栗田艦隊航海日誌

戦争とプラモと映画で頭が侵されてしまった人のブログ

映画「黄金狂時代」(1925)・「ガダルカナル・ダイアリー」(1943)

2017-02-19 15:53:08 | 映画
今回は過去に観た映画2作品のレビューを書く。

・「黄金狂時代」(1925年・米)
喜劇王のチャールズ・チャップリンが監督及び脚本、製作、主演を務めたサイレント映画。
ゴールドラッシュの時代を舞台に金鉱探しに明け暮れるチャーリー(チャールズ・チャップリン)が猛吹雪の中辿り着いた山小屋で危うく遭難しかけたり、麓の町で出会った酒場の女ジョージア(ジョージア・ヘイル)と恋に落ちる。
序盤の山小屋での共同生活で、チャーリーが、同じ金鉱探しのビッグ・ジム・マッケイ(マック・スウェイン)に飢えによる幻覚のせいで鶏と間違われて追いかけ回される場面など、チャップリンのコメディアンとしてのセンスが感じられる作品であり、現代にも通じる作品だろう。

私が観たのはキープが出している「チャールズ・チャップリンDVDコレクション」というPDDVDで、画質はよろしくないが、それでも劇中のチャップリンの芸は色褪せないものだ。

・「ガダルカナル・ダイアリー」(1943・米)
従軍記者リチャード・トレガスキスの著書『ガダルカナル日記』(原題:Guadalcanal Diary)を映画化した作品。
太平洋戦争におけるガダルカナルの戦いの上陸から戦いの終わりまでを描いた作品。
本作は戦時下に作られたプロパガンダ作品だが、海兵隊員達が島を巡って死闘を繰り広げる様子や、中盤の戦闘で勝利しても海兵隊員達は勝鬨をあげず、ただひたすら前進していく場面など、戦意高揚映画にしては生々しい描写も多数描かれている。
戦時下のアメリカ戦争映画ではありがちなステレオタイプ像の日本兵も、同時期に作られた米戦争映画と比べるとさほど気にはならない。
主人公はおらず、海兵隊員達の群像劇で構成されている。新兵のアンダーソン(リチャード・ジャッケル)が戦いを通じて成長していく描写は見事だ。

ところで、私が観たDVDはキープの「水野晴郎のDVDで観る世界名作映画」なのだが、PDにしてはやけに画質が良い。
おそらく製作元の20世紀フォックスが出しているリマスターの正規版DVDから映像を引っ張ってきたのではないかと睨んでいるのだが、そんな事して著作権的に大丈夫なのかね。キープよ...。

映画「フライング・タイガー」(1942) 着色版・日本語吹き替え付きパブリックドメインDVD

2017-01-29 19:54:23 | 映画
PCがやっと帰還したので、以前の記事で取り上げると宣言した、映画「フライング・タイガー」(1942)の着色版・日本語吹き替え付きパブリックドメイン(PD)DVDについて紹介しよう。

このPDDVDは、日本おいて映画公開後50年以上が経過しパブリックドメインとなった映画作品に、マックスターとミック・エンターテイメントが共同で日本語字幕と日本語吹き替え版を収録したもので、101本もの作品が販売されている。
現在はワールドピクチャーに権利が移り「名作映画DVD」として販売されているようだが、エー・アール・シー(ARC)でも「クラシック名作映画」として500円程の価格で販売されている。
私が買ったのはARCのDVDだが、ワールドピクチャーの物とディスクが共通である為、収録されている音声・映像も全く同じなのだ。

株式会社ワールドピクチャー 名作映画DVD

ARC クラシック名作映画

なお、ワールドピクチャーとARCが共同で出している日本語吹き替え付きPDDVDは、中古DVDショップやAmazonなどの通販でも購入が可能だ。字幕版のみ収録のソフトが圧倒的に多いので見つかりにくいかもしれないが、書店やホームセンターでも売っている可能性はある。

