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僕&macbexとIFの世界

小説や遊戯王(インフェルニティ)や日常の事などを雑記していきます。

俺的小説賞の結果が出たぜ!

2013-09-05 13:23:08 | 小説
皆さんからお題を貰って書き上げた短編連作を、賞に出したのですが、
結果は残念ながら落選orz
まあ前回受賞者は獲れないってのが最初から決まっていて、
作品を供養する形で提出したので特に驚きはありません。
評価が載っていたので、気になる人は良ければどうぞ。



135 :62(作品2への感想①):2013/09/02(月) 20:56:48.30 >>106
2番(←管理人)の作品について

うめぇです。普通に市販の小説を読んでいるのと(おおむね)遜色ない感触で、自然と読み進めることに意識を集中させられちゃいましたね
作品全体を、一場面一場面を、文章の一塊ずつをちゃんとデザインしてる、意図して構成していることがよくわかります。
ともかく文章の書き方は、可読性を高める上で、作品世界を構築する上で、とても成功している、と感じました

率直にいって、ちょっとファンになりましたね
書き手であるHJ氏の作品をもっと読みたくなって、第一回・第二回の投稿作も読ませていただきました。

個人的な好みの順では、環状線センセーション>ジムノペディ>浴槽内深海探検
ですね。浴槽内深海探検は前回の受賞作ですが、私にはちょっと背伸びをしているように感じました。
題材的にも、書き方的にも。
ジムノペディは秀抜な描写が光りますが、それがやや贅肉になってしまっていたような。
今回の環状線センセーションが、もっともエンタメ的な構成や文章を意識しているように見受けられました
三回とも方向性が異なるので、いろいろ試しているのか、器用な方なのか、とても興味が沸きましたね

んで、肝心の環状線センセーションについてですが、長くなるのでレスを分けます

136 :62(作品2への感想②):2013/09/02(月) 21:06:10.06 >>106
まず一読した時に感じたことを時系列順に垂れ流しから
・第一話
 ああ、ハイワナビ文体(私の造語です)だな。こなれていて読みやすいわ
 語り手は小学生くらいなのかな~その割に地の文では賢げだな
 語り手の友達の女の子、怖いな。頭良すぎる演出としてはすてきだな
 カラスきもくていいな
 あれ、もう終わりか。よくわかんねーな
・第二話
 あーなんだかとても「現代」だな。同時代性へのシンクロ率たけえな
 少ない字数でキャラ立ってんな
 終わり方、最後の一文が特にいい
・第三話
 イミフ……wしかし読んでいけちゃう不思議
 「触れたい」という行為がわかりません以下のやりとりはちょっと陳腐だな
 ……結末がよくわかんないお
・第四話
 なるほど、これ短編連作だったな。つながってるのね
 「繭」の声はSACのアオイですね、わかります
 おお、なんだか話は核心へ
・第五話
 (途中で第一話を読み返す)
 お、おぅ、悠真くん、うんおぼえてた、おぼえてたよ~?忘れてたわけじゃないよ~?
 ん、殺人を始める動機、唐突だなw天才なのにとち狂ったのかw
 え、お兄さんなんで知ってたの
 ん、悠真って当時18歳だったのかよ。てことは秋山が当時11歳。。(一話を読み返す)
 ……悠真はとても頭が悪いようだ。11歳の女の子に四回説明されないとわからないとか
・読了。
 おお、愉しかったな。しかし、結局、つまりこれって、「繭」の存在の説明がつかないぞ
 俺が読み解けていないだけで、ちゃんと説明されてるのかな?まーいいや

【作品内容について誤解している箇所もありますが、そのままにしてあります。③に続く】 

137 :62(作品2への感想③):2013/09/02(月) 21:36:26.44 >>106
読んでいる時間はとても愉しく、どう展開するのか常に楽しみな感じで読了に至りました
ですがストーリーの核心についていろいろ疑問が残ります
・JRのシステム内に存在した「秋山サイト」フォルダは第三話がきっかけで解凍され、「繭」に乗っ取られた……ってことかな
 しかしなんで第三話がトリガーになってるのか、よくわからない。第三話は、全体の中で最も機能性がわからないです。読んでて快楽度の低いパートでした
・しかし、そもそも誰がどうやって「秋山サイト」フォルダをJRのシステム内に配置したのか
 秋山の残留思念……幽霊、とでも理解すべきなのか????それともエロ画像収集家の兄ちゃんがやったのか?
・「秋山才人」とフォルダ名の「秋山サイト」で表記で異なってる理由は何? 

