俺はマイケル。
日本で探偵事務所を開いている。
みなさんは探偵の仕事をご存じだろうか?
え?シャーロック・ホームズを読んでるって?
HAHAHA、それは良かった。
OK、ホームズでもいい、マーロウでもいい、工藤でもいい。
とにかくキミが今まで読んできた、あるいは観てきた映画やドラマのあらゆる探偵と、その仕事をジックリ思い出してほしい。
いいかい?その探偵たちが受ける依頼は、殺人や遺産相続や、ドラマティックだろう?
実際の探偵の仕事。それは
―真逆だ。
マイケル探偵社に来る仕事の依頼の9割はこれさ。
「交際相手の素行調査」
もちろん既婚者も含まれる。
不倫調査がベスト1だ。
殺人事件なんてこの仕事を始めて以来お目にかかったことがないよ。
AHAHAHA
今日もまた一人の男がうちのドアをノックした。
さて、どんな依頼かな?
「ここがマイケル探偵事務所か」
男はサングラスを外すと、こちらの許可もとらずソファーに腰掛ける。
イラついているのが伝わってくる。
「この女の素行調査をしてくれ。いそいで。今週末の行動を全部リアルタイムで報告するんだ」
また素行調査か。
いや、そんな不満言う気はないよ?
報酬さえもらえればね?
シャツについているのはスワロフスキー?ちょっとふっかけてやろうかな?
「今週末だと緊急追加料金がかかるよ?」
「問題ない」
マイケルは正直この依頼を受けるべきか悩んでいた。
今週末は相棒のジョージとプールに行く約束をしていたから。
「この女を調べるんだ。農薬みたいな女…俺を狂わせる…」
差し出された写真に映るのはド派手なワンピースを着て小悪魔のように微笑む女だった。
「八雲紗里。住所はこれだ。仕事は、モデルみたいなこと時々やってるて言ってるけど、全然忙しそうじゃない。
それなのに贅沢三昧だ。…絶対、他に男がいる。」
「それで?」
「今週末、京都に仕事で行くって言ってきたんだ。突然な。絶対・・・男とだ。
仕事だっつってるけどちがう。俺にはわかる。わかるんだ。誰とどこに行くか、そこから調べてほしい。」
「フム」
紗里。サリーか…
俺の、別れたワイフと同じ名前…。
これも縁か。
「OK、いいよ。依頼を受けよう。この契約書にサインして。」
男は急いでサインをした。「頼むよ、日がない。新幹線の出発時間が分かったらすぐ連絡を」
「わかってる」
「頼むよ…!」
男は念を押して事務所を出て行った。
契約書を見る。
”栄 佑貴”
「サカエ、ユウキ。…ウーキ。ウーか。」
ユの発音が苦手なマイケルだった。
つづく(たぶん)