Crónica de los mudos

現代スペイン語圏文学の最新情報
スペイン・米国・ラテンアメリカ
小説からグラフィックノベルまで

クリスティアン・ラクス『セルバンテスとかいう男』

2019-02-18 | グラフィックノベル

 スペイン・アマゾンでときたま20冊くらいまとめ買いをするとき、グラフィックノベルはわりとテキトーに買い物かごに放り込んでいく。届いてみたら「そんなはずでは…」が再三。今回もセルバンテスなのでてっきりスペインと思いきや(作者の名前を見て気づけよ、と一か月前の自分に言い聞かせたい)、フランス人がアメリカを舞台に描いたバンドデシネのスペイン語訳だった。ノルマはスペインコミックという枠を設けずすべて「ヨーロッパコミック」としているので紛らわしい。

 しかも読みにくい手書きの文字。どうしても前のめりになり、サテンではいわゆる「漫画オタク」みたいな感じになっているのだと思います。

 主人公は米兵マイク・セルヴァンテス。

 アフガニスタンで左手を失い、帰国後はさえない独り暮らしをしていたが、甥とかかわるうちに資本主義体制のありかたに不満を抱くようになり銀行に押し込みをはかり(ATMをぶっ壊しただけですけど)懲役刑に。服役中に読みだした自分と同名のセルバンテス作『ドンキホーテ』の主人公や、セルバンテスという人物そのものに興味を抱くようになり、出所後は図書館に勤めるが、そこでも揉めて本を盗んでカリフォルニアの砂漠へ逃避行に出る。そこで南の国境からさ迷いこんできたクスコ出身のペルー人トランキージョ君を拾う。すっかりドンキホーテになり切っているマイクは彼をサンチョと命名する…。

 いわゆる帰還兵もの(アメリカの20世紀後半ってこればっかり、よほど戦争ばっかしてるってことですよね)にセルバンテスの生涯を重ねた不思議な味わいのロードノベルだった。実際、レパントの海戦で左腕を怪我し、アルジェリアで虜囚生活を送った末、ままならない後半生を送ったセルバンテスの話も並行して描かれ、途中からマイクはセルバンテスを幻視し、語りかけるようになる。

 絵はシャープで、物語自体もそう悪くはないのだけれど、なんというのでしょうか、よく世の中でいうところの「下手うま」の逆、いわば「うま下手」とでも言いましょうか、これはリアリズム系のグラフィックノベル全般に言えることなのだが、上品すぎて深みがないと言いますか、絵のうますぎる劇画を読まされている気分、と言いますか。説明しにくいけれど、日本のコミック環境があらかじめ高度過ぎるせいで私たちの採点基準が辛すぎるのかもしれない。

 ところで、マイクの会っては別れの繰り返しみたいな人生、ふつうは挫折に次ぐ挫折とか同情されたりするのだけれど、実際に自分でもやってみると、相手がひとりであろうが百人であろうが同じ人間といつまでも付き合い続けている人生がむしろ超自然の驚異に見えてきますよ。いや、ほんと。

Christian Lax, Un tal Cervantes. Traducción de Nuria Viver, 2018, Norma, pp.204.

コメント    この記事についてブログを書く
« ラウル・スリータ「その消え... | トップ | マリナ・コチェー、フアン・... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。