goo blog サービス終了のお知らせ 

魔女っ子くろちゃんの映画鑑賞記録

映画大好き!わがまま管理人の私的な映画鑑賞記録です。名作・凡作関係なく、好き好き度★★★★★が最高。

太陽

2007年05月21日 | その他の日本映画
★★★★
監督:アレクサンドル・ソクーロフ
主演:イッセー尾形、桃井かおり、佐野史郎
2005年 露・伊・仏・瑞西

日本の敗戦が色濃い1945年8月。昭和天皇ヒロヒトは戦況になすすべなく、地下にある待避壕及び生物研究所で日々を過ごしていた。日本の頂点と崇められながら、実際はなんの力もない飾りものにすぎない己の無力さ。昭和天皇ヒロヒトはの苦悩を誰も知らない。
 ある日、連合国占領軍総司令官ダグラス・マッカーサーとの会見がセッティングされた。それは天皇自身の命運も左右するものでもあったが、彼はある決意をもってそれにのぞむ。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆
 
戦後生まれの私が知っている昭和天皇は
どこかとぼけたおじいさんで、どこかユーモラスで穏やかな人。
その彼を神格化して
「天皇万歳」と幾多の人びとが戦争で散っていった事実も知識としてはあるが
私の目に映る晩年の天皇とその「天皇」は結びつかない。

長い歴史の中でいつしか「天皇」はお飾りとなり
「帝のために」と時の権力者に利用されてきたのはなにも日本に限ったことではない。
そんな選ばれし者だけに与えられた苦悩を
(今のところ)最後に引き受けたのが昭和天皇。

自分の名を叫んで多くの臣民が玉砕していくのを嘆く天皇を
一人の人間として思いはばかる人間が
一体どれだけ彼のまわりにいたのだろうか。
意見を言うことも許されず、ただほそぼそと(邪魔にならないような)
生活を強いられていた自分の名のもとに
大勢が死んでいく、国が滅んでいく・・・・。
苦悩しながら、何もできない現実は地獄の日々だと想像する。

一人の人間として見れば、このうえなく愛すべき人の
小さな肩に背負わされた重責。


この映画に想像を超えるような大きな発見や真実はないものの
これまで描かれることのなかった天皇の姿を
こうして(映画であっても)目の当たりにしてみると
まだまだ何も知らない自分
そして知られることのない天皇像に
それでいいのか、日本。という思いに包まれる。





ゆれる

2007年05月21日 | その他の日本映画
★★★☆
監督:西川美和
主演:オダギリ・ジョー、香川照之、伊武雅刀
2006年 日本

弟の猛が家を出て写真家となった。故郷を捨てた形となり父とは折り合いが悪い。
しかし久しぶりの故郷に帰ってきたのは、母の一周忌で呼ばれたからだった。
田舎には温厚な兄・稔がいる。兄弟は素直に再会を喜びあった。

猛と稔の幼なじみの智恵子はガソリンスタンドで働いていた。どうやら稔と仲が良さそうだ。
猛の中に芽生えるちょっとした意地悪からなのか、
稔の心を知りながら猛は智恵子をその夜誘惑する。
そして翌日。3人で出かけた峡谷の吊り橋の上で惨劇は起きてしまった・・・。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

香川照之がうまい!
この人に橋の上であんな風に追いつめられたら
本当に恐怖でいっぱいいっぱいになって
罵詈雑言を浴びせてしまうかもしれない。
たとえ一時好意を寄せたことがあったとしても
心変わりしちゃえば、関係ないし。
う~んとう~んと昔のことだけれど
そんな恐怖経験ありです。マジ怖いです。

実際の顛末は結局分からずじまいなんだけど
それがちょっとすっきりしないので
事実は明確にして、兄・弟の葛藤に焦点を絞っても良かったかも。

お兄ちゃんは一人自由に都会ではばたいている弟が
心の底ではねたましく憎らしい。
気持ちすっごくわかります。

弟は・・・。
弟のコンプレックスはこれまた根深いのかな。
男は女姉妹以上に、下は上へのライバル心があるようで。
彼女を奪い、今は俺が上だと勝ち誇りたかっただけなのに。
人の心を弄んだツケは大きすぎた。

