KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

剱岳北方稜線全山縦走(前編)

2019年05月05日 | アルパイン(残雪期)
日程:2019年4月27日(土)-5月4日(土)前日発7泊8日
行程:嘉例沢森林公園-鋲ヶ岳-僧ヶ岳-サンナビキ山-毛勝三山-赤ハゲ・白ハゲ-池ノ平山-剱岳-早月尾根-馬場島
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)

 遥かなる北方稜線
 
 さて今年のGWは平成から令和に代わり夢の10連休。
 海外へ行く手もあったが、山岳部の相方の希望で剱の北方稜線となった。
 
 一口に剱の北方稜線といっても人によってその捉え方は様々で、ネットで検索してよく出てくる夏の記録は大抵が池ノ平から剱岳を結ぶ区間で、これだと実際は北方稜線のごくごく一部。
 残雪期となると馬場島をベースに猫又山、ブナグラ乗越、あるいは赤谷山から剱岳を結ぶコースがよく登られている。
 
 しかし今回、相方が選んだのは全山縦走。
 それも一般的には宇奈月から僧ヶ岳経由だと思うが、さらにこだわってより末端に近い鋲ヶ岳からスタートする計画だ。
 初めのうちは話半分に聞いていたし、とにかくこんな長期縦走は学生の時以来だ。他の山岳会の記録は頼りになるが、いざ自分たちに当てはめるとイマイチ想像がつかない。
 準備は万端整えるとして、まぁいざとなったらいつでも撤退とあまり深く考えずに当日を迎えた。
 
0日目(4/26)
 天候:
 行程:神奈川-富山県黒部市
 
 二人とも有り余っている有休を取って前日から現地入り。ヒロイ号で中央高速-下道-北陸道と進むが、糸魚川手前で大雨となる。
 明日から山だというのに、何ともモチが下がる。
 黒部に入ったところで夕食。明日からの食事制限に備えカロリー摂取に励もうと、地元のラーメン屋「くろべぇ」へ。
 初めて「富山ブラック」なるラーメンを食べる。
 
 
 
 その後、スタート地点となる嘉例沢森林公園へ。
 深夜、ガスが立ち込める中、けっこう奥まで林道で入り、雪が出てくる手前の駐車スペースに到着。
 外は雨。明日の予報も芳しくなくが、とにかくどうすることもできず、そのまま車中泊とする。
 
1日目(4/27)
 天候:のち
 行程:嘉例沢森林公園-鋲ヶ岳-烏帽子山手前
 
 朝起きても雨というかミゾレ。とても歩き出すような天気でなく、一旦町へ降りる。
 やることなく、しばらく道の駅や北方稜線末端の黒部峡谷鉄道「音沢」駅周辺を散策するが、とにかく寒い。
 こんな所で雨に打たれていたら山に登る前に風邪をひいてしまいそう。

 水族館でも行ってホタルイカ見物でもと完全に観光モードにシフトしそうな気配だったが、まずは腹ごしらえと「ガスト」に入ってモーニングセットを食べながら作戦会議&待機とする。
 雨は時折勢いを増し、今回予備日はそれなりに想定していたが、いきなり使ってしまうのも何だかなぁとモチは下がる一方。
 
 しかし、ようやく昼頃になって小降りになり、見ると西の海側から雲が切れ空が明るくなっている。
 よっしゃ、行くか!と重い腰を上げ、再び嘉例沢へ。
 
 山の方は雨が残っていたが、もう行くしかない。フル装備を背負っていよいよ長旅のスタートである。
 まずは森林公園のキャンプ場内から樹林帯の道を20分ほど登って鋲ヶ岳への分岐へ。
 最初のピーク鋲ヶ岳861mはここから一旦逆方向へ進んだ所にある。分岐にザックをデポし、空身で頂上へ向かう。
 
 
 
