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「男たちの介護」

2010-08-20 | clipping
医療介護CBnews|「男たちの介護」(1)―追い詰められる男性介護者― 2010年08月16日
http://news.cabrain.net/article/newsId/29065.html;jsessionid=9BB55BC155B33B9277AA8EB148BC899D


 現在、この国では100万人余りの男性が、介護者として伴侶や親を支えている。つまり、全介護者の3人に1人は男性ということになる。年々増え続ける男性介護者だが、彼らの中には、介護がもたらす環境の変化に耐え切れず、事件を引き起こす人も少なくない。「男たちの介護」の現実や課題についてレポートする。【多●正芳】(【編注】●は木へんに朶)

■介護殺人の加害者の7割が男性

 男性介護者の現実を考えるとき、避けては通れないテーマがある。殺人と虐待だ。
 介護者が要介護者を殺す「介護殺人」について研究する日本福祉大の湯原悦子准教授が新聞報道を基に実施した調査によれば、介護が原因と思われる殺人や心中は、1998年から2009年の12年間で454件、昨年には46件発生している。そして、その加害者の約7割が男性介護者だったという。
 湯原准教授は、「介護殺人」の特徴について、以下のように語る。
「介護殺人の場合、半分以上は心中型です。つまり加害者である男性も、要介護者を殺さざるを得ないほど追い詰められていたと言えるでしょう」

 それだけに、事件後も伴侶や親への思慕の念を持ち続ける男性介護者もいる。
「妻を愛していました。今でも愛しています。仕事のプレッシャーもあり、あの時は善悪を判断する理性が壊れていた。妻に申し訳ない」(09年4月、寝たきりの妻から依頼を断り切れず、殺害に及んだ59歳の男性)
「50年以上の連れ合いですから、好きでした」(09年6月、10数年の介護の末、認知症の妻を絞殺した78歳の男性)
「母の命を奪ったが、もう一度母の子に生まれたい」(06年2月、10年余り介護してきた認知症の母と心中を図った男性)
 それでも彼らは、自らの手で、守り助けてきた人の命を絶った。

 虐待の場合でも、加害者になりやすいのは男性だ。厚生労働省が08年度に全国の市町村に対して行った高齢者虐待の調査によれば、虐待者の割合で最も多いのは要介護者の息子で40.2%。さらに要介護者の夫は17.3%で、息子と夫だけで全体の6割弱を占めた。

■孤立化しやすく、ストレスに弱い男性介護者

 なぜ男たちは、慈しみ、守ってきた人を殺し、虐待するほどまで追い込まれてしまうのか。そもそも男性が女性に比べて、加害者になりやすい理由は、どこにあるのか。
 自らもケアマネジャーとして活動する立教大の服部万里子教授は、男性介護者の場合、特に身体的な虐待を起こす傾向が強いとした上で、男性が暴力に走る理由として「孤立化しやすく、介護に伴うストレスを受けやすいため」と分析する。
「中高年の男性の場合、普通の家事でもうまくこなせない人が多い。料理も分からなければ、女性の下着など買ったこともない。自分が買い物かごを提げて町内を歩くこと自体に抵抗を感じる人も少なくありません。多くの男性が介護や家事について相談できるプライベートな“人脈”を持ち合わせていない点も、男性介護者のストレスを高める要因となっています」

■介護に“結果”を求め、自らを追い詰める

 また、男性介護者と支援者の全国ネットワークで事務局長を務める立命館大の津止正敏教授は、男性の介護に対する姿勢が、自らを追い詰める要因の一つと指摘する。その姿勢とは、仕事と同じように介護に取り組むことだという。
「多くの男性介護者は、弱音を吐かずに誰にも頼らず、一人で抱え込み責任を全うするという『強い市民』を内面に秘めています。そんな彼らだけに、いろいろなメディアで知識を仕入れ、必要な器具をそろえ、全力で介護に打ち込みます。その上、彼らは、仕事と同様、介護にまで“結果”を求めてしまうのです」

 この場合の“結果”とは、たとえば排泄はおむつに頼っていた人が、ポータブルトイレを利用できるようになるといった、要介護者の状態の改善を意味する。しかし、要介護者が高齢者である場合、いくら理想的な介護を施しても“結果”が得られることは少ない。むしろ、加齢とともに身体機能は、少しずつ衰えていくのが普通である。
「すると男性は、“結果”が得られない自分に絶望し、いら立つわけです。『強い市民』は『もろい市民』でもあります。それだけに絶望といら立ちが積み重なり、耐え切れなくなったとき、虐待に走ったり、心中する道を選ぶ男性介護者も少なくないのです」

