原子力エネルギー問題に関する情報

杜撰で不経済極まりない原子力政策が、生存権を脅かし環境を汚染し続けていても、原発推進派の議員を選挙で選びますか?

設置根拠から乖離した環境省「専門家会議」の中間とりまとめ -国家施策の根拠にすべきでない

2015年01月20日 | 3.11関連の重要な情報
「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議(以下「専門家会議」)の中間とりまとめを踏まえた、環境省における当面の施策の方向性(案)」に関する意見募集(パブリックコメント)が、今月の21日まで実施されています。
ぎりぎりパブコメの直前になりましたが、環境省が実施した「専門家会議」の問題をまとめ、以下を提出しました。各論については、またテーマごとにとりあげていきたいと思います。



学識経験者や医療関係者、弁護士、福島の被災者、市民団体の代表などが2年前に設立した「放射線被ばくと健康管理のあり方に関する市民・専門家委員会(事務局:FoE Japan)」(以下「市民委員会」)は、「中間とりまとめ」がはらむ多くの問題点を指摘し、環境省に施策の全面的な見直しを要望している。

この「専門家会議」については、2013年10月に18名のメンバーが決定した当初から、偏向した人選や長瀧重信座長(長崎大学名誉教授)の議事進行など会議の在り方に対しても、市民や専門家たちから批判や抗議が浴びせられ続けてきた。12月18日の最終会議では、傍聴者を締め出して「中間とりまとめの最終案」が議論されたが、「市民委員会」は、このとりまとめを「施策の根拠にするべきでない」と訴える。同委員会が指摘する主な問題点を挙げながら、見解を述べる。

まず、「子ども・被災者支援法(注1)」に則った同会議の開催要項をみると、「福島近隣県を含めて、国として健康管理の現状と課題を把握し、そのあり方を医学的な見地から専門的に検討することが必要」とある。しかし、被災者からの期待が大きかった福島県外の甲状腺検査や健康調査について、複数の委員から必要とする意見があったにもかかわらず、十分な議論もなく考慮されなかった。

さらに、福島県県民健康調査で明らかになってきた甲状腺がんなどの疫学的な分析や考察を行わなかったこと、外部から多数の専門家を招聘しながら、とりまとめには一切書かれていないことも問題視している。

議事録(第12~14回はない)を読んでみると、外部の専門家たちの発表(ヒアリング)は、疫学的な分析や考察も含めて重要な実態研究の詳細な説明がなされ、他の議論よりもはるかに会議の開催要項にふさわしい。この専門家たちこそを、委員に選ぶべきだったと遺憾である。

「市民委員会」はまた、WHO(世界保健機構)とUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)報告書の内容に関する検証をせず、原典にないもしくは恣意的な引用があるとも指摘した。

私としては、「専門家会議」がWHO報告に依拠する一方で、外部から岡山大学津田敏秀教授が言及した「WHOの報告書には、甲状腺がん・白血病・乳がん・その他の固形がんの多発が、特に若年層に起こると書かれている」という、極めて重要な事項を議論しなかったことも腑に落ちない。

一方「UNSCEAR2013」(注2)は、世界中で非難された欠陥報告書だ。独仏米など19カ国の医師団体は共同で批判的分析を行い、評価過程やデータ解釈などの問題点を指摘した声明文を出した。また、UNSCEARのベルギー代表団が「福島の被害を過小評価している」と、報告書を厳しく批判したという内部論争があったことを、ドイツ語圏三国共同公共放送やベルギーのフランス語放送が報道した。さらに、かつてWHOで放射線防護・公衆衛生分野を指揮したK.ベーヴァーストック博士は、報告書は科学的でないと根拠を挙げ、委員構成が原子力産業関係者に偏ったUNSCEARは解体すべきと述べた。

しかし、日本の放射線防護・医学分野で専門家と呼ばれる人々の著述や発言の多くには、UNSCEARの政治的独立性と科学的客観性を信じて疑わず、その見解や評価を自ら検証もせずに「国際的合意であるから正しい」と断定する傾向がみられる。特に、「専門家会議」の長瀧座長の「UNSCEARの国連総会への報告書は、純粋に科学的な知見に関する国際的な合意」(注3)という主張を読むと、「中間取りまとめ」の内容に反映されているのではないかと思われる。

