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冬のソナタに恋をして

不安


ユジンはリノベーションしているカフェにゆっくりと歩いて行った。もうすぐ春とはいえ、ドラゴンバレーの夜はまだまだ冷え込んでいる。アイスバーンになっている足元に気を付けながら、真っ暗なカフェのドアをそっと開けた。ユジンが、チュンサンは帰ってしまったのかしら?とホテルに戻ろうとしたその時、室内に突然ライトが付いて、美しくイノベーションが完了したカフェが姿を現した。

一番奥のテーブルには、二人分の洋風の料理が並べられており、きちんとテーブルクロスもかけられていた。手前の椅子には、真っ白でウエストの辺にピンクの飾りがついたウエディングドレスが、さりげなくかけられていた。ユジンは目を見張ってあたりを見回した。すると、ミニョンが満面の笑みを浮かべて、奥から出てくるのだった。ユジンは、そのうれしそうな様子を見ると、鉛を飲み込んだように重苦しい気分になって、無表情のままミニョンを見つめていた。

ミニョンに促されるまま、ユジンはテーブルについて、ふたりは食事を始めた。飛び切りのごちそうを食べているはずなのに、ユジンは全く味を感じ取れなかった。それでも無理をして「とってもおいしいわ」と無理やり料理を飲み込んだ。

「なぜ料理を用意してくれたの?」

ミニョンは気落ちしているユジンの様子に気が付かないふりをして嬉しそうに言った。


「理由は二つあるんだ。一つ目はプレゼント。君が作ったカフェだから、ここではじめてのディナーを二人で食べたかったんだ。」

「そうだったの。」

ユジンは口の端をゆがめるように無理やり笑った。素直に喜びを表現したくても、悲しみが先立ってしまってどうしても微笑めなかった。

「でも、私一人で作ったんじゃないでしょ。あなたと二人で作ったのよ。失敗したら全部私のせいにするつもりなのね。」

ついつい憎まれ口をたたいてしまった。

「そうだよ。その通りだよ。」

ミニョンもユジンの口調に合わせて憎々しげに言った。だんだんとユジンも少しづつ明るい顔つきになってきた。

「なあ、これからは何でも一緒に作っていこうよ。一緒に見て、考えて、同じものを感じるんだ。そしていつまでも一緒にいよう。わかった?」

ミニョンの口調はどこまでも優しい。でも、今のユジンにはそれは最も約束できないことだった。

「うん、、、」適当に濁して話をそらせた。

「それで、この席を用意してくれた二つ目の理由ってなあに?」

「うーん、それは秘密」

ミニョンもはぐらかして会話は終わった。せっかくミニョンが用意してくれたロマンチックな夜は、湿っぽいムードのまま終わってしまった。


そのあと二人は、夜道をホテルまでぶらぶらと散歩した。スキー場はナイターのために明るく照らされていて、背後にはイルミネーションがキラキラと輝いていた。ユジンは気を取り直して言った。

「昔なんかの映画で観たんだけどね、結婚できるかをコインで占ってた。表が出れば結婚する、裏が出たらしないの。」

「それで映画の結末は?」

「もちろん表が出て結婚したわよ。ねぇ、今からやってみる?私は運がいいから絶対表が出るはずよ。」

ユジンはそう言ってコインを投げたが、コインはユジンの手には戻ってこずに、ミニョンの手のひらに飛び込んでいった。

「本当にちゃんとその映画を見たの?映画ではね、どっちが出ても表が出るように2枚張り合わせてたんだよ。バカだなぁ。気が付かなかったの?もし、裏が出たら結婚するつもりはなかったのか?」

そういうと、ミニョンは上手にコインを表どうして張り合わせて見せた。ユジンは思わずすねた顔をして

「そういうわけじゃないんだけど」とつぶやいた。

様子のおかしいユジンに対して、ミニョンは穏やかな顔で言った。

「お母さんがなんて言ったか聞いてもいい?」

とたんにユジンは不安そうな顔をしてポケットに手を突っ込んだままどんどん歩き始めた。

「僕たちの結婚を許さないって言ったんだね?」

それでもユジンはうつむいたまま歩き続けている。

「そうか、本当にそう言ったんだね。大丈夫、予想してたことだから。一緒に説得してみようよ。秘密にしてた二つ目の理由を教えてあげる。反対に打ち勝つために、二人の心を一つにするためだよ。」


