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冬のソナタに恋をして

別れ②



ユジンはとぼとぼと病室に向かって歩いていた。病室の前で大きく深呼吸をして覚悟を決めた。この扉を開けたら、しばらくミニョンの元には戻れないだろう。
そこには痩せ衰えて土気色の顔をしたサンヒョクが眠っていた。髭は伸び切っており、くちびるも乾燥して、腕には点滴チューブが入っている。ユジンは悲しみと申し訳なさでどうにかなりそうだった。
すると、気配に気づいたサンヒョクが生気のない目を開けた。
「、、、サンヒョク」

サンヒョクの目がユジンを認識して、うめくように閉じられた。再び開けると力無い声が発せられた。
「なんでここに?」
「大丈夫なの?」
ユジンの目からみるみる涙が溢れ出し、起きあがろうとするサンヒョクを押し戻す。
「大丈夫だから。心配しなくても大丈夫だから。」
ユジンはこんなに弱々しいサンヒョクを見たことがなく、痛々しすぎて目が離せなかった。涙は後から後から溢れ出す。涙はサンヒョクの布団に雨のようなシミを作った。
「そんなに泣かないでくれよ。母さんが君に話したのか?それともヨングク?君のせいで僕が、死にそうだとでも?だから君は僕を憐れんでそんなに泣いているのか?」
「ごめんなさい」
「謝るなよ。そんな言葉聞きたくない。君はここに来て謝れば気が晴れるだろうが、君が去ったあと、僕はどうすればいいんだ?また傷つくだけだろ?それともこのまま僕のそばにいてくれるのか?」

サンヒョクはユジンを愛おしそうな目で見つめた。久しぶりに会うユジンは、あんなに憎く思ったにもかかわらず、美しくて優しかった。蓋をした気持ちが溢れ出してしまう。ずるいかもしれないが、どこかでユジンが心配して来てくれるのを期待していた自分もいた。
ユジンはそんなサンヒョクを見て、俯いて言うしかなかった。
「ごめんなさい」
サンヒョクはユジンから目を逸らし、天井を見つめた。
「謝るなよ、、、帰れ。僕なら大丈夫だ。食事も点滴もしてるし、すぐに退院できるから。」
「サンヒョク、、、」
「君を見ると辛くなる。頼む、帰ってくれ。帰れよ。」
そう言ったきり目をつぶってしまった。ユジンは、後ろ髪を引かれる思いで、そっと部屋を出るしかなかった。心の中で何度もサンヒョクに詫びていた。
ユジンは病室近くの廊下に置いてある椅子に座っていた。帰る前に、このままあの状態のサンヒョクを置いて、ミニョンのもとに戻っていいか考えあぐねていた。

すると、突然ナースステーションから看護師がかけてきた。サンヒョクがやけくそになり、点滴チューブを外してしまったのだ。医者や看護師が駆けつけて、血だらけのサンヒョクの処置をしている。ユジンはそれをオロオロと悲痛な思いで見ているしかなかった。さらに医師は告げた。
「もう何日も食事をしていません。このまま食べないと命の危険があります。」
ユジンは愕然とした。そこまでサンヒョクを追い詰めていたのに、自分の気持ちを優先させて、ミニョンといたことの罪悪感でいっぱいだった。

ユジンは申し訳なくて、サンヒョクが目を覚ますまでベッドサイドで泣き続けた。
やがて、サンヒョクは目を開けると、ユジンがいるのを見て安らかな顔つきをした。ユジンは安心のあまり泣き出した。
「、、、ユジン」
「サンヒョク、何してるの?バカじゃないの?どうしてこんなことしたの?なんで馬鹿なの?」
泣きながらサンヒョクを叩いたりゆすったりかするユジンを、サンヒョクは嬉しそうな顔て見つめた。ユジンはついにサンヒョクの身体に突っ伏して泣き始めた。そんなユジンを、サンヒョクは満足そうに見つめていた。心の奥で神様に願ったことが叶ったのだ。ユジンをミニョンから取り戻すことが出来た。髪を撫でながら、背中を抱きしめた。久しぶりに感じるユジンの重みと柔らかさに怒りが溶けていくようだった。どんな形であれ、たとえ罪悪感と同情でここにいるのだとしても、ユジンが戻ってきたそれだけで、充分に満ち足りていた。