 頂上には小綺麗な東屋が建っていた。
 再び分岐まで戻り、いよいよ北方稜線へと踏み出す。
 この時期、またこの雨上がりのガスの中、歩いているのは我々だけで、トレースは皆無。
 小動物の足跡はあるが、それらに惑わされないよう進路を定める。
 
 
 
 間隔を置いて目印となる緑や紫のテープがあるが、昨日から降った雪で樹林帯の中の道はそれなりにルーファイと軽いラッセルを要する。
 時間を決め本日は行ける所までと、着いた所が烏帽子山手前の平坦地だった。
 

 
 ありがたいことに夕方には富山湾方面から夕陽が射して白い雪原をオレンジ色に染める。何とも幻想的なテン場となった。
 天気予報では明日、明後日は好天が望めそう。今朝の悪天を思うと、本日ここまで進めたのは上出来だ。
 
2日目(4/28)
 天候:
 行程:烏帽子山-僧ヶ岳-駒ヶ岳手前
 
 今回の計画は朝は3時起床の5時出発、夕方は16時半、遅くとも17時にはテン場着を基本として行動する。
 今日もまずは獣の足跡と並行しながら、自分たちのトレースを刻む。
 烏帽子山が近づき、樹林帯を抜け出すと、そろそろルート上には雪庇が出てくる。
 雪はそれほど深くないが若干モナカ雪ぽくて、けっこう足に来る。今回軽量化のために装備からワカンを省いたが、この判断は良かったのか悪かったのか。
 
 
 視界が開けてくると左手の宇奈月尾根の様子もわかるようになり、そのうち登山者の姿も発見する。
 早く合流したいと思うも、こちらはノートレースで遅々として進まない。
 本日は晴天で雪の照り返しも強く、重い雪も相まって相方は遅れ気味。自分も途中、何度か暑さで気が遠くなりかけた。
 
 
 
 それでもようやく宇奈月尾根のトレースに合流。
 先行者が踏み固めたトレースがこんなにも快適で体力を消耗しないものかと感動する。
 トレースを刻む先行の四人パーティーは我々のだいぶ先を進み、我々が最初に出会ったのはそれを利用して後続する単独のハイカーだった。
 
 その時の会話。 
 相手「僧ヶ岳ですか?」
 当方「いや、一応ツルギまで。行けるかわからないけど。」
 相手「剱までって・・・一泊二日とか?」
 当方「まさか!一週間ですよ。」
 
 同じ山を登る人間でもいろいろな人がいるなぁと失礼ながらちょっとびっくりした。以後、あまり関わっても話が通じないだろうなと距離を置かせていただく。(笑)
 
 僧ヶ岳だと思って着いたピークは実は「前僧ヶ岳」で、地図を見ても距離感がイマイチ掴めない。行程は長い。
 僧ヶ岳からは眼下に富山湾。剱岳山頂でもそうだが、この景色はまるで自分らの地元、丹沢の塔ノ岳から見る湘南の海とそれほど変わらないと言ったら言い過ぎか。
 
 
 
 ラッキーなことに先行の四人組はそのまま北方稜線に踏み出している。
 申し訳ないので、遅れ気味の相方を置いて自分は何とかラッセルを交替しようと追いかける。
 追い付いてみると、向こうは男女二人ずつのパーティーで、宇奈月から上がり、本日が二日目とのこと。
 ずっとここまでラッセル三昧だったらしいが、見たところラッセルはもっぱら男性二人が受け持っているよう。
 ここまでの御礼を言い、自分が先頭に出る。
 
 悪天により既に計画は遅れ気味。できれば今日中に駒ヶ岳を越えておきたい。
 しかし、てっきり自分の後に付いてくると思っていた四人組は途中で本日の行動を打ち切り。
 結局、遅れている相方を待って自分たちもしばらく進んで駒ヶ岳手前の狭いコルで幕とした。
 夕方、目指す毛勝三山方面がほんのり夕陽に染まる。明日も晴れてほしい。
 