上記はまじでわかんないです。
わかんなくても、読んでる最中は楽しいんですけどね。小説は一文一文読んでいる瞬間を楽しむ娯楽だと思っているので、私はそれで満足です
しかし……これだけ書くのが達者な作者なら、最後にはちゃんとわかるように説明してくれるだろうという信頼感があったのも事実。
なので読み終えたときに、ちょっと裏切られた気分になりました。

前回までの作品がかなり単純な、メインの軸一本だけを重点的に描いていく作品だったのに比して、今回は様々な要素を複合して構築しようという挑戦的な意図を感じます
その分、ストレートなインパクトや完成度は落ちたように感じます
演出や構成の面で、読者にどの程度理解させるのか、どの程度伏せて書くのか、そのさじ加減にちょっと失敗している気がします。きっと次は上手くいくんじゃないでしょうか

ああ、そうだ。この作品世界は、みんなコミュニケーションが上手に成立してないのが素敵ですね。
小此木先輩は徹底して陰謀論者だし、兄貴さんの秋山の殺人の理由への理解も一方的な思い込みですし
二話・四話と出番の多いヒッキー妹はそもそもコミュ障ですしw各話同士の関係も、そういう目で見ると、噛み合っているようで噛み合ってない感じが、狙いなのかなと思ったりもします
相互了解が成立しているようですれ違っている世界。とても現代的センスだな、と思いました。
是非、次回作を読みたいです! いつかあなたの本が本屋に並ぶ日が来るのを待っています!

138 :62(作品2への感想④):2013/09/02(月) 22:04:45.39 蛇足的ですが、もう少しだけ。
読み手としてはですね、もっと、小此木やら兄貴やら妹やらの話が読みたいです
彼等、普通の人間のやりとりが、とても楽しいので。

第三話がちょっとつらかったのは既に書きましたが、第一話も、連作のつかみとしては弱いと思います
正直、このパートからはこれから先どういう方向に物語が進むのか予測不能です。
掌編としても決着が曖昧だし、次へのヒキにはなってないかな、と思いました。
もしこれが長編の冒頭だったら、ここらで見切りをつけます、多分。
短編連作なんで、「よくわかんなかったが気を取り直して次に行こう」と思えたんですねー

五話まで進んで、このパートが悠真くん殺害のシーンだと誤解したのは②で書いたとおり。読み返して、これが殺される直前の描写なのかなあ??
そのくせ、あきちゃんにその事を話した、と言ってるし、よくわかんないなあ?なんて思ってました……。
この件に関しては私の読み落としもあったんですが、時系列、わかりにくいですよね
悠真くんはカラスに遭遇した6年後、再びカラスと揉めて殺されるわけですね
んで7年後に秋山がカラスを殺す、と。

これ書き方の問題というよりは、話の核心を五話に集中させすぎ、第一話が物語に必要な情報的に薄すぎているからじゃないかと思います
まーこのあたりは、他人がとやかく言うことではないですね
HJ氏ならきっとご自分でよりよい作劇を為す手法を開発できると思いますので。
では、蛇足終了~

かなり嬉しかった!
こんなにしっかり読んでくれる人がいるのは感激ですね……。

では頭を切り替えて次の賞を考えようと思います。
今投稿中の作品は4本になりました。
月に吠える文学賞 ジムノペディ改稿版
MF文庫J 人工羊
富士見書房 MIC改稿版
一迅社文庫 AS改稿版
近いところだと、10月に月に吠えるとMF文庫の発表があります。
どちらも自信はあるので、入賞してくれるといいなぁ……

