二日目
天候:のち
行程:一ノ沢手前6:45-二ノ沢(釣りタイム)8:30~9:30-二俣2,400m17:00
さて二日目。今いる所が標高約1,570m(黒部湖から一日がかりでほとんど標高が上がっていない)、今日の目的地が標高2,400mぐらい。
標高差にして約800mだから行程的には楽(のはず)。その分、途中で釣りを楽しむ計画である。
朝のうちは晴れ。まずは昨日のプール状の溜まりに糸を垂れてみる。
・・・反応なし。
その後、ポイントを変えつつ流し込んでみるが、やはりダメ。なかなかうまくいかないもんだ。
いつまでも釣れない釣りに没頭していても先に進まないので、とりあえず竿を置いて朝食。
いつもの定番「モチ入りマルタイ・ラーメン」など。
朝食を終え、放ったらかしにしていた竿をしまおうと思ったら、下の方で針が引っ掛かっている。
「ちっ、根掛かりか。」
ブツクサ言いながら慎重に糸を引っ張ってみると、・・・ナ、ナント先端に岩魚クンが掛かっていた!
狙ったわけでなく偶然の釣果なので気分は何となく微妙だが、・・・ま、いいか。
サイズはやや小ぶりで20cm弱といったところ。
朝飯は済ませてしまったし、小さくてちょっと可哀相なので、これはリリース。まだ先は長い。
で、東沢の河原歩きが延々と始まる。
といっても、もちろん渡渉は何ヶ所もある。
流れは速く、渡れるポイントの見極めはそれなりに頭を使う。途中、流れの途中でコケたら低体温症になること必至。
右岸から左岸に渡り、沢が大きく右に曲がると、その先で大きな倒木が川を跨ぐように架かっていた。
直径70~80cm、長さは10m以上ありそう。立派な倒木だが、これを渡って再び右岸に移らなければならない。
左上から右下に向かって渡る。
かなりしっかりした倒木なので大丈夫だろうが、絶対とは言い切れない。
水面まで中途半端に高さもあり、ちょっと怖い。
万が一、途中で腐っていたり、どちらかの端が崩れたりしたら、股間をしこたま打って悶絶したまま激流に流されてしまう。それはあまりにもイヤ過ぎる!
単調な河原歩きと聞いていたのに、ゴルジュ、渡渉、倒木渡りと、けっこうインディ・ジョーンズばりの想定外が続く。
倒木は斜めに架かり表面がヌメっていたので、後ろ向きの馬乗り状態のままズリズリと対岸に渡る。
そこから少し行くと、左手の大岩の陰から沢が入り込んでくる。
これが一ノ沢か?思ったよりショボイ。
さらに進んで二ノ沢?地図を見ると出合からほど近い所に滝マーク。
せっかくなのでザックを背負ったまま、滝を見に行く。
股辺りまで水に浸かりながら二ノ沢を上がっていくと・・・見えた。あれが大滝か。
下から見ると七段ほどの階段状。下から5m、5m、12m、5m、15m、10m、20m。・・・計70mぐらいあるだろうか。
ツルツルで、とても全部に取り付けそうもない。
こんな辺鄙な所だし、もしかして未登か?それとも志水哲也氏あたりが登っているか?
東沢・二ノ沢の大滝?見えてるだけでも七段70m。
滝の写真を撮ってさて戻るかと、ふと脇の淵を見ると視界の端に魚影が動いた。
・・・いたっ!けっこうデカい。
こちらの気配を察知されてしまったかもしれないが、ここはやってみる価値あり。で、ザックを降ろして釣りタイム。
先ほど魚影を見た淵を狙うとすぐに大きなアタリがきたが、これはタイミングがずれ、うまく合わせられず。
ちょっとアセったか。
しばらく別のポイントで魚の気をそらせ、その後また最初の淵に糸を流したところ、今度はヒット!
Get!
