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泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

井上ひさし ベスト・エッセイ

2019-10-24 17:31:34 | 読書

 青森旅行のお供に、また仙台一泊にも持っていこうと思っていた本。
 編者のユリさんは、井上ひさしさんの奥様。
 後書きで書かれていたけど、ベスト・エッセイとして選んだけれど、どれも面白いと。
 確かにそう。エッセイを読むと、書いた人もまた人間なんだなあと実感できる。
 若くに父を失い、奮闘する母の姿。薬局を継ぎ、薬局で本も売り、それがうまくいかなくなると女性の生理用品の製造、販売を手掛ける。
 それも行き詰まると屋台。次は土木工事の請負、井上組を立ち上げる。
 ひさし少年は、サーカスに憧れていた。東北各地を転々とする生活が嫌で、サーカスの団員になりたいと思った。
 家出しようと荷物をまとめていると、弟が抱きついて止めた。「手は、心を抱き締めるためにある」と知った。
 緘黙(かんもく)症(発話が滞ること)になったこともあった。転校が多く、方言の違いを飲み込めず。また、母のことでいじられもし。
 青年時代には、ストリップ劇場の文芸部で働く。寸劇の台本を書いていた。
 またNHKにひと月住み込んでいた時もあった。無断で。
 創作者に憧れ続け、本を愛し続けた。
 私にとって、井上ひさしさんは特別なのだと気づきもした。
 生まれて初めて、生の小説家を見たのは井上さんだった。
 仙台で、大学生のときアルバイトしていたホテルのレストランに、井上さんは来た。
 私がたまたま井上さんの注文したカニピラフを届けた。
 何の会話もしていない。向こうは私の存在など目にも入っていなかったかもしれない。
 何の集いだったのかわかりませんが、女性陣に囲まれていらっしゃった。
 厨房には、あの色紙が。
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに、書く」
 そのホテルはもうない。でも、私を作る大切な記憶となっている。書くときの標語にも。
 山形の置賜(おきたま)盆地産だった。そこには一度、友人を尋ねて行ったことがあるので、一層親しみも増した。
 言葉について。日本語のこと。意味よりリズムや感覚を伝えるオノマトペの大事さ。
 また、様々な悪態の効用。接続詞を使わなくなった現代への危惧、などなど。
 やっぱり、大きな人だ。
 大きな人にも、下積み生活があった。
 最初から大きな人はいない。

 井上ひさし 著/井上ユリ 編/ちくま文庫/2019

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