久しぶりに小説晒し テーマ:地元

2013-09-05 12:42:28 | 小説
(タイトル未定)

 「稲村ヶ崎は今日も雨」、って歌がサザンにはあるけど、それを借りるなら「しょうが祭りは今日も雨」だった。稲村ヶ崎ってどんな海岸だか分からないけど、きっとここよりは楽しい場所なんでしょうね。
あたしがサザンなんて古臭いバンドを知っているのはお父さんの影響。お父さんはいつも自分のトラックにサザンのCDを置いていて、あたしが「飽きた」って愚図ると西野カナちゃんのCDを出してくれる。でもその中にはサザンのCDが入っていて「これはジュウナンバーズ・カラットって言うアルバムなんだぞ。初版で、貴重なものだけど、ケースは捨てちまったんだ」って言って笑う。
 そんな話は桑田佳祐のハスキーボイスくらい聞き飽きてるんだからね!
 お父さんはラジオとか聞ける機械(カーステレオとはちょっと違う)の摘みを回して、アルバムの番号を『10』に合わせる。すると私でも弾けそうな、単調なピアノの音がしたあとコーラスが入って「いとしのエリー」が始まる。多分こんな昔の歌、誰も知らないだろうから教えてあげるけど、この歌は桑田佳祐のお姉ちゃんがエリコって名前だから「いとしのエリー」なんですって。いい年(・・・)のエリコさんに「笑ってもっとベイベー」とか言っちゃうんだから、寒いもんよね。
 お父さんは歌詞を暗記していて、タバコで潰れた声で桑田佳祐っぽく歌う。でもちょっぴり変えていて、エリーマイラブソシーの所を「ヒナマイラブソシー」って歌うの。恥ずかし言ったらないわ。お父さん、声大きいんだもん。
 お父さんが大好きなサザンが流れているのに、部屋のふいんきは重かった。
窓ガラスを這うように流れる雨のせいで、まるでこの家が稲村ヶ崎の海の中に沈んでしまったみたいに感じた。
 せっかくのお祭りなのに、ご馳走も出ないし、親戚で集まってるのに全然話もしない。高橋のエッちゃんもカッコウおばちゃんも、私に他の子よりもたくさんのお小遣いをくれた後、他の子にはしないハグをして、すぐに離れてしまった。笑い上戸の二人が悲しそうな顔をしていると、私まで辛くなっちゃうじゃない。
 大和田のおじいちゃんがテレビを消してしまったから、和室には微妙な静けさだけが残ってしまった。高橋のエッちゃんがキャミソールから出ている私の背中を撫でて「ちょっとリビングの方に行ってなさい?」って言った。
 布団の掛かってない掘りコタツから足を出すと、まるでそれを待っていたみたいに幸太郎が近寄ってくる。幸太郎は「雛ちゃんどこ行くの?」って訊いた。
「あんたも来る? 退屈だし、あそんであげるわよ」
 幸太郎は私よりも少し年上だけど、気が弱くて頼りないから、私のほうが立場が偉いのだ。
「うん。遊んで欲しいな」
 幸太郎の後に、和室の隅っこで足をバタバタさせていた木下の双子兄弟もやって来た。私はどっちがどっちだかわからないから、木下兄弟って言うしかない。
「幸太郎お兄ちゃん。なにするの?」
「雛ちゃんが遊んでくれるんだってさ」
「でもあんたたちはだめよ。おしっこくさいんだもん」
 兄と弟、どっちがお漏らししてるのか分からないけど、臭いものは臭いのだ。
 すると木下兄弟は半べそをかいてしまった。私は悪くないし。
「まあまあ雛ちゃん、そう言わず」
「気安く頭なでないでよ!」
 幸太郎はデリカシーがない! せっかく綺麗にしてきた髪なのに、そんな大きな手で一なでされたら全部台なしじゃない。手を叩かれたのがよほど悲しかったのか、幸太郎はごめんと言いながら薄く笑みを浮かべた。その笑顔が私は嫌いだった。なんだかヒクツみたいじゃない?
「もうだれとも遊ばないから。あっちいって。一人になりたいの」
 私は腕を組むとフローリングに胡座をかいて座った。首を曲げて、目の前の男達に目を向けないようにすると、幸太郎は私の隣に座って「雛ちゃんはサザンの曲、好き?」と尋ねた。iPodに表示されているサザンのアルバム、どれも聞いたことがある奴ばっかりだった。あの「ジュウナンバーズ・カラット」も収録されてる。
「全部聞いたことあるもん」
「それはすごいね」
「べっつにー」
「好きの曲ってある? 良ければ聴かせてあげるよ」
 私は少し迷ったけど、好意を無下にするのはよくないってお父さんに教わっていたから、せっかくだしお言葉に甘えることにした。幸太郎が使っているイヤホンは嫌だったから、自分のバッグに入っている奴をiPodに差し込んだ。そして、「ジュウナンバーズ・カラット」を再生した。もちろん、アルバムナンバーを10に合わせる。車で聞くよりもiPodで聞く奴の方が音の質がよかった。あるいは、お父さんの声が混じっていないからかもしれない。
 桑田佳祐はエリコさんへの愛を歌っていた。
 誰も私への愛を歌ってはくれない。
 私は一番を聴き終わったところでiPodを停止するとイヤホンを抜いた。そして「もういい」って言って、二つに折った座布団を枕にして横になった。幸太郎は全快した木下姉弟に両袖を掴まれ、キッチンの方に行ってしまった。ここには私しか残らなかった。

