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ウォールストリートのおまじない By PAUL KRUGMAN 2009.1.18

2009年01月20日 10時40分48秒 | ポールクルーグマン

ウォールストリートのおまじない By PAUL KRUGMAN 2009.1.18

流行おくれのおまじない経済学、減税が魔法的に効くことを信じていることは、きちんとした良識をもつ論文からはすっかり消え去ったものだ。サプライサイドを盲目的に信じているのは、変人か、ペテン師か、共和党員くらいのものだ。

ただ最近のレポートでは、多くの影響力をもつ人々が、それにはFRBの役人、銀行の規制を行う人、それんたぶん次期オバマ政権のメンバーも含まれるが、新しい種類のおまじないの信奉者になってしまっている。精巧にしくまれた金融の儀式をとりおこなえば、破綻している銀行もうまくやっていけるなんてことを信じているのだ。

この問題を説明するために、ある銀行の例を説明しよう。そうゴダムグループとしておこうか、略してゴダムだ。

書類上は、ゴダムには2兆ドルの資産があり、1.9兆ドルの負債がある。だから純資産は1000万ドルということになる。しかしその資産の大部分が、たとえば4000万ドルが、モーゲージ証券や不良債権だったとしよう。そうした資産を売却しようとしても、せいぜいが2000万ドルといったところだろう。

だからゴダムはゾンビ銀行といえる。まだ開業しているが、実際には破綻しているといっていい。株式にはまったく価値がない。時価総額は200万ドルあるかもしれないが、その価値は、政府がお金をだして救済してくれるかもしれないという株主の希望を表しているだけといっていい。

政府はなんだってゴダムを救うのだろうか? 銀行が金融システムの中核を占めているからだろうか。リーマンを破綻させることにしたとき、金融市場は身動きがとれなくなり、それから数週間、世界経済は破綻のふちに立たされた。ぼくらは再放送は望まないから、ゴダムは生かしたままにしておく。でもどうやったらいいのだろうか?

うん、政府は単純にゴダムに2000万ドルをあげればいい。それだけあれば再びやっていくのに十分なお金だ。ただもちろんこれはゴダムの株主にとっては法外な贈り物といっていい。将来に対して、再び過度のリスクテイクをしていいといってるようなものだ。それにこうした贈り物の可能性が現在のゴダムの株価を支えているといっていい。

よりよい方法は、1980年代の終わりにゾンビ貯蓄貸付組合に対して政府がとった手段だろう。機能しなくなった銀行を接収し、株主を一掃した。それから不良債権を特別な機関、整理信託公社(RTC)にうつし、問題を解決するのに十分な資金を払いだした。そして正常になった金融機関を新しいオーナーへ売り渡した。

ただ現在のさわぎが示しているのは、政策決定者が、こうした手段のいずれもとらない意向だということだ。そうする代わりに、報道されているように、政策決定者は妥協的な方法をとろうとしている。つまり民間金融機関のバランスシートの不良債権を、国有の「バッド・バンク」や「集約バンク」へと移そうとしている。それはRTCと似ているかもしれないが、一番最初に金融機関の接収をしていない。

連邦預金保険機構のトップのシーラ・ベールは、最近、どうやったこれが機能するかを説明した。「集約バンクは資産をフェアーバリューで買い取ります」と。でもいったい「フェアバリュー」ってなんだ?

僕の例でいえば、ゴダムグループは、帳簿上は4000万ドルの不良債権が実際には2000万ドルの価値しかないので、破綻状態になっていた。政府が不良債権を買い上げて儀ダムを正常にする唯一の方法は、民間で買い取るよりずっと高いお金を政府が払う場合しかない。

ただたぶん民間では、不良債権のそのままの価値分を支払うことはないだろう。「われわれはこうした種類の資産については、今時点では合理的な値付けができる状態にない」とベールは言っている。ただ、市場がその資産を見積もるよりずっとうまく政府の方ができるだなんて宣言するべきなんだろうか? フェアバリューがどんな意味だろうが、それを支払うことが再びゴダムを正常にするのに十分だってことが本当に現実的だろうか?

僕が疑っているのは、政策決定者がこういったことを理解することなく、誇大広告の準備にとりかかっているのではということだ。一見すると、貯蓄貸付組合をきれいにするのと同じような政策だが、実際には納税者の犠牲の下に銀行の株主に膨大な贈り物をすることになる。しかも不良債権を、フェアバリューで買うように見せかけるわけだ。

なんだってこんなねじれがおきてるのだろう? その答えは、ワシントンはNではじまる言葉を極端に嫌っているからだ、それはnationalization(国有化)だ。事実は、ゴダムグループやその関連機関は、保護状態にあり、納税者が助けるしかない状況だ。ただだれもその事実を認めようとしないし、明確な解決策を実行しようともしない。つまり一時的だが、明らかに政府の支配下におくしかない。したがって、あたらしいおまじないがいくら人気があって、何を言おうとも、僕が言っているとおり、精巧にしくまれた金融の儀式は、破綻している銀行を延命させるだけだ。

不幸にも、この迷信への退避は高くつきそうだ。僕が間違ってるといいんだけど、納税者がまたひどい目にあうんじゃないかと、また失敗する金融救済プランに着手しようとしているんじゃないかと心配している。



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