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花と文。(暮らしと本と花と)

日々の心に残る記しておきたいこと。

世界はうつくしいと。~長田弘さんの詩から~

2016年10月25日 | 

「世界はうつくしいと」 

                                長田 弘

 

うつくしいものの話をしよう。

いつからだろう。ふと気がつくと、うつくしいということばを

ためらわず口にすることを、誰もしなくなった。

そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。

うつくしいものをうつくしいと言おう。

 

風の匂いはうつくしいと。渓谷の石を伝わってゆく流れはうつくしいと。

午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。

遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。

きらめく川辺の光りはうつくしいと。

おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。

行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。

花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。

雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。

太い枝を空いっぱいにひろげる

晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。

冬がくるまえの曇り日の、南天の小さな朱い実はうつくしいと。

こむらさきの実の紫はうつくしいと。

過ぎてゆく季節はうつくしいと。

さらりと老いてゆく人の姿はうつくしいと。

 

一体、ニュースとよばれる日々の破片が、

わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。

あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。

うつくしいものをうつくしいと言おう。

幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。

シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。

何ひとつ永遠なんてなく、いつか

すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。

 

・・・・

昨日立ち寄った書店の全面のラックに

名前入りのおすすめカードと共に本が50冊はあったろうか

生き生きと並んでいた。

最近の書店は本をピックアップして、私たちも手に取りやすく

内容もわかりやすく工夫されていることが多い。

そこの最上段の右端に、長田弘さんの詩集があった。

今から10年くらい前に、長田弘さんの本を読んでいた時代がある。

人に贈ったこともあった。

ぱらっと開いたページにやさしいひらがなの「うつくしいと」

一行、一行読んでいくと、その詩は、いつかどこかで見た景色。

誰しも想像できるのではないかな

さっき、長田さんの声を初めて聞いた。

渋くて低くて、そして朴訥とした感じの声だった。

私はもっと違う声を想像していた。

もっと高めで、明るい口調の人かと思っていた。

長田さんの詩が前よりもっと好きになった。

 

Comments (2)    この記事についてブログを書く
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2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (momo)
2016-10-26 19:53:36
素敵な詩ですね。
とてもいいと思いました
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Unknown (lily)
2016-10-26 20:32:04
momoさん

こんばんは。
ありがとうございます。
嬉しいです。
momoさん、お久しぶりです。またmomoさんのブログも
楽しみにしています。
返信する

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