髪型ひとつで格好良くなるオダギリジョー。
まいりました。



間宮兄妹

2007年05月21日 | その他の日本映画
★★★
監督:森田芳光
主演;佐々木蔵之助、塚地武雄、沢尻エリカ
2006年 日本

明信と徹信は(いい年をして)マンションで同居する仲の良い兄弟。その仲の良さは世間的に「怪しい」部類。
同じビデオで泣き、TVで野球観戦しては熱くなり、二人は趣味を共有できる同志、お互いがそばにいさえすれば他にはなにもいらない・・・はずだった。
しかし自分たちの生活に足りない「何か」にある日気がついてしまう。
それは或る意味、封印してきた思いであったかもしれないが。
我が家に女性を招待しよう!
あこがれのレンタル・ビデオ定員の直美ちゃんと、徹信の務める小学校の依子先生を誘って開くカレーパーティーは
この間宮兄弟にとって、人生初と言ってもいいほどの一大イベントとなった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

まず始めに原作を読んでいたので
どうしても映画は厳しくなってしまいます・・・・。
お兄ちゃん。佐々木蔵之助だと格好良すぎ。
原作から想像するに、塚地さんの相方でちょうど良かったような。
(それだと映画にならない?)

いわゆる俗世間から一歩離れたところで
人生をそれなりに謳歌していた間宮兄弟なんだけれど
色恋が絡むとやっぱり「自分流」じゃ済まなくなってくる。

空回りなカレーパーティーなどの企画や
「変わっている」彼らが社会と関わってもがく姿は
やっぱり上から目線になってしまうんだなあ。
それで最後はなんとなく
「彼らの生き方の肯定」を押しつけられてもちょっと・・・。

実際肩身狭くておどおどしているのかもしれないが
もっとオタク道突っ走って欲しかった・・・
って、それだと江国さんじゃないか。

ノロイ

2006年11月15日 | その他の日本映画
★★☆
監督:白石晃士
主演:小林雅文、松本まりか、アンガールズ
2005年 日本

 2004年4月12日、怪奇実話作家・小林雅文の自宅が全焼し、妻が焼死し、小林本人は行方不明となった。小林はが完成させた映像作品「ノロイ」にその謎の全貌を解くカギがあった。
 事件の1年半前、小林はある主婦から「隣の家から、いないはずの赤ちゃんの泣き声がする」という投書もらいその家を取材する。主婦の隣には、石井潤子という女性が住んでいたが、小林が尋ねると恐ろしい形相で意味不明なことばでどなりつけた。
やがて潤子は姿を消し、投稿してきた主婦と娘は事故死した。
 TV特番で超能力少女とされた矢野加奈は、小林の取材後失踪した。
 松本まりかがアンガールズと出たバラエティ番組は、その内容により放送中止になった。心霊スポットを取材後、まりかは、突然悲鳴を上げて倒れて、その収録テープには謎の人影が写っていた。その収録以来、不思議な現象に悩まされるまりか。その部屋を記録したビデオには「かぐたば」という言葉が録音されていた・・・・。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 鬼とか外国でいう悪魔って、幽霊と違って、信仰する文化や土壌がないと客観的にはあまり怖くない気がする。だからこの映画も、その当事者という立場になっていたらなんとも寒々しい恐怖があるのかもしれないけれど、スクリーンのこちら側から眺めている状況だと滑稽な感じ。
 なぜことさらそんな風に思うのかというと、この映画の作り方が痛々しいほど「これは実話ですよ、本当の話ですよ」というスタンスで撮っているから。しかしどうみてもドキュメンタリーに見えないし、言えば言うほどコメディ色むんむん。恐怖を狙ったのなら、お粗末すぎる。全然怖くないもの。

