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ひきこもり探偵シリーズ、完結編! 

2006-11-30 | 本・映画・ドラマのレビュー&気になる作品
 坂木司「動物園の鳥」(創元推理文庫)

 春の近づくある日、鳥井真一のもとを2人の老人が訪ねてきた。
坂木と鳥井の友人でもある木村とその幼馴染の高田だ。
高田が働く動物園で、野良猫の虐待事件が頻発しているという。
動物園で鳥井がつかんだ真実は、自身がひきこもりとなったできごとと
思わぬところでつながってゆく。
鳥井は外の世界に飛び立てるのか?
シリーズ完結編は、
他者への思いやりというものの本質とは?
いじめ(いじめられ)とは、どのようなかたちで、そのひとのそれからを
構築していくものなのかを、
そこからの一歩がいかに大切なものなのかを教えてくれる。

この物語は机上の空論を扱わない。でてくるひとたちはくせがあるけれど、
等身大の自分を、市井の暮らしのなかで、精一杯生きている。
だから、サザエさん的な、善人の集まりみたいな部分があっても、
彼らの歩みを通して、ひととめぐり合い、理解しあい、お互いの成長を
見守ってゆくとはどういうことなのかを、ゆっくり気づかせてくれる。
3部作という時間がどうしても必要なのだということに納得できる。

 坂木は鳥井に、自らその閉じられた空間から外の世界に出てくるよう、
課題をつきつける。
部屋から自分ひとりで出てくること。出かけてくること。
「なんだそんなこと」
そのひとことは、自分ではない誰かを絶えず傷つける言葉だ。
鳥井の一歩はどれほど本人にとって辛い試練なのか。
他人の視線から守ってくれる坂木は傍らになく、遠いところから
自分がたどりつけるかを見据えている。
坂木は鳥井がここに向かって歩いてくるということは、
庇護する人間が不要になることであり、
鳥井が世界に飛び立つ瞬間を受け入れなければなら
なくなることだと、考えている。
鳥井が自分の足で歩き始めるということは、
とりもなおさず、坂木も実は依存していた鳥井からひとりで
歩きはじめるということなのだ。

 恋愛はいつまでも一緒に、で、めでたしめでたし。
だけど、ともだちという関係はもっと繊細で、
ある意味、もっとしんどい部分を持っているものなのかも
しれないと、この3部作を読み終えて思いました。
物語の最終部分、事件が解決したあとに、クライマックスが
おかれています。
設定はほんと、善人たちに囲まれて幸せな鳥井と坂木なのですが、
ときどき彼らの痛みが胸を刺すのです。
思わぬところでこちらへ、他人事じゃないんだぞと
きついボールがまっすぐ飛んでくるのです。
創元推理文庫はなかなか手に入りにくいですが、3部作はまだ
店頭に並んでいます。
「切れない糸」という、引きこもり探偵以前の作品をさがしているのですが、
見つけられません
紀伊国屋書店にもなかったよう。(大阪一混んでいるでかい本屋さん。
あそこのなか、歩くだけで疲れる)
がんばって探すぞ。でも、それより、
3部作以降の鳥井と坂木に会いたいな。













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