木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

『マンハッタンの哀愁』

2013-04-11 16:14:56 | 日記


「マンハッタンの哀愁」ジョルジュ・シムノン

シムノンにハズレ無し。

つっても、全部(三百編!)読んでないけどさー。
そもそも翻訳されてなかろう。

メグレシリーズを含め、10冊前後は読んだはず。
心の襞、気持ちの機微を描く丁寧さ。
ちょっとした行動や、言葉で、突如身近に感じる登場人物たち。
人物に対する姿勢、距離感がじつにフェア。
巧みであるにも関わらず、読者に対してもフェア。
この率直さ、世界共通ー。
世界中で愛読されるゆえんか?


人生に疲れ、行き詰まった中年の男女。
ニューヨークのダイナーで偶然出会ったふたりは、
あてどなく彷徨い、時間を、空間を共有する。
孤独から逃れる為、誰でも良かったはずの偶然は、
いつしか必然へとなり、あらゆる感情の波が押し寄せるが…


相手に何かを見出し、自分の中の何かに気づく。
人生において、確信出来ることがいかに少ないか。

男と女は違う生き物である─。
少なくとも、この小説の二人は。
全く異なる心の旅路を辿り、ゴールも同時ではない。
人生に対する恐怖と恋愛に対する恐怖が折り重なり。
先を争うように、顔を出す。

羞恥と気遣い、疑問とイライラ。
愛情と不安、嫉妬と不快。
そして怒り。
修羅場を向かえ、
離れ離れになり。
そして─

雰囲気的には、死刑台のエレベーターを彷彿。
やはり、カラーではなくモノクロの感覚。
ラストは戯曲のような、空間的な余韻を残す。

不器用な男が
愛を確信するまでの、愛情経路。
二人の違いを巧みに大胆に、
時に赤裸々に描く。
滋味溢れる再出発賛歌。
うう~む、と唸らされるシムノン節。


 「あんた、わたしを追い越したと思っているんでしょ?
 わたしよりずっと先にいると思い込んでいるんでしょ?
 かわいそうな人、ずっと後方にいるのはあんたのほうなのよ」



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