 いつの間にか、少し眠ってしまっていたらしい。窓から差し込む夕日を見て、雨が止んでいることを知った。レースのカーテンをのけると、今までの豪雨が嘘みたい、空は抜けるような茜色に染まっていた。
「よく眠ってたね」
 幸太郎は私のすぐ隣で、座布団に座りながら難しそうな本を読んでいた。作者名のところには川端康成と書いてある。よくそんな厚い本を読めるなぁって思ったけど、口にはしなかった。
「二人は?」
「お祭りに行くってさ」
「……そう」
 私はお祭りには行っちゃ駄目って言われてるから、二人がちょっとだけ羨ましかったけど、まあ、幸太郎はこっちにいるし、勘弁してやろうって思った。
 遠くから祭囃しの音が聞こえる。しょうが祭りはいつも雨、毎年九月の第一土曜日に行われるこのお祭りは、もう六年連続で中止になっていた。夕方からとは言え、お祭りが開催されたというのは、奇跡に近い。
 そんな凄いことなのに、幸太郎は外に行く気配はない。
私はちょっと不安になって「お祭り行かないの?」って訊いた。すると幸太郎は「一人で行っても仕方ないからね」と言う。幸太郎、けっこーかっこいいし、女の子でも誘っていけばいいのに。
 リビングの扉が開かれて、そこから木下さんが現れる。彼女は私たちの事を比べるように見ると「二人とも、ちょっと外出ない? タバコ買いに行くんだけど」と言った。私はこの人があんまり好きじゃないから、買い物に付き合うのは嫌だったけど、外に出してくれる機会を逃したくなかったから、文句は言わず立ち上がった。幸太郎も私の後を続く。
 二宮のT字交差点、横断歩道をわたって左に曲がる。薄紅色のレンガが敷き詰められた道の左右には、ちょうちんがぶら下がっていて、工務店の名前や居酒屋、あるいはコンビニの名前がそこに墨で入れられてる。雨の後のせいで空気はしっとりしていて、どこからか生姜の美味しそうな匂いが漂ってくる。
「私、生姜、苦手なのよね」
 と木下さんが言った。最後のタバコをポケットから取り出すと、それを咥えてから箱を握り潰して道路に捨てた。幸太郎が気付かれないようにそのゴミを拾うとポケットに入れる。
 町内スピーカーはサザンの歌を流していた。これは「TSUNAMI」だ。
 あんなに好きな人に出会う夏は二度と無い。
 このところが私はちょっと好きだ。多分、最近サザンが再結成したからあちこちで桑田佳祐の声が聞けるんだと思う。それは懐かしい感覚を私に与えた。
前からタバコの匂いが漂ってくる。木下さんは「またサザンか」と言って渋い顔をする。細い煙草は、まるでお線香みたいだった。一回吸い込むと半分くらい灰になって落ちた。
「ミュージシャンって、皆お金欲しさに再結成するわよね」
 足が止まった。
 サザンなんてどうでもいい、そう思っていたけど、バカにされてこんなに動揺するとは思わなかった。クラスメートが西野カナちゃんの歌詞を一辺倒だってバカにしたときは、こんな風にはならなかったのに。
 でも言い返すことが出来なかった。木下さんの背中は強大に見えたし、私なんかじゃ絶対に言い負かせられないだろうなって思った。胸中で渦巻くこのモヤモヤに耐え切れず、私は自分の両耳をふさぐ、祭り囃しも、サザンも、木下さんも、全部遮断する。
 私の腕を幸太郎が握った。涙で潤んだ視界、彼の表情は見えなかった。外された耳のガード、幸太郎は「人ごみに紛れるよ」って言って、木下さんにバレない様に横道にそれた。そこは今お神輿が通ったところで、見物人でごった返しているところだった。幸太郎はしっかりと私の腕を掴んだまま、人の間を縫うように進んで、あきる野図書館の前にある小さな公園に入った。どこも雨で濡れていたから座れない。二人して乱れた息を立ったまま整える。私は幸太郎に背を向けて目をこすった。
「こんな勝手なことしていいの」
 助けてもらったのはありがたいけど、逃げたことがバレたら大目玉だ。
幸太郎は「僕が勝手に連れだしたんだから、雛ちゃんは何も気にしなくていいよ」と言う。それって幸太郎が怒られるってことじゃないか。まだ悩む私の手を、幸太郎が握った。