 松本まりかは「純情きらり」に出てたよな~と、ずーと思いながら観てました。

スワロウテイル

2006年10月24日 | その他の日本映画
★★★☆
監督:岩井俊二
主演:三上博、CHARA、伊藤歩、江口洋介
1996年 日本

 少女の母親は娼婦で、亡くなった。残された少女はたらい回しにされ、最終的に「グリコ」と呼ばれる娼婦に引き取られた。
 グリコは「円盗」という、夢の街「円都」(イエンタウン)に住む異邦人の一人だ。二人の兄と死に別れ、はぐれ、歌手を夢見ながらも娼婦として生きていた。その胸にアゲハ蝶の入れ墨を入れたグリコは、少女にアゲハという名前をつけた。
 アゲハは同じ円盗のフェイホンやランたちとなんでも屋“青空"で働き始める。ある夜、須藤というやくざな客に襲われたグリコ。助けた仲間は謝って須藤を殺してしまう。秘密裏に須藤を埋葬するフェイホンらは、その体内から「マイ・ウェイ」が録音されたカセットテープを手に入れた。そのテープには、貨幣偽造のためのデーターが入っていた。
 そのデーターを探して、中国マフィアの若きリーダー、リャンキが動き出していた。実はリャンキはグリコの生き別れた兄だったのだが。
 偽造紙幣で大金を手に入れたフェイホンらは、グリコのためにライブ・ハウスを作り、そこで歌うグリコは評判になり、デビューが決まる。フェイホンはグリコの将来を考え、金を受け取りグリコを手放すが、そのことで仲間割れを起こし、ライブハウスは閉鎖されてしまった。
 グリコと同じように、胸に蝶の入れ墨をほったアゲハは、再び偽造紙幣を作り、なんとかライブ・ハウスを取り戻そうとする。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 岩井俊二ってメルヘンチックなのにちょっと屈折してて、好きと嫌いの微妙な線上にいつもいる監督だったのだけれど、本作は意外と好きかも。 

 ざらついた、ちょっとトイ・カメラで撮った写真のような荒さの残る映像も好きだし、やや長すぎる気はしたけれど、想像力豊かなストーリーも悪くないし、きれいきれいな映画だけの人じゃないんだと新鮮。何よりも登場人物が、どれもそんなに好きなひとばかじゃないのに、生きていた。三上博も一番良い。
(ただ、山口智子と桃井かおりだけは勘弁してほしい。ぶちこわし)

 一生懸命に生きるだけじゃなくて、どこかで冷めてて、あきらめて、遠い想い出を心に引きずって、それでも死なずになにかを夢見て生きていく。明るさはないけどたくましい。

 リャンキは生きてて欲しいなあ。

四月物語

2006年10月16日 | その他の日本映画
★★★☆
監督:岩井俊二
主演:松たかこ、田辺誠一、藤井かほり
1998年 日本

 桜舞い散る四月。卯月は北海道から単身、東京の大学に通うため上京した。引っ越し、初めての一人暮らし。見知らぬ土地の散策・・・・。
 大学での自己紹介で、なぜ東京の大学を志望したかをクラスメイトに聞かれ、卯月は答えることができなかった。どちらかというと大人しい卯月は、大学生活も、アパートの隣人とも馴染むのに時間がかかりそうなとまどいを感じていた。
 だが、彼女には人には公言できない、東京のこの武蔵野の大学を選んだ理由があった。時間を見つけては、卯月は近くにある書店へ足を運んだ。ここには高校時代ずっと憧れ続けていた一つ上の先輩、山崎がバイトしているはずなのだ。
 山崎を追って同じ大学を志望したことは、誰も知らない秘密だったのだ。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 なんてことはない話なんだが、岩井俊二はそんな小さな瞬間を、とても情感豊かにきれいにきれいに撮る名人で、そんなとこに惹かれるファンが多いのも頷ける。
 懐かしさを感じる、すこし霞のかかったような映像。こんなにも美しい東京・・と思ったらやはりちょっと懐かしの国立の風景。ここは学生が憧れる場所だった。
 
 ただただあこがれだけで、大胆にもその後を追って上京してしまう情熱を、純粋という言葉で置き換えても許されるぎりぎりの所に卯月はいる。その先の話をあえて描かないから、卯月は雨の中、いつまでも純で清々しい少女でいられる。
 これから彼女が体験するであろう、大人の世界をみんな知っているから、あそこで映画が終わってなんだか安堵してしまう。卯月は誰もがかつてそうであった、少女のままその一瞬を永遠に生き続ける。