環境省は、そのような専門家たちが「我々の評価もWHOとUNSCEARの報告書内容と同様である」という理由でまとめた趣旨を、「当面の施策の方向性(案)」の根拠として、パブコメを募っている。だが、これほど多くの問題をはらんだとりまとめを元に国の施策を決めては、本末転倒である。そのような施策に、血税による貴重な国家予算を浪費してはならない。

「市民委員会」は、法の趣旨に沿った議論を行わず健診や医療支援を先延ばしするのは、許しがたい「行政の不作為」だとも訴える。その結果子どもたちの健康被害が拡大した場合、会議運営の責任者として、事務局の環境省や官僚個人の法的責任が問われることも警告している。

環境省は「子ども・被災者支援法」の原点に立ち、「専門家会議」から早急に見直すべきということを、強調して訴えたい。


注1)「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」2012年6月27日議員立法で成立

注2)UNSCEARが2014年4月に公表した報告書「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」 
4月24日の第5回専門家会議は、その大半を(独)放射線医学総合研究所の酒井一夫放射線防護研究センター長による報告書説明に費やした。
欧州では既に2013年10月国連総会に提出された年次報告書の段階で、批判報道があった。

注3)「週刊医学のあゆみ」2011年12月3日239巻10号「原発事故の健康リスクとリスク・コミュニケーション」


以下、環境省パブコメ関連情報も付記します。

FoE Japanのコメント趣旨

【全般】福島県県民健康調査の結果について、とりわけ甲状腺がんの転移などの
深刻な症例が多いこと、2巡目で前回問題なかった子どもたち4人が甲状腺がん
疑いとされたことについて、省庁横断的に徹底的に分析・検討を行うべきである。
また、甲状腺検査の受診率の低下(80.7%⇒37%)に対処するため、受診を呼び
かけるための広報活動、受診者への丁寧な説明を徹底するなどの対策を行うべき。

【(2)および(4)】放射線被ばくに対応した健診の対象を、少なくとも福島県外の
汚染状況重点調査地域にも拡大すべきである。

【全般】甲状腺がん以外の癌や、非がん疾患について検討していない。しかし、
チェルノブイリ原発事故後には、放射線被ばくによる多岐にわたる健康影響が報
告されている。現在、福島県内ですら、被ばくに対応した健診は避難区域の住民
にしか実施されていないが、これを拡大すべき。幅広い疾患を視野に入れた健診
を実施すべきである。

【全般】子ども・被災者支援法第13条第2項(一定の線量以上の地域の住民の健
診の実施)、第3項(医療費の減免)を早急に具体化するべきである。

【(3)】福島県県民健康調査は、個々人の健康被害の未然防止を主たる目的とし、
疫学調査は二次的なものとすべきである。

【全般】施策のとりまとめにあたり、被害当事者の聞き取りをしておらず、その
ニーズを踏まえていない。聞き取りを実施すべきである。

【全般】専門家会議の「中間取りまとめ」は、福島県県民健康調査において明ら
かになってきている甲状腺がんの深刻な状況についての分析を行っていない、原
爆被爆者の調査やチェルノブイリ原発事故の被ばく者などを対象とした多くの研
究結果を踏まえていないなど多くの問題がある。全面的に見直すべきである。

【全般】誤ったリスク・コミュニケーションをやめること。

【全般】実質的な被ばく低減策を行うこと。

【全般】公聴会を開催すること。寄せられたパブリック・コメントについて、公
の場で審議を行うこと。

※関連記事
環境省がパブコメ募集中:福島原発事故に伴う健康管理…ポイントをまとめまし
た(締切は1月21日!)



※自治体も!
千葉県の野田市と柏市が環境省の「当面の施策の方向性」にパブコメを送付し、
サイトに掲載しています。

<柏市>
http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/080800/p021750.html
<野田市>
http://www.city.noda.chiba.jp/osirase/youbou.html#anchor6