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『BJ』 5 直家エル
眼下に闇に沈む都会が広がっている。
新宿高層ビルの55階。
すべての席が窓際に並ぶバーの片隅。
店の中は極端に照明を落としている。
女が物憂げにつぶやく。
「夜景がきれいね」
「昼間の雑踏が見えないからな」
「暗闇が汚いものをすべて隠してくれるというわけね」
「雪と同じか」
「白で隠すか、黒で隠すかの違い」
「俺は黒のほうがいい。でも闇が綺麗なわけじゃない」
「私も闇のほうがいいわ。雪は綺麗に消えてくれない。闇は綺麗に消えるわ」
二人とも、5秒間沈黙する。
「安っぽいテレビドラマの会話だな」
「ここらへんで、『少し酔ったみたい』とでも言えばいいのかしら」
「酔うようには見えない」
「酷いこと言うのね。私だって雰囲気に酔うことはあるわ。幸い薄暗くて顔もよく見えないし」
「酷いこと言うんだな。俺だって・・・」
「いつも酔っ払っているんでしょ。わざと最初に『夜景がきれいね』なんて言ってみたのよ。普通、そんな台詞は言わないわ。反応を見ただけ」
「俺は実験動物か」
「そう、酔っ払いの生体実験。でも、よく新宿の雑踏で私を見つけたわね」
「偶然の察知だ」
「なにそれ」
「いや、なんでもない」 Aジェントの悪い癖がうつったようだ。
本当は君が喧騒の中の静寂だったからだ。口には出さなかった。
中央線沿線なら、偶然に新宿で逢う確率は、浅草で逢う確率よりは高いかもしれない。
しかし、この東京で偶然に逢うなどということはめったに無い。
“偶然の立地”も“偶然の筆致”もあったのだから、偶然の出逢いもあるのだろう。
それにしても、まさか先日事務所に来た女に逢うとは思いもよらなかった。
風花美月。知っているのは名前だけだ。それなのにグラスを傾けている。
「ところで、5年前の死体は見つかったのか」
「死体じゃないわ。死に体かもしれないけど、生きてはいる。ただこの地球上のどこかで、ということだけど」
「諦めが悪いということか」
「しがらみが悪いということよ」
女は夜景から視線をそらすと、真っ直ぐに私を見据えた。
「藁をつかんでみようかしら」
「藁の品評会をやっていたわけだ」
「この都会で溺れかけているから」
「俺は、長い間、底に沈んだままだぜ」
「なぜ浮いてこないの」
「しがらみが悪いということだ」
「貴方が言うと、『死、がらみ』に聞こえるわ」
「俺は、殺人課のデカじゃない」
「人事課の部下でもない」
「まさかそれ駄洒落じゃないだろうな」
「いっしょにいると、うつることもあるのよ」
「俺は伝染病患者か」
「これ以上うつりたくないから、そろそろ闇に消えるわ」 といいながらも、席を立つ気配はない。
二人とも、7秒間沈黙する。
「今夜はこれからどうするんだ。この上の階に部屋をとっ」
バチッ! 薄暗い店内に火花を見た。左頬が痺れる。
最後まで言い終わらないうちに強烈なビンタが飛んできた。この俺が避ける間もなかった。
女はバックをつかむと、何も言わず悠然と店を出て行った。
また仕事を逃してしまった。妹が事務所を訪ねてきたことも言いそびれた。
つまらないジョークだった。
この階がビルの最上階なのだ。ましてや、このビルにホテルは入っていない。
偶然の一致はあるが、“偶然の○○○”はない。
<寒>
眼下に闇に沈む都会が広がっている。
新宿高層ビルの55階。
すべての席が窓際に並ぶバーの片隅。
店の中は極端に照明を落としている。
女が物憂げにつぶやく。
「夜景がきれいね」
「昼間の雑踏が見えないからな」
「暗闇が汚いものをすべて隠してくれるというわけね」
「雪と同じか」
「白で隠すか、黒で隠すかの違い」
「俺は黒のほうがいい。でも闇が綺麗なわけじゃない」
「私も闇のほうがいいわ。雪は綺麗に消えてくれない。闇は綺麗に消えるわ」
二人とも、5秒間沈黙する。
「安っぽいテレビドラマの会話だな」
「ここらへんで、『少し酔ったみたい』とでも言えばいいのかしら」
「酔うようには見えない」
「酷いこと言うのね。私だって雰囲気に酔うことはあるわ。幸い薄暗くて顔もよく見えないし」
「酷いこと言うんだな。俺だって・・・」