フライング・タイガー 日本語吹替版 DDC-046N エー・アール・シー

「フライング・タイガー」の日本語吹き替え版のキャストは、ジム・ゴードン隊長(ジョン・ウェイン)の声を、映画「X-MEN」シリーズでダニエル・クドモアが演じたコロッサスや、イギリス人俳優マーク・ストロングの声を演じることが多い声優の加藤亮夫が演じ、看護婦ブルック(アンナ・リー)を
兒玉彩伽、ジムの旧友ウディ・ジェイソン(ジョン・キャロル)を上城龍也、ジムの良き戦友であるハップ(ポール・ケリー)を芦澤孝臣が演じている。
(その他の吹き替えキャストはこちらを参考に→アトリエうたまる フライング・タイガー)
日本語吹き替え版を出している「フライング・タイガー」の収録ソフトは、これが唯一である。
吹き替えの質に関しては悪くはない。原語版の日本兵の片言の日本語はまともな日本語に吹き替えられ、本来台詞がない場面に台詞を挿入するなど、
吹き替え独特のアレンジがなされている。洋画の日本語吹き替えは映画の印象がだいぶ変わってくるので賛否両論はあるが、個人的にはよほど質の悪いもので無ければ吹き替えも良いものだ。

マックスター/ミックの日本語吹き替え版PDのキャストには、主に洋画や海外ドラマなどの端役の吹き替えを務める事の多い中堅声優や、舞台俳優を用いるケースが多い(名前さえも聞かない素人が吹き替えを担当するケースも多い)。
一方で知名度の高いベテランの声優を起用しているソフトも少なからず存在し、「雨に唄えば」(1952)でドン・ロックウッド(ジーン・ケリー)の声を堀川りょうが演じたり、「レベッカ」(1940)で“わたし”(ジョーン・フォンテイン)の声を本田貴子、「カサブランカ」(1942)、「誰が為に鐘は鳴る」(1943)、「ガス燈」(1944)といったイングリッド・バーグマンが演じる役の吹き替えを日野由利加が演じるなど、PDDVDといえども
吹き替えの質は侮れない。
「フライング・タイガー」同様、マックスター/ミック以外に全編日本語吹き替え収録ソフトが存在しない映画も少なくないので、
このPDDVDは貴重な存在だ。
ただし、他のPDDVD販売メーカーの例に漏れず、翻訳の質や画質に関しては正規版に劣るケースが多いので注意が必要だ。

このPDDVDは、制作元のリパブリック・ピクチャーズによって1989年に制作・販売された着色(カラーライズ)版VHSを
マスターフィルム(原盤)としている。
マックスター/ミックだけではなく多くのPDDVD販売メーカーが着色版を原盤としており、
本来の白黒版を出しているのはコスミック出版のみのようだ。
余談だが、本国アメリカではジョン・ウェインの貴重な主演作とのことで、白黒版をリマスターしたブルーレイが販売されているようだ。

1980年代は白黒映画の着色化が流行した時代であり、「カサブランカ」(1988・ターナー)、「キング・コング」(1989・ターナー)といった
多くの著名な映画作品が着色されていった。
最近でも、NHKスペシャルで「カラーでよみがえる東京~不死鳥都市の100年~」が放映された事は記憶に新しい。

リパブリック・ピクチャーズが出したジョン・ウェイン主演作品の着色版VHSのコマーシャル
John Wayne Republic colorized VHS commercial - YouTube
「硫黄島の砂」(1949)、「怒濤の果て」(1948)、「暗黒の命令」(1940)、「ケンタッキー魂」(1949)、「血戦奇襲部隊」(1944)、「西部の顔役」(1942)、「リオ・グランデの砦」(1950)といった、ジョン・ウェインが主演を務めた西部劇、戦争映画が着色化されている。

コスミック出版の白黒版とマックスター/ミックの着色版の比較がこの図だ。
VHSの映像を原盤としているため、白黒版と比較すると画質に劣り、激しい動作のシーンではVHS特有の残像が生じてしまう。
白黒版と着色版の比較を見ればわかるが、着色版はVHS収録である為、白黒版と比べると画面が少々横に伸びてしまい、上下が途切れてしまっている。アスペクト比の問題だろうか。
人物や物が鮮明に映った場面の着色は本物のカラーのように自然に見えるが、全体的に暗い場面や明るすぎる場面の着色は不自然になってしまう。
また、1989年当時はまだ着色化の技術が登場して間もない頃だったので、色の本数も少なく不完全な色合いになってしまう。
映画の着色化にはこうした不完全な部分があった事に加え、既存の映画への着色は無礼だとして反対する動きもあった。

劇中に登場するフライング・タイガースの戦闘機P-40。
機体の塗装が上面は濃い緑と薄い緑の迷彩、下面はダックエッググリーン、プロペラのスピナーは赤色に着色されている。
二段目の写真に写っている機体には迷彩塗装は施されていないようで、濃い緑(オリーブドラブか)一色となっている。
フライング・タイガース所属機の実際の塗装は、上面がダークアース(濃い茶色)にダークグリーンの迷彩、下面はダックエッググリーンといった感じであったが、着色版の塗装は着色ミスかそれとも正しい着色なのか判別がつかない。
着色は必ずしも資料に基づいた上で行われている訳ではないので、着色に史料性は無い。