 
 
3日目(4/29)
 天候:のち
 行程:駒ヶ岳-サンナビキ山-滝倉山下
 
 昨日の四人組は大阪のS会とのこと。本日は前後しながらルーファイ&ラッセルを続ける。
 左手は雪庇が続くようになり、やや右側の這松のブッシュ帯を掻き分けながら進むことたびたび。
 また、随所にクレバス・トラップが現れ、ハマったりしないよう注意して進む。
 
 
 
 相方は元気を取り戻したようだが、自分は昨日頑張り過ぎたのか本日はやや不調。昼頃にはシャリバテ気味になる。
 サンナビキ山は特にこれといった山頂があるわけでなく、滝倉山も含めたいくつかのピークの総称であるようだ。
 
 
 
 滝倉山への登りはけっこうな急傾斜。直登すると部分的に60度はあるだろうか。
 幸い雪面はそれほど固くなく、アイゼンで蹴り込めばそのまま突破できそうな気がしたが、安全を期してここで初めてロープを出す。
 ザックが大きく重いので、バランスを崩してひっくり返る可能性もある。
 
 
 自分がトップを切って50mで2ピッチ。後続の大阪S会もメンバーの女性を気遣ってロープを出したようだ。
 滝倉山のピークを過ぎ、少し下った稜線の末端で時間となったため本日の行動を打ち切り。
 後続のS会は我々より上、高台となった所をテン場としたようだ。
 
4日目(4/30)
 天候:のち
 行程:ウドノ頭-平杭乗越

 未明から雨。テントを叩く音で目が覚める。
 ラジオの天気予報で分かっていたことだが、ちょっと辛い。
 
 しばらくやみそうにないので出発を見合わせ、ウダウダとテント内で過ごす。寒い。
 既に春の湿雪で靴や靴下、手袋、テントシューズは濡れ始め、防水袋に入れゴアテックスのシュラフカバーに包んでいたはずのシュラフも濡れ始めている。
 テント内でガスストーブを空焚きするが、一度濡れてしまうとどうにも乾かない。
 軽量化のためトランプも持ってこなかったので、ベタだがシリトリなどして時間を潰す。
 テントの隙間から上部に陣取っているS会の様子をうかがうが、彼らもこの天気では動き出す気配は無い。
 天気予報では午後から曇りになるはずだが・・・。
 
 まんじりともせず午前中を過ごすが、そのうちテントの外が明るくなっているのに気付く。
 どうやら雨はひとまず上がったようだ。
 とにかくあと何日かかるかわからないので、少しでも先へ進んでおきたい。急いで撤収にかかると離れたS会もやはり動き出したようだ。
 
 我々から先に動き出し、後からS会も下りてくる。
 急な雪の斜面を谷底へ下り、次の登り返しが急だった。
 雪の付き方がデリケートで、雪面を崩さないよう慎重にルートを選んでリードする。
 
 
 
 その先でルートが不明瞭になり、間違った支尾根に入りかけたところで後続のS会が前に出る。
 相方はヤブが苦手なようで、やや苦戦。途中二か所ほど懸垂で下る箇所が出てくる。
 もちろん自分たちでセットするつもりだったが、S会のリーダーは「どうぞ、このまま使ってください。」と自分たちのロープを貸してくれたのでありがたく拝借。
 25m×2回の懸垂でコルに降り立ち、そこから再び登り返し。見るからに悪い傾斜の立ったブッシュのリッジ。
 ここはS会の若手が巧みにリード。前半の核心とも言えるピッチだった。
 そのまま登り詰めた所がウドノ頭。さらに進んで次のコルである平杭乗越まで下る。

 とにかく今日は午前中の雨で停滞かと思っていたので、こうして難所のウドノ頭だけでも越えられたのは大きい。大阪S会のお陰である。
 S会は平杭乗越、我々はそこから二段ほど上がった高台を本日のテン場とする。
 天気はどんより曇っているが、なかなか良いテン場だ。
 
