よつばの町の図書館

　三島由紀夫ゆかりの図書館危機　老朽化、改修に１０億円…　相次ぐ歴史的建造物の解体（神戸新聞）
　https://news.yahoo.co.jp/articles/280d87aba0bfa8df80bdacd95337c4d34f67162d

　三島由紀夫が徴兵検査を受けた場所として知られる加古川図書館が、いま存続の危機に瀕しているという。三島の本籍地は現在は加古川市志方町の志方村であった。記事はこう伝える。

　「老朽化が進み、耐震性がない可能性があるため、加古川市は２０１９年度、図書館を移転させる方針を決定。コンサルティング会社を通じて建物の民間活用を探ったが、１０億円規模の改修費用が要因となり、興味を示す事業者はいなかったという」

　加古川にクライアントがあって、よく通っていた。加古川図書館も何度か訪ねた。加古川図書館は、兵庫県建築士会の初代会長を務めた建築家、置塩章（おしおあきら）の設計で、１９３５年に加古川町公会堂として建築された。舞踏会が開かれていたという話を聞いたことがある。加古川は明治に日本毛織が進出して栄えた工業都市だった。重厚で豪華なゴシック様式が、当時の殷賑を思わせる。アールデコ風のステンドグラスも見事なものだった。

　丹波市の柏原女学校の旧校舎が、「たんば黎明館」と名前を変えて、フレンチレストランやライブラリーカフェが入り、撮影などにも貸し出されている。畳の部屋にテーブルという、和洋折衷のスペースで食べるフレンチは乙なものだった。この図書館にも、そうした活用の道があるのではないか。しかし耐震補修に10億円といわれると、二の足を踏む気持ちもわかる。

　加古川市といえば、かつめし、陣内智則、上野樹里という感じだろうか。菅原洋一や雑民党の東郷健も加古川生まれだし、城山三郎の『部長の大晩年』のモデルの俳人永田耕衣も当地の出身である。一遍や親鸞が崇敬した沙弥教信も、賀古（かこ）の駅に庵を結んだ。

　加古川で忘れてほしくないのは、『よつばと！』である。作者のあずまきよひこ氏が隣の高砂市出身で、加古川東高校を卒業している。そのためか、ちょくちょく作品の舞台のモデルになっている。よつばが自転車に乗る川の土手は加古川左岸、牛乳の配達に行く風香の高校は加古川東高校がモデルだった（後記。作者ブログで「母校を訪ねた」という記述を読んだ記憶からそう思ったのだが、しかし校門は高砂高校だという整地巡礼サイトを見つけた。確かによく似ていた。このあたりはいずれ調べてみたい）。「よつばの町（架空の紫陽花市）の３０％くらいは加古川・高砂分でできている」と作者もブログで書いていた（いまは読めない）。高層マンションや大きなショッピングセンターがあって、田んぼや畑もある郊外の風景は、確かに加古川や高砂の雰囲気である。


　加古川図書館は、加古川東高校にも近い。『よつばと！』とのコラボで、コンテンツ横断型のメディアミックスの拠点にするのはどうだろうか。三島由紀夫のゆかりの場所というだけではない。加古川宿（作中では加古の駅）は『雨月物語』の「菊花の約」の舞台である。「播磨の法隆寺」といわれる聖徳太子ゆかりの鶴林寺もある。信長の播磨攻めの古戦場でもあって、加古川評定は歴史ファンにはお馴染みだろう。

　『よつばと！』はアニメ化は極めて難しい作品だろうと思う。しかしもしアニメ化されたら、『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』に代わる国民的アニメになる可能性がある。

　　アニメ化されたら別だろうが、『よつばと！』のコンテンツ力をもってしても、10億のハードルは高い。あずま氏にお願いして、コラボグッズでクラウドファンディングを募ってみたらどうだろうか？　加古川はニッケや多木化学、業務スーパーが本社を置いている。丸亀製麺のトリドールも発祥の地でもある。よつばがニッケのウールで着飾ったり、多木肥料でトマトを育てたり、業務スーパーの段ボールでダンボー（段ボール製ロボット型スーツ。要は着ぐるみ）を作ったり、かつめしを食べたり、加古川のPRにもなる。『よつばと！』コラボグッズはいろいろ展開できそうだ。多くの企業が協賛するツーデーマーチなどに絡めながら保存運動を盛り上げていくことはできないのか。近代建築の名品のランドマークがなくなるのはあまりにも惜しい。



　加古川図書館。写真の右側に見えている松のあたりで、三島は米俵を持ち上げさせられたそうだ。たしか持ち上げることはできなかったと記憶する。



　２階のステンドグラス。


『よつばと！』より


ダンボーがなぜここに？　ダンボーが死んだ？　続きはこちら。

うそつきよつば　（『よつばと』10巻ブックレビュー）　
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