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お茶や食の話。暮らしの中のひとコマの風景。
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いのちの食べかた

2007年11月28日 | 映画




いや~、素晴らしい
久々に心底、「いい映画を観た」と叫びたい作品と出逢いました
それが、『いのちの食べかた』。
早速、このブログで紹介したいと思い、お願いして画像を提供して頂いちゃったくらいです


公開前に予告を観た時から、ずっと「観たい観たい」と思って楽しみにしてたんですね。
で、観たら期待以上です


私は正直なところ、ドキュメンタリーとかドキュメント風作品というのに
あまり興味がない人間なんです


でも、この『いのちの食べかた』は別。
その衝撃的で美しい映像を目視した瞬間に「観なくちゃいけない」と思わされました。
……と、感嘆符羅列の長い前置きになりました(笑)。
そろそろ、その驚きの映画のお話しをしましょ。


『いのちの食べかた』は、現代の食の現場を映し出したありのままの映画です。
野菜の栽培、魚や食肉となる豚や鶏、牛の飼育や人工授精による交配。
そして、収穫や屠畜(とちく)と加工までを綴った作品で、
様々な命が、私たちの命を繋ぐために食品に生まれ変わるのを
淡々と捕らえたレポルタージュです。







衛生的でオートメーション化されたその現場には、
ある意味残酷な場面が繰り返されます。
時に血が流れ、その中で淡々と作業する人々の姿があります。
普通、それらを観たら、ギョッとするでしょうね。
私も最初は驚きました。


ですが、私は、「これに目をそらしちゃいけない」、
「残酷だと言ってしまったら、食べる事と生きる事を否定してしまう」と思ったのです。
私たちの食べてる食物は、どういう工程を経てお店に並び、料理されるのか
知る必要がある、それがこの映画を観た訳のひとつです。


スーパーで、パックに切り分けられたお肉を平然と買えるのに、
三ツ星レストランのキレイに盛り付けられたメイン料理にため息をつくのに、
屠畜の現場を「残酷」、「かわいそう」と目を塞ぎ、拒絶してしまうのは、
大きな矛盾じゃないかな。
野菜や果物は静物だから、殺生じゃないとは言えない気もします。


肉の一欠けらも、スープの一口も徹底して食さないベジタリアンの人や
宗教上のきまりで生き物を食べない、ごく一部の人々以外が
当たり前に摂取しているのがお肉や魚です。
確かに牛が屠畜寸前に、その死を察知するかのように震えるシーンは、胸が痛みました。
機械によって規則正しく切り裂かれていく「肉」となった塊に目を背けたくなります。


ですが、次の瞬間、もし帰りに焼肉に行っても、ごく普通に食べられるな、と考えてる自分がいました。
多分、それが私の、人間の「業(ごう)」なんでしょうね。
ペットや観賞用の動物と食肉用の動物に確実に一線を引いて生きているんだなとも。
ちょうど夕食時の上映回だったので、モグモグとお弁当やパンを食べながら観ている観客もいました。
そういう自分や観客たちも『いのちの食べかた』のワンシーンのひとつかな。







この映画の素晴らしさは、そうした真実の現場をとても美しく映し出しているところにあります。
カメラアングル、色彩、光、ゆったりとひろく風景を見せていく技法。
ワンカットワンカットが、まるで絵画のようなんです。


そして、作品の中にはセリフは勿論、ナレーションも音楽もありません。
そのシーンに存在するのは音のみ。
時に機械音や作業をする人の声。
吹き抜ける風の音や植物の揺れる音、動物たちの鳴き声、ただそれだけ。
なのに退屈じゃないんですよ。
常に刺激的で目が離せない


上のひまわり畑のシーン、なんだと思いますか?
ひまわりの種を収穫するために枯凋剤を飛行機で散布する場面なんです。


遠くまで広がるひまわり畑にゆっくりと飛行機が旋回していく。
カメラはロングショットでとらえます。
そして、こちらへと向かってきた飛行機が枯凋剤を落とす瞬間、
「ザッ」とひまわりが揺れるの。


その絵と音が絶妙で、当たり前のシーンなのに、間違いなく毎度の風景なのに
「巧いな」とクリエーター魂をくすぐられます。
様々なカットにそうしたセンスの良さが散りばめられていて、
ニコラウス・ゲイハルター監督の才能をつぶさに感じる事ができる……。
だからこそ、命の際のシーンや血の流れるシーンでさえも
引きつけられてしまうのかもしれません。


栽培や飼育、加工の過程の中で作業をする人たちの姿も印象的。
「私にはできない」という作業が彼らの日常で、生活の糧。
そして、作業と休憩シーンが交互にやってくる展開は、ユーモラスでシニカルです。
ユーモラスといえば、マシーンでヒヨコが規則的に、正確にポコポコ分けられていくのもそうかな。
節々に人間の人間たる傲慢さや身勝手さが見えるんです。






大きな収穫は、私たちがけっして覗けない生産現場を見られた事でした。
「これってなにしてるの?」、って首をかしげるシーンも多々あります。
パンフレットでは、それらの意味が解説されていて、とても勉強になりましたm(__)m
それに、「今時の生産管理システム&オートメーションってすごいな~」とかも(笑)。


ホント、見ごたえがありますよ~。
ささっ、続きは観た友人と、とことん語り合いたいと思います。


生きるために私たちは命を貰ってる。
この映画を観て、これから命をどう食していくか、考えさせられる作品です。
ちなみにその夜、私はモツ煮が食べたくて作っている夢を見ました。
ハイ、鬼畜でございます^_^;


いのちの食べかた <公開中>
http://www.espace-sarou.co.jp/inochi/
上映映画館:シアター・イメージフォーラム宇都宮テアトル他、全国順次公開

監督:ニコラウス・ゲイハルター
2005年/ドイツ=オーストリア/92分
配給:エスパース・サロウ
提供:新日本映画社
協力:オーストリア大使館
PG-12指定 
原題:「OUR DAILY BREAD」(われら日々の糧)


※本文中の映画画像は許可を得て掲載しております。
画像の無断使用、掲載は固くお断り致します。


関連本はこちら↓

いのちの食べかた (よりみちパン!セ)
森 達也
理論社

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真葛@泉美咲月