 松たかこもホント初々しかったね。

風船

2006年10月05日 | その他の日本映画
★★★
監督:川島雄三
主演:森雅之、三橋達也、芦川いづみ、北原美枝、新珠三千代
1956年 日本

 村上春樹は若い頃画家を目指していたが、才能に見切りをつけてカメラの会社を立ち上げ、成功を収めていた。春樹には跡取り息子の圭吉と、幼い頃小児麻痺を患った娘珠子がいる。
 圭吉には銀座でクラブ務めをしている愛人久美子がいたが、献身的な久美子の思いとは裏腹に最近は気持ちも冷めていた。そんな時、春樹の師匠の息子だった都築にそそのかされた、シャンソン歌手ミキ子の誘惑に合い、ミキ子との逢瀬を重ねる。傷ついた久美子は2度の自殺を図り、ついには死んでしまうが、圭吉の態度は冷たいものだった。
 春樹は富と名声が息子をだめにしたことを悔い、圭吉を手元から離し、妻と珠子と一緒に昔なじみの京都で第2の人生を送ろうとするが、妻の拒絶に合い家族の崩壊に心を痛める。

☆ ☆ ☆ ☆ 

 年をとった森雅之がとても上品で気品があってせつなくて、ただただそれだけで見たいと思った。
 父親があんなにステキな人なのに、息子がああもろくでもないのはなにも富だけのせいじゃなかろうとも思うが、きっと時代がそうさせたのかもしれない。戦後成功を収め、浮き足だった地に足のついていない、高度経済成長後の日本に姿の象徴のような圭吉。人間の情を欠いた圭吉を憂う春樹ではあるが、苦労を共にしたはずの妻さえも春樹とは思いを異にする。きっと春樹は仕事に没頭し家庭を顧みなかった(であろう)その結果だと自分をせめているんだろうな。

 映画は誰に焦点があっているのかがよく分からなくて、個人的にはもっと春樹を描いてほしかったのだが、若い北原美枝が見れたのはうれしい。石原裕次郎につきそう、おばちゃん化した彼女しか知らなかったので。日本人離れしたかっこいい女性だったのね。

婦系図

2006年09月05日 | その他の日本映画
★★★☆
監督:三隅研次
主演:市川雷蔵、万里昌代、小暮三千代、三条魔子
1962年 日本

 早瀬主税は子供の頃、酒井俊蔵の財布をすろうとして失敗したが、心ある酒井によってそのまま面倒を見てもらい立派な青年に成長した。酒井の娘妙子は主税と共に育ったが、兄以上の気持ちを抱き主税さえその気なら結婚してもいいと思っていた。しかし妙子には妹以上の気持ちのない主税は、自分の妻には気だてはいいが芸者のお蔦と心に決めていた。
 長年世話になった酒井から独立するのを機に、主税はお蔦に結婚を申し込む。しかし相手は当時卑しいとされていた芸者。この結婚は酒井はおろか、周囲には秘密にしなければならないものだった。
 ある日、妙子の学校に嫁探しに河野英吉母子が訪れる。妙子に目をつけた河野親子であったが、妙子も酒井も乗り気ではない。しかし相手は権力にモノを言わせ結婚をせまった。むげに断れぬ酒井は、妙子は主税の恋人であるから主税の了承なしには、この結婚を認められないと言い出した。
 昔のスリ仲間を助けたことから河野に陥れられ、お蔦の存在も酒井に知られ窮地に陥った主税。恩人酒井から自分をとるかお蔦をとるか迫られ、悩んだ末主税はお蔦と別れる決心をする。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

往年の大スター、市川雷蔵氏を初めて見た。若き日の雷蔵はなんとなく顔のイメージが柔らかい感じで、イメージが定まらない。しかし雷蔵に限らず、昔の映画スターというのは一般人とは一線を画したオーラを放ち、今みたいに「隣にいそうな親しみ易さ」の対極にいる。
 映画自体も、まるで芝居を見ているような仰々しさで、現代のような「自然な演技」など要求されていなかったように思われる。映画は娯楽であり、人びとは手の届かぬ憧れを夢見て、役者も映画もそれに応えていたような。・・そしてそんな「THE映画」が最近ひどく新鮮で、古き日本映画に病みつきになりそうなこの頃。かような映画はもう、今では作れない。(それをやったら洒落か皮肉にしかならないだろう)スターが「およよ」と泣き崩れるような場面は、もはや芝居の専売特許。

