![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/88/55fae06cc9e1cf5c254f38afd40d3d71.jpg)
「解析力学:保江邦夫」
ゴールデンウィーク以降、保江先生の「数理物理学方法序説」というシリーズを毎日1冊ずつ読んでいるが、今回で5冊目の紹介となる。
日本評論社のホームページには「数学的に抽象化された解析力学の初歩を、現代的な視点を交えつつ解説する。また、いくつかの具体的な計算例では、解析力学の形式的・抽象的な知識や手法が威力を発揮することがわかる。」と紹介してあるが、本書ははじめて解析力学を学ぶ人向きではないと思う。
僕がそうであったように入門用の1冊目としては「解析力学(久保謙一著、裳華房)」あたりがいちばんわかりやすい。「解析力学:保江邦夫」のほうはひととおり解析力学を理解した後、さらに「多様体」という現代幾何学について学んでからのほうがよい。(解析力学に入門しようとする段階の学生のほとんどは多様体は学んでないと思う。)
解析力学の本としては2冊目、3冊目に読むと本書の素晴らしさがよく理解できるのだと思う。多様体は他の入門書を読んでもよいが、本シリーズの「微分幾何学:保江邦夫」の第1章から第7章の説明がとてもわかりやすいのでお勧めする。(「微分幾何学:保江邦夫」については次の記事に書く予定。)
通常の解析力学の本では一般化座標の座標変換あたりから始めるのだが、本書ではいきなり多様体が導入される。一般化座標は多様体上の点の位置で表わされ一般化運動量はそれを微分した多様体上の接ベクトルに対応する。接ベクトルは接ベクトル空間を張りる。多様体上に定義される接ベクトルバンドル(接ベクトル束)、ベクトル場、ベクトル場のフローなどはそれぞれ解析力学上の概念と対応付けながら説明が進んでいく。多様体という現代幾何学と解析力学という古典力学との関係が明らかにされていくのは僕にとって目新しいことだった。
解析力学としての展開はラグランジュ力学系からハミルトン力学系、正準変換と母関数、ポワッソン括弧積という通常の順番で行われる。式展開上の微分は面倒だが丹念に追えば理解できるだろう。このあたりの計算は普通の解析力学の教科書と同じ程度の難しさ。本書のユニークさはその応用例にある。著者は学部生ときに天文学を専攻していたことが強く反映されている。2体問題を解くのはよく見られる例だが、制限付き多体問題や多粒子の基準振動、衝突散乱問題、天体力学で行われる摂動法などは入門書では滅多にお目にかかれない例だと思う。
制限付き多体問題というのは、つまり剛体の運動のことで剛体をたくさんの質点が固くつながった状態で物体の運動が併進と回転で表わされることを導くことだ。コマのような剛体の回転運動では歳差運動をすることが導かれている。
天体力学での摂動法とは、天王星の軌道の乱れから海王星を発見できたという歴史が示すように、理想的な楕円軌道からのずれを近似法で求めることを言う。このような近似計算をハミルトン力学系という理想化された理論でどのように行えばよいかが説明されている。
特にすごい本だと思えたのは第15章「リー環とリー微分」の部分。知っている人には当たり前のことなのだろうけど解析力学の本でリー環やリー微分にお目にかかるとは予想していなかった。
ハミルトン系力学では正準方程式がポワッソン括弧で表わされるというのが解析力学なのだが、それが多様体上で代数学のリー環の定義を満たし、さらにHフロー(ハミルトニアンのフロー)に沿うリー微分として定義されるのだ。多様体上にリー環があれば、それは(リー環の)構造定数によって完全に決定されるし、ハミルトニアンのフローも決定されることになる。ハミルトニアンのフローによって物体の運動が決定される。このように代数学と幾何学と力学が美しく結びついていることがこの章で示されている。
第16章と第17章、つまり天体力学の摂動法あたりが難しかったので全体的な僕の理解度は85パーセントくらいになった。
たかだか140ページという分量にもかかわらず、本書は解析力学の範疇を超えて現代数学との関係を明確に示すことに成功している。ぜひお読みになってほしい。
ネット上の解析力学の教材は、やはりEMANさんのサイトがよさそうだ。
EMANの解析力学
http://eman-physics.net/analytic/contents.html
さて、明日も(有給休暇なので)次はこの本を読むことにしよう。
「微分幾何学:保江邦夫」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/f8/d9ec327292cff1103db8880fde9417a6.jpg)
今日紹介したのはこちらの本。
「解析力学:保江邦夫」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/dc/943e386a8ea89afef9e8fa7dc2dd3c48.jpg)
目次
1 自然太陽系から力学を夢見る
2 位相空間
3 力学型と配位空間
4 ラグランジュ力学系
5 対称性と保存則
6 モーペルチュイの原理
7 ハミルトン─ヤコビ方程式
8 基準振動
9 2体問題
10 制限多体問題
11 衝突散乱問題
12 ハミルトン力学系
13 正準変換と母関数
14 ポワッソン括弧積
15 リー環とリー微分
16 天体力学と摂動法
17 作用変数と角変数
18 リウヴィユの定理とポアンカレの再帰定理
応援クリックをお願いします!このブログのランキングはこれらのサイトで確認できます。
![にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ](http://www.blogmura.com/img/www88_31.gif)
![人気ブログランキングへ](//blog.with2.net/img/banner/banner_22.gif)
