「上目遣い?」
いつもながら美奈子ちゃんの言葉は唐突だと思う。理解できなかった私はその言葉をオウム返しする。
「そう、亜美ちゃん、上目遣いよ!こう・・・」
そういう彼女は実際に私の顔を下から覗きこむ仕草をしてくる。顔がニヤニヤしているので上目遣いと言うよりは、カツアゲの対象を見つけた不良のガン付けのようだったが、そんなこと言えないので、肩を叩いて彼女をいさめる。
「いや、上目遣いの意味は分かってるわ、美奈子ちゃん。それで、その上目遣いがどうしたの?」
「上目遣いって言うのはね、人をときめかせる魔力があるのよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
今私はときめかなかったわよ、と言う言葉を辛うじて飲み込む。
「・・・で?」
「あら~天才少女もこういうことだと本当に鈍感なのね!上目遣いはきっとまこちゃんに有効よ?自分より小柄な子が下から覗きこんできたらたちまちイチコロ!」
「・・・まこちゃん相手だと結構たくさんの子が『自分より小柄』じゃないかしら」
「あら手厳しいわね。でもわざわざ覗き込むってのはまた別よぉ~?ふふふこの愛の女神が彷徨える亜美ちゃんに手ほどきを伝授して差し上げましょう」
「・・・そんなっ・・・べ、別に私はそんなことしようなんて」
「じゃあ聞かないのね?ならまあ別にいいけど、あたしがまこちゃんに試してみるから。まこちゃんも惚れっぽいしぃ~、そして何より愛の女神たるあたしの上目遣いだとまこちゃんたちまちYes!フォーリンラブ状態に・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なっ・・・み、美奈子ちゃん・・・っ!」
「で」
「・・・?」
「あたし今から極意を『独り言』しながら復習するけどぉ~、ま、見たかったら見ててもいいわよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
美奈子ちゃんの言うことによると、とにかく上目遣いはいい、とのことだ。結局はその一言で集約されること1時間以上『独り言』してた彼女も彼女だが。
「・・・結局、聞いちゃう私も私よね・・・駄目ね、私って」
「亜美ちゃん、何が駄目だって?」
「ま、まこちゃん!」
いつの間にかまこちゃんが背後にいて。明るく「おっす」なんていつもの挨拶をしてくれたけど頭には入っていかない。
確かに彼女の目線は私よりいつも上にあって。もしかしたら、今まで知らず知らずそういうことをしていたかもしれない。でも意識すると一瞬で頭がショートする。
「どうしたんだい?」
穏やかなまこちゃんの笑顔。
これがもし言葉を発する必要があったり、いつもと著しく違うような行動であったなら私はやらなかっただろう。でも、ほんの少しの角度の問題。赤いリボンの彼女の『独り言』が頭をリフレインする。ほんの少し、だけ。
いつもと違い、ほんの少しだけ腰をかがめ、首を傾げ、覗き込むように―美奈子ちゃんの言う「上目遣い」というものをやってみる。
「・・・・・・・・・まこちゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・!」
しばらくまこちゃんは「何だ?」と言うう顔をしていたが、やがて忙しなく視線が彷徨った後、顔を両手で押さえ、顔を逸らした。
長い指の間から覗く頬は赤く染まっていて。
まさか・・・
「あ、亜美ちゃんっ・・・」
「はいっ!?」
緊張の余りものすごくひっくり返った声を出してしまい、私も慌てて口を押さえる。顔がどんどん熱くなり、恐らくは彼女と同じ表情としぐさのまま、それでも少しだけ期待を混ぜて再び彼女を見つめる。
「さ、さっき亜美ちゃんあたしのこと下から覗いてて・・・」
「う、うん・・・」
「す、すごいドキドキしちゃったんだけど・・・」
「・・・うん・・・」
「あたし、もしかして鼻毛出てた!?」
「Σ(゜д゜;∥)」
「だから下から覗きこんでたのかい!?うわあああごめん!ちょっとトイレ行ってくるっ(泣)」
「ちょ、まこちゃん、違うのよっ!(泣)まこちゃんーっ!!」
その様子をどこで見てたものか美奈子ちゃんが恵比寿顔で声をかけてきた。
「亜美ちゃん、今まこちゃん顔を真っ赤に走っていったけど・・・やったのね!成功じゃない!」
そして私にはその笑顔が悪事を成功させた悪魔に見える。今度こそ私の思考回路は完全にショートした。
「・・・・・・・・・・・・・マーキュリークリスタルパワー!メイクアップ!!」
「Σえっ何で変身!?」
「マーキュリーアクアミラージュ!!!」
「・・・本編未公開の技っ・・・!?ってあぁあぁあぁあぁあぁああぁぁぁぁ」
「まこちゃん、トイレで何凹んでるの」
「レイちゃん・・・あたし美少女戦士に有るまじきことをしてしまったのかもしれないよ・・・orz」
「・・・何があったか知らないけど、向こうでニヤニヤしながら氷付けになってる金髪赤リボンよりは遥かにマシだと思うわ」
「・・・・・・・・・・?」
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久々のまこ亜美がコレかいorz
でも実際上目遣いで覗き込まれたら「鼻毛出てるかもっ!?」って思いません?(←実際にやられたのでそういうリアクションしたらマジ切れされました。悩殺したかったそーです)
美少女戦士だけど鼻毛が許されそうな気がするのはあのはっちゃけた空気のおかげですね(笑)セラムンは奥深いなぁ・・・
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