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佐藤優の「封印された橋洋一証言」(2)

2009-07-12 | clipping
■弱みの握り方

『外務省ハレンチ物語』に書いた国会議員に対するアテンドについて筆者が説明し、外務官僚がどれほど「怖いこと」に手を染めているかを話題にしたときのことだ。橋氏が、ちょっと驚きの証言をした。「実は私にもその種の経験がある」と語ったのだ。その経験とは、海外での「アテンド」。外務省の職員は政治家や他省庁の幹部などを、海外で接遇する機会が多い。そしてそれは、弱みを握る大いなるチャンスなのである。

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佐藤 そのアテンドがくせもので、いかがわしい場所に連れて行ったりする。それで翌日、「先生、昨夜はハッスルされましたねえ」と意味ありげに微笑むわけです。政治家や他省庁の連中をどこに連れて行ったかという、A4判の便宜供与報告書があって、大臣官房総務課がそれを一括管理してます。もちろん財務省の役人のもありますよ。

橋 そうやって情報を「握る」わけね。実は、私も似たような仕事をしていた時期がある。審議会の委員をしている学者やメディアの記者を海外に連れて行くと、たいていハメを外して、弱みを握れるんですよ。

佐藤 ハメを外すんじゃなくて、外させるんです、仕事だから。怖いですよぅ(笑)。ところで、財務省はどんなメディア対策をとっているんですか。

橋 財務省の連中は、マスコミは全部飼いならせると考えているでしょうね。外交もそうかもしれないけど、マスコミの人は専門知識がない。そこに付け入る余地があって、コントロールできるという自信がある。

佐藤 つまり、情報をエサにするわけですね。在外公館にいると、ときどき本省から政局動向レポートが回ってくる。これ実は外務省が外務省担当の記者に書かせていて、裏金から30万円ぐらい払っていると聞きました。これを一回やってしまった記者は黒い友情から抜け出せなくなる。財務省と比べると、汚いオペレーションでマスコミを巻き込むのが外務省です。私がロシア大使館時代にやったのは偽造領収書の作成。大使館のゴム印を押すんですけど、これは登録されている公印ではなく、悪事に使うためのものなんです。このゴム印を大使館のレターヘッドが入った領収書に押して、取材でやってきた記者の連中に渡すんです。

橋 金額が自由に書き込める白紙の領収書ですね。

佐藤 こんな話もあります。あるロシアスクールの先輩が記者と一緒に韓国に行ったとき、女性がニワトリの卵を産むショーをやっている、かなりいかがわしいクラブに案内した。そこでみんなで記念撮影をする。先輩曰く、「その写真が役に立つ」と。写真を撮られたことが、記者にとっては弱みになるわけです。やはり外務省はまともな組織じゃないですよね。

橋 外務省は特におカネが使える役所だからね。

佐藤 人間を根源的に信用していないから、「暴力装置的なもので脅し上げるしかない」という発想がありますね、あの人たちには。

橋 暴力装置と言えば、財務省の場合は税金ですね。最後の最後には税金で脅し上げる。税金にはみんな弱くて、そこを握ればゲームオーバーですよ。脱税事件は国税、地検、警察が一体になってやりますから、戦っても勝ち目はない。どんな政治家でもやられる。外務省は下半身の証拠を握るのかもしれないけど、財務省は税金で押さえちゃうわけです。私も財務省批判をしているから、親類縁者までみんな厳しくチェックされて結構大変ですよ。

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この最後の発言は重要だ。橋氏は、自分がどう見られているかをよくわかっていたし、身辺についても十二分に注意していた。自分が所属していた官僚組織の怖さを身をもって知っていた。これほど慎重な橋氏が、窃盗事件をなぜ起こしたのか。筆者にはその動機がどうしても腹にストンと落ちないのである。

