当方、何度も申し上げるように、経済理論は素人ながら、その議論を眺めるのは好きという立場でして、その筋のプロの方のブログや、お付き合いのある証券会社や金融機関の発行する経済レポートなどを眺めながら、今日もフラフラしているわけです。
で、某国内最大手証券会社さんからは、リチャード・クー氏の投資家向けレポート(「マンデー・ミーティングメモ」)を毎週もらってまして、それの先週号に、銀行の巨額利益計上の話が載ってました。
ちょっと感じるところがあったので、今回はその件について。
確かに巷では銀行が儲けすぎであると非難の声が出ています。
その声の最大公約数をまとめると、ゼロ金利&量的緩和でカネを仕入れて、サラ金業を含めて高金利で貸す一方で、預金金利は殆どなし、手数料は高い、これじゃ儲けて当然じゃないか、といったところでしょうか。
弊社にも銀行からエリート崩れの不良債権役員が降ってきて非常に迷惑していますので、そんなに儲けているなら引き取っていただきたいと思っているのでありますが、それはさておき、どうやら昨今の儲けの源泉は違うところにあるようです。
大手六グループが昨年九月中間決算発表時に公表した通期の最終利益予想の合計額は二兆五千九百五十億円で、すでに四-十二月期でこの予想を上回った。三月期末は融資先の再生を受けた多額の戻り益の発生が予想され、さらに最終利益が膨らみそうだ。
(2/16付 フジサンケイビジネスアイ)
つまり、過去に金融庁から不良債権と断定されたものの多くが、ここにきて正常債権に復活し、その分、過去の引当金が戻り益となって「儲けすぎ」と呼ばれるほどの利益を出してきていると。
たかだか数年で不良債権が正常債権に戻るという事態を見るに、これは当時の金融庁の査定が変だったのではないかという話になりますし、不良債権不況原因説の有効性も疑われます。
クー氏による、金融庁の査定を銀行界が信じていない状況と、その査定による実際の被害事例の指摘です。
例えばわずか2年前のUFJ銀行の件では、金融庁が「国有化も辞さない」という厳しい査定をした直後に、他の金融機関が一斉に合併話を持ちかけ、同行は「価値がない」銀行どころか、奪い合いの対象になるくらい経済価値のあるい銀行であることが証明されてしまった。
当局に不良債権と断定され、二束三文で外部に売却しなければならなくなったケースや、それで銀行全体が債務超過と見なされ、株主資本が紙切れになるといった、実際に大きな経済的損失につながったケースも発生している。また、当局の圧力で銀行融資を打ち切られた企業も少なくない。
このような明らかな弊害を是正するためには、「人治国家」的行政を改め、複数の政府機関に査定のチェックを行わせる、例えば日銀がそれを行うのがよいのではないか、とクー氏は続けます。
例えば、「チェック・アンド・バランス」を正しく機能させるために、金融庁と日銀は両機関で独自に検査をするが、どちらかの検査機関が何か重大な指示を出す前には、他方の検査当局の意見も聞くということを義務付けるのも一案だろう。
中央銀行が銀行検査機能を持っていることは、ミクロ的にもマクロ的にも重要な意味を持つ。
まずミクロ的には、金融システムの安定性を担い、最後の貸し手役でもある中央銀行として、与信を実施することにもなりかねない個別行の経営状態を把握しておくことは不可欠である。
またマクロ的視点を持つ中央銀行は、とかくミクロの正義、例えば前述の不良債権処理至上主義を追及しがちな金融庁に対し、そのような行動の危険性を指摘する立場にある。
ここまでのくだりを読んで、いつも拝見しているBewaadさんのサイトで(日銀とはしていないものの)同じような指摘があったのを思い出しました。
これまでもwebmasterは強権的・裁量的な金融庁による経営介入を批判してきましたが、銀行悪玉論に乗じたこのような行政スタイルはやはり見直されるべきでしょう。少なくとも検査結果等について第三者によるチェックを課すべきではないでしょうか(中略)
銀行にしても江戸の仇を長崎で討たれるのが怖くて訴訟などできないのでしょう。
(http://bewaad.com/20060217.html)
経済政策論においてともにマクロ&需要サイド重視ながら、リフレ政策の有効性では意見を異にするお二方ではありますが、金融行政への批判では一致を見ました。
しかし銀行から行政訴訟ができず、金融庁が「守秘義務を盾にチェック・アンド・バランスを拒む」(MMメモ)状態ならば、これは政治の場で追及していただくのがよいのではないでしょうか。
UFJの例で言えば、検査が入ったときや巨額の赤字を計上したときに国会でも問題になったのは記憶にあるのですが、銀行側の検査忌避の件もあって、責任追及の意味ではうやむやになってしまいましたし、それほど目立った話にはなりませんでした。
「融資を打ち切られた企業」の陰で何があったかを想像するに、個人的には刑事マターにしたいくらいの話ではあるのですが、それは無理ならば、表題に続く。。ということで。