東宝の「燃ゆる大空」(1940)から流用された場面も着色を施されている。
灰田勝彦や月田一郎、劇中に登場する九七式重爆や九七式戦も見事に着色されているが、一方で白黒版で暗い場面は全体的に黒ずみ、照明が明るい場面は白みを帯びてしまい、不自然な着色になってしまっている。
こうした場面の着色を見ていると、「ハワイ・マレー沖海戦」や「雷撃隊出動」、「加藤隼戦闘隊」といった我が国の戦時下の戦争映画も着色化すれば面白いのではないかという気がしてきたが、需要と費用を考えればおそらく東宝はやりたがらないだろう。



ジョン・ウェインら俳優が映っている場面。人物が映った場面の多くは鮮明なので、本物のカラーのように色合いが自然だ。
着色化されたウェインの顔はより若く映っている。


映画「フライング・タイガー」(1942)

2017-01-19 03:28:48 | 映画
今回も再び映画紹介の記事になる。
今回紹介する映画は、アメリカ西部劇映画のヒーロー、ジョン・ウェインが第二次世界大戦中に主演を務めた戦争映画「フライング・タイガー」(1942)だ。
デビュー当時から「駅馬車」(1939)などの数々の西部劇に出演していたウェインが、戦争映画というジャンルで初めて主演を務めた作品だとされる。

日中戦争時、中国戦線で日本軍を相手に戦った合衆国義勇軍「フライング・タイガース」(AVG)の活躍を描いた戦意高揚映画で、部隊をまとめるジム・ゴードン隊長をジョン・ウェインが演じている。
多くの戦果を挙げつつも、一方で味方に多大な犠牲を払い続けていることに頭を抱えるジム隊長と、ジムに誘われフライング・タイガースに入隊した
お調子者のウディ・ジェイソン(ジョン・キャロル)が、戦闘を経験するうちに戦う意味を見出していく姿を描いている。
戦時下の戦意高揚映画であるが故にプロパガンダ的な要素は強く、敵の日本兵は片言の日本語を喋ったりとややステレオタイプ気味ではあるが、
それでも娯楽として成り立っているということがハリウッド映画の強みだろう。
本作は第15回アカデミー賞の特殊効果賞、録音賞、ドラマ音楽賞にノミネートされている。

本作は題材故に日本劇場未公開作品でビデオ販売のみだったが、我が国ではアメリカ本国での劇場公開から50年以上経過し著作権が消滅したため、
パブリックドメイン(PD)DVDとして様々なメーカーで安価で販売されている。
私がこの映画と出会ったのも、近所で中古販売されていたPDDVDを見つけたのがきっかけであった。
なお、映画自体は白黒フィルムで制作されたが、PDDVDでは1989年に制作された着色版を収録したソフトが大多数を占めている。
今のところ本来の白黒版を収録しているDVDはコスミック出版が出しているソフトのみのようだ。
今回はコスミックの白黒版PDDVDを紹介するが、着色版を収録した日本語吹き替え付きのPDDVD(マックスター)のソフトも次の機会に紹介したい。

Amazon フライング・タイガー CCP-213 [DVD] 株式会社コスミック出版

劇中に登場するフライング・タイガースの戦闘機カーチスP-40。史実では平凡な性能で優秀な戦闘機ではなかったが、防弾性と急降下性能に優れ、日本軍にとって手強い戦闘機だったという。
実際にフライング・タイガースが初期に使用したP-40の多くはB型で、自動車のエンジンを積んで実機を模した実物大のモックアップ(1、2枚目)ではその仕様が再現されているが、実機を撮影した離着陸の場面(3枚目)ではD型以降の型式となっている。
機首上の突起物で判別が可能で、B型には機首機銃とキャブレターインテークが存在するが、D型以降は機首銃が取り除かれ、エンジン換装もなされてインテークは小型となった。
実機の撮影にはP-40の開発・生産を担当した航空機メーカー、カーチス・ライト社が協力している。
ただし映画を制作したリパブリック・ピクチャーズは元々低予算で西部劇を制作していたマイナーな映画会社で、予算をそれほど掛けられなかったのか実機による空中戦のカットは少なく、戦闘場面の多くはミニチュア特撮と記録映像で構成されている。それでも迫力を感じるのは編集の巧みさなのかもしれない。