既に述べたように、橋氏は埋蔵金を表に出すことによって、結果的に財務官僚の能力問題に疑問を投げかけた。これが財務省にとって本当のタブーだった。実は外務省にも、絶対に触れてほしくないタブーがいくつかある。能力については、外務官僚の語学力が低いということだ。それとは別に外務官僚だけがもつ「第二給与(在外手当)」の問題だ。これが外務官僚の巨額蓄財の原資になっている。
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佐藤 外務省の本俸は、他の役所と同様に人事院が決めています。でも在外手当は人事院ではないんですよ。

橋 ああ、在外公館の給与の話ね。

佐藤 いくら出すかは外務人事審議会が決めている。外務公務員法に基づいて設置されている審議会で、独立した機関という建前だけど、以前は外務省の事務次官経験者もメンバーだった。世間の目が厳しくなったのでいまは入れていませんが、依然として外務省が選んだ内輪の関係者だけでやっている。完全なお手盛りで、外務官僚の第二給与になっています。たとえばロシア大使館の50歳の公使の1ヵ月の在外手当はいくらだと思います? ちなみに統計上ではロシアの給与所得者の1ヵ月の平均給与は3万円ぐらいです。

橋 ちょっと想像がつかないな。

佐藤 配偶者手当などを含めれば月80万円になります。

橋 年間1000万円くらいか。

佐藤 ただし、これとは別に住居手当が毎月100万円程度つく。こうした手当の金額を決める基礎データは何かといったら、在外公館が送ってくる資料だけなんです。これもお手盛り。

橋 財務省も在外公館ではいいポストをもらっているから、在外公館に行くと金持ちになって戻ってくる(笑)。

佐藤 そうでしょう。何しろ在外手当は経費にもかかわらず精算しなくていい。だから、残ったカネを持ち帰ってくる。

橋 たしか所得税法から外れていて、課税されない。私は在外公館勤務の経験はないけど、オイシイという話はよく聞くね。しかも在外公館で真面目に仕事をしている人は少ないでしょう。現地の情報収集や分析で、主要省庁は在外公館を頼りませんよ。たいていの役所には海外留学組がいるから、言葉もできる。財務省は海外との交渉に外務省が入ってくるのはむしろ鬱陶しいという感じだし、経産省だってJETRO(日本貿易振興機構)を使ってやっている。

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 外務省が強調する外交一元化が実質的に崩れていることは、橋氏の指摘を待つまでもなく、公然の秘密だ。


■官僚たちの「おらが春」 

さて、率直に言うと、筆者は、橋氏が竹中平蔵氏を支えて進めてきた新自由主義的経済政策には強い疑念をもっている。新自由主義、市場原理主義など表現は違っていても、要は純粋な資本主義により、資本の自己増殖の歯止めがきかなくなり、それが2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻に行き着いて、未曾有の不況と絶対的貧困を生んだと考えるからだ。その点について、単刀直入に尋ねてみた。

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佐藤 ところで、橋さんはサブプライム問題以降の金融危機をどう見ますか。政府による救済とか、企業の国有化など、マーケット至上主義とは正反対の動きになっていますね。

橋 ぼくは新自由主義者と言われるんですけど、そうじゃないですよ。イデオロギーは全然なくて、すごくテクニカルな人間なんです。何かの症状が出たとき、それを分析して症状を和らげるにはどうすべきかという処方箋を書くのが専門家の役割だと思っています。新自由主義者だろうと誰だろうと、目の前に死にそうな人がいるのに放っておく人はいない。未曾有の金融危機を目の当たりにして、政府が介入するのは当たり前の話だと思いますね。

佐藤 リーマン・ブラザーズは死んでもいいけど、シティバンクやAIGは死んだら困る。そういう判断の違いが出てきてますよね。

橋 救う企業の線引きは、正直なところ非常に難しい問題です。でも、何らかの対策を打つのは当たり前だと思う。

佐藤 現在の国家は小さな政府といっても非常に大きい。歴史的に見れば、かつてないほど大きな政府です。いまの経済危機に国家が介入するのは当然としても、注意が必要なのは、国家というのは抽象的な存在ではなくて官僚階級と結びついているということ。官僚たちが具体的にどういう影響力を振るうようになるのかを見極めるのが重要だと思います。私が見るところ、官僚は悪い方向に変わるか、うんと悪い方向に変わるか、そのどちらかだと思いますが。

