60.軍国主義の排除
日本が受諾した「ポツダム宣言」の第6項は次のように書かれてあった。
6、吾等は世界から無責任な軍国主義が駆逐されるまでは、平和、安全、正義の新秩序は実現不可能であると主張する。
故に、日本の人民を欺き、誤らせ世界征服に赴かせた、影響力及び権威・権力は永久に排除されなければならないのである。
また昭和20年9月22日にアメリカ政府が「降伏後におけるアメリカの初期対日方針」を発表し、その中の第一部「究極の目的」を達成するための主要な手段の一つとして「軍国主義者の権力と軍国主義の影響力は日本の政治・経済及び社会生活により一掃されなければならない」とし、また第三部「政治」と第四部「経済」の中でそれぞれ「軍国主義的又は極端な国家主義的指導者の追放」を規定していた。
第1部 最終目的
・・・略・・・
これらの目的は以下の主要な手段によって達成される。
・・・略・・・
(b) 日本は完全に武装解除され、非軍事化される。軍国主義者の権威および軍国主義の影響は、日本の政治、経済、および社会生活から完全に排除される。軍国主義および侵略の精神を表明する機関は、厳しく抑圧される。
(以下略)
昭和20年10月4日、GHQは「政治的、公民的及び宗教的自由に対する制限の撤廃に関する覚書」(俗称:人権指令)(scapin-93)で警察首脳陣と特高警察官吏の追放を指令した。
続いて10月22日に「日本の教育制度に対する管理政策に関する覚書」(scapin-178)、10月30日に「教職員の調査、除外、認可に関する覚書」(scapin-212)を発令し、軍国主義的又は極端な国家主義的な教職員の追放を指令した。
さらに、昭21年(1946年)1月4日付けで、「公務従事に適せざる者の公職からの除去に関する覚書」(scapin-550)(公職追放)により「公職に好ましくない者」を追放することとなった。
60.1.人権指令(scapin-93)
「政治的、社会的及宗教的自由に対する制限の撤廃に関する覚書」(人権指令)
GHQは昭和20年(1945年)10月4日、「政治的、社会的及び宗教的自由に対する制限の撤廃に関する覚書」を発令した。俗称は「人権指令」。
GHQは人権確保のため、治安維持法・宗教団体法など15の法律の廃止または効力の停止、政治犯・思想犯の釈放、特高警察の解体とその幹部(内務大臣を含む)の罷免を日本政府に求めた。
これに対し当時の東久邇内閣は対応できないとして総辞職したため、次の幣原内閣がこの実行にあたった。
東久邇宮と緒方竹虎は「人権指令」の対応を協議し、GHQの指令の不合理に対する抗議の意思を明らかにするために辞職するとの結論に至り、人権指令が発令された翌5日に内閣総辞職した。
東久邇宮内閣は成立以来、政府は連合国軍の進駐や降伏文書への調印など、短期間のうちに重要な課題を処理し続けていた。
そこへ人権指令という難しい課題が出され、政府は対応しきれなくなり、東久邇宮稔彦王は苦慮の末、内閣総辞職を決意した。
内閣成立からわずか54日後のことだった。
<scapin-93 一部>
人権指令の内容については、既述(望洋−74(人権指令))しているので、ここでは省略する。
60.2.教職制度に関する指令
60.2.1.(scapin-178)
「日本の教育制度に対する管理政策に関する覚書」
GHQは昭和20年(1945年)10月22日に、「日本教育制度ニ対スル管理政策」(SCAPIN-178)を出し、学校の教育内容から軍国主義、超国家主義を廃し、民主教育の確立を奨励した。
<scapin-178 一部>
OFFICE OF THE SUPREME COMMANDER FOR THE ALLIED POWERS
AG 350 (22 Oct 45) CIE 22 October 1945
(SCAPIN-178)
MEMORANDUM FOR : IMPERIAL JAPANESE GOVERNMENT.