 この物語をよく知らずとも、「別れろきれろは芸者の時にいう言葉。いっそ死ねとおっしゃて・・」というセリフなら聞いたことがあるのではないか。それが泉鏡花原作の「婦系図(オンナケイズ)であることを初めて知った。よく知らないが、芝居が似合いそうな話なので、きっとそっちで有名な演目なのかもしれない。

 運命と義理に引き裂かれた主税とお蔦の物語。主税がお蔦に別れを切り出すシーンが美しく、例の有名な台詞があり見どころである。
 現代なら迷いもせず危篤の恋人に会いに行ってしまうところだが、義理と意地を貫き「心では繋がっている」とそれを拒むところが、なんとも古風で新鮮。

 

Love Letter

2006年08月25日 | その他の日本映画
★★★☆
監督:岩井俊二
主演:中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、柏原崇
1995年 日本

神戸に住む渡辺博子にはかつて藤井樹という恋人がいたが、彼は山で遭難し三回忌を迎えていた。法要の帰り道に藤井の家に寄った博子は、中学の卒業アルバムで、今は国道になってしまったかつて藤井が住んでいた小樽の住所を見つけた。その住所に藤井宛の手紙を出したのは、決別のためだったのか。
 しかし博子が出した手紙は、かつて藤井と同級生だった同姓同名の、もう一人の「藤井樹」という女性に届いてしまった。巳も知らぬ博子という女性から届いた「お元気ですか?」という手紙に困惑する樹。誤解のまま、何回か博子と手紙のやりとりを続けるうちに、樹の脳裏にかつて同姓同名の男子「藤井樹」の想い出が甦っていく。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 初めて見た時、これは少女マンガの世界だと思った。岩館真理子のマンガを読んでいるようだった。しかし岩館マンガの少女はもっと屈折している。その感情がリアルで好きなのだが、この映画はもっとメルヘン。ただし残酷なメルヘンだ。
 渡辺博子という女性は藤井樹と藤井樹の物語の引き立て役でしかなく、それがとても哀れだった。藤井樹の過去が鮮やかに色を帯び、美しく切ない想い出として浮かび上がってくるほどに、博子がその代役だったということが明白になる。本人の気持ちがどうであれ、映画はそういう描き方をしている。なんて残酷なんだろう。しかもいつまでも死んだ恋人を忘れられない博子に対し、樹の方は博子の出現によって「樹」を思い出す程度だった。それが最後には、ほろ苦く切ない二人だけの美しい想い出になっている。
 しかし死んでしまった「樹」に罪はない。彼はただ、初恋の人によく似た女性に惹かれ、恋人になっただけなのだ。よくある話ではないか。
 一件ただの甘くせつないノスタルジーのようでありながら、実に残酷な話だと思う。なのに博子はなぜにもっと苦しまないのだろうか?なぜ最後雪山に向かって「お元気ですか~?」などと脳天気に叫べるのか。