ユジンはこれ以上は隠しておけないと観念した。こんなに純粋に想ってくれるミニョンに秘密を抱えてはいられない。

「あのね、わたし、母から聞いたの。」

「何を?」

「あなたのお母さんがうちの母を訪ねたんだって。」

「母さんが?なんで?」

「それがね、以前私の母はとっても憧れた人がいて、その人はすごくきれいで才能あふれる人だったんだって。でもね、その人はわたしの父親をとても愛していて、母はつらい思いをしたの。それが、あなたのお母さんだったのよ。」

「え?」

「あなたのお母さんとうちの父は、かつては愛し合って婚約した仲だったのよ。だからうちの母とあなたのお母さんは結婚に反対しているの。」


ユジンは苦しそうに言葉を吐き出して、ほっと溜息をついた。その顔は刺されでもしたように、苦しそうに歪んでいた。その言葉を聞いたミニョンもまた、殴られでもしたかのように呆然としていた。ミニョンにとってはもちろん意外ではあったが、心の奥底では「そうか、そういうことだったのか」と腑に落ちた瞬間でもあった。放心状態のミニョンに向かって、ユジンが涙を浮かべて絞り出すような声で言った。
「ねえ、わたしたちどうしたらいい?」

さすがのミニョンも、これにはすぐに答えることができなくて、二人は無言のままユジンの部屋の前までやってきた。つないだ手が冷たくて、心が凍えそうだった。ユジンはぼんやりしたまま、部屋のキーを取り出してドアノブを回した。すると、後ろからミニョンがそっと呼びかけた。

「ユジン、きっとうまくいくよ。僕が何とかするから、、、。僕たちはきっとうまくいく。だから君は心配しないで。いいね?」


その顔は恐ろしいほど真剣で、でも言葉とは裏腹に不安でいっぱいの様子だった。そんなミニョンを見て、ユジンの目も潤み始めた。ミニョンの大丈夫という言葉を信じられたらどれだけいいだろうか。ユジンもまた不安で胸が押しつぶされそうだった。ユジンはやっとのことでうなづいて「わかったわ」とつぶやくと、そっと背を向けて部屋に入ろうとした。

ミニョンは、とっさにユジンの腕をつかんだ。このままユジンを行かせてしまったら、後悔する気がした。すると、ユジンがゆっくりと振り向いた。二人の視線がからまり、お互いへの想いが溢れ出しそうになる。

その時、ユジンのほほを一筋の涙が伝った。ミニョンはたまらずに親指でそっと涙をぬぐった。指先が触れている頬と、つかんだ腕が柔らかくてかぼそくて、ユジンは消えてしまいそうなほど儚く見えた。

ミニョンは思わずユジンを抱きしめて腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動にかられた。だれにも邪魔されないように、今夜自分だけのものにしてしまいたい、、、。

そんな想いのミニョンに向かって、ユジンはけなげに微笑んで見せた。その表情は確かに微笑んでいるはずなのに、まるで泣きじゃくってようだった。ミニョンはそんなユジンの顔を見てハッと我に返るのだった。ユジンを傷つけてはいけない、ミニョンは曖昧に微笑んで、そっと部屋の中に入っていくユジンを静かに見送った。

ユジンは独り部屋に入ると、閉じたドアにもたれて大きなため息をついた。いっそのこと泣きわめいてしまえばよかっただろうか、それともチュンサンの胸に飛び込んでいけばよかっただろうか、でもそんなことをしても、お互いに傷つけあうだけなのはわかっている、自分たちだけではどうにも解決できない問題が立ちはだかっているのだ、ユジンはいつまでもドアにもたれかかってチュンサンに想いをはせていた。

ゆっくりと閉じられたドアの前でミニョンもまたぼんやりと考えていた。行くなと言って抱きしめればよかっただろうか、涙で濡れた震える唇にキスをすれば安心したのだろうか、いくら考えても結論は出なかった。何かがミニョンをひどく不安にしていた。遠い昔のチュンサンの記憶の中に、この不安の元凶があるのだとわかっていたが、それが何なのか思い出せなかった。それを思い出すまでは、ユジンを抱きしめることはかなわないのだと本能的に感じていた。