劇中に登場する敵の日本軍。
陸軍の九七式重爆撃機や九七式戦闘機、海軍の九六式陸上攻撃機などが記録フィルムに登場しているが、よく見ると東宝が制作した戦意高揚映画「燃ゆる大空」(1940)のカットが多く使われている。
「燃ゆる大空」で爆撃機搭乗員の佐藤を演じた灰田勝彦や、戦闘機パイロットの行本を演じた月田一郎が本人の知らぬうちにハリウッドデビューしていたとは夢にも思うまい。
鹵獲された記録フィルムが敵国の戦争映画に使われるケースはよくあるが、「燃ゆる大空」のフィルムがどのような経緯で鹵獲されアメリカに渡ったのかは不明だ。
「燃ゆる大空」のフィルムは同じリパブリックの「血戦奇襲部隊」(1944)などの映画にも使われ、戦後もフライング・タイガースを取り上げた海外の特集番組などでも映像が使われるようだ。
他にも日本二ユースの鹵獲フィルムなどが使用されている。




ジョン・ウェインが演じるフライング・タイガースのジム・ゴードン隊長。
戦争映画でウェインが初めて主演を演じた役だそうだが、この頃からウェインは「部隊を率いる頼もしい指揮官」という人物像が与えられたようだ。
余談だが、ジム・ゴードン隊長にはモデルとなった人物が存在するようで、米海兵隊のエース・パイロット、グレゴリー・ボイントンがモデルだという。実際に彼はフライング・タイガースで日本軍を相手に戦い、1942年に海兵隊に復帰している。1944年にラバウル上空で零戦に撃墜され終戦まで捕虜生活を送っていたが、戦後はその時の体験談を元に自叙伝を執筆し、その後テレビドラマ化もされている。
劇中でウディがジムのことを「パピー」と呼ぶが、これはボイントンのあだ名が由来のようだ。



ジムの旧友でありフライング・タイガースに新しく入隊するウディ・ジェイソン(ジョン・キャロル)と、ウディの相棒のアラバマ・スミス(ゴードン・ジョーンズ)。
お調子者で女たらしのウディと、ウディに振り回されるアラバマのコンビはユーモラスで好きだ。
両者とも日本では知名度が無いが、ジョン・キャロルは「マルクスの二挺拳銃」(1940)でマルクス兄弟と共演している。キャロルは劇中ではウェインに負けない程魅力的な俳優だ。
ゴードン・ジョーンズは「東京ジョー」(1949)でハンフリー・ボガートと共演し、「マクリントック」(1963)で再びウェインと共演している。



部隊で二番機のパイロットを務めるジムの戦友ハップ(ポール・ケリー)と、ジムの恋人である看護婦のブルック(アンナ・リー)。
ポール・ケリーも知名度は高くはないが、彼もまた「紅の翼」(1954)でウェインと再び共演を果たしている。
アンナ・リーは第二次大戦前から戦後まで長きに渡って活動していた女優で、「アパッチ砦」(1948)でウェインと共演し、60年代においても「何がジェーンに起ったか?」(1962)や、「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)などに出演していた。2004年までご存命だった。



ジムがウディら新入隊員に見せる日本軍機の識別表。
1942年当時まだコードネームは存在せず、日本軍機は「川西」「中島」といった航空機メーカーの呼称で判別されていた。
ジムの説明では日本軍機の燃料タンク(増槽)についての解説や、日本軍機の性能の特色を解説したり(九六式艦上戦闘機を指して「最も手強い相手」「速くは無いが小回りが利く」)と、当時の米軍がどこまで日本軍機を分析していたのかが解って興味深い。



物語の終盤近くに登場する輸送機、カペリスXC-12。
1933年にカリフォルニア大学で完成した試作旅客機だが、劣悪な性能であったが為に発注されず、改造を施された上で映画の大道具として使われるようになったという。
かなり特徴的な外観をした飛行機だ。






映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014)・「風立ちぬ」(2013)

2017-01-17 22:43:19 | 映画
「グラン・トリノ」(2008)に続いて、映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」と映画「風立ちぬ」のブルーレイを観た。
自分のPCで視聴不可能なのは変わらず、この二本もまたPS3で視聴した。

PS3でBDを視聴していて気がついたのだが、BDの画質はDVDと比べると画質が格段に高い。
もちろん、三本ともに最近になって制作された映画だから画質が高いのは当然なのかもしれないが、タツノコプロのアニメ「決断」(1971)の全25話が
収録されたBD-Boxは、劇画調の繊細な作画も潰さずはっきりと映していて感動を覚えたものだ。
最新の収録媒体が必ずしも良いこと尽くめとは限らないが、こういった面はちゃんと評価しなくてはならない。