 中学時代の樹を演じた酒井美紀の、少女特有の透明感に目を奪われる。特に父の葬儀の後の、氷った道をつつ~と滑っていくシーンが印象的だ。

うなぎ

2006年08月18日 | その他の日本映画
★★★★
監督:今村昌平
主演:役所広司、清水美砂、佐藤弁、田口トモロヲ
1997年 日本

 サラリーマンの山下は最近妻の不倫を注進する手紙を何度か受け取っていて、それが頭から離れない。ある日いつものように釣りに出かけるが早めに切り上げ家に帰った彼が目にしたものは、妻の不倫現場だった。怒りに逆上した彼は妻を刺殺してしまう。 
 8年刑期を務めた山下は仮釈放される。出所するとき彼が持参したのは一匹のうなぎであった。獄中、彼はこの物言わぬうなぎは、彼の唯一の話し相手だった。
 山下は身元引受人の住職中島の世話で、千葉県佐倉市で理髪店を開いた。寡黙で愛想のない山下であったが、その周りには少しづつ人が集まってくる。
 ある日うなぎのえさを取りに出かけた河原で、彼は睡眠薬自殺を図った女を見つけその命を救った。
 わけあり女性の桂子はその後山下の店で働くようになり、周囲もそんな二人の成り行きを温かく見守るが、桂子の心とは裏腹に山下は決して彼女の気持ちに答えようとはしなかった。
 そんな時、かつての獄中仲間で今はゴミ回収をしている高崎に山下は見つけられてしまう。妻殺害になんの良心の呵責の念を見せず、理髪店を営み桂子との仲を誤解した高崎は、その日から山下にまとわりつき嫌がらせを始める・・・。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 今村監督、惜しい人を亡くしました。

 殺人犯山下を中心に、わいわいがやがや外野が騒がしい群像劇。ペーソスや笑いがあってみんないい奴。散漫な感じがしないでもないが、彼らが騒ぐほど、内向した山下という男が浮き出される。

 嫉妬で山下にまとわりつく高崎という男がかなりエキセントリックに描かれるが、彼の存在がどこまで実像であるのか。少なくとも山下以外の人間との絡みは現実であろうが、どうも山下の意識下で作り出された男のような気もする。そして彼が最後に指摘する、妻の不倫を注進した手紙自体、もともと存在しなかったものだろう。 

 妻を愛し、平穏に暮らしていたはずの、事件以前の彼の人生もそもそも虚構ではなかったのか。問題は山下自身にあり、そのことに目をふさぐんじゃないと、高崎の幻は訴える。
 それを認めることから始まる男の再生の話である。そして彼のまわりにはなんともお節介なやさしい人間が沢山いて、彼らは山下を温かく待っていてくれる人たちだ。

 人間はやはり一人では生きていけないことを、仲間がいればいつだって何度だってやり直せることを、教えてくれる温かさが好き。

亀は意外と速く泳ぐ

2006年08月09日 | その他の日本映画
★★★
監督:
主演:上野樹里、蒼井優、ふせえり、要潤
2005年 日本
 
 平凡を絵に描いたような主婦スズメ。夫は単身赴任中で、毎日の日課は夫のペットの亀に餌をやること。
 スズメの幼なじみの友人、クジャクは正反対の破天荒な生き方をしていた。エキセントリックなクジャクに振り回されることの多いスズメだったが、心では彼女の非凡さに憧れていた。
 ある日、電柱に貼ってあった小さなスパイ募集のシールを見つけたスズメは、つい電話をしてしまう。クギタニシズオとエツコという夫婦にあったスズメは、そのあまりの平凡さを買われ、スパイの一員になる。しかし指令がくるまではなるべく目立たぬようにと支持されたスズメの日常はあいかわらずな日々であった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 邦画に時々登場する、いわゆる「ゆるい」映画であった。妙な脱力感とナンセンス。でもそこそこに笑える。しかし、すご~くナイスなツボをついているわけでもなく、なんとなくこんな映画他にもあったぞ、なそこそこ感。・・・おや、「そこそこ」をモットーとする潜伏スパイたちを描いて、「そこそこ」な感じ・・とは狙ったことなら凄いではないか!
 と言いたいのだが、「そこそこ」に面白いはそれ以上でもそれ以下でもない。スズメの悪友、クジャクの存在理由とポジションが中途半端であった。蒼井優でない方が良かったのでは?
 イケメンとされる要潤。どこがいいのか今までさ~っぱりわからなかったが、この映画では笑わせてもらった。本当はいけてない、スカシタ勘違い野郎。ぴったしである。


リンダリンダリンダ

2006年07月22日 | その他の日本映画
★★★★☆
監督:山下敦宏
主演:ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇
2005年 日本

