・・・・・」
「・・・す、ごく、嬉しかった・・・で、す」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・亜美ちゃん、やっぱ変わったね?」
「え?」
「前はそれでも、褒められたって素直に認めなかったのにさ」
「・・・」
「それに表情だって・・・いやー、本当いい意味で変わったね。本当、目に見えてすごくすごく素敵になった。この変化何かあったと見たね。あ、亜美ちゃん・・・もしや、恋してる?」
「な゛っ・・・わ、わたしは・・・恋なんて」
「いやいや恥ずかしがらなくていいんだよ。だからラブレターに応えられないんだね。うんうん、恋をすると女は輝くっていうもんね。亜美ちゃん!あたし、応援するからね!」
「そ、そうじゃなくって!」
「えー、でも亜美ちゃん、女のあたしにも凄く魅力的に映るもん。勿論昔から可愛かったけど、それでも、今の亜美ちゃん、その想われてる人がちょっと妬けちゃうくらい―」
「・・・まこちゃん・・・!」
「・・・ん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・わ」
「わ?」
「・・・・・・・・・・・・な・・・んでも・・・ないわ」
「何だよそれ~」
困ったようにくるくると表情と変える彼女はやっぱり魅力的で。その表情を隣にいるあたしの知らない誰かに向ける時が来るのだと思うと、少しだけ、妬けてしまうけど―
今だけはあたしがこの表情を知ってて、彼女もあたしが魅力的と言ってくれたのが嬉しくて、彼女の恋の相手より―これから彼女がどういう風に変わっていくのか、ただそれを見届けたいと思った。
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まこちゃんに無自覚ながら恋をしてキレイになった亜美ちゃんと、恋してキレイになった亜美ちゃんが気になりだしたまこちゃん。先はまだまだ長いです(いつ頃なんだとかは突っ込まないで下さい)。
たまにはこんな話もいいです・・・よね?(聞くな)
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