「ほら、行くよ」
 目まぐるしく変わる状況に、私はやや置いてかれ気味だった。でもなにより、幸太郎に先導されているっていうのが、つまらなかった。
「どこいくの」
「そうだね……。雛ちゃんチョコバナナ好きでしょ。買いに行こうか」
「家に戻らないの?」
「ここまで来たら、ちょっと寄り道したって変わらないよ」
 それもそうかと思って、歩き始める。露天が立ち並ぶ二宮神社の前に着いたところで、なんで幸太郎は私の好きなモノを知っているんだろうって思った。話したつもりはなかったんだけど。
 境内の中は人熱になっていて、右側が奥に進むための人の流れとなっていた。地面は滑らかなアスファルトで固められているから、ゴム靴が擦れる音と、下駄が石を蹴る音が交互に聞こえた。私たちは横に並びながら、ゆっくりと前に進んでいく。お財布をもって来忘れた私に、幸太郎は綿あめを買ってくれた。左手で幸太郎の手を持って、右手で綿あめを持つ。時々、幸太郎がそれを人差指と親指でちぎって自分の口に運んだ。私は口の周りに砂糖がつかないように、注意深くそれを食べ終えた。
 玉石が敷き詰められる拝殿の前には、たくさんの露天が立ち並んでいた。お巫女さんがお守りや占いをしているところもあったけど、大多数は神社とは関係の無い食べ物屋だった。まるで人形のように、私は幸太郎に連れ回された。そしてカロリー表示なんて無い祭りならではの物をたくさん食べた。フランクフルトにはマスタードが掛かってたから食べられなかったけど、その後に食べたチョコバナナは二本も平らげてしまった。太ったら嫌だなって思ったけど、今日ばかりはいいかなとも思えた。
 金魚すくいの屋台の前で、木下兄弟に会った。タンクトップ姿で鼻を垂らしながら、金魚の入った水槽を覗いていた。そんな事しなくてもいいのに、幸太郎は二人に話しかけてしまう。「なにしてるの?」って。女の子と二人っきりだって言うのに、なんでこう空気が読めないかな……。
「あ、こーたろう兄ちゃん。金魚すくいできる?」
「苦手だよ」
「なんだつまんないの」
 兄弟は走ってくじ引きの方へ行ってしまった。あんな奴らはテキ屋にカモにされてしまえばいいんだ! せいぜい当たりのないくじ引きに手を突っ込んでいればいい。
「雛ちゃん、こっちおいでよ」
 水槽の前でしゃがんでいる幸太郎が手招きした。私を置いていったくせに、全然悪びれる様子はない。置いていってやろうとも思ったけど、お金もないし、一人は嫌だし、仕方なく言うとおりにしてあげた。
 幸太郎は私にポイを手渡すと、「やってみなよ」って言った。水槽にはたくさんの金魚がうごめいていて、なんだか気持よさそうだ。
 これで一匹も取れなかったらカッコ悪いなって思いながらも、もし取っちゃったらどうしようって考えもあった。それで紙を水に浸すことすら迷っていると、幸太郎が「僕のために取ってよ」って言って微笑んだ。
 私は頷くと、それを水中に差し込んだ。破れかぶれになりながらも、一匹だけ、小さくて赤い金魚が取れた。おじさんはそれを透明度の高いスベスベしたビニールの中に入れて、その紐を腕に掛けてくれた。
 ちょっとだけ得意げだった。幸太郎には出来ないことをしてあげたんだ。
「雛ちゃんが会いに来れるように、ちゃんと育てておくから」
 そんなのは無理だろうなって、私は思った。幸太郎を疑っているわけじゃない。
 私はもう二度と、幸太郎には会えないんだろうなって思った。
 その後、拝殿にお参りしてから家に戻った。木下兄弟は大きなエアガンをくじ引きで当てたらしい。あんなのはちょっとだって羨ましくはなかったけど、帰り道でやたらと自慢してきたからウザかった。あんなのよりも、金魚の方がよっぽど可愛いし。
 玄関には幸太郎のお父さん(私のお父さんの妹の、その夫に当たる人だ)が立っていた。彼は幸太郎の事を睨むと、ちょっと来いって言って、背を向けた。きっと怒られるんだ。そう思った。でも幸太郎は相変わらず薄い笑みを浮かべながら「雛ちゃん、また後でね」って言った。
 でも、夕食を食べた後も、幸太郎が戻ってくることはなかった。