 
 
 夕方、何気に外を見てみると、新たに三人組の後続パーティーを発見。
 ウドノ頭から下りてきて、S会の隣にテントを張った。
 これでまた明日からはラッセルとルーファイの負担が分けられるはずである。
 
5日目(5/1)
 天候:
 行程:平杭乗越-(天国の坂道)-毛勝三山-ブナグラ乗越
 
 朝起きると曇っているが、降っているわけでもない。
 出発準備をしていると、おそらく我々より30分早いスケジュールを組んでいるのだろう、下からS会が上がってきて我々を追い抜いていった。
 後続の三人組は撤収する気配がない。本日は停滞するつもりだろうか。
 
 相変わらず重い雪が続く。
 天候はどうにかもつかと思ったが、そのうち冷たい雨が降り始めた。視界も悪い。
 風が無いのが幸いだが、それでも憂鬱な天気である。
 
 本日はこの後、毛勝山への「天国の坂道」と呼ばれる一気登りが控えており、途中で行動打ち切りは考えられない。
 そのままS会の後に付くが、自分は低体温気味でもはや彼らの前に出て交替できる馬力は無かった。
 たいへん申し訳ないが、S会の後に付き無心で登り続ける。S会のリーダー男性は見た感じ自分より年上に見えるが本当に元気で強い。 
 
 延々と二時間あまりの登りが続く。S会のお陰で「天国の坂道」を突破。
 トレースを使わせていただいたのはもちろんだが、天気が悪く黙々と登るしかないこの状況が辛さを軽減したかもしれない。
 もし、これが強烈な照り返しの中での登りだったら、これまた苦行だ。
 
 ようやく毛勝山2,415mに到着。
 頂上の標識は雪の上に出ていた。
 そのままホワイトアウトの中を進んで釜谷山2,415m、猫又山2,378mと毛勝三山を越える。
 
 

 天気は悪いが、ここまで来るとエスケープの選択肢はグッと増え、気分的には安全圏だ。
 ここで先行のS会がストップ。何やら協議に入ったようで、どうやら剱に行くには燃料が足りないらしい。
 またこの濡れと寒気で女性メンバーも参っているようだ。
 我々もここまで濡れてしまっては残りの燃料が気がかりだが、とにかく先へ進むしかない。

 ホワイトアウトの中、S会の前に出て猫又山より先へ一歩踏み込む。
 その先はただっ広い斜面となり、視界が悪い今はかなりヤバイ。
 もはや地形図は意味を為さず、ここは相方の秘密兵器スマホのGPSアプリをフル活用する。
 
 進むにつれ広い尾根は再び急な複雑な痩せ尾根となり、このまま進んでいいのか判断に迷う。
 そのうち行手に大きな岩が現れ手詰まりとなるが、意外な所に夏道を発見!
 GPSと自分の山勘をフル活用して、どうにか最低コルに到着。

 着いた所が本日の目的地、ブナグラ乗越だった。
 整地もそこそこになるべく平らな所を選んで幕とする。
 
 身体は冷え切って、装備、ウェアもズブ濡れ。これ以上無理すると危険なところまで追い込まれてしまう感じだ。
 テント内がちっとも温まらないのにまんじりとしながら夕食の支度をしていると、そのうち外から人の声が聞こえたような気がした。
 最初に気付いたのは相方で、自分はまさかと思ったが、そのうちまた聞こえてくる。
 二人していよいよ幻聴か・・・と思ったらやがて声は確実となり、遅れてS会が下りてきたかと思ったら、何と昨日追い付いてきた東京のO会の面々だった。
 
 何か事情があるのかもしれないが、本日行動するなら一番余力があるはずの彼らに前に出てほしかった。
 挨拶してきたので応えたが、ここまで来たら一致団結「明日はラッセルお願いしますよ!」と声を掛けた。


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