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デラシネ魂

ジャンルよろずな二次小説サイトです。
ネタバレ満載、ご注意を。

がらんどうの中に

2008-08-29 | ラタトスク小説
◇ED後捏造。ファンタジアのクレスとラタさんが出会ったら、な話。


ひらり、ひらりと。
紅の蝶が舞う。

「樹を…穢さないで…!」

悲痛な声が耳を貫いた。
迷い込んだ森の中、辿り着いたのは今にも朽ちようとしている、大木。
かつては瑞々しい緑の腕を広げていたであろうそこには、枯れてしまった茶色い葉が、わずかに揺れるだけで。

「…あ…!」

ふわり、と紅の蝶が視界を横切ったかと思うと。
その幹に寄りかかるようにして座っている少年の肩にとまる。
疲れて、眠ってしまったんだろうか。
村では見ない顔だけど、このまま放っておくわけにもいかない。

「あの…、ッ!」

鋭い、踏み込みだった。
避けられたのは、奇跡と言っていいほどの。
だけど、無様に体勢を崩した今の自分では、次はきっと防げない。

瞬くことさえ出来ないこの目に焼きついたのは、緋色の瞳。
そして、彼の者と同じ彩を持つ――。

「エミル…」

泣きそうな顔で動きをとめてしまった、少年の傍らで。
慰めるように、そして諫めるように。
ひらりひらりと、その紅い蝶は舞う。

(お願い、助けてあげて)

頭の中に響く、優しい、こえ。
ああ、だから君は僕をここに連れて来たんだね。


◇オチがなくて申し訳ない。ロイドが儚くなった後、やっぱり世界にはマナが足りなくなって、扉を維持するのにはエミルを実体化させるマナも惜しいというか…。というわけでエミルはマナの消費の少ない(?)紅い蝶となってラタさんを微力ながら魔界の干渉から護っているのです。でもいよいよやばくなってきたので、クレスに助けを求めたとか。きっとクレスは小さい頃ロイドに会ったことがあったりして、んでいろいろあってラタさんの契約の指輪を持ってるんだよ!(ええー)

タイトルは(loca(ロカ)/冴空柚木さま)からお借りしました。

終わりの日の始まり

2008-08-29 | ラタトスク小説
◇リヒターとアステルさんの過去捏造。びっくりするほど短いです。


ごめんね、とそいつは言った。
人は、自分と異質なものを、そして優れているものを遠ざける生き物なんだ、と。

危険だ、と制する研究所の人間を無視して。
真っ白な白衣がうす汚れた床につくのを気にすることもなく。
跪いたそいつは、まっすぐに俺を見つめ、そして微笑んだ。

太陽のような金髪と、かつての豊かな世界を思わせる新緑の瞳。
俺は今まで、こんな綺麗なものを、見たことはなかった。


◇攻略本見たらアステルさんとリヒターの出会いとか気になるわけですが…!だって「自分にとって何者にも代え難い存在」とか、どんだけアステルのこと好きなのかと!(笑)アンケートで素敵な歌を教えてもらったのですが、その2番がかざる的にはアステル→リヒターの語り掛けに思えてしょうがないのですよ…!一応歌詞は隠しておきますねv

白くて柔らかい翼をはためかせよう 信じればどこへでも飛んでゆけるんだから
怖がることなんて なんにもないよ 小さな 大事な願いは 
ぼくが必ず 叶えてあげる


自分なりに妄想すると、ファーストコンタクトの後、アステルさんはリヒターを自由にしてあげる、と指きりげんまんで約束したと思うんですよね。日の光に当たってないし食料事情とかも悪そうだから、その当時はアステルさんより背も低くて痩せっぽちだったりしたら萌える。リヒターはそんなこと出来るわけないだろ馬鹿が、ってすげなく追い返すんですが、アステルさんは毎日会いに来て、ちょっと絆されかかったり。でもある時からぱったり来なくなって、どうしたんだろうと心配したり、やっぱりただの気まぐれだったんだ、と諦めてるところにアステルが大怪我した、という研究員の焦った声がきこえてくるわけです。