こうして二人の不安な夜は更けてゆくのだった。朝は来るのだろうかと思うほど、二人はほとんど眠ることもできずに一人きりの夜を過ごすしかなかった。

コメント一覧

kirakira0611
@syousyu-wainai123753 さま、ありがとうございます😊
お母様との特別な絆を感じますね。
お母様が施設で穏やかな日々を送られてることを祈ってます。
ちなみに、韓ドラのブログを書いてますが、竹島は日本のものだと思いますし、韓国の反日は苦々しく見てます。この前の梨泰院の事故についても、国民性をびっくりしてみてます。ただ、お互いの国の歴史があって、韓国人特有の解釈はあるのだろうな、と理解はするようにしてます。納得はいかないですが。何しろ、まだ戦争中の国ですから、常に何でも戦闘モードなのです。
今の20代以下の日本人は韓国の国策であるカルチャーによる好意的な文化普及に蹂躙されてるようで心配です。嫌いではないけど、文化と政治を分けて考えてるのか、洗脳されないか心配です。そのうち独島は韓国です、とか言いそうで。
お互いによい距離感で関わりたい国だと思ってます。
ちなみに観てらっしゃるドラマ、わたしもオールイン以外は観てますよ。今は韓国ドラマは一切観てないです。
それではよい週末をお過ごしください。
kirakira0611
@naotomo3451 さま、コメントありがとうございます😊
昔を思い出して読んでいただけると嬉しいです。
いつも優しいブログに癒されてます。
これからもよろしくお願いします。
kirakira0611
@81sasayuri1018 さま、コメントありがとうございます😊
そうですね、辛いです。あまり筆が進まなくて、今日の分を書いてないです。前は7つぐらい余裕を持って書いてましたが、、、。
ところで豆腐の糠漬け、美味しそうですね❤️真似してみたいです。
久しぶりの女子会も堪能されたようで何よりです。ちなみに、デジタル後進国化、残念ですね。でも、半導体事業を民間の大手がタッグを組んでやるのは素晴らしいです。官民一体となってやればいいのに、政府は何をしてるのか?情け無い国です。
ではでは仕事に行ってきまーす。
kirakira0611
@breezemaster さま、返信が遅くてすみません。
そうですね。記憶が戻ったあとに二人の距離が近くて楽しそうと言うか、チュンサンモードになってますね。
ミニョン、チュンサン、両方のモードがあって面白いなと思います。
ところで皆既月食見ましたか?うちはずっと見てしまいました。月食自体はまた数年後にあるみたいなので楽しみです。なんとか星が被るのが300年後らしいですが。
良い週末をお過ごしください☆
syousyu-wainai123753
どこまでもストイック、禁欲的な素敵なお二人、チェジウとヨン様。
この二人ならば、必ずや、結婚しても、立派なご家庭を築いて行けるものと確信します。
素晴らしい恋仲。素晴らしい、悩めるユジンに寄り添うチュンサン、素敵じゃないですか。
私は、優男だなんだと、このヨン様を余り好かない当時の日本の、特に男性陣がその頃もすでにいて、私は、余りその人らを好かない、苦々しい思いで見て居りました。
絶対に、ヨン様は、いい人に決まっている、これは、彼の演技力がそうさせていたのか、私が心の中で騙されてたのか、今となっては判別が付きませんが、この表情、この語り口の人に、絶対に悪人、私はすぐに、コロッと騙されてしまう人間かもしれませんが、ペヨンジュン様の善意、善良さにとても惹かれ、この後、彼の主演の「ホテリアー」(確かそんな題名だったかな)とか言う、ホテルを舞台にしたドラマ(私はその頃、ホテルを退社したばかりで、そこの経営のずさんさ、私の心の心労、過労に悩み、ヨン様のホテルでの活躍に拍手喝さいを送り、母とこれも良く見ていました。
あとはクオンサンウの「天国の階段」、NHKの冬のソナタの後継番組、「美しき日々」「チャングムの誓い」は最後まで見ました。美しき日々の男の主演の俳優さんのその後のNHKでの後継番組、何か、チンピラっぽかったり、教会のシスターが出て来る番組、あれは、途中で見るのをやめてしまいましたねえ。
とにかく、あの時代は、韓国ドラマが目白押しで、母と私は、私はホテル勤務から外れて、暇なのも手伝い、母も丁度、老後で退職してもう何年も経っていたので、私ら親子の楽しみは、韓ドラしかなかった訳です。 
その後、独島、竹島の日本領だというのに、韓国が不正不法占拠をして居る、中華ドラマとかいうのも、レンタルビデオ屋で見かけたが、その、韓ドラの二匹目のどじょうを狙った中国本体が、昨今も話題の、日本侵略、尖閣諸島を略奪しようとしていると知った我が母子は、怒りを露わにして、わたしは実は、2009年の何月からは、反中反韓、それに私の趣味のラジオ、カメラ、音楽、宗教(当時は私は今の「日蓮正宗」じゃなく「創価」を宣揚していた。
とにかく、色々な事があった、この二十年でした。
今では、母は施設に居りますが、今でも、親子というより、戦士、同士感で一杯です。
naotomo3451
懐かしい場面ばかりで本当に楽しみです。
毎週土曜日が来るのを楽しみにしていた日々を思い出します。
81sasayuri1018
おはようございます。

