同窓会だより

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ユール・ブリンナーを覚えていますか?  〜 大林 浩 〜

2021-08-10 10:43:18 | 追憶
「タバコは止めましょう」という宣伝はよくテレビで見るが、最近或る有名人が出て語りかけていたので、連想的に思い出したことがある。

それは、1985年の夏のことである。当時まだ大学生であった娘と我々夫婦と三人でニューヨークへ、ブロードウェイ・ミュージカルを見に行った。1956年に映画化されて大ヒットした、「王様と私」(King and I)という物語を舞台でやるミュージカルである。映画でもそうであったように、その中の数々の曲やダンスがとても美しいので、楽しみにして出かけた。

・・・と言うよりは、むしろ、1956年映画の主演、ユール・ブリンナー自身が、85年のその舞台に登場していたからである。ユール・ブリンナーはあの坊主頭と凛々しく男性的な顔でハリウッドを魅了していたが、その頃はニューヨークに住んでいたらしい。なぜ「タバコは止めましょう」とそれが連想的に結びつくのかといえば、ユール・ブリンナー自身がその頃テレビでそう訴えていたからである。

映画と比べると舞台では景色や王宮などの背景は限られるが、歌や踊りはダイナミックであった。映画の方では、ユール・ブリンナーは、共演のデボラ・カーと躍動的に踊っているが、三十年近く後のブロードウェイの舞台では、何十人のダンサーたちが踊るのを眺めて、仁王立ちに立っているだけであった。

というのは、彼自身がタバコからの肺癌末期であったからである。その時点では、もう踊るどころか、動くことさえできなかった。あの大きな舞台の一角に彼は突っ立っているだけであった。我々が見に行ったブロードウェイから数ヶ月経たぬうちに彼は他界した。恐らく病気で苦しかったであろうに、それを舞台化粧でかくしていたのか、遠く観客席からは、映画で見た彼と余り変わりはなかったし、彼が舞台に現れると観客席は大きくどよめき、彼の厳然とした立ち姿には大きく存在感を感じさせるものがあった。

あれからもう三十六年にもなるんだな。

大林 浩