THROUGH: Central Liaison Office, Tokyo.
SUBJECT: Administration of the Educational System of Japan.
1. In order that the newly formed Cabinet of the Imperial Japanese Government shall be fully informed of the objectives and policies of the occupation with regard to Education, it is hereby directed that:
a. The content of all instruction will be critically examined, revised, and controlled in accordance with the following policies.
(以下略)
<和文>
1. 日本帝国政府の新設内閣が教育に関する占領国の目的と政策を十分に理解できるように、ここに次のことを指示する。
a. すべての教育内容は、次の方針に従って批判的に検討、改訂、管理される。
(1) 軍国主義的および超国家主義的イデオロギーの流布は禁止され、すべての軍事教育および訓練は中止される。
(2) 代議制政府、国際平和、個人の尊厳、集会、言論、宗教の自由などの基本的人権と調和した概念の教え込みと実践の確立が奨励される。
b.すべての教育機関の職員は、以下の方針に従って調査、承認または解任、復職、任命、再指導、および監督されるものとする。
(1) 教師および教育関係者はできる限り速やかに審査され、すべての職業軍人、軍国主義および超国家主義の積極的な推進者、および占領政策に積極的に敵対する者は解任されるものとする。
(2) 自由主義的または反軍国主義的な意見または活動を理由に解雇、停職、または辞職を強いられた教師および教育関係者は、直ちに再任の資格があると宣言され、適切な資格を有する場合は再任において優先権が与えられるものとする。
(3) 人種、国籍、信条、政治的意見、または社会的地位を理由とする学生、教師、または教育関係者に対する差別は禁止され、そのような差別から生じた不公平を是正するための措置が直ちに講じられるものとする。
(4) 学生、教師、教育関係者は、教育内容を批判的かつ知的に評価するよう奨励され、政治的、市民的、宗教的自由に関わる問題について自由かつ制約のない討論に参加することが認められる。
(5) 学生、教師、教育関係者、一般大衆は、占領の目的と政策、代議制政府の理論と実践、軍国主義指導者、その積極的協力者、そして受動的黙認によって国家を戦争に引き入れ、必然的な結果として敗北、苦難、そして日本国民の現在の悲惨な状態をもたらした人々の果たした役割について知らされる。
c. 教育過程の手段は、以下の方針に従って批判的に検討、改訂、管理される。
(1)緊急時に一時的に使用が認められる既存のカリキュラム、教科書、指導書、教材は、できる限り速やかに検討し、軍国主義的あるいは超国家主義的イデオロギーを助長する部分は排除する。
(2)教養があり、平和的で責任感のある国民を育成することを目的とした新たなカリキュラム、教科書、指導書、教材を作成し、できる限り速やかに既存の教材と置き換える。
(3)通常通り機能する教育制度をできる限り速やかに再建するが、設備が限られている場合には、初等教育と教員養成を優先する。
2.日本国文部省は、連合国最高司令官府の適切なスタッフ部門と十分な連絡関係を確立し、これを維持し、要請があれば、本指令の規定に従うために講じられたすべての措置を詳細に記述した報告書を提出する。
3. この指令の条項に影響を受ける日本政府のすべての公務員および部下、ならびに公的および私的を問わずすべての教師および学校関係者は、この指令で表明された政策の精神と文面を遵守することについて個人的に責任を負うものとする。
60.2.2.(scapin-212)
「教職員の調査、精選、資格決定に関する覚書」
GHQは「日本の教育制度に対する管理政策に関する覚書」(SCAPIN-178)を10月22日に発令した。
この指令を厳格に実施させるために、10月30日に、「教職員の調査、除外、認可に関する覚書」(SCAPIN-212)を発令した。
この覚書では、
軍国主義、過激な国家主義、連合国の日本占領の政策等に反対している全ての者は即刻排除すること。
戦闘の終結以降に日本軍に所属または除隊した者は、今後通知があるまで、日本の教育制度に就任させてはならない。
などが示されていた。
<scapin-212 一部>
GENERAL HEADQUARTERS
SUPREME COMMANDER FOR THE ALLIED POWERS
AG 350 (30 Oct 45) CIE 30 October 1945
(SCAPIN-212)
MEMORANDUM FOR:THE IMPERIAL JAPANESE GOVERNMENT.