 高橋のエッちゃんに頼んで、物置から金魚鉢を出してもらった。それはエッちゃんがまだこの実家にいた頃、マリモを飼うのに使っていたものらしい。
 タワシで綺麗に金魚鉢を磨いて、一緒に見つけてきた水槽用の砂利を敷いた。それだけじゃあんまりにも簡素に見えたから、トートバッグのストラップにしていたドナルドの、人形のところだけを入れた。なんだかちょっとだけ可愛くなったような気がする。
 金魚を放すと、金魚は鉢の中をゆっくりと遊泳し始めた。ドナルドの帽子の匂いをかぐみたいに顔を近づけて、嬉しそうに人形の周りを回った。
 木下兄弟がエアガンを使って家の中で暴れ始めたので、被害が鉢に行かないように守ったりもした。敷かれた布団に入って、電気を消した後も、私は金魚鉢を見続けた。たとえ狭くたって、綺麗だから金魚も楽しいと思う。お父さんも、綺麗な部屋にいるといいんだけど。

 私とお父さんは、実家とは少し離れた都内のアパートに住んでいた。私は小学校に通いながら、お父さんの朝ご飯を作ったりして、お母さんの代わりに色々と頑張った。それなりに楽しい毎日だったし、戻れるとしたら戻りたいって思う。
 でもある日の早朝、アパートにお巡りさんがやって来て、ランドセルを背負う私を気の毒そうに見つめた。私には「お父さんのお友達だよ」って嘘をついていたけど、玄関先で警察手帳を見せているのが見えたから、バレバレだった。
 実家に連絡をとってくれたのも、そのお巡りさんだったし、迎えを拒む実家に送って行ってくれたのも、お巡りさんだった。乗ったのは普通の車だったけど、赤色の回転灯が飛び出す「ハッチ」のようなものが、助手席の前のボード上に付いていたし、車上のスピーカーに繋がるマイクも装備されていた。子供だから分からないと思っていたんだろうけど、私はお父さんから時々警察車の話を聞いていたから、すぐに分かった。
「お腹減ったかい?」
 私は首を振った。でもお巡りさんはマクドナルドのドライブスルーに寄って、適当なハンバーガーとシャイクを買った。胸が苦しくて、あんまり食べれなかった。同情して買ってくれたんだろうけど、ありがた迷惑だ。おかげで私は実家に来てからしばらく肉が喉を通らなかった。
 実家に住んでいる人は皆、私に対してよそよそしかった。いつも廊下から口論が聞こえていた。私のお母さんに連絡を取っているのだ。なんて言ってるのか気になって、こっそり聞いたことがあるけど、思い出したくない。
 そんな時、都心の学校で法律を勉強している幸太郎がやって来たのだ。私は幸太郎の事を覚えていなかったけど、彼は私のことをよく覚えていて、出会いがしらに高い高いしようとして腰を痛めた。思えばその時から幸太郎は馴れ馴れしかったし、必要以上に絡んできた。
 司法試験って言うのを受けるつもりだったらしいんだけど、「雛ちゃん逢いたさに、つい戻ってきちゃった」って言って父親を激怒させていた。多分、大事な試験だったんだと思う。それをほっぽり出して、どうして私に逢いにくるのか、分からなかった。
 実家に対して心残りは無いけど、金魚に会えなくなるのはちょっと寂しいな。そんな事を考えながら、実家最後の日を終えた。幸太郎は戻ってこなかった。