親の過去に翻弄される二人・・・
辛すぎて、なかなかコメント書けないのです・・・

そして、そのたびサンヒョクも翻弄されるはめに・・・
民宿・・・フィルムもペンダントも投げ捨てる場面・・・
ああ~~~です。ゆり
breezemaster
おはようございます^^

「でも、私一人で作ったんじゃないでしょ。あなたと二人で作ったのよ。失敗したら全部私のせいにするつもりなのね。」
何か、優しさの中に、学生の時の明るいユジンを感じます^^

そこから、一変、苦しんでいるユジン、
ミヒとギョンヒの関係を知ったミニョン、
良い意味で、ドラマならではの、どうなっていくるんだろうと
ドキドキした展開のスタート、
こうして写真と文章で見せていただくと、チュンサンとミニョン、
表情で違いを感じますし、性格の違いも感じます。
そんな二面性も、冬ソナを彩ってくれていますよね。
kirakira0611
@usagimini ありがとうございます😊
嬉しいです!
usagimini
返信ありがとうございます。
そう、、、いい場面なのにねぇ…

どうぞリンクフリーです。^^

(字はインスタントに書いたので、お遊びですからぁ…)
kirakira0611
@usagimini さま、ありがとうございました😊
ブログを見せていただき、眼福でしたよー❤️
できたら次のブログでリンク貼りたいですけど、ダメですよね?
いやいや美男美女サイコーですね。毛筆の冬ソナの字もサイコーです‼️また何度か見せていただきますね。はじめてキレイな画像を見ました。
あっ、ホントだ。ユジン足元スリッパだ!
ちょっと詰めが甘いドラマだなぁ。
よく気がつきましたね。
素晴らしいです。笑いました🤣
ありがとうございました😊
せっかくラブテンションが高い切ない場面なのに〜。
kirakira0611
@hananoana1005 さま、ありがとうございます😊
この回はけっこう好きです。ドアの前の緊張感が冬のソナタの中では珍しく性的なものを感じるので、興味深いです。脚本家小説でもそう言う意味合いで書いたと書かれていたので思い過ごしではないでしょう。ユジンの部屋に入ろうかどうしようか悩むチュンサンが結構好きです。あとは民宿の場面、、、それだけしかこれから先は好きな場面がなく辛いです。
次はいよいよ悲しくなるので、今の一瞬だけですねー。
ありがとうございました😊
usagimini
こんばんは。 このシーンだわぁ…
もし、興醒めになっちゃったらすみません。
外から帰って室内に入ったのに、ユジンは靴ではなくスリッパだったのですよね。
顔はいい演技だったのに…
ファッションショーの画像をアップしました。
削除されなければいいですが。
https://blog.goo.ne.jp/usagimini/e/5b9955016cd4ecce69b563d555aa0ec5
hananoana1005
こんばんは(´▽`*)
いつもありがとうございます🌸

愛し合う二人はう美しいですね~
もう、こうなったら駆け落ちするしかないですよね!
親世代は親世代
子どもは子ども
親世代の問題を子供が背負うことはないですよね~
この章ではチュンサンとユジンに頑張れ!とエールを贈ります!
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