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シゲトのユダヤ人たちは堂守りのモシェの言うことを信じることができなかった。
移動を告げられてもバビロン捕囚に赴く捕囚の民の気分でいた。
バビロンとアウシュビッツは全然違うのに。ネブカドネザル王とヒトラーは全然違うのに。
アウシュビッツへの移送列車に詰め込まれて3晩目。
シューヒテル夫人が正気を失くしてきた。夜中に叫び声をあげた。
「火だわ!火が見える!火が見える!」火など見えない。それなのに「ユダヤ人の皆さん、火が見えるんです。なんていう焔でしょう!」
彼女の幼い息子は母のスカートにしがみついて泣いていた。
それでも女は「火が見える」をやめないので若者たちは怒り、
彼女を縛りあげ脳天をどついた。
「黙らんか!この馬鹿女!!」
ようやく列車は止まり、停車場の名は「ビルケナウ・アウシュビッツ」
列車が止まった時焔が高い煙突から出て黒い空へ立ち上ってゆくのが見えた。
列車から出ると子供たちはトラックに乗せられた。
黒煙のあがる大きな焔の穴の前でトラックは止まり
子供たちを投げ入れた。
あのシューヒテル夫人が見たのと同じ光景を見たのだった。
エリヴィーゼルは書いている。
東ヨーロッパのとある町にイエスキリストが戻る話を。
生まれ故郷のシュテットルで、イエスは自分の民をさがしていた。
私の兄弟たちはどこにいますか。
ユダヤ人たちはどこですか。 殺されました。
子供たちはどうしました?どこです?殺されました。
シナゴーグはどこ? 焼かれました。
ユダヤ人たちの家はどこ? 略奪されてしまいました。
イエスは声をあげて泣き始めた。
すると住民は彼もまたユダヤ人に似ていることに突然気づく。
そして彼らは叫びだす。見ろ!こいつもユダヤ人だ!
そして彼らはイエスも殺してしまった。
ワルシャワ近郊のミンジェビツエで。ユダヤ人がSSによって広場に集められた時、ラビが申し出た。ラビは髭を剃って旅装束だった。
「一言話させて下さい」
「2千年前のことです。ユダヤ人は全然罪のないイエスに死刑を言い渡した。ユダヤ人はこう言ったのだ。その血の責任は我々と我々の子孫に振りかかってもよい。マタイ伝22書。
おそらく今その瞬間が来たのだ。それなら今出かけよう。出発しましょう」
ホロコースト生還者、エリ・ヴィーゼルはトランシルバニアのシゲトという町生まれである。食料品店を営む、ハンガリー系の正統派ユダヤ教徒の家庭だった。
ヴィーゼルは幼いころからヘブライ語やトーラー、タルムードを学んでいた。
カバラ神秘思想を学びたいと父に言うと
「神秘思想に近づくのは危険だ。30歳過ぎないと駄目だ。」と反対された。 町に神秘思想を教えてくれる人がいないのでハシデイーム会堂の堂守りをしているモシェのところへ行った。モシェは孤児で身寄りがなく貧乏で裸足で歩いていた。
エリに神秘思想を熱心に教えてくれつつあった。
数日後、堂守りのモシェは外国のユダヤ人ということで逮捕され、家畜用の貨車に詰め込まれ流刑地に追放になった。
モシェはトランシルバニアの人間でなくポーランドだった。モシェは泣き泣き運ばれていったが見送るハンガリーのユダヤ人も泣いていた。
「仕方ないよ。戦争だもの。」
それからしばらくして会堂に入ろうとしたら堂守りのモシェが座っていた。帰ってきたのだ
。「流刑囚を乗せた列車はハンガリー国境を越えガリチアに入った。列車から降りトラックに移された。森に連れて行かれ穴を掘らされ穴の前で銃殺しだした。」
モシェは危機一髪で逃げてきたというのである。モシェは怖い話をいろいろしてくれたが「可哀そうに。あの男は気が狂ったのだ」と言って誰も信じなかった。
しかし1944年春シゲトのユダヤ人は宝石貴重品を没収されゲットーに移され、アウシュビッツに送られた。
エリは父と一緒に倉庫で肉体労働させられていた。
フランス人女性も一緒に働いてて彼女は流刑囚として強制労働させられてるのだった。 アウシュビッツでは彼女は「アーリア人種」で通っていたけれどエリは彼女がユダヤ人であることを直観で感じていた。
エリが凶暴なカポから殴打され半殺しの目に遭った時、彼女は普段ドイツ語を使わないのにドイツ語で慰めてくれた。
「弟よ。泣くんじゃない。別の日のために涙をとっておきなさい。待つのよ。それまで」
エリ・ヴィーゼルは1945年4月米軍によってブッフェンバルドで解放された。 孤児になってたので、フランスの孤児院に送られた。
1948年にソルボンヌ大学へ入学し、哲学を専攻する。
イエデシュ語とフランス語の同時通訳してた。
パリで地下鉄に乗ってた時、見覚えのある顔の女性が正面に座っていた。あの彼女に違いない。
「1944年、ブーナで一緒だったですね。電気資材倉庫で働いておられましたね。イデクというカポ覚えておられますか。」
彼女は思い出した。一緒に喫茶店に入った。そして全部告白してくれた。
「貴方がお気づきの通り私はユダヤ人なのです。だけど大戦中はアーリア人の偽証明書を作ってアーリアで通してたのです。だから流刑囚になったけれど強制収容所に行かずにすみました。
倉庫では私がドイツ語を使うのを誰も知りません。
ドイツ語を使ったらユダヤ人とばれてしまったでしょう。」
1945年4月16日ブーヘンヴァルト強制収容所にて。下から2段目、左から7番目がエリ・ヴィーゼル
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帝政ロシアは民衆の不満が皇帝貴族に向かうのを恐れ、不満の矛先をユダヤ人に向けさせ何百年もポグロムさせてた。ユダヤ人は逃げるか改宗させられるか殺された。
ロシア秘密警察がユダヤ人虐殺を糊塗するためにロシア正教牧師に書かせた「シオン長老のプロトコル」を全世界にばらまきヒトラーも愛読しユダヤ人弾圧に利用した。
この本が戦前日本でも出版され反ユダヤ思想がばらまかれた。
しかし戦後再度100種類に近い反ユダヤ出版物が不死鳥のようによみがえり日本の出版会を席巻した。
円高不況に悩む日本で反ユダヤ本が何十万部も売れていると聞き
ユダヤ人の間でまたしてもヒトラーの記憶がよみがえった。ユダヤ人たちはおびえた。
エリ・ヴィーゼルが広島を訪れた時
「高潔な日本人よ。あなたがたの手は今まで反ユダヤ主義の血で汚されていなかったのに、なぜ今になって?」憂慮の一文を書いた。
オイルショック以来の日本はアラブに媚びまくり、反ユダヤ主義に拍車をかけた。
アラブの悪口など決して言わずひたすらユダヤを馬鹿にした。
過去十数年に及ぶ日米経済摩擦は、日本をスケープゴートに選んだが
大国アメリカは怖くて叩けず日本は欲求不満のスケープゴートとしてユダヤを選んだ。
これが日本での反ユダヤ本の氾濫になった。
↓ヒトラーとピウス12世
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