そんな二人をドアの影から、見舞いに来たヨングクとチンスクが胸を撫で下ろして見つめていた。これで全てが元に戻った、と二人は安堵していた。ミニョンとユジンの心は別として。

一方でミニョンはひたすら車でユジンを待っていた。時々天井のポラリスシールを見つめたり、触れたりして気持ちを落ち着けたが、何時間経ってもユジンは戻らなかった。この前のサンヒョクの様子をユジンが見たら、戻って来ないのは予想していたし、覚悟も出来ていた。それでも手離してしまったのは身を切られるほど辛かった。ミニョンは諦めた。深いため息をついて、もう一度名残惜しそうにユジンが消えた病院の入り口を見つめた後、車をスタートさせた。いつかはユジンが自分の元に帰るのを祈るしかなかった。どうぞ、ユジンがポラリスを見つけられますように。





コメント一覧

kirakira0611
@usagimini さま、おはようございます😃
コメントありがとうございます😊
うさぎみみさまにコメントをいただいて、策士サンヒョクの部分を少し書き足してみました。わざとだぞー、みたいな。
この辺から善意で純粋なお坊ちゃんから、ちょっとイヤな悪役になってますね。確かに、ミニョンとチュンサンに負けたくない気持ちがありますよね。ミニョンはサンヒョクの体調を心配しますが、サンヒョクの口からミニョンの傷心を心配することは一度もこのあとないですね。その意味で器の大きさが違う気がします。
一度も思い通りにならないことがなかったのかな?チヨンに溺愛されて(笑)
次で10話が終わります。冬のソナタでかなり好きな場面です。
コメントありがとうございました😊
usagimini
こんばんは。先日もコメントさせていただきましたけど、このシーンですよねぇ。。。サンヒョクの計算尽くの捨て身。だけど、ニヤッとする余裕は残してるから怖いですね。
小さい頃からユジン大好きな強い想いはわかりますけど、チュンサン/ミニョンに負けたくない、という想いの方が、勝っちゃってますね。いい家庭の、いいお育ちの、わがままお坊ちゃまな発想、どんどん悪役になっていくサンヒョクを見事に演じるヨンハさんがすごかったと思います。
ユジンは、見事に策略に はまっちゃうし、ミニョンは横恋慕した引け目があるし。
また更新を楽しみにしています。
kirakira0611
@joiede_ktfp さま、こんばんは❗️
コメントありがとうございます😊
本当に辛い場面ですね。
このときのサンヒョクはユジンを想う気持ちが強くて、何がなんでも引き留めたいんですね、、、。本当、複雑です。
昔会社の先輩が教えてくれました。
人間には愚行権、つまりわかっちゃいるけど、愚かなことをする権利があるのよっ、毎日はいつも愚行権のオンパレードだと。わたしも、そうです。今日も分かっていでも、ナッツチョコをパクっと食べちゃいました。
ケアマネ研修が過酷すぎて頭がフリーズしてます。
すみません。寝ます。
おやすみなさーい☆
kirakira0611
@ikuralove さま、コメントありがとうございます😊
とっても嬉しいです。
韓国ドラマファンなんですね。
韓国ドラマはなぜかハマりますよね。
また遊びに行かせていただきます。
今日はケアマネジャーのオンライン研修でした。眠い、、、。頭が働きません。すみません。おやすみなさい💤
joiede_ktfp
@kirakira0611 kirakiraさん、いつもありがとうございます。
辛い、ただただ辛いですね。形だけ元に戻ってももう以前と同じにはならないのに。この展開で安堵してるのは、外野だけですね。3人の悶々とした日々がはじまるのですね。
サンヒョクもわかっていながら、引き留めるようなことをして、惨めになるだけなのに。。人のこころは、複雑。
ikuralove
書き手が素晴らしいと、20年も前のドラマがすごく新鮮に感じます。
このドラマを見てから、すっかり韓ドラファンになりました。
kirakira0611
@breezemaster さま、ありがとうございます😊
神田沙也加さんのことで思い出しますね。
ヨンハさんにとって冬のソナタはどういうものだったんでしょうね。結果的に良かったのか?と思っちゃいますね。予想外に日本で売れてしまったため、冬のソナタの出演者はだいぶ人生が良い意味でも悪い意味でも変わったでしょう。韓国に親日辞典なるものがあるそうです。親日と見なされた人がずらりと並んでるそうです。悪い意味ですよ。ヨンハさんは翻弄され、道に迷ってしまったのでしょうか。サンヒョクに重なりますね。
ヨン様のようにスルスルと要領よく実業家になるタイプよりも、実は不器用そうなヨンハさんの方が好感がもてたりします、、、。
ヨンハさん、神田さんともにご冥福をお祈りします。
breezemaster
ふと、サンヒョクでは無く、
パク・ヨンハさんとして見てしまいました。
この時期は、演技だったんでしょうけど、
冬ソナから数年後、
成功の影に逆に進むものが有ったんでしょうね。

