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チリとハイチ

2010-10-19 | clipping
私の闇の奥|チリとハイチ 2010/10/20
http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/2010/10/post_6d44.html


 チリ北部のサンホセ鉱山で、8月5日、落盤事故が発生、地下約700メートルに33人の作業員が閉じ込められました。それから69日目に最初の一人が救出され、22時間に33人全部が地上に生還しました。劇的な救出ストーリーは全世界に伝えられ多くの人々に感銘を与えたに違いありません。33人と地上から送られた何人かの救助隊員が全部地上に戻る前に何か支障が起るのではないかと、心配性の私はハラハラしながらテレビを見ていました。とにかく素晴らしい救助作業の成功で目出たい限りです。
 インフォテインメントという嫌な造語があります。インフォーメーションとエンタテインメントを合わせたものでしょう。歳のせいだと思うと少し悲しくなりますが、何事につけても、世の中の人々と一緒になって素直に感動することができず、マスメディアが声高に伝える美談、涙をさそうストーリーを楽しむことも私には難しくなりました。チリの鉱山事故のドラマの現場には、国内国外を含め、千人の報道関係者が集まったと伝えられました。それを伝えるNHK だけでも、女性一人、男性二人がマイクを手にして取材していました。インフォテインメントの言葉のとおり、ニュースは今や商品(コモディティズ)として取り扱われ、しかも、政治的なオマケが意識的に張付けられている場合が多いのです。しかし、ニュースの商品価値とは何でしょう。「スクープ」という言葉を広辞苑でみると「新聞・雑誌・テレビなどの記者が他社を出し抜いて、重大なニュースをつかみ報道すること,また,その記事」とあります。スクープとは、何も有名人の個人的スキャンダルに限られるだけでもありますまい。われわれ一般市民をよほど馬鹿にするのでなければ、刺激的な商品価値のあるニュースを、他社を出し抜く形で報道することは、全メディアをあげてのチリ鉱山事故の騒ぎのただ中でも可能のように、私には思われます。
 ハイチの現地時間2010年1月12日(日本時間13日)、中米のハイチ共和国でマグニチュード7の地震が発生し、直接の死者22万人、負傷者33万人、百数十万人が住居を失い、単一の地震災害としてはスマトラ島沖地震に匹敵する近年空前の大規模なものになりました。それから10ヶ月後の今、私が「スクープしてはいかが!?」と推薦したいのは、 ハイチの悲惨な現状です。少しばかりの誇張が許されれば、ハイチは震災直後の状況から殆ど何らの改善もない悲惨さのただ中に10ヶ月間も放置され続けているのです。とても信じられない大変刺激的なニュースではありませんか。首都ポルトープランスの市内中心を除けば、復興事業は、ハイチの一般大衆に関する限り、殆ど進んでいません。瓦礫の除去さえ進んでいないのです。そして今も、首都の内外、特に市の周辺地域に広がった地域に百五十万人がテントや防水シートの仮住まいで生きています。写真でみると日本のホームレスの人々の寝起きの様子にそっくり、それが150万人、想像を超える情景でしょう。
 去る9月24日、ほんの10分間ほど,集中的な豪雨と突風がポルトープランスを襲い、その結果、死者5名、数百人負傷、数千のホームレスの寝起きの場所が破壊されました。同じカリブ海の国にしても、もし同じような暴風雨がキューバの首都ハバナを襲ったのでしたら、ただ一人の負傷者も出なかったかも知れません。ハイチの人々が蒙ったのは天災ではありません。人災です。
 9月25日、このハイチの惨状に対する小さな抗議デモがニューヨークで行なわれたのですが、そのプラカードには[Where is the Money?]と書いてありました。世界各国の政府がハイチ復興に拠出を誓った110億米ドルのうちの僅か3%しか未だ使われてないそうです。CBS ニュースによるとこの他にオックスファムや赤十字のようなNGOにも40億ドルの寄付金が寄せられたとのことですが、その大きな部分は今ハイチに乗り込んでいる約1万人のNGOスタッフの給料生活費として使われているようです。何故莫大な復興費が150万人のホームレスたちの救済に使われないのか?その主要な理由はクリントン前大統領を特使とするアメリカ/国連のハイチ復興計画の基本的な方針にあります。それは、ハイチの人口をアメリカのアパレル産業や農産物輸出業のための超低賃金労働者の供給源に仕立ててゆくという長期計画に基づいていると思われます。お金はこの基本方針の線に沿って、うまくゆっくりと使わなければなりません。この事については、以前にハイチを取り上げた時に論じました。このネオコロニアリズムの恐るべき残忍性も、私から見れば、刺激的な商品価値のあるニュースに思えて仕方がないのですが・・・。
 来る11月28日にはハイチの国会議員と大統領の選挙が行なわれます。日本政府もいわゆる“国際社会”の一員として相当の額の選挙資金を拠出する筈ですが、ポルトープランス周辺のホームレスを含む貧困下層民の大多数はこのアメリカ/国連が操る現大統領プレヴァルの下でのお手盛り選挙に敵意を抱き、棄権するものが多いと思われます。それは民衆が土壁などにクレオール語で書き付ける落書きの数々から読み取れます。:
「ABA PREVAL」(プレヴァルくたばれ)
「ABA ELEKSYON」(選挙なんかやめちまえ)
「VIV ARISTID」(アリスティドばんざい)
abaは、フランス語のA bas に、vivはviveに当ると推測しました。
 全世界のマスコミから忘れ去られたハイチに正義をなすことを叫ぶ荒野の声はないものか・・・。ありました。あのジェレマイヤ・ライト牧師の声です。「ジェレマイヤ・ライト牧師って誰?」とおっしゃる方々が多いでしょう。オバマ大統領の旧師で、娘さんの名付けの親でもあるシカゴの黒人教会の牧師さんです。選挙戦の最中、旧師のライトとつながりがあっては選挙に不利とみたオバマさんが、冷酷非情にも切って捨てた牧師さんです。あの事件のあと、ライト牧師は後輩に職をゆずって引退しましたが、今でも説教者として真のキリスト教信者の間で大きな人気を保っています。去る9月19日、カリフォルニアのオークランドの大きなバプティスト教会を一杯に満たした信者たちに向かって、ジェレマイヤ・ライト牧師は次のような呼びかけで説教を始めました。:
■ If you want to help Haiti, let’s start, let’s start, let’s start by telling the truth, OK? ■

藤永 茂 (2010年10月20日)