ゴールデンウィーク以降、保江先生の「数理物理学方法序説」というシリーズを毎日1冊ずつ読んでいるが、今回で5冊目の紹介となる。
日本評論社のホームページには「数学的に抽象化された解析力学の初歩を、現代的な視点を交えつつ解説する。また、いくつかの具体的な計算例では、解析力学の形式的・抽象的な知識や手法が威力を発揮することがわかる。」と紹介してあるが、本書ははじめて解析力学を学ぶ人向きではないと思う。
僕がそうであったように入門用の1冊目としては「解析力学(久保謙一著、裳華房)」あたりがいちばんわかりやすい。「解析力学:保江邦夫」のほうはひととおり解析力学を理解した後、さらに「多様体」という現代幾何学について学んでからのほうがよい。(解析力学に入門しようとする段階の学生のほとんどは多様体は学んでないと思う。)
解析力学の本としては2冊目、3冊目に読むと本書の素晴らしさがよく理解できるのだと思う。多様体は他の入門書を読んでもよいが、本シリーズの「微分幾何学:保江邦夫」の第1章から第7章の説明がとてもわかりやすいのでお勧めする。(「微分幾何学:保江邦夫」については次の記事に書く予定。)
通常の解析力学の本では一般化座標の座標変換あたりから始めるのだが、本書ではいきなり多様体が導入される。一般化座標は多様体上の点の位置で表わされ一般化運動量はそれを微分した多様体上の接ベクトルに対応する。接ベクトルは接ベクトル空間を張りる。多様体上に定義される接ベクトルバンドル(接ベクトル束)、ベクトル場、ベクトル場のフローなどはそれぞれ解析力学上の概念と対応付けながら説明が進んでいく。多様体という現代幾何学と解析力学という古典力学との関係が明らかにされていくのは僕にとって目新しいことだった。
解析力学としての展開はラグランジュ力学系からハミルトン力学系、正準変換と母関数、ポワッソン括弧積という通常の順番で行われる。式展開上の微分は面倒だが丹念に追えば理解できるだろう。このあたりの計算は普通の解析力学の教科書と同じ程度の難しさ。本書のユニークさはその応用例にある。著者は学部生ときに天文学を専攻していたことが強く反映されている。2体問題を解くのはよく見られる例だが、制限付き多体問題や多粒子の基準振動、衝突散乱問題、天体力学で行われる摂動法などは入門書では滅多にお目にかかれない例だと思う。
制限付き多体問題というのは、つまり剛体の運動のことで剛体をたくさんの質点が固くつながった状態で物体の運動が併進と回転で表わされることを導くことだ。コマのような剛体の回転運動では歳差運動をすることが導かれている。
天体力学での摂動法とは、天王星の軌道の乱れから海王星を発見できたという歴史が示すように、理想的な楕円軌道からのずれを近似法で求めることを言う。このような近似計算をハミルトン力学系という理想化された理論でどのように行えばよいかが説明されている。
特にすごい本だと思えたのは第15章「リー環とリー微分」の部分。知っている人には当たり前のことなのだろうけど解析力学の本でリー環やリー微分にお目にかかるとは予想していなかった。
ハミルトン系力学では正準方程式がポワッソン括弧で表わされるというのが解析力学なのだが、それが多様体上で代数学のリー環の定義を満たし、さらにHフロー(ハミルトニアンのフロー)に沿うリー微分として定義されるのだ。多様体上にリー環があれば、それは(リー環の)構造定数によって完全に決定されるし、ハミルトニアンのフローも決定されることになる。ハミルトニアンのフローによって物体の運動が決定される。このように代数学と幾何学と力学が美しく結びついていることがこの章で示されている。
第16章と第17章、つまり天体力学の摂動法あたりが難しかったので全体的な僕の理解度は85パーセントくらいになった。
たかだか140ページという分量にもかかわらず、本書は解析力学の範疇を超えて現代数学との関係を明確に示すことに成功している。ぜひお読みになってほしい。
ネット上の解析力学の教材は、やはりEMANさんのサイトがよさそうだ。
EMANの解析力学
http://eman-physics.net/analytic/contents.html
さて、明日も(有給休暇なので)次はこの本を読むことにしよう。
「微分幾何学:保江邦夫」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/f8/d9ec327292cff1103db8880fde9417a6.jpg)
今日紹介したのはこちらの本。
「解析力学:保江邦夫」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/dc/943e386a8ea89afef9e8fa7dc2dd3c48.jpg)
目次
1 自然太陽系から力学を夢見る
2 位相空間
3 力学型と配位空間
4 ラグランジュ力学系
5 対称性と保存則
6 モーペルチュイの原理
7 ハミルトン─ヤコビ方程式
8 基準振動
9 2体問題
10 制限多体問題
11 衝突散乱問題
12 ハミルトン力学系
13 正準変換と母関数
14 ポワッソン括弧積
15 リー環とリー微分
16 天体力学と摂動法
17 作用変数と角変数
18 リウヴィユの定理とポアンカレの再帰定理
応援クリックをお願いします!このブログのランキングはこれらのサイトで確認できます。
![にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ](http://www.blogmura.com/img/www88_31.gif)
![人気ブログランキングへ](http://blog.with2.net/img/banner/banner_22.gif)
![](http://blogranking.fc2.com/ranking_banner/a_01.gif)