天気予報、
北国は大雪の年末になりそうですね。
まさに冬ソナの世界、
ドラマでは、今は、一番暗い時期(寒い時期)、
そして、寒い朝ですね。
お部屋もお洋服も暖かくして、お過ごしくださいね^^
kirakira0611
@charlotte622 さま、そうなんですよねー。
20年前のドラマなんで、ちょうど昔の日本人女性の健気さというか、従順さというか、忍耐力というか、そんなふうにも見えます。
たしかにサンヒョクといてもサンヒョク含めてだあれも幸せじゃないですね。
今後はそんな展開になりそうです。
サンヒョクの愛し方は自己中かつ狂気ですね。そこまでのめり込むのがすごいです。
ありがとうございました😊
kirakira0611
@hananoana1005 さま、ありがとうございます😊
いつも的確な読みですね!
たしかにサンヒョクの狂言自殺で優柔不断で優しいユジンが帰れなくなりましたね。
サンヒョクはなかなかのしたたかもの。
そしてミニョンは生まれて初めて?思い通りにならない試練ですね。新しいミニョンの一面がらみられそうです。ここからがヨン様の演技の見せ所ですね。
悲しそうなミニョンさんもステキです。今までノー天気だったから(笑)
韓国ドラマは疲れますね。
今はもう観る元気がないです。冬のソナタはストーリーを知ってるからいいですが。
kirakira0611
けいこさま、ありがとうございます😊
そうですね。ただただ好きだったんでしょうね。好きにはいろんな形がありますね。ある意味、これだけ、周りが見れなくて好きでいられるのはすごいです。独りよがりだと分かっていても止められない。あっぱれですね。そして計算ずく。たしかに結婚したらモラハラになりそうです、、、。

そうですねー。このころのチェジウさんは独特の綺麗さですね。スクショしていて、本当にキレイに泣くなぁと妙に感心してます(笑)
ありがとうございました😊
charlotte622
今晩は。ユジンはこのままサンヒョクの元に戻ってしまうのでしょうか。愛していないのに…それはただの同情と罪悪感だけですよね。
ミニョンの存在がなくても、もうサンヒョクとはきっぱり別れた方がいいと思うのですが…
サンヒョクの愛し方は自己中心的ですよね。自分のことしか考えていない。良くないと思います。
杏子
hananoana1005
こんばんは(´▽`*)
更新有難うございます🌸

ユジンはサンヒョクには戻らない、と決めて病室に来たのだと思えます。
サンヒョクの病室を出て、どんなタイミングでミニョンに戻るか、考えていたけどサンヒョクの自殺行為で決定的になってしまうのですね。

ミニョンは覚悟をしていたものの心のどこかでは一縷の望みを持っていたのでしょうね~
それが、叶わない、となった時、身を切られるような悲しさ辛さに無意識に涙って流れるものなんですね~ミニョンにとっては初めての経験!
そして、この先、ミニョンが経験したことのない辛い日々が始まるのですよね~😢
韓国ドラマは何度も これでもか、これでもか・・・というほど山場があり心身が疲れちゃいますよね~
けいこ
更新ありがとうございます。
サンヒョクは本当にユジンが好きなのでしょうね!
昔は純粋にただ好きだった、、でも それは相手を思いやるような愛情とは違います。
サンヒョクだって それも分かっているけど、、ユジンが自分以外のとこにいってほしくない。
計算ずく ですよね。
でも ここまで自分の体を痛めて 追い詰めてまで 普通はしない。それも愛なのかもしれないけど、、。怖い。
結婚してもがんじがらめになりそう。

チェ・ジウさん、本当に綺麗。素敵な写真ですね。

いつもありがとうございます。
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