泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

敬愛なるベートーヴェン

2006-12-18 22:26:46 | 映画
 一緒に観に行った人は、「疲れた」と連発していましたが、僕はおもしろくて、二時間があっという間でした。
 これから「第九」の季節になりますが、その誕生の舞台裏とも言うべき姿が、製作者の想像があるにせよ、描かれています。
 観ていておもしろかったのは、ベートーヴェンの生が(これもおそらくとしか言いようがありませんが)、その人間性が浮き彫りにされているからです。アパートに一人で住んでいて、裸になり、気持ちよく水浴びをし、流れ落ちた水が階下の食卓を台無しにし、止めろ、いい加減にしろという苦情、叫びにも関わらず、都合の悪いことは聞こえずに続ける彼。音楽の才能があると勝手に思い込んでいる溺愛する(それはさびしさの裏返しなのですが)甥が、実はギャンブルに身を落とし、彼の金庫から金を抜き取っていて、それを知っていながら止められない彼。難聴を補うために、薄い金属板を襟を立てるように頭の後ろに巻きつけ、作曲に没頭する彼。音楽は魂に働くものであって、その調べは神からのメッセージであり、それを聴き取るには沈黙が必要であって、耳が不自由になったからこそその真実に気づけたのだと語る彼。公演の前に、指揮できるだろうかと不安にさいなまれる彼。
 確かに彼は気難しく、人を馬鹿にする傾向もあった。そのために、彼を嫌い、恨む人もいた。でも、作り出した音楽は、確かに本物で、新曲を聴きたいがために、彼の隣室に住む人もいた。彼の音楽の真実味は、時代を超えて今でも生きていることが証明している。
 音楽とは、人間の持つ、言葉にならない世界の調べ、生命の神秘とも言えるのかもしれません。そこから発しているものは、聴くものの生を励ます。それが本当の芸術なのでしょう。
 このブログ、「泉を聴く」も、目的としては同じです。そこにあるけれどもつかみづらい、魂の栄養とも言うべきもの探索記として機能させたい。その試みの有効性は、私によって、これを読む人によって、その人の生活の中において実証されるのでしょう。

アニエスカ・ホランド監督 エド・ハリス/ダイアン・クリガー出演

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5 コメント

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Unknown (チル)
2006-12-22 00:16:18
 「敬愛なるベートーベン」を見てきました。
最近、浄瑠璃を見る機会があったのですが、義太夫が口ひとつでいろいろな感情表現をするには「無の心になる」ことが必要で、最後は人間性が出るとのこと。ベートーベンのいう「沈黙」はこの「無」と、道教の「空」にもつながるのかなぁ・・・と。
 哲学者菊田の解説をお願いします。

 それにしても、ベートーベンとアンナの関係、アンナの生き方に感動しました。
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沈黙 (きくた)
2006-12-23 01:26:03
「沈黙」って何でしょう?
僕にとっては、詩が生まれる瞬間を「沈黙」と言えるのかもしれない。
そのときは、ほんとに孤独です。この世に私しかいないんじゃないかと感じられる。いや、私は消えているのかもしれない。でも、だからこそ孤独から発した言葉は、信頼できる。
人が変わる(成長する)ときも、自力では決してないのだけれど、まったく一人のとき、それが起こります。逆説的でわかりずらいんだけど、確かにそう。
沈黙とは何か、語りつくせませんが、それと孤独は密接につながっているように思います。一人ぼっちになり切れるかが大切なような気がしています。
ちなみに私は哲学者じゃありませんよ。文学者ではありたいけれども。
さらに加えると、アンナは架空の人物だそうです。私はそこに、映画製作者の真心を見ました。
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Unknown (チル)
2006-12-23 13:47:21
アンナは架空の人物なのですか。
音楽の教科書に載っている険しい表情のベートーベンの顔が、ふと思い浮かんできました。

私の周囲には今まで「哲学を勉強した人」はいなかったので哲学を勉強した人は、哲学者だと勝手に思わせてください。
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ご自由に! (きくた)
2006-12-23 21:39:45
「哲学を勉強した人」
う~ん、ぴんとこない。
「哲学にはまった人」、「哲学をやらざるを得なかった人」、「哲学に落ちた人」、「気づいたら哲学だった人」、「哲学に助けられた人」、「哲学科しか入れるところのなかった人」・・・???、なら、納得するのですが。
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Unknown (チル)
2006-12-24 20:12:15
ご謙遜ばっかり・・・・・・・・・・。
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