THROUGH:Central Liaison Office, Tokyo.
SUBJECT:Investigation, Screening, and Certification of Teachers and Educational Officials.
1. In order to eliminate from the educational system of Japan those militaristic and ultra-nationalistic influences which in the past have contributed to the defeat, war guilt, suffering, privation, and present deplorable state of the Japanese people; and in order to prevent the teachers and educational officials having military experience or affiliation; it is hereby directed that:
a. All persons who are known to be militaristic, ultra-nationalistic, or antagonistic to the objectives and policies of the occupation and who are at this time actively employed in the educational system of Japan, will be removed immediately and will be barred from occupying any position in the educational system of Japan.
b. All other persons now actively employed in the educational system of Japan will be permitted to retain their positions at the discretion of the Ministry of Education until further notice.
c. All persons who are members of or who have been demobilized from the Japanese military forces since the termination of hostilities, and who are not at this time actively employed in the educational system of Japan, will be barred from occupying any position in the educational system of Japan until further notice.
(以下略)
<和文>
1. 日本の教育制度から、過去に敗戦、戦争責任、苦しみ、窮乏、そして日本国民の現在の悲惨な状態の一因となった軍国主義的および超国家主義的影響を排除するため、また教師および教育関係者が軍事経験または軍事関係を持つことを防止するため、以下のことを指示する。
a. 軍国主義的、超国家主義的、または占領の目的および政策に敵対的であることが知られ、現在日本の教育制度で積極的に雇用されているすべての人物は、直ちに排除され、日本の教育制度におけるいかなる地位にも就くことが禁じられる。
b. 現在日本の教育制度で積極的に雇用されているその他のすべての人物は、文部省の裁量により、追って通知があるまでその地位を維持することが許可される。
c.戦闘の終結以降に日本軍に所属または除隊した者で、現時点で日本の教育制度で積極的に雇用されていない者は、追って通知があるまで、日本の教育制度におけるいかなる役職にも就くことを禁じられる。
2. 現在日本の教育制度で積極的に雇用されている者、または将来日本の教育制度で雇用の候補者となる可能性のある者のうち、誰が容認できず、日本の教育制度におけるいかなる役職にも就くことを解任、禁止、禁じられるべきかを判断するために、以下の指示を行う。
a. 日本の文部省は、すべての現職および将来の教師および教育関係者の効果的な調査、選考、認定のための適切な行政機関および手続きを確立する。
b. 日本の文部省は、この指令の規定に従うために講じられたすべての措置を記載した包括的な報告書を、できるだけ早くこの本部に提出する。この報告書には、さらに以下の具体的な情報が含まれる。
(1) 個人の適格性をどのように判断するかについての正確な記述、および個人の留任、解任、任命、または再任命を規定する特定の基準のリスト。
(2) 職員の調査、審査、および認定を行うために確立される管理手順と仕組みについての正確な記述、および不服申し立てされた決定の見直しと以前に認定を拒否された個人の再検討のためにどのような規定を設けるかについての記述。
3. この指令の条項の影響を受ける日本政府のすべての役人および部下、および公的および私的を問わずすべての学校関係者は、この指令で表明された方針の精神と文面を遵守することについて個人的に責任を負う。
(scapin-178)及び(scapin-212)を受けて、昭和21年(1946年)5月6日に勅令第263号「教職員の除去、就職禁止及び復職等の件」及び、文部省、農林省、運輸省から省令「教職員の除去、就職禁止及復職等の件」公布された。
これらの省令等で、不適格な教職員を除去するために行う「教職員適格審査」の具体的な内容、範囲、基準を示した。
<続く>