以下、内容のネタバレを含めた文章なので未見の方は読まないことを推奨する。

まずは一本目、ダグ・リーマン監督、トム・クルーズ主演のSF映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014)。
実は日本の同名ライトノベル(著:桜坂洋)が原作で、ライトノベルが英訳されアメリカで出版された際にプロデューサーの目に留まり、ハリウッドで実写映画化されるに至った
という異色の作品なのである。日本のアニメやゲームがハリウッドで実写化された事例は多く存在するが、ライトノベルがハリウッドで実写化されたという事例は、この映画が初めてなのだという。

物語は「ギタイ」と呼ばれる宇宙からの侵略者によって滅亡の危機に瀕している人類が欧州で大規模な反撃作戦に出るところから始まる。
ギタイとの戦争で、報道官として務めていたウィリアム・ケイジ少佐(トム・クルーズ)は、前線行きの命令を拒否したのを機に、二等兵に降格させられた挙句前線の兵士として反撃作戦に参加することになってしまう。ギタイとの戦いの最中、彼が所属していた分隊は全滅し彼自身も戦死してしまうが、目が覚めると自分が作戦に参加する前の日に戻っていることに気がつく。それ以降、彼は自分が死ぬたびに死ぬ前日に戻ってしまうループに陥るのであった。

私は原作のラノベは未読なのでなんとも言い難いが、原作のライトノベルにあったような萌え要素は削られ、登場人物の設定なども原作を大きく改変しているが、物語の鍵となる「ループ」の設定など、根幹的な部分は変わっていないようだ。
必ずしも原作を全て忠実に再現しなくても良い実写化作品は作れるようだ。

ケイジ少佐を演じるトム・クルーズは、2014年の時点で50歳近くのはずなのに、まだ若く見える上にアクションを華麗にこなす。
「ヴェルダンの女神」という異名で知られるギタイ殲滅作戦の英雄、リタ・ヴラタスキ軍曹(エミリー・ブラント)とも釣り合いの取れる風貌なのである。

ケイジは序盤ではヘタレで臆病な性格なのだが、死んでいくうちに立派な兵士へと成長していく。
ループ経験者であるリタともループを通じて良きパートナーとなっていくのだが、ループの過程で繰り返されるリタの死に葛藤が生じる場面も好きだ。

この映画はアクションの映像美も素晴らしいが、ループの設定を非常に良く練っており、設定を上手く使いこなせていると思う。
終盤のケイジが所属するJ分隊集結の展開は少々強引な気もするが、全体的には概ね自然な展開にまとめられているのではないだろうか。
結末のあのシーンは、様々な解釈ができるのも面白い。そこまで高く期待していなかっただけに、期待以上の映画を観られたと思う。

二本目はスタジオジブリ制作、宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」(2013)。
日本海軍の「ゼロ戦」こと零式艦上戦闘機の設計者、堀越二郎の半生と、堀辰雄の小説「風立ちぬ」を混ぜ合わせた映画。

宮崎駿の長編アニメ監督最後の作品であり、それだけに宮崎駿自身のメッセージ性が強い(ただし本人は何度か引退宣言をしては復帰している)。
劇中で二郎が夢の中で出会うイタリア人の飛行機設計家のカプローニ(実在人物。ジョヴァンニ・バッチスタ・カプロニがモデル)が言う「飛行機は戦争の道具でも金儲けの手立てでもない。飛行機は美しい夢だ」などの台詞は、まさに宮崎駿が思っていることなのだろう。
また、劇中に登場する飛行機も宮崎駿の趣味が存分に出ており、ドイツの四発巨人旅客機ユンカースG.38や、カプローニが大西洋横断旅客機として設計したが初飛行に失敗したカプロニCa.60、イタリア軍の爆撃機として作ったカプロニCa.90など、マニアックな機体が大量に出演している。

作画もやはり素晴らしいもので、飛行機の金属的かつ有機的な質感や、大空や軽井沢の山並みの美しさ、戦前日本の雑多で貧しくて不安とノスタルジーに満ちた街並みの描写は見事なものだ。

そんな私も、最初劇場で観たときは作画の良さに感心しつつも作品全体の印象は平凡なものであった。
主人公の二郎と菜穂子の恋がどうも感情移入できずにいたのかもしれない。
しかし重ねて観ていくうちに、段々その評価が覆っていったのである。