 翌朝、ほとんどの親戚は姿を消していた。私を起こしたのは幸太郎のお母さんで、もうすぐお母さんが迎えに来るから、それで帰るのよって言った。
「あの、幸太郎は?」
「東京に帰らせたからもう居ないわよ」
 そう言うとさっさとふすまを閉めた。そうか、もう帰っちゃったのか。私はパジャマを着替えると、トートバッグを見た。お母さんには「何も」持ってくるなって言われてる。お母さんはお父さんが嫌いだから、お父さんの面影がある物を何も見たくないのだ。多分、私のこともみたくないんだと思う。お母さんが来るまで、私は部屋の隅に蹲って金魚鉢を眺めていた。お父さんも、これくらい小さな部屋にいるんだろうか?
 雛と名前が呼ばれ、私は手ぶらで部屋を出た。玄関先にはサングラスを掛けた知らない女の人が立っていた。モデルさんみたいにすっとした体型、スキニージーンズの裾を折っていて白い足がみえている。赤い口紅が塗られた唇を動かして「早く車に乗って」って女の人は言った。私は振り返ることもせず実家を出る。誰一人見送りはなかった。
 ばいばい。でも誰にばいばいを言えばいいんだろう? 一週間ほど身を置いた場所なのに、不思議なほど執着がなかった。金魚、きっと捨てられちゃうだろうな。そんな感慨しか抱かなかった。
 その時、「雛ちゃん」と声が聞こえた。顔を上げると、お母さんの車の前に、幸太郎が立っていた。頬にはなぜか湿布が貼られている。昨日の服のままだった。
 今更来たって、なにも嬉しくないし。
「雛ちゃん。これ、忘れ物だよ」
 そう言って幸太郎が手渡したのは、西野カナちゃんのCDだった。お父さんの車に置かれていたものだ。
 お母さんはちょっと嫌そうな顔をしたけど、文句は言わなかった。これが私の趣味の物だって思ったからだ。
「金魚、大事にするから。僕がきっと守るから」
 返事ができなかった。
 悲しいわけじゃないのに、涙が止まらなかった。CDを抱きながら、私は頷いた。お母さんが「邪魔だから退いてくれない?」って幸太郎に言った。
 幸太郎、もう一度、私の手を引いてよ。
 でも、お祭りはもう終わっていた。祭り囃子も聞こえない。黒く着色された車のガラス越しに、ひょろりと背の高い彼の姿が見えた。
車は走り出し、彼の陰をどんどん小さくしていった。
「そんなに実家が良かった?」
 いつまでも泣き止まない私にお母さんが言った。でも返事は期待していないみたいだった。
「途中で服屋寄って行くから」
 お母さんはそう言ってどんどん車を走らせる。私はCDケースをそっと開いて、その中に入った「ジュウナンバーズ・カラット」を眺めた。

