新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

ハイキングに里山再生、れんちゃんとお父さんの日々。

お好み焼き「双月」探訪記

2023年02月12日 | 毒男のグルメ
大和屋女将プロデュース、上方花舞台公演final「花の集い」が終演。夢の時間は終わりです。

この日ご招待したお得意先様、古典芸能愛好会の皆様、そしてロビーで大和屋の女将さんと上方文化のみなさま、柏木先生ご夫妻にごあいさつが済んだところで、以前は劇場レストランだった休憩所に移動し、人混みがはけるのを待ちました。

劇場出口に出ると、さっきごあいさつを済ませた柏木先生が美女軍団に囲まれているところでした。この限界ブログの柏木先生の大阪市民表彰のお祝い記事も読んでいただいた方々でした。ご愛読感謝です。

「せや、お好み焼き屋、どうやった?」

と、先生が思い出したように気さくに話しかけてくださいました。拙ブログのお好み焼きの記事をご覧になり、食レポをリクエストされていたのです。

「はい、これから行くところです」

先週下見に出かけたのですか、仕事が立て込み、到着した20時過ぎには閉店してしまっていたのです。

「なんや、まだ行ってへんのかい。レポートよろしく!」

「はい」

と返事して、堺筋線に乗って、お店の最寄り駅の扇町をめざします。

柏木先生は現代の谷崎ともいうべき超美食家ですから、緊張しますね。谷崎全作品に登場する食のメニューを渉猟した「谷崎潤一郎と上方料理」(『やそしま』14号)、『心の中の松阪』の松阪市民のソウルフード「不二屋」の焼きそばの紹介記事、先生の書く美食の記事はどれも絶品なのです。

脱線すると……最近、ネットライター氏の不二屋の紹介記事を読みましたが、おそらく、先生が見たらダメだしされるだろうなあと思ってしまいました。写真を見るに、餡と麺をからめるのに、10秒かそこらしかかけていなさそうです(それでも充分おいしいのでしょう)。しかし柏木流は、麺と餡を混ぜ切るのに2分以上かけるのです。どうして不二屋の焼きそばはこんなにうまいのか、さらにおいしく食べるのにどう工夫してきたのか、先生の説明は実に科学的、化学的(!)なのです。先生のテクストを読んでから、私はかた焼きそばに対する姿勢が変わりました。

化学を学んだ先生は、作品生成論に「触媒」という概念を用いたそうですが、自ら包丁を振るう先生のあくなき美食の追求は、文学論にも通じるものがあるように感じます。吉本隆明の『言語にとって美とは何か』は看板倒れに終わったけれど、言語美とは何か、真に探究してこられたのは柏木先生であると、ひそかに尊敬申し上げる次第なのです。

堺筋線に乗ると思い出すのは、ゴジラ映画第二作『ゴジラの逆襲』です。

本作のゴジラは、天保山に上陸し、みなと通りを驀進して(たぶん)大阪城をめざしましたが、千里の万博会場に落下したゴモラは、阪急千里線・堺筋線ルートで南下し、北浜でなぜか謎の方向転換をして、大阪城に出現するのです。京阪線が気になったのかな? あのまま行ったら通天閣を壊して終わりでしたよ? 初代通天閣の展望台で取引を終えた黒蜥蜴と、明智小五郎がカーチェイスを繰り広げるのも堺筋でした。

今日のお店は「お好み焼き・焼きそば 双月」。メニューは、お好み焼きとモダン焼き、ねぎ焼き、焼きそばだけの正統派のお店です。酒のアテがあるとうれしいけれど、純粋に粉もんを楽しむためのお店です。

17時30分の開店5分前にお店に到着し、一番乗りで入店できました。

このお店を紹介してくれたのは、営業時代の上司の先輩です。元コックという異色の経歴で、どの駅で降りても、最寄りの安くておいしいお店を知っているという、奇特な方です。今年定年で、会社に残ってほしいのですが、残念ながら再雇用には応じないということです。世代交代も重要ですが、功労者にもきちんと報いないとだめですね。

以前、宇能鴻一郎の『姫君を喰う話』を「ホルモン文学の最高傑作」と書きましたが、『じゃりン子チエ』を忘れていましたよ。自己批判します。

元ヤクザのお好み焼き屋のおっちゃんが語るお好み焼きの蘊蓄が最高でしたね。豚バラの脂が鉄板の熱に溶けて、ジュウジュウ焼ける、あの匂いが人を食欲の虜にし、けだものに変えるのです(なぜかヒラメちゃんの顔アップ)。

ところがこの「双月」の豚玉は、豚肉を最初から生地に練り込んであるのだとか。

会社の先輩のはなし。

「最近のお好み焼きって、ふんわりしてますやん? でもこのお店のは、なんといったらええのかなあ……うん……固い……そう、固いんや。でも、そこがええんやなあ。昔ながらの大阪のお好み焼きやね。あ、自分で焼くのむずかしいから、お店の人に頼んだほうがええで?」