今回の山行でボウズだったらどうしようと思っていたが、朝のまぐれと、このヒットでとりあえずホッ!とする。
まだ先が長いので、ハラワタを取り塩をまぶして、今夜のおかずとしてテイクアウト。
それにしてもコヤツ、胃袋の中に大きな幼虫みたいなのを三匹も残したまま、まだ食おうとしたのか。
腹を捌いたら赤い細かい粒々がいっぱい出てきたのでメスのようだった (もちろん、この卵もその場でおいしくいただく。)
釣っている間に早くもポツポツ来たが、やがて午後になるとますます雲が厚くなり本降りとなってしまった。そして雷。
雷は谷筋にはまず落ちないので、その点は安心だが、増水がかなり心配になってきた。
ある程度、川幅があるので遠目にはそれほど変化が無いが、流れはかなり速くなってきて、水煙を上げるほど渦が巻いている。
とにかく途中で進退窮まる事にならないよう、雨と競争するように上流を目指す。
倒木もそれから二回ほど渡る。
荒れ出す東沢
しばらく先へ進んでいくと、まったく予期せぬ形で先行パーティー二人組に遭遇。
こちらは何となく足跡らしいものは確認できていたが、まさか他にいると思わなかった。
それより向こうは、この雨の中、オヤジが一人でフラフラ現われたから、もっとビックリしただろう。
行程を聞かれたので「昨日、扇沢から入って昨夜は一ノ沢の手前でビバークした。」と言ったら、「速いですねー!」と言われる。
そういや平ノ渡しの乗船名簿に自分より一日早く東沢へ入る夫婦らしき二人の名前があったので、その人たちか。
彼らはきちんとロープも持ってきていて、出だしのゴルジュでは大高巻きをしてしまい沢床へ戻るのに三回も懸垂下降をしたとか。
また、他にもう一人、単独の人が先に進んでいるらしい。
しばらく話をした後、軽装のこちらは先を急がせてもらう。
川幅は次第に細くなってきてはいるが、ガスが辺りを包んでどれだけ進んでいるのかよくわからない。
プロトレックの高度計と地図を照らし合わせて、現在位置を確認する。
枝沢を何本か見送り進んでいくと、やがて前方の雲の切れ間に雪渓の残る山肌が見えてきた。
さすがにそろそろ上流か。
サンショウウオくん
そのまま進むと沢幅いっぱいに雪渓が現われた。
底が抜けていて、上に乗るのも下を潜るのも危険な感じ。
ここは右手に枝沢があったので、そちらを詰めてから藪を左へトラバース。うまく雪渓の上に抜けることができた。
水が冷たいっ
そして、大きな二俣。水量はほぼ同じ。
地形的にはまっすぐ延びる右俣の方が本流っぽいが、こちらはさらに上部で二俣に分かれ、そのどちらにも悪そうな滝が見える。
それに対して、左俣は緩い階段状でそのまま草原状の稜線に突き上げているように見える。コンパスもこちらが正しいように示している。
少し迷ったが、東沢は厳しい滝など一切無いという話だし、もうここまで来たら多少間違えても藪漕ぎで何とか稜線まで抜けられるだろう。
(冷静に考えてみたら、右俣は水晶小屋に突き上げ、左俣は東沢乗越へ突き上げていた。やはり左俣が正解。)
結局、二俣の標高2,400mインゼルの所にかろうじて一人用テントが張れる草地を見つけ、そこで一夜を明かすことにする。(よく見たら焚火の跡もあった。)
後方の二人組は一体どの辺りにいるのだろう。増水で立ち往生していなければいいが。
二日目の天場
だいぶ小降りにはなったが、雨はまだ降り続いけている。残念だが、今夜は焚火はお預け。
テントの中、ガス・ストーブで午前中釣り上げたイワナを焼く。プリプリとした肉付きで、満足。
一尾だけでも釣れて良かった。
半日以上、雨に降られ、また雪渓も近いので夜はヒンヤリ。
濡れたテントの中でちょっと寒々しいが、しかたない。明日は晴れることを祈りつつ眠りにつく。
【写真集・二日目】