「グラスの底に顔があったっていいじゃないか」。
なにを言ってんだこのおじさん。そりゃあったっていいけど、そんな力説することもないじゃないの。
子どもの私にはタローの偉大さはわかりませんでしたね。「芸術」は深窓に閉じこめられたものではいけない、人びとに広く親しまれるものでなくてはいけない。
タローの芸術はいつも庶民の身近に、目のとどくところに、手にふれられるところにありました。
太陽の塔、明日の神話。その前をとおるたびに、タローの叫びがきこえるような気がします。
「君が生きている証を見せてくれ。創造の意欲を与えてくれ」。天の上から呼びかけられているようです。
芸術家岡本太郎は名文家でもあります。今ここに文庫化されたタローの創作意欲を刺激した世界の旅の足跡を、私も一ページずつたどってみたいと思います。