 芝崎高校文化祭前夜。響子は必死で恵を探していた。高校三年最後の文化祭に、恵・響子・望・萌・凛子でバンドをやるはずだったのに、ギターの萌が骨折し、恵と凛子が仲違いをし、バンドは空中分解寸前だった。
 やけになってやる気をなくしていた恵だったが、なんとか気を取り直して、3人で曲目を部室で選んでいた。部室にあったテープのストックから、ブルー・ハーツの「リンダ・リンダ・リンダ」を見つけた3人は異様に盛り上がる。
 演目はきまったものの、ギターの萌の代わりを恵が引き受けることに。しかし最大のネックはヴォーカルがいないことだった。恵と凛子は意地を張り通し、仲直りできない。そんな時白羽の矢があたったのは、偶然そこに居合わせた韓国人留学生のソン。そして無謀にもソンはヴォーカルを引き受け、なんとも不安だらけの中、4人は本番まで短い時間で練習に励む。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 比べてはなんですが、同じ高校の音楽系ということで比較されがちな「スイング・ガールズ」よりもこちらの方が好きだ。「スイング~」の方が大衆受けしそうな作風だが、「リンダ~」の乾いた一見そっけなさが心地良い。

 あまりなじみのない俳優陣かと思いきや、美人の恵こと香椎由宇は「ローレライ」に出ているし、とっぽいソンことペ・ドゥナも「チューブ」に主演している韓国女優。彼女らが演じる少ししらけて辛辣で、それでいて情熱的で、男には分からない話題で盛り上がって・・・そんな女子高生な時代が私にもあった。子供でもなく大人でもない唯一無二の3年間。小さな世界で精一杯悩み、どんなわがままも許される特別な時期だ。
 「スイング~」はひたすら明るいが、いかにもドラマだった。「リンダ~」には女子高生時代の空気が流れていた。その差は大きい。

 決してうまいとは言えないソンのボーカルが、ヘタなりにパワーを持ってラスト花開く。直前の、癒し系な萌の歌声が対照的である。
 孤独だったソンが、劇的ではないが徐々にかけがえのないメンバーとして人間関係を築いていく姿が、男子生徒からの告白シーンで伺える。好奇心もあるだろうが、メンバーの一大事をみんな見守っていた。その告白をひょうひょうと、しかし正直に「嫌いではないけど、好きじゃない」と返すソンがとてもいい。

ALWAYS 三丁目の夕日

2006年01月24日 | その他の日本映画
★★★☆
監督:山崎貴
主演:堤真一、薬師丸ひろ子、吉岡秀隆、小雪、堀北真希
2005年 日本

 1933年の東京。戦後の復興も進み、町には路面電車が通り、世界一を目指して東京タワーが建設されていた。
 そんな3丁目の一角にある鈴木オートでは、息子が来るはずのテレビを毎日待ち望んでいた。やがて集団就職で青森から六子 が鈴木オートにやって来る。
 鈴木オートの向かいの駄菓子屋には茶川という風采のあがらない物書きが、今日も投稿した小説の落選に落ち込んでいた。そんな茶川のもとの、身寄りのない少年、古行淳之介が引き取られることになった。実は居酒屋の女将ヒロミの策略で、煽てられ酔った勢いで強引に押しつけられてしまったのだ。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 いわゆる昔懐かしい昭和、タイムスリップグリコやラーメン博物館の延長線上に出来上がった映画である。昭和ノスタルジー、古きよき時代に涙する世代のツボにどっかーんとはまった映画だ。
 高度経済成長以降、日本人がその豊かさと引き替えに失った人情話は分かっちゃいるのに泣けてくる。もうあざといぐらいストレートな手口なのに、反応してしまうのはやはり日本人だからなのだろうか。

 この映画の良さはでも子供だ。悪ガキだけど素直でかわいい。もっと言えば淳之介より、鈴木オートの一平の子供らしさに泣ける。

 下町の工場のおやじにしては格好良すぎるが、堤真一を起用したのも成功したのでは?ただ沢山笑わせてくれたが、あのサンタ姿は子供には見せられない。R-10指定ぐらいかな。
 
 何をやっても吉岡秀隆な茶川には(意に反して)ほろりとさせられたが、最後の最後はあのまま淳之介とお別れして、苦みを残して欲しかった。ただでさえ甘いココアを飲みほした後、底に溜まった砂糖までも飲まされてしまった感じ。いやな予感はしたものの、出かかった涙も引っ込んでしまいました。
 甘いだけじゃだめだよと冷静になりながら、でもぐしょんぐしょんになってしまったことを告白。ちょっと日本の子供もすてたもんじゃないと見直した。
 それにしても見事なまでに男の子しか出てこなかったなあ・・・。