自分の夢をひたすら追い求め続け、ついにその夢を叶えた二郎と、結核で弱っていく身でありつつも彼の夢を支え続け、二郎と一緒の幸せな時間をできる限り長く過ごすが、自分の美しい姿だけを見せたまま二郎の元を去っていく菜穂子の対比は、重ねて観てきたことでようやくその悲しさに気がついたのだった。
ラスト、夢の中で二郎は飛行機の残骸だらけの草原を歩き、カプローニと共に自身が設計した零戦の大編隊が飛び立っていくのを見届けた後、菜穂子と再会を果たす。
菜穂子は二郎に「あなた、生きて…」と語った後、大空に消えていくのだった。

「風立ちぬ」は、まさに宮崎駿の思想がこめられた映画であった。

宮崎駿にはできれば「宮崎駿の雑想ノート」に収録されている「ハンスの帰還」や「泥まみれの虎」といったエピソードも映像化もしてほしかったが、引退宣言してしまった以上その望みは無さそうだ。

ところで、「風立ちぬ」の二郎の声の出演は庵野秀明が担当しているが、初めて声を聴くと多少は違和感を感じるものの、聴いていくと次第に慣れていくというか、二郎の声として自然に馴染んでしまうのが不思議なものだ。
ひたすら頭の中に夢を詰め込んだ二郎の姿は、もしかすると庵野そのものなのかもしれない。庵野はあんなにハンサムじゃないけれど。

映画「グラン・トリノ」(2008)

2017-01-15 01:47:41 | 映画
久々に映画のブルーレイをレンタルしてみた。
残念ながら、私のPCでは購入時から標準装備されている再生ソフトが
不具合を起こしてBDを再生できない。
再インストールしてもてんで駄目で、サポートに電話してみたところ、
「Windowsのシステムが壊れている可能性がある」とのことで、
「システムの復元を試みるか、初期化するか」の選択肢しかないようだ。
私にはPCの疫病神でも取り憑いているのだろう。今はPS3でBDを観ている。

クリント・イーストウッド監督・主演映画の「グラン・トリノ」(2008・米)。
以前から題名だけは知っていて、どんな内容なのかずっと気になっていた映画
なので、レンタルして借りて観てみることにした。

以下、ネタバレを含むレビューになるので、未見の方は読まない事を推奨する。

物語はアメリカ中西部の治安が悪化したデトロイトの住宅街から始まる。
長年付き添っていた妻に先立たれ、自身の性格故に息子の家族からも冷遇され、
古き良き時代の価値観で生きる、偏屈で保守的なポーランド系アメリカ人、
ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)。
新しく隣に引っ越してきたモン族の家族にも「ねずみ共」呼ばわりするなど
差別意識を持っている。
そんな爺が同じモン族のギャングに絡まれる隣家の少年タオ(ビー・ヴァン)と
その姉のスー(アーニー・ハー)を偶然助け出した事から、次第にモン族の
家族と心を打ち解けていく。

劇中の登場人物は誰もが魅力的で、かつキャスティングも見事に
マッチしている。イーストウッドが演じるウォルトは、朝鮮戦争で戦い、
多くの罪を背負って生き続け、偏屈な爺だがタオを始めとするモン族の
家族に心を開き、彼らを助け、最後はタオとスーを守るために自分の身を捨てる、
そんなかっこいい爺さんなのだ。イーストウッドは本当にこの役がピッタリだ。

ギャングに絡まれ根性のない少年タオ、そんな弟を支え、ウォルトとも関わりを
深める明るく気の強い姉のスーも大変魅力的である。
BDの特典映像で知ったのだが、劇中のモン族はその多くが実際に本物のモン族の人なのだそうだ。
劇中の文化や慣習の描写も専門家を呼んで正確に描くなど、イーストウッドの
力の入れ具合がよく解る。
モン族とは中国、ベトナム、ラオスなどに住む山岳の民族で、ベトナム戦争中に
アメリカに協力した事で社会主義政権から迫害され、その多くがアメリカに
亡命したという歴史を持つ。朝鮮戦争で罪を背負ったウォルトとベトナム戦争で
故郷を追われたモン族は、戦争という点で大きく繋がっているのだ。

勇気のないタオを奮い立たせ、先も短い自分の命を捨ててでもタオとスーを
守り抜いたウォルトの姿は、かっこよくも悲しいものがあった。
彼がタオに託した1972年製のフォードのグラン・トリノは、今でも
走り続けているのだろう。