「いつも酔っ払っているんでしょ。わざと最初に『夜景がきれいね』なんて言ってみたのよ。普通、そんな台詞は言わないわ。反応を見ただけ」
「俺は実験動物か」
「そう、酔っ払いの生体実験。でも、よく新宿の雑踏で私を見つけたわね」
「偶然の察知だ」
「なにそれ」
「いや、なんでもない」 Aジェントの悪い癖がうつったようだ。
本当は君が喧騒の中の静寂だったからだ。口には出さなかった。
中央線沿線なら、偶然に新宿で逢う確率は、浅草で逢う確率よりは高いかもしれない。
しかし、この東京で偶然に逢うなどということはめったに無い。
“偶然の立地”も“偶然の筆致”もあったのだから、偶然の出逢いもあるのだろう。
それにしても、まさか先日事務所に来た女に逢うとは思いもよらなかった。
風花美月。知っているのは名前だけだ。それなのにグラスを傾けている。
「ところで、5年前の死体は見つかったのか」
「死体じゃないわ。死に体かもしれないけど、生きてはいる。ただこの地球上のどこかで、ということだけど」
「諦めが悪いということか」
「しがらみが悪いということよ」
女は夜景から視線をそらすと、真っ直ぐに私を見据えた。
「藁をつかんでみようかしら」
「藁の品評会をやっていたわけだ」
「この都会で溺れかけているから」
「俺は、長い間、底に沈んだままだぜ」
「なぜ浮いてこないの」
「しがらみが悪いということだ」
「貴方が言うと、『死、がらみ』に聞こえるわ」
「俺は、殺人課のデカじゃない」
「人事課の部下でもない」
「まさかそれ駄洒落じゃないだろうな」
「いっしょにいると、うつることもあるのよ」
「俺は伝染病患者か」
「これ以上うつりたくないから、そろそろ闇に消えるわ」 といいながらも、席を立つ気配はない。
二人とも、7秒間沈黙する。
「今夜はこれからどうするんだ。この上の階に部屋をとっ」
バチッ! 薄暗い店内に火花を見た。左頬が痺れる。
最後まで言い終わらないうちに強烈なビンタが飛んできた。この俺が避ける間もなかった。
女はバックをつかむと、何も言わず悠然と店を出て行った。
また仕事を逃してしまった。妹が事務所を訪ねてきたことも言いそびれた。
つまらないジョークだった。
この階がビルの最上階なのだ。ましてや、このビルにホテルは入っていない。
偶然の一致はあるが、“偶然の○○○”はない。
<寒>
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/bb/a7bd736462daed0fded402c64cd02b0f.jpg)
札幌は一番高くても40階までらしい。それこそ天にも昇る気分?
上の階とは、天上のことかいな
Aジェントの悪い癖>>偶然の察知?
これが関西なまりになると、フツーに漫才になる。
脳内変換で楽しませてもらいました
→安っぽいテレビドラマの会話やんけ。
>→安っぽいテレビドラマの会話やんけ。
「しょーもないテレビドラマの会話やないけ。」 「ここらで、『ちょびっと酔うたみたい』とでも言うたらよかったんかいな」
「じぶん酔うようなたまか」
「ほっといてんか。うちかって雰囲気に酔うことはあるわ。幸い薄暗うて顔もよう見えへんし」
「ほっとけや。わいかって・・・」
と続きます
「つまらんテレビの会話やなかね」
「ここら辺で「ちーとよーたごたる」っていうたらよかったとね」
「あんたようごたるおなごね」
人のブログで遊ぶな
アラブ首長国連邦ドバイ──潤沢なオイルマネーで繁栄するアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国で、建設中の高層ビル「ブルジ・ドバイ」の高さが512メートルに達し、台湾の「台北101」を抜いて世界一になった。
ブルジ・ドバイは来年完成予定だが、最終的な高さは今のところ約700メートル余り
完成後はエレベーター56基を備えた160階以上の超高層ビルとなり・・・
ホントの話です
駄洒落です。しかし、これは小説の中の話で、
実在の人物とは全く関係ありません。
実在のAジェントは、行く先々で事件が起こり、
それでも巻き込まれることは無く、
やはり偶然の察知でしょうか。あるいは事前に・・・