橋 いまの霞が関官僚たちは無能だから、変われないんじゃないかな。世間が動いていても、指をくわえて見ている。そんな気がしますね。

佐藤 ただ、指をくわえて見ているといっても、「おらが春」という感じで見ていると思いますけどね。

橋 そうそう、「おらが春」になってますね。世間の動きとは関係なく、「おらが春」の世界を構築していくという感じがする。私がやった公務員制度改革なんて、4歩進んだと思ったら、あっという間に2歩か3歩戻っちゃった。自己中心的で変化を拒む力は、本当に強力ですよ。

佐藤 だからこそ、橋さんが指摘した霞が関官僚の能力問題というのが、これから非常に重要な論点になってくると思います。

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橋氏の自己認識は、「イデオロギーは全然なくて、すごくテクニカルな人間なんです」ということだ。しかし、筆者の理解では、イデオロギーがない人間というのが、実は最もイデオロギッシュなのである。つまり、われわれの眼前にある商品、貨幣、資本、株式、賃銀労働などをすべて自明のものとしているからだ。このイデオロギーは新自由主義と親和的なのである。

もっとも、橋氏には、イデオロギーにとらわれない現実主義がそなわっている。これは数学者としての橋洋一と深いところで関係しているのだと筆者は考えている。「何かの症状が出たとき、それを分析して症状を和らげるにはどうすべきかという処方箋を書くのが専門家の役割だと思っています。新自由主義者だろうと誰だろうと、目の前に死にそうな人がいるのに放っておく人はいない。未曾有の金融危機を目の当たりにして、政府が介入するのは当たり前の話だと思います」という橋氏の直観は正しい。それを理論的に裏づけることが橋氏に期待されていたまさにそのときに、今回の窃盗事件が起きて、ほんとうに残念である。

今回の窃盗事件が、事実ならば、それに対して橋氏は刑事責任をとらなくてはならない。その刑事責任をとった後、橋氏の能力を日本の社会と国家のために生かしてほしいと、筆者は心から願っている。

この記事はgooニュースと講談社・現代プレミアのコラボレーションによるものです

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天木直人のブログ|佐藤優と外務省の戦いはこれからが本番だ 2009年07月07日
http://www.amakiblog.com/archives/2009/07/07/#001427


 佐藤優氏の有罪が確定した。その判決を聞いたときの佐藤氏の反応は、意外にも冷静だった。

 そしてその理由がわかった。

 発売中のサンデー毎日7月19日号で佐藤優氏の激白が掲載されていた。そこで彼は次のように述べている。

 「率直に言いましょう。支援委員会(註)は背任のための組織です。日本しかカネを拠出していない“でっちあげ国際機関”を作って会計検査院の検査から逃れ、外務省が単年度で使い切らなかった通常の予算をプールできるようにした。打ち出の小槌です・・・私的な流用さえなければ構わないというのが我々の認識でした・・・(しかし)カネが目的外に使われるという検察の言う背任の意味では・・・(支援委員会も)背任機関でしょう。たとえば要人の招待は配偶者の航空費や滞在費が出ないが、「背任機関」があればカネを持ってこられる・・・支援委員会は03年4月に早々と廃止され、すべてが闇に葬りさられた・・・」

 これはもの凄い激白である。

 自分は冤罪ではない。背任を犯した。しかし外務省は組織をあげて背任をしてきた。自分の有罪が確定したいま、外務省の犯罪はどう裁かれるのか、と言っているのだ。

 これは外務省に対する新たな戦いの宣言である。そして佐藤氏の主張は正しい。佐藤氏の外務省攻撃は正しい。

 本来ならば佐藤氏のそのような外務省攻撃に喝采を送りたいところであるが、なぜか私にはその気になれない。なぜか・・・

 このこの続きは今日のメルマガで書いています。