父と暮らせば

2006年01月16日 | その他の日本映画
★★★☆
監督:黒木和雄
主演:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信
2004年 日本
 
 昭和20年に広島に原爆が投下されてから、3年が経っていた。最愛の父を目の前で亡くし、友も亡くし、奇跡的に一人生き残った美津江。ひっそりと廃屋に住みながら図書館勤めを続ける彼女の心は、自分一人が生きている事への罪悪感でいっぱいだった。
 そんなある日、彼女に好意を寄せる木下という青年が現れる。彼に心惹かれながらも、自分は決して幸せになどなってはいけないのだと、その求愛を拒み続ける美津江。それから彼女の前に死んだはずの父がいつしか家に現れ住みつき、木下の愛を受け入れて幸せになるように必死に諭すのだった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 年をとっても今だ変わらず独特のオーラを発する最愛の日本人俳優、原田芳雄。彼と宮沢りえ、それに隠し味のように浅野忠信が出るだけの、まるで二人芝居の舞台を見ているような映画。心情や状況はほとんどセリフで語られる。映画を見ていると言うよりは舞台観賞といった趣。

 おそらく自分に近しい愛する人の全てをあの日の原爆で亡くしてしまった美津江。一人生き延びたという事実は、罪悪感として深くその魂を攻め続けていた。父の亡骸をほって逃げてしまったという悔恨の思い。一生背負わなければならない罪の意識から逃れ、人間らしく幸せを求めて「生きる」ために、「あれは仕方のなかったことなのだ」と許してくれる存在が必要だった。
 なにをどう言おうと、「おまえは木下青年とこれからの人生を生きろ」と背中を押してくれる父の亡霊は美津江自身が生み出したものに違いなく、結局は自身で解決するしかない彼女の孤独が痛々しい。
 父は断固として娘の幸せを主張し時にユーモアにも満ちて明るいが、彼女が最後に見た父の姿の悲惨さを思えば、この風変わりな舞台劇映画は目に見えないいろいろなことを映し出している。

 宮沢りえは本当にいい女優さんになった。もんぺ姿もかわいらしく、清楚なスカート姿は着物姿よりも断然日本人女性の匂いを醸し出す。
 



赤目四十八瀧心中未遂

2006年01月04日 | その他の日本映画
★★★☆
監督:荒戸源次郎
主演:大西滝次郎、寺島しのぶ、大楠道代、内田裕也
2003年 日本

 尼崎にたどり着いた男、生島。優秀な大学も出て前途ある若者が、しがない料理屋の臓物の串刺しのバイトに日がな一日明け暮れる。アパートの住人はだれもくせ者、怪しい人物ばかり。
 そんな中、やはり住人の一人、綾という女が生島に拘わってくるのだが・・・・。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 ちょっと難解なムード、怪しい人間描写がいかにも邦画にありそうで、とっつきは悪かったのだが、意外にも引き込まれてしまったのはなぜだろう。映像が美しいせいか、話の運びがうまいのか。
 尼崎の住人たちの異様な事と言ったら、序盤はまるでオカルト映画を見ているよう。でも異境の地で暮らす心細さは案外こんなものかもしれない。出会う全ての人が不気味で怖い。攻撃的であったり、見透かしていたり、何を考えているか分からなかったり。
 
 しかし作家として生きることに挫折し、なんら生きる目的も気力も持たない生島という男に比べ、したたかに確実に生きている尼崎の住人たち。(難解気味な演出が苦手なので)あのマネキンたけし君の意味など不可解なことも多いのだが、独特な雰囲気で2時間半見きってしまった。
 あのたけし君は虫追い少年の生島なのだろうか。あの人形のように自分の意思も捨て去って、ただただ存在だけするのか。あの虫を追いかけて四十八瀧に来てしまった日から、彼は生を生きてこなかったのか。

 寺島しのぶの白と赤のワンピースが目に残る。生島役の大西滝次郎も良かった。