メニューのトップにあった豚いか玉を頼みました。イカは生地と一緒でしたが、豚は生地とは別に片面を軽く炒めたのを、広げた生地の上に乗っけていました。豚とイカの両方一緒にすると、火の通りが悪くなるからでしょうか。



なんだかピザみたいですね。普通イメージするお好み焼きって、サンリオキャラのぐでたまのようにぐでーんと広がって、ゆるふわ、ふわとろでおいしくいただくものなのですが…



ちなみに、ぐでだまってこんな子です。やる気ならありません。

しかし、双月のお好みは、かっちり固まっています。ものすごくやる気(?)があります。

チーズのトッピングを頼んでいる人がいました。お好みにチーズなんて邪道だと思いながらも(マヨネーズはOKなの?)、このお店のお好みに限っては、ピザ風に楽しむのもアリだなあと思いました。

だんだんおいしそうに焼けてきたね。れんちゃんも楽しみ?



普段私が通っている地元のお好み焼き屋さんでは、イカに軽く火を通してから、鉄板に流した生地に混ぜ込み、その上に豚バラを乗せ、ひっくり返して、じっと我慢の子です。生地の中に練り込んで加熱されたイカは、コリコリして、新食感でした。生地に練り込まれた豚玉の豚は、どんな食感、どんな味になるんだろう? 次回のお楽しみです。

天満にはかつて「菊水」というお好み焼きの名店があったそうです(現在は閉店)。素人は一切手出し無用。ひっくり返すタイミングで、名物店主のおじいちゃんが来てくれるというシステムで、下手に手を出すと焼き直し。

この双月も、お姉さんが焼いてくれて、頃合いを見計らってひっくり返しに来てくれます。

お姉さんが最後にひっくり返してくれて、ようやく食べる許可が出ました。

「マヨネーズを最初に塗って、ソースをかけてください」

マヨネーズを先に塗る? 普通はソースのほうが先のような気がするのですが。そこはこのお店の流儀。

ソースには甘口、辛口があります。私は半分を甘口、残りを辛口のハーフ&ハーフにしてみました。



コテで切って口に運ぶと……ちょっと驚き。

最近のお好み焼きは、ゆるふわ、ふわとろ系ですが、双月のお好みは、先輩が「固い」と表現したとおり、しっかり噛みごたえがあります。しかしこの「固さ」は、決して不快な固さではありません。むしろ快楽です。生地に練り込まれたイカはじっくり熱が通って、コリコリ、噛みごたえがありました。

お好み焼き一枚で、腹七分目くらいでしょうか。隣の席の人は、お好みと焼きそばをセットで頼んでいました。さすがにもう一人前はきついですが、醤油味ベースのねぎ焼きを二人でシェアしました。ねぎ焼きといえば十三の「やまもと」ですね。

お店は、入店して30分と経たないうちに満席になってしまいましたよ。まさかこんな人気店だったとは。会社の先輩いわく、いつでも気軽にふらっと入れる店だったということでしたが……。

芸能人の色紙がたくさん飾ってありましたが、最近、テレビで取り上げられたのかもしれませんね。開店直後に滑り込むか、予約を入れておいたほうが安心だと思います。

この日は、私は梅酒入りの天神ハイボールをひたすら飲んでいました。ウイスキーはニッカです。ビールもすごくよく合うと思いますが、このお店の天神ハイボールはクセになりそうです。私はハイボールがそんなに好きでありませんが(ウイスキーは生で飲むのベストです)、梅酒を入れると、いい塩梅になりますね。幼い頃、母が漬けていた梅酒を薄めた梅ジュースを飲ませてもらった記憶が蘇ってきました。1時間に満たない滞在時間でしたが、4杯も頼んでしまいましたよ。

なお、客席はすべては四人掛けの半個室で仕切られていますが、定員どおり四人入ったらギチギチかな? 

大阪に来た頃、こんかお店があったなあ。昔ながらのお好み焼き屋さんが、今も健在でうれしかったです。

と、いい気分で帰路に就いたのですが……

酔いも少し醒めかけたところで、冷たい風にさらされる頭頂部に、帽子を忘れたことに気づきました。お店に電話すると、預かってくれているとのこと。

酔っぱらいの悲しさ、電車の乗る方向を間違えてしまい、お店に着いたのは、電話してから1時間近く経過した20時過ぎ。やはりお店は営業終了でした。まだお店の人もお客さんもいて、帽子を無事に受け取ることができました。

帰りに先週も寄ったお店でおでんをアテに熱燗を2合いただいて、本屋さんに寄り、帰宅したのは22時を過ぎていました。

そういえば……。

下見に来たとき見つけたのですが、天満の駅前には、ハマチ10円、その他の寿司やドリンクも99円という激安寿司店がありますね。面白半分に入ってみると、まだ工事中?でコンクリのガラが転がっておりました(でも営業はしている)。彫りの深い、恐らくタイ人と思しき店員さんが出てきて、お一人さまはお断りということでした。たしかに、数人で同じメニューを頼むシステムにしないと、この値段ではやっていけませんね。いつか若い人たちを連れて行ってみたいと思います。



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