Lに捧げるちいさな図書館

≪ L ≫至上主義の図書館へようこそ。司書は趣味嗜好のまま、気の向くまま、あちこちへと流浪しますゆえー♪

Lには似てない鳥井かも、ですが・・・

2006-11-29 | 本・映画・ドラマのレビュー&気になる作品
 坂木司「仔羊の巣」(創元推理文庫)より抜粋ー
   地下鉄の方が落ち着くんだ。鳥井は僕にそうもらしたことがあった。
確か、僕が大学2年生の頃だった。
ぼくはてっきり、地下の方が息苦しくて、圧迫感を与えるんじゃないかと
思っていたので、驚いた覚えがある。
理由を聞くと、
「地上の駅は、ステージみたいでうっとうしいんだ」そ言う。
地上を走る電車のホームは、当たり前のことだけれど、
地面よりも高い場所にある。
それによって向かいのホームだけでなく、町の道路からも
視線にさらされるのが、鳥井には耐えられなかったらしい。
その点、地下鉄は向かいのホームとの間に柱が立っているし、
まわりは壁にかもまれているしで、他人の視線の方向が定まって
いて楽だと彼は力説した。
 鳥井はその頃、とりわけ人目を気にしていた。
世界に疎まれている、と感じてしまう彼にとって、
第三者のぶしつけな視線は、自分を責める凶器に感じられたのだろう。
ただ、ほとんどの人は、別に意識して鳥井を見つめたわけではない。
視線の延長線上に彼がいたからで、視界に入れたに過ぎない。
なのに鳥井はそんな視線にさえおびえた。
そしてそんな彼が外出できたのは、僕という視線の盾を携えたとき
だけだったのだ。
 ひとと一緒だと、許されてる気がする。
彼は僕の横でそうつぶやいた。
 僕は別におかしな格好をして、他人の視線を鳥井から逸らして
いたわけではない。ただ、一緒に行動していただけだ。
でも、鳥井の言いたいことはなんとなくわかった。
一緒にいてくれる人が自分にはいる。
それだけの価値はある人間なのだ。
そういった意味合いの、自意識と虚勢が入り混じった感情。
うまく言えないけれど、それは大勢の仲間といるときに
周囲の他人を見下してみたり、見た目の良い異性をわざとらしく
連れ歩くときの心理にも似ている。
しかし、鳥井はそういう攻撃的な感覚をもっていたわけではなかった。
僕は決して口にされることのなかった、
その先の言葉を知っている。

 一緒に歩いてくれる人がいる。
 それだけの、それくらいの価値はある人間だ。
 だから、依存していても許して。
 見なかったふりをして、許して。
 許してください。



 鳥井の痛みは深く、世界とすこしずつ繋がってゆくまで、坂木の助けを借りて、ステップを踏んでいきます。そして、坂木は鳥井を支えてやっているという思いを、自分の内面に問いかけ、依存しているのは鳥井ではなく、むしろ、自分なのだということに気がついてゆくのです。
 いろんな事件の渦中で、いろんなひとと出会い、そのなかで傷つき、傷を癒し、おおくのひとたちと理解を深め合ってゆく鳥井と坂木。
 年配のひとが彼らを見たら、ちゃらちゃらしてと思うかもしれないけれど、人間が傷ついたり、そこから回復していったりというプロセスは、とても繊細なものだったんだ、もっと大切にしなければならなかったことなんだと気づきます。
この国はがさつで早足で無神経だったようです、今日今日に至るまで・・・。














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