栗田艦隊航海日誌

戦争とプラモと映画で頭が侵されてしまった人のブログ

映画「フライング・タイガー」(1942)

2017-01-19 03:28:48 | 映画
今回も再び映画紹介の記事になる。
今回紹介する映画は、アメリカ西部劇映画のヒーロー、ジョン・ウェインが第二次世界大戦中に主演を務めた戦争映画「フライング・タイガー」(1942)だ。
デビュー当時から「駅馬車」(1939)などの数々の西部劇に出演していたウェインが、戦争映画というジャンルで初めて主演を務めた作品だとされる。

日中戦争時、中国戦線で日本軍を相手に戦った合衆国義勇軍「フライング・タイガース」(AVG)の活躍を描いた戦意高揚映画で、部隊をまとめるジム・ゴードン隊長をジョン・ウェインが演じている。
多くの戦果を挙げつつも、一方で味方に多大な犠牲を払い続けていることに頭を抱えるジム隊長と、ジムに誘われフライング・タイガースに入隊した
お調子者のウディ・ジェイソン(ジョン・キャロル)が、戦闘を経験するうちに戦う意味を見出していく姿を描いている。
戦時下の戦意高揚映画であるが故にプロパガンダ的な要素は強く、敵の日本兵は片言の日本語を喋ったりとややステレオタイプ気味ではあるが、
それでも娯楽として成り立っているということがハリウッド映画の強みだろう。
本作は第15回アカデミー賞の特殊効果賞、録音賞、ドラマ音楽賞にノミネートされている。

本作は題材故に日本劇場未公開作品でビデオ販売のみだったが、我が国ではアメリカ本国での劇場公開から50年以上経過し著作権が消滅したため、
パブリックドメイン(PD)DVDとして様々なメーカーで安価で販売されている。
私がこの映画と出会ったのも、近所で中古販売されていたPDDVDを見つけたのがきっかけであった。
なお、映画自体は白黒フィルムで制作されたが、PDDVDでは1989年に制作された着色版を収録したソフトが大多数を占めている。
今のところ本来の白黒版を収録しているDVDはコスミック出版が出しているソフトのみのようだ。
今回はコスミックの白黒版PDDVDを紹介するが、着色版を収録した日本語吹き替え付きのPDDVD(マックスター)のソフトも次の機会に紹介したい。

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劇中に登場するフライング・タイガースの戦闘機カーチスP-40。史実では平凡な性能で優秀な戦闘機ではなかったが、防弾性と急降下性能に優れ、日本軍にとって手強い戦闘機だったという。
実際にフライング・タイガースが初期に使用したP-40の多くはB型で、自動車のエンジンを積んで実機を模した実物大のモックアップ(1、2枚目)ではその仕様が再現されているが、実機を撮影した離着陸の場面(3枚目)ではD型以降の型式となっている。
機首上の突起物で判別が可能で、B型には機首機銃とキャブレターインテークが存在するが、D型以降は機首銃が取り除かれ、エンジン換装もなされてインテークは小型となった。
実機の撮影にはP-40の開発・生産を担当した航空機メーカー、カーチス・ライト社が協力している。
ただし映画を制作したリパブリック・ピクチャーズは元々低予算で西部劇を制作していたマイナーな映画会社で、予算をそれほど掛けられなかったのか実機による空中戦のカットは少なく、戦闘場面の多くはミニチュア特撮と記録映像で構成されている。それでも迫力を感じるのは編集の巧みさなのかもしれない。





劇中に登場する敵の日本軍。
陸軍の九七式重爆撃機や九七式戦闘機、海軍の九六式陸上攻撃機などが記録フィルムに登場しているが、よく見ると東宝が制作した戦意高揚映画「燃ゆる大空」(1940)のカットが多く使われている。
「燃ゆる大空」で爆撃機搭乗員の佐藤を演じた灰田勝彦や、戦闘機パイロットの行本を演じた月田一郎が本人の知らぬうちにハリウッドデビューしていたとは夢にも思うまい。
鹵獲された記録フィルムが敵国の戦争映画に使われるケースはよくあるが、「燃ゆる大空」のフィルムがどのような経緯で鹵獲されアメリカに渡ったのかは不明だ。
「燃ゆる大空」のフィルムは同じリパブリックの「血戦奇襲部隊」(1944)などの映画にも使われ、戦後もフライング・タイガースを取り上げた海外の特集番組などでも映像が使われるようだ。
他にも日本二ユースの鹵獲フィルムなどが使用されている。




ジョン・ウェインが演じるフライング・タイガースのジム・ゴードン隊長。
戦争映画でウェインが初めて主演を演じた役だそうだが、この頃からウェインは「部隊を率いる頼もしい指揮官」という人物像が与えられたようだ。
余談だが、ジム・ゴードン隊長にはモデルとなった人物が存在するようで、米海兵隊のエース・パイロット、グレゴリー・ボイントンがモデルだという。実際に彼はフライング・タイガースで日本軍を相手に戦い、1942年に海兵隊に復帰している。1944年にラバウル上空で零戦に撃墜され終戦まで捕虜生活を送っていたが、戦後はその時の体験談を元に自叙伝を執筆し、その後テレビドラマ化もされている。
劇中でウディがジムのことを「パピー」と呼ぶが、これはボイントンのあだ名が由来のようだ。



ジムの旧友でありフライング・タイガースに新しく入隊するウディ・ジェイソン(ジョン・キャロル)と、ウディの相棒のアラバマ・スミス(ゴードン・ジョーンズ)。
お調子者で女たらしのウディと、ウディに振り回されるアラバマのコンビはユーモラスで好きだ。
両者とも日本では知名度が無いが、ジョン・キャロルは「マルクスの二挺拳銃」(1940)でマルクス兄弟と共演している。キャロルは劇中ではウェインに負けない程魅力的な俳優だ。
ゴードン・ジョーンズは「東京ジョー」(1949)でハンフリー・ボガートと共演し、「マクリントック」(1963)で再びウェインと共演している。



部隊で二番機のパイロットを務めるジムの戦友ハップ(ポール・ケリー)と、ジムの恋人である看護婦のブルック(アンナ・リー)。
ポール・ケリーも知名度は高くはないが、彼もまた「紅の翼」(1954)でウェインと再び共演を果たしている。
アンナ・リーは第二次大戦前から戦後まで長きに渡って活動していた女優で、「アパッチ砦」(1948)でウェインと共演し、60年代においても「何がジェーンに起ったか?」(1962)や、「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)などに出演していた。2004年までご存命だった。



ジムがウディら新入隊員に見せる日本軍機の識別表。
1942年当時まだコードネームは存在せず、日本軍機は「川西」「中島」といった航空機メーカーの呼称で判別されていた。
ジムの説明では日本軍機の燃料タンク(増槽)についての解説や、日本軍機の性能の特色を解説したり(九六式艦上戦闘機を指して「最も手強い相手」「速くは無いが小回りが利く」)と、当時の米軍がどこまで日本軍機を分析していたのかが解って興味深い。



物語の終盤近くに登場する輸送機、カペリスXC-12。
1933年にカリフォルニア大学で完成した試作旅客機だが、劣悪な性能であったが為に発注されず、改造を施された上で映画の大道具として使われるようになったという。
かなり特徴的な外観をした飛行機だ。






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