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介護殺人、12年間で少なくとも454件発生 

( 2010年08月16日 20:20 キャリアブレイン )

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「男たちの介護」(2)―“暴発”の背景と兆候―(上) 2010年08月17日
http://news.cabrain.net/article/newsId/29087.html


 男性介護者による介護殺人や虐待が発生すると、周囲の人や介護関係者は、「あんなに献身的に頑張っていたのに」と残念がり、不思議がることが多い。6年間寝たきりの母を献身的に介護した末に殺害してしまった男性の情状酌量を求め、約7600人の署名が集まった2009年の岐阜県関市での事件は、その典型と言える。男たちが“暴発”に至るまでの背景や兆候を探った。【多●正芳】(●は、木へんに朶)

■「介護事件の芽、どんな家庭にも」

 「いろいろな介護者と話した経験から考えると、男性介護者など、在宅で介護する家族の介護感情は、希望と絶望、あるいは負担と喜びといった両価性をないまぜにしたような感情交差が特徴と言えそうです」。
 そう指摘するのは、「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」の事務局長を務める立命館大の津止正敏教授だ。以下は、津止教授が聞いた男性介護者のある1日の要約である。

 朝、なかなか動こうとしない妻を怒鳴り付け、デイサービスの送迎車に引きずるように乗せ、「もう、帰ってこなければいいのに」とまで思った男性が、昼には自らの行動を悔やみ、家事も手に付かない。そして夕方、自分の姿を見て手を振って喜ぶ妻を見ると、今度は何年ぶりかに恋人に会えたような幸せな気持ちになる…。

 「こういった話は、男性介護者からよく聞かされます」(津止教授)
 一生懸命であるがゆえの憎悪と愛情―。たった一日の間に何度も、両極を激しく揺れ動く男性介護者の感情。ちょっとしたきっかけで、感情の“針”が一気に負の方向へ振れたとき、突発的な虐待が起こる。ところが、気持ちが元に戻ると、今度は自らの行動を悔やみ、自己嫌悪に陥る。
 「それだけに、何が起こってもおかしくない。どんな家庭にも介護に伴う事件の芽が広く深く潜んでいると考えてよいでしょう」(津止教授)

■引きこもり、無職の介護者は要注意

 ならば、男性介護者が最悪の事態を引き起こす前に、その兆候をとらえることはできないのか―。日本福祉大の湯原悦子准教授は、特に深刻な問題を引き起こしやすい家庭には、特徴があるという。
 「介護が始まる前から家族間のコミュニケーションがうまくいっていない家庭は注意が必要です。無職の息子が母親を介護するケースも行き詰まりやすい。特に、その息子が引きこもりがちだったりすると危険です」
 実際、2008年7月には愛知県で、引きこもりの男性がおばを介護し切れずに絞殺する事件も発生している。事件の直前、この女性は介護らしい介護はほとんど受けていなかったという。

 しかし、津止教授も指摘する通り、虐待や殺人を引き起こすのは問題を抱えた家庭の男たちだけではない。冒頭でも例示したが、要介護者と円満な関係を築いている男性介護者が、事件を起こすことも少なくないのだ。そんな介護者たちの“暴発”の兆候をとらえるのは容易なことではない。
「それでも彼らは、いろいろなエスオーエスを発しています」と指摘するのは、自らもケアマネジャーとして活動する立教大の服部万里子教授だ。
 「例えば、『うるさい』『あなたたちには(自分の苦労を)分かってもらえない』『もうどうでもいい』といった言葉を介護職にぶつけるようなら要注意です」

■介護サービスの拒否は危険信号

 服部教授によると、虐待や介護殺人を防ぐ上で決して見逃してはならないサインが、介護サービスを拒否することだという。
 「介護者の男女を問わず極めて危険な兆候です。中には、『あとは家族でできます』などと穏やかに申し出てくる場合があるかもしれませんが、そのときの雰囲気に惑わされてはいけません。サービスを断った事実こそが重大なのです」(服部教授)

 介護サービスを断ることで、介護者と要介護者は一気に社会から孤立してしまう。その結果、介護者と要介護者がぎりぎりの状況に追い詰められても、誰も気が付かない可能性が生じるのだ。06年2月、認知症の母親と心中を図った京都市の男性も、母親の体調不良を理由にデイサービスに通わなくなった。男性が母親を絞殺し、自らの首に刃をつきたてる数か月前のことだった。