【月に吠える文学賞】 に投稿してきました

2013-08-17 14:20:03 | 小説
タイトルの通りです!
ちな、出したのは俺的小説賞で銀賞候補になったジムノペディを改稿したものです。
ネックになっていた「絞首台」を書き換えたりしました。
この作品への思い入れは結構深くて、一般寄りな作品という縛りで言うのならば、これは一番良く出来てるんじゃないかなーって思います。簡単な言葉で終始語れているのがいいですね。

此の夏は
○江古田文学賞
○月に吠える文学賞
○一迅社
○富士見書房
に出す予定で、あと三つの作品を8月の末日までに仕上げなければなりません。
それと平行して3題をやり、学校の課題をやり……。
忙しいw
でも夏ですからこれくらいやらないとね!
ちなみに進行具合は

江古田文学賞 手付かず。
月に吠える文学賞 投稿完了。
一迅社 推敲前。
富士見書房 9割完成。

こんな感じです。

秘密基地 人形 憧憬

2013-08-16 17:55:44 | 小説

元気に家から飛び出すと、僕はランドセルを跳ねさせながら家の裏庭に向かい、木とトタンで造られた小屋の中に隠れた。そして、そこで横たわる大きさ一メートルと少しの人形にランドセルのベルトを通す。
コピーロボットはぱっちりと眼を開けると、その網膜に映しだされた僕の姿を見て見る見る姿を変えていった。
ロボットに「学校へ行け!」と命令すると、大きな声で命令した僕がバカに見えるくらい静かな動作で頷くと、学校へ向かって走っていった。彼にはわざと家の前を通るよう命令してある。そこでお母さんに手を振って学校へ行けば、絶対にバレることはないからだ。
「僕ってなんて頭がイイんだろう!」
皆がえっちらおっちらと勉強する中、ジュースを飲みながら漫画を読めるだなんて!
小屋に取り付けられたベンチに横たわり漫画を読んでいると、外で木の枝が折れる音がした。僕は慌てて小屋の奥に隠れる。それからまもなくして、お母さんとお父さんの友達が小屋の中へ入ってきた。二人は僕が今まで寝ていたベンチの上で重なると、激しい音を立てながら交わり始めた。
「人、来ないかな?」
「五時までは誰も来ないわよ」
眼を背けたくても、できなくて、僕は二人の行為を一時間近く見続けていた。

帰ってきたコピーロボットは、二人が抱き合っていたベンチに横たわると、その機能を停止した。いつも嫌なことばかり押し付けているロボットだけれど、今ばかりは彼のことが羨ましく思った。目的を冷然とこなすだけのロボットに、僕はなってしまいたかった。

数日後、怖い顔をした刑事さんが僕に聞いた。
「君は火災があった日、ずっと友達の家にいたんだね」
僕は燃えて無くなった家とコピーロボットとお母さんの事を思いながら頷いた。

あとがき
「秘密基地」「人形」「憧憬」のお題を書き終わりました。
依然募集中なので暇な人はどうぞ!

最近小説書いてないって事で3題募集

2013-08-16 15:32:52 | 小説
単語をこの記事のコメントの残しておいて頂けたら(「空」「雲」「地下鉄」など)
それを使って原稿用紙2枚以下の掌編小説書きます。
もちろんどんな難題でもOKです。

三つコメントが付いたらその単語を一つの作品の中に登場させて3日以内に発表。
一人1コメントでお願いしますね!(そんなに付くか分からないけど)
募集期限は20日までにしておきます。

尚、出来の善し悪しは「習作」ってことで勘弁してくれると嬉しいです。