孤独と脆さと優しさで編み上げられてる 折れそうな体をずっと抱き締めていた

閉じ込められてるリヒターが自分からお見舞いに行くことは出来ないので、アステルさんはみんなが寝静まった夜にこっそりやってくるわけです。でもリヒターは背を向けて、声をかけても何も返してくれない。やっぱ怒ってるのかな、とアステルさんはどうしようかと迷うんですが、結構行き当たりばったりな人なので(笑)とりあえず、と抱きつくわけです。そしたらリヒターがぼろぼろ泣いてて「え、どうしたの?かなしいことでもあった?」とアステルさんはうろたえてみたり。リヒターはこんな危なっかしい奴ひとりにしておけない…と今までのことが嘘のように自由になることに貪欲になるのです。そして2年後、ふたりはラタトスクの元へと…。

やがて氷のように冷たいその右手は 僕らの白い鳥を解き放していく

最後にはリヒターは世界を元通り平和にする、というアステルさんの願いを叶えたんですが、それまでの紆余曲折をやっぱりアステルさんは見守ってくれてたんじゃないかな、と。なんか人外っぽいですし(酷っ!)

そしていつかこの長い長い時を越えて 誰も知らない二人の場所へ還ろう 

1000年後、転生してたアステルさんが待っててくれたらそれはそれで幸せなのですが、個人的にはふたりで空を翔ける風になって、この星を巡るのも良いかと思います。


タイトルは(loca(ロカ)/冴空柚木さま)からお借りしました。

はじめてのせかい

2008-08-29 | ラタトスク小説
◇某方の手書きブログのイラスト見て思わず走り書き…!
TOVのOP、エステル→アステル変換はすごい破壊力なんだぜ!(笑)あの衣装がまたなんともね…(←もう黙れ)


やくそくするよ。
いつかきっと、きみをじゆうにしてあげる。
ずっといっしょだって、そうしんじれば。
ぼくたちは、どこへだっていけるから。

「綺麗でしょ?」

風に揺れる太陽のような金髪と。
かつての豊かな世界を思わせる新緑の瞳。

初めて出会った時は、アステルの方が背は高かった。
白衣が汚れるのも構わず、床に跪いた、その体は。
あんなに大きく見えたのに。

「ああ…」

いつの間にか、自分は彼を追い越して。
その背中に隠れるのではなく、自分の背に庇うようになって。
それでも。

「君に、一番に見せたかったんだ」

白い衣が風をはらんで、まるで翼のように、ひろがっていく。
ハーフエルフの俺を、研究所から連れ出してくれた。
そして約束通り、世界を、見せてくれた。

つよくて、やさしい、ひと。

その時の俺はこんな幸せなときが続くと、信じていた。
アステルとふたり、どこへでも行けるのだと。
愚かにも、信じきっていたんだ。


◇まだ未来の悲劇を知らないふたり。リヒターは「じゆうにしてあげる」約束を叶えてくれたアステルさんに感謝しつつも、素直に伝えられなかったり。過去のギンヌンガガップは辛かった…!アステルさんはきっとすごく心残りだったろうなあ…。

それはやすらぎの

2008-07-26 | ラタトスク小説
*ED後捏造してます。苦手な方はご注意を!


綺麗なものに、自分は弱いのだ。
だから、なのかもしれない。

「こっちむけよ」

目の前の、どこか不機嫌そうな精霊様の、あまりといえばあんまりな仕打ちに文句ひとつ言えないのは。
至近距離で見るその緋色の瞳が嫌だ、というのではない。
むしろ時間が赦す限り、じっくり見ていたいほどに、その彩は綺麗なのだが。
ただ、どうにも落ち着かない。

「ふん、舌の色はいいな。眠りが足りてる証拠だ」

当たり前だ、自分がここで、お前達にどれだけ眠らされたと思ってる!
なにがどうしてなんでこうなったんだ、とロイドは海より深いため息をついた。

『お前には借りがある』

だからまずそのズタボロの体をなんとかしろ、と。
有無を言わせず連れて来られたのは、いまだ小さな大樹の下。
それからのことは、実はあまりよく覚えていない。
ただ時折、あたたかいなにかが、体の中を流れていくのを感じていた。

『お前は少し頑張り過ぎだ。だから、しばらく眠ってろ』

そしてつい先程、久し振りに目覚めた体は少し起こしただけで、バキバキと音を立てる有様で。
剣の稽古でもすれば体も動くようになるだろうと、心配そうに自分を覗き込んでいたエミルに相手を頼めば、思いっきり首を横に振られ。
その視線を辿っていけば、苦労人の守人がこの世の不幸を一身に背負った悲壮感漂う姿で、相当痛むのだろうか、胃を押さえ蹲っていた。

「要は、ほぐれりゃいいんだろうが」

え、と思った時にはもう遅い。
空より