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( 2010年08月17日 19:15 キャリアブレイン )

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「男たちの介護」(3)-“暴発”の背景と兆候-(下) 2010年08月18日
http://news.cabrain.net/article/newsId/29113.html


 虐待や介護殺人を引き起こしそうな兆候をキャッチしたとき、介護職や家族は、どのように男性介護者と向きあえばよいのか。前回に続き、“暴発”に至るまでの背景と兆候について探る。【多●正芳】(●は木へんに朶)

■ありふれたやり取りに潜む“トラブル”の種

 ケアマネジャーとしての経験から、介護サービスの拒絶こそが暴発に直結する危険信号と指摘する立教大の服部万里子教授は、「介護負担がある中で、何の理由もないのにサービスを断る介護者はいません。彼らは、必ずと言ってよいほど、介護サービス担当者との“トラブル”を抱えていたり、サービス担当者の言動に違和感を覚えていたりします」と断言する。

 服部教授が言う“トラブル”の種は、ごくありふれたやり取りの中に潜んでいる。
 例えば、デイサービスの職員は訪問する前、介護者に薬や着替えの準備をお願いする場合がある。そして、介護者がその注文にこたえきれていないと、多くの職員は、「お薬が準備できていないようですが、次からは用意しておいてください」「これからは着替えの準備もお願いします」と、依頼するのではないだろうか。
 一見、常識的な依頼だ。だが、やるべきと分かっていながら、何らかの理由で用意できない介護者にとって、この依頼は苦痛以外の何ものでもない。そして、やりたくてもできない点を指摘され続ければ、介護者は、より追い詰められていき、いずれはサービスを受けること自体が苦痛となる。
「在宅で介護する人の中には、介護に追われ、やりたくてもできないことを抱えた人が多いのです。このことを大前提として忘れてはいけません」(服部教授)。

 それでも介護サービスを断わられた場合は、どうすればよいのか。
「当然、ほかの担当者も交えて話し合いをし、その意思を翻してもらうしかありません。でも、そうなる前の配慮や努力の方がずっと大切。例えば介護者に『夜、眠れていますか』『無理なさってはいませんか』といった声を掛けるだけでも、ずいぶん違うはずです」(服部教授)。

■研修で事件を学び、万一に備える

 また、日本福祉大の湯原悦子准教授は、男性介護者の“暴発”を未然に防ぐためには、研修などの機会を通じて介護殺人・心中事件について学ぶことが重要と指摘する。
「事件を起こした介護者が支援についてどう受け止めていたのか、何が彼らをそれほど苦しめたのかをより多く知ることで、『こんな介護者の場合、こうなる可能性がある』という”先を読む援助”の視点も身に付くはずです。そうなれば、殺人や心中の兆候もキャッチしやすくなります」(湯原准教授)。

■「職を辞め、介護に専念」することのリスク

 ところで「介護サービスを断る」こと以外にも、注意すべき行動がある。「仕事を辞め、介護に専念する」という行動である。
 介護に専念するために職を辞した結果、経済的に困窮してしまい、要介護者の殺害に至る男性介護者は多い。2008年4月、認知症の母親と無理心中を図った山形県の男性も、09年10月に左半身がまひした妻を殺害した愛知県の男性も、事件前、介護に専念するために職を辞していた。

 いずれにせよ、仕事を辞めることが、経済的なリスクを伴うことは間違いない。それでも職と介護をてんびんに掛けざるをえない男たちを支えるには、どんな手立てがあるのか。
 その手立ての一つとして、在宅介護をあきらめ、施設を利用するという選択肢がある。ただ、この選択肢には外しがたい前提がある。「介護者が要介護者の入居を十分に納得した上で」ということだ。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」で事務局長を務める、立命館大の津止正敏教授はこう指摘する。
「男性介護者の多くは、苦しみの一方で、介護することにやりがいを見いだしてもいます。そして、男性から介護を取り上げることで、その葛藤が解決されることもありません」
 実際、男性介護者の中には、周囲の人々が施設に入居させた要介護者を自宅に連れ帰った後、事件を起こしてしまう人もいる。今年1月、認知症の妻を殺害してしまった和歌山県の男性も、そんな男性介護者の一人だった。

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( 2010年08月18日 18:40 キャリアブレイン )