昔、まだ人々が信仰の世界に生きていた中世のこと。
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イタリアを旅していた一人の男が、ある建物の建設現場のあまりの広大さに足を止めた。
そこでは大勢の石工たちが忙しく働いていた。そのなかでごく若い三人の石工が旅人の目に止まった。彼らの仕事ぶりが見事に思えたからだった。
すると旅人はその三人にこんな風に声をかけた。「あなた方はなにをしているんですか」と。
三人の若い石工たちは少しも手を休めることなく答えた。
「おいら、一日三リラで働いているんだよ」と一人。
[見ての通りさ。石を積んでるんだ」と一人。
「あんたには見えないかも知れないけど、美しい教会堂をつくっているんだ」と一人。
旅人は彼らの言葉がおもしろかった。仕事の後を追っては話しかけ、石工たちも口々に石の積み方から、石の見分け方などを話してくれた。静かな日、たおやかな時間が流れていた。
それから、三十年の歳月が経ったある日----。時は多くのものの姿を変えていった。あるものは亡び、あるものは消え去り、またあるものは花を咲かせた。
旅人は再び、あの時、教会堂が建てられていた街を訪れていた。そしてあの三人の現在を知ったのである。
一人は、あれからしばらくしてわずかな手間賃に嫌気がさして石工をやめた。そのあと、行方知れずになってしまったという。
一人は、腕のいい、頑固な石工として今も親方に信頼されて働いているという。
そしてもう一人のその後は・・・・・・。
ちょうどその時、あの教会堂の近くで、さらに荘厳な教会堂が建設中だった。最後の一人は、その教会堂の設計・施工を任される棟梁・建築家となっていたのである。
高橋佳子(たかはし けいこ)著
ディスカバリー
DISCOVERY●世界の実相への接近