見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

南米への準備(その2)イエローカード

2007-11-24 06:05:05 | ポルトガル
出国前、日本で必要最低限の予防接種は済ませた。が、接種機関と接種曜日が非常に限られている黄熱病ワクチンは、退職から出発までの短い準備日程のなかで接種することができずに日本を出た。どこの国でも接種できるだろうと考えての見切り発車だった。
9月、スペイン最初の街バルセロナで、接種機関を求めて歩いている時に出会った港の検疫所の年配の職員に「スペインから直接ブラジルへ入る場合はイエローカードは不要だよ」と教えてもらった。「なァんだ」である。それで、黄熱病予防注射の件は終わった、つもりでいたのだが、南米情報を集めるうちに、接種の有無を再考せざるを得ない状況になった。
ブラジルの次のペルー入国にイエローカードの提示を求められた、という情報が入ったのだ。急いで、日本の旅行会社や知人に問い合わせたが、いるいらないの情報が錯綜し、確実な判断材料にならない。
「当局はこう定めているが、現場の対応はやや異なる」ことが原因で生じる混乱なのだが、この「現場では違う」という現実は、すでにベトナム入国の際に経験している。
黄熱病予防接種については、結局二転三転しながら数ヶ月引きずった結果、とにかく予測されるリスクを無くすため「接種をする」ことにした。入国審査だけでなく黄熱感染リスクのジャングルに入るにも安心。

ブラジルでは空港や各保健所で黄熱病ワクチンを無料接種できると言われたが、空港に到着するのは真夜中で、治安の不安なブラジルで保健所を探して右往左往することを避けたいので、入国前の接種がベストだ。マドリッドは出発直前なので、リスボンが接種場所としては理想的であった。

ブラジル入国ビザを取得した領事館の親切な職員に聞くと「どこでもできますよ。この国はアフリカや南米からの移民や旅行者が多いので、予防注射は特別なものではありませんから」とにこっと笑った。
リスボンには、古いビルに間借りした診療所のような小規模医療機関が街中に点在している。が、訪れた二ヶ所の診療所では接種が不可能で、結局、ツーリストインフォで紹介された、大学附属機関の亜熱帯研究所に行くことにした。多くの接種機関は予約が必要だが、そこは飛び込みでも受け付けてくれるという。

大学の敷地の隅にひっそりと研究所の建物はあった。入り口の大きな扉を入ると1階には人の気配がない。古い石の階段を上っていくと、2階に上がったところにがらんとした広いスペースがあり、正面に置かれた木のカウンターの中に受付係らしい女性が一人座っていた。
左側にあった小さな扉が開いて、もう一人、若い女性が中年の男性が笑いながら出てきた。カウンターの中に入ったところを見ると女性も研究所の関係者のようだった。日本の検疫所は予防接種に訪れる旅行者で賑やかだが、この研究所はあまりに静まり返って薄暗く不気味ですらある。
受付係りの女性に、「黄熱病予防接種を受けさせてください」とスペイン語で書かれた用紙を見せる。英語が通じない時のために、ツーリストインフォのスタッフに書いてもらったものだ。

受付の女性が示した小さな用紙に、氏名、住所、パスポート番号、国籍を記入する間、十数年前、横浜検疫所で黄熱病予防接種を受けた時の痛さを思い出して、やや気持ちが暗くなる。
記入し終わった用紙をもってカウンターに行くと、談笑していた若い女性が話しを打ち切ってそれを受け取り、右側の扉の部屋に向かって手招きした。
扉の奥は狭い処置室だった。長細いスペイン窓、小さな机、簡易ベッド、椅子、薬品棚。
手招きして先に入った若い女性が、左肩を出すようにジェスチャーをした。
「え?」彼女がドクターなのだろうか。大学の学生か職員だと思っていた。白衣を着ているわけではない。
問診がない(あっても言葉がわからないが)。日本では、確か体温を測るとか、用紙に体調を記入するとか、事後の入浴の注意とか・・・と過去の接種場面を思い出していると、いつのまにか注射器を持った彼女が近づいた。
「え?」立ったままですけど、消毒は?あれ?
一瞬、消毒綿でひと拭きしたなと思った次の瞬間、彼女の体が離れた。瞬間技とはこのことである。
痛みはおろか、刺された感覚もなかったのだ。
本当に注射したのか、疑って綿が当てられた場所を注意深く見ると、確かにぽつんとかすかな痕が・・・彼女が空になった小さな注射器を示してくすくす笑った。

あっけない接種だった。
確か十数年前は、体が緊張するほど痛くて…というのは別の記憶だったのだろうか。
印章入りの立派なイエローカードが発行され、カウンターで請求された料金は5ユーロ(約820円)。
日本の検疫所で接種すれば、8000円以上の接種料に加えて東京往復の交通費と大きな出費になるはずだった。
しかし、安すぎて、簡単すぎる接種にも、一抹の不安がないわけではないのだが。
とにかく、ビザと予防接種が完了した。もう南米がそこまで近づいている。
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2 コメント

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大変でしたね。 (uo)
2007-12-07 09:48:59
予防接種とか、楽しいことではなく
煩わしさが、先に立つしお金もかかるので大変でしたね。
私が行ったのは、昔のことだからでしょうか。
中南米では、全く予防接種もしませんでしたし、問題はありませんでした。
5ヶ月いて、病気にもほとんどならなかったと思います。
ただ、ブラジルのマナウスの安宿では、部屋中が蚊だらけで、マラリアが怖いので、蚊取り線香で予防しました。
キンチョーは、よく効きましたよ!
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丈夫な体力と精神力 (ワイン)
2007-12-07 12:20:39
5ヶ月中南米ですか。uoさんの体力と精神力を少しいただいてくればよかった(^^!)
マナウスという地名ですが、これから行く予定のパラナ州の安宿経営者の奥さんが、マナウスの出身ということです。確か、アマゾン方面ですよね。
持ってきた蚊取り線香は、すでに底をついてしまいました。これからブラジルの蚊取り線香を買う予定ですが、アジアでも、一番効くのは日本のキンチョーと有名でした。ブラジル製も、どうか効きますように。
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