春慶8 - ギャラリー貴祥庵 ―《貴志 理の 日々の思いついたままのイメージ絵画、心に残る言葉、歳時の記録を綴る》―


春慶8

春に   ― 谷川 俊太郎 ―

この気もちはなんだろう
この気もちはなんだろう
目に見えないエネルギーの流れが
大地からあしのうらを伝わって
この気持ちはなんだろう
この気持ちはなんだろう
ぼくの腹へ胸へそうしてのどへ
声にならないさけびとなってこみあげる
この気もちはなんだろう

枝の先のふくらんだ新芽が心をつつく
よろこびだ しかしかなしみでもある
いらだちだ しかもやすらぎがある
あこがれだ そしていかりがかくれている
心のダムにせきとめられ
よどみ渦まきせめぎあい
いまあふれようとする

この気持ちはなんだろう
この気持ちはなんだろう
あの空のあの青に手をひたしたい
まだ会ったことのないすべての人と
会ってみたい話してみたい
あしたとあさってが一度にくるといい
ぼくはもどかしい

地平線のかなたへと歩きつづけたい
そのくせこの草の上でじっとしていたい
大声でだれかを呼びたい
そのくせひとりで黙っていたい
声にならないさけびとなってこみあげる
この気もちはなんだろう

 

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