遊月(ゆづき)の日々これ修行なり~

パワースポット研究家(おたる案内人)でセラピスト遊月のブログ
【パワースポットニッポン(VOICE)北海道担当】

アトランティス物語4〜夜明け(2002年3月21日発行のメルマガより)

2020-02-04 23:12:00 | 遊月作ファンタジー物語
夜明け






「師よ、夕陽が見えました」
誰かがそう告げると、輪になっていた人々は口々に、私にもと一斉にざわめきだした。

滅びの日の前日に、人々が師のもとに集まってきていた。特に誰かが呼びかけたわけではないのだが、自然発生的に全員で瞑想がはじまった。
どれくらいの時間瞑想していたのだろうか。突然参加していた人たちの頭の中に、美しいオレンジ色の夕陽がありありと浮かんできたのだ。

ざわめきで瞑想の波が途絶えた。師は立ち上がると、私たちをゆっくり見回し微笑んだ。
「その夕陽は今回の人生で最後の、世界からの贈り物となるでしょう」

瞑想を繰り返す中でいつの間にか夜になり、もうすぐ滅びの日になる頃合いだった。確かに、今日もし夕陽を見ることができたなら、人生で最後に見ることになる。
改めてそのことを思うと、私は敬虔な気持ちになった。
なぜだろう。命の灯が消えることに対する恐怖はそこにはない。

師は、暗闇が支配する窓の外をじっと見つめると、
「そして私は、その夕日のあとに、新しい夜明けを見ました」と続けた。
師のその言葉に、外の暗闇の中にほんとうに夜明けが見えた気がした。

「今回の人生が終わった後も、私たちは幾度も生まれ変わり、多くのことを学ぶでしょう。そして再びこの大きな課題に出会う日がやってきます。
そのときこそ私たちは、光り輝く新しい夜明けを見るでしょう」

窓の外では夜明けが始まろうとしていた。紫色の雲を斜めに裂きながら、赤く燃えるような美しい太陽が、東の山の向こうから控えめに姿を現わしてきた。
これが、今回の人生で最後の朝だ。

「人は幾度となく生まれ変わり、その果てに新しい夜明けに出会うその時、今ここにいる多くの魂たちは、ある場所で出会うことになるでしょう。
日が昇る国と呼ばれ、気高き神の使いリュウの姿をしている場所で」

突然名を呼ばれたのかと驚いて私が顔を上げると、師が優しい瞳で見返してくれた。
「そう、あなたと同じリュウという名の生き物の姿をした、美しい国です」

自分と同じ名の国ができるのだと思うと、最後の日であることなど忘れて、胸が高鳴る。
「それではリュウ、あなたに尋ねます」
「はい」
「あなたはリュウという生き物のどこに生まれたいですか?」
正直に言うと、リュウという生き物の姿がどのようなものか想像できずにいたが、それでもどこに生まれたいかを考えてみたところ、既に心の中に答えがあるのに気付いた。

「師よ、わたしはリュウの目がある場所に生まれます」
「ではリュウ、あなたは、<リュウの頭>と呼ばれる大きな島の、目の役割を果たす場所に生まれることとなるでしょう」
私はとても満足して頷いた。
 
「ほかの者はリュウのどこに生まれたいですか」
師がそう語りかけると、リュウの背骨、リュウの腕、リュウの心臓などと、その場にいた人々が、夢見るように未来を語りだした。それぞれが、今日の運命を知っていたにもかかわらず。

人々の声を聞きながら、私はあの妖精のことを思い出す。
昨日も彼女は、一緒に山を登りましょうと何度も言っていたが、私は山を登る気にはまったくなれなかった。
いつか必ず命の灯は消えるのだ。だとしたら、自分が生まれ育ったこの場所から世界を去りたい。この場所を失っても生きていたいとは思えなかったのだ。

「魂たちよ。生まれ変わる中ですべてを忘れ去っていても心配はいりません。
私たちは約束の時、その場所で、リュウがその掌に抱く水晶の化身の山、永遠の命の名で呼ばれるその山を見るたびに、心が揺り動かされるから。
記憶がなかったとしても、心はちゃんと覚えているのです。魂はなにひとつ忘れることはないのです。
今回と同じ過ちを繰り返さないため、その山が私たちの目印となるでしょう」

今回と同じ過ち。
人々が貪欲に石たちの力を奪っていったことで、世界の均衡が崩れ、大地がその姿を保てなくなり、この国が海に沈むという未来を迎えること。

もっと早くに気づいていたら、そうならずに済んだのだろうか。
もしかしたらまた同じ道をたどるのではないだろうか。

「魂たちよ、心配いりません。今回過ちを犯した人たちは、きっと世界を去る時に何かを強く魂に刻むでしょう。それを何度も繰り返した果てに、いつか必ずこのような道を辿らずに済む日が来るのです」
ぼんやりうつむいていた私は思わず師の顔を見上げると、師は優しく微笑みを返してくれた。

時間はどれほどかかるのかわからない。だけどいつかきっと、世界の全てがありのまま美しくその姿を保つことができる、人々と自然が完璧に共存しあえる日が来ると信じられる気がした。

「どうか、素直に魂の声を聞いてください。
何も思い出さずとも、その青い山を美しいと感じてください。
きっと、そこから始まるはずです」
師はやさしい目でわたしたちひとりひとりを見渡した。

「なかには、リュウの国には生まれず、遠い国に生まれる者もいるでしょう。また、リュウの国に生まれながら、別の国に移っていく者もいるでしょう。
ですが魂たちよ、私たちが再び出会えなかったとしても、悲しむ必要はないのです。私たちはみな自分の望んだ場所で新しい夜明けを見るのです。
それぞれの場所であらゆる青い山を見つけられるから大丈夫なのです」

師は目を閉じてひと呼吸分の瞑想をすると再び目を開けて微笑んだ。
「私たちすべては、大いなるひとつの美しい水晶(宇宙)そのものなのです。
時間も距離もなにひとつ私たちを切り離せるものなどないのだということ を、どうか覚えていてください」
穏やかな通る声でそう言い切った。

水晶の化身の山。
永遠の命の名で呼ばれる青い山。
青い山、空のように青い山。

私はその時、その山を登りたいと思うのだろうか?

「師よ、新しい夜明けはリュウの国でのみ起きるのですか?」
誰かが質問すると、師は愉快そうに笑いながら、尋ねた。
「では聞きます。世界のどこかに夜明けの来ない場所が存在しますか?」
夜明けの来ない場所など世界に存在するわけもない、そこまで考えたとき、私の胸に大きな感動がわいた。
夜明けの来ない場所などないのだ!
山の上も大地も、すべての場所に必ず夜明けは訪れる。

「そうです。世界に夜明けの来ない場所など存在しません。リュウの国は、 位置的に最も早く夜明けが訪れる場所のひとつに過ぎないのです。世界のどこかで夜明けが始まれば、あとはただ明けていくだけなのです」
その場にいた人たちは皆、新しい世界の夜明けを思い、胸が熱くなるのを感じた。
どこかで夜明けがはじまれば、やがて世界のすべて光が満たされていくのだ。

「それからもうひとつお話ししなければならないことがあります」
美しい朝焼けの光を背に受けながら清々しい笑顔で師は続けた。
「私は師ではありません。私は人々に多くを教えてきたと思っていました。ですが今はっきりとわかりました。私はあなたがたの師ではなかったのです」
 
師の言葉に再び人々がざわついた。
穏やかに最後の時を迎えたいのに何を言い出すのだと、そんな空気が一瞬流れた。
「そう、私は師ではありません。たまたま伝えたい言葉を口にしたに過ぎません。そしてそれが、たまたまあなたたちが知りたいと願った言葉だった。ただそれだけなのです。
ですから、あなたたちに何かを教えてきたと思っていたのは私の奢りでした。
私はずっとあなたちに教わってきていたのです。世界のすべてを知っていたわけではない私は、あなたたちが答えを求めてくれたから、その答えを知ることが出来たのです。
今は心からそのことを感謝しています」

師の言葉に、その場にいたすべての人の心がひとつになるのを感じた。
「師よ、いいえ、大いなる魂の同志よ。今ここでともに祈りましょう」
リュウの心臓に生まれると告げた男性が優しい声でそう語りかけると、師は輪の中に静かに座り、私たちは本当にひとつになった。

不思議なくらい静かだった。もうすぐ世界が滅ぶ時間が来る。
私たちは輪になり瞑想しながら新しい夜明けのことを思った。
その日はきっと来る。どれほど時が流れようと、その日はきっと来る。

とても美しい夜明けだ。
闇に光があたるとき、そこは暗黒ではなくて、虹色に輝く美しい世界だっ たとすべての人が知るだろう。

遠くで世界の悲しげな声が聞いた気がしたが、私たちの心の中は、太陽の光に満たされていった。

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