ルフラン ― 谷川俊太郎 ―
いくらか誇張されいくらか
縁飾りをつけられていたけれど
その物語はとても本当の人生に似ていて
だがそれを読み終えたあとも
自分の暮らしは続いていることに
気づかないわけにはいかない
電車の窓外では街並が切れ一面の菜の花
たとえば<たとえば>と言ってみて
ふと<ふと>と言ってみてそのあとに
生きることのこまやかな味わいのあれこれを
目録のように並べたてても矛盾は解けない
束の間の慰めなら一杯の紅茶でも事足りる
それからいったいどうするのか
電車の窓外では街並が切れ一面の菜の花