その測量事務所は
札幌市東区北43条東1丁目、創成川に並走する国道231号沿いにありました。
職安で紹介された地図で導かれたその事務所は、古ぼけた普通の平屋(借家)でした。
リクルートスーツ姿の僕は一瞬ためらい、地図を再確認します。
「・・えーっ!・・ここが会社なのか??・・・」
そう思わざるを得ない印象でした。
しかし、
この、いまにも吹き飛びそうな事務所がそれまでの甘腐った僕をリセットし、
見ちがえるほど素晴らしい人生にしてくれるとは・・・

(富良野岳の砂防調査測量にて・・・)
職安で見つけた、北海道でのはじめての仕事は
「測量助手 日給6500円 正社員雇用のチャンス有り」でした。
チャライ僕を見て、職安のおっちゃんが言います。
「測量って難しい試験があるんだぞ、がんばって獲ることだ」
「そうすりゃ、どこでも働けるぞ・・・」
当時の僕は、ホワイトカラーのコンピュータ会社を「つまんねー」理由で自主退職し、
「とりあえず、なんとかなるら~」とヘラヘラ考えちゃう、
世間知らずの、ハウス栽培育ちの軟弱な内地者でした。
「測量」って何するヒトなのかもしらぬまま、
「山や河で、望遠鏡を覗いてるヒトじゃないか?」
「山や河で仕事なんていいじゃーん!!」
・・・・あらたな人生のはじまりはこんな程度でした・・・

(羊蹄山のふもと真狩村にて石岡さんと・・・)

(雪のなかの測量観測・・・)
(有)西岡測量設計事務所の第一印象は・・・最悪でした。
呼び鈴もなかったため、薄い合板のドアをノックします。
「・・・」返事がないのでそのまま中へ・・・
「こんにちはぁ・・・面接をお願いしたkendoですぅ・・・」
夕方の射光で、狭い室内にタバコの煙が充満しているのがわかります。
「おう、きたか・・・、あがって、そこに座れ・・・」
タバコをふかしながら振り向きもせずに、社長が言います。
そのとなりには、さらに年配の親方風の方がタバコを吸いながら
机で図面を描いています。
社長: 「履歴書はもってきたか・・・どれ、みせてみれ・・」
あいさつもそこそこに、社長がいいました。
社長: 「・・・無資格、無経験で内地者かい・・・」
「・・・20数歳でこれか・・・もうぜんぜん遅いんだわ、この業界じゃ・・・」
「・・・しかも、内地からなんでまたこんなところに・・・
・・オマエ、なにか悪いことでもして逃げてきたんじゃねーべな!」
僕 : 「・・・」
親方がタバコをくゆらせながら言いだしました。
親方: 「オイオイ・・・またオレが面倒みるのかい?!またすぐやめちゃうってよー!!」
社長: 「まあ、それならそれでしょうがないべ・・・
でも、人手がないし、ちょっとコイツで様子みてみないかい?」
親方: 「・・・」 「まあ、荷物持ちくらいにはなるべか・・・」
「でも、使えなかったらすぐやめさせちゃっからな!」
リクルートスーツでカシコまった僕の目の前で、
タバコを切らすことなく吸いながら、
社長と親方が僕の存在を無視するかのごとく会話しています。
突然、社長が僕にむかっていいました。
社長: 「おまえ、ホントにやる気あんのか?この仕事、キツイど・・・」
僕 : 「ハイ、やってみたいんです。ぜひやらせてください!!
測量の勉強もします! お願いします!!!」
社長: 「・・・・」
「よし、じゃー、何君だったか、とりあえず使ってみるから、
明日の朝7:00にここに来い。親方の○○さんだ。一緒についてけ」
社長: 「ただし、とりあえず2週間ほど様子をみるからな。
それで使い物にならないようならやめてもらうし、
途中で逃げたりしたら日当も払わんからな!」
僕 : 「ハイ、わかりました!!よろしくお願いします!!!」
親方からはなんの応答もなく、タバコをふかしながら図面の続きを描き出していました。
僕が、恐る恐る聞きます。
僕 : 「あのぉ~・・・社会保険とか福利厚生は・・・」
社長: 「なにいってるべやー!!!!どこの馬の骨かわからんヤツに
そんなの払うわけネーべや!!」
「しばらく様子をみてからだ!!」
「オマエが使えるようなら考える!!!そんなこといまから言うな!!!」
僕 : 「ハイぃぃー!!!スイマセンでした!!!!!!」
これが僕の、第2の人生、
測量・土木人生のスタートでした・・・

(厚田郡厚田村にて・・・)

(虻田郡倶知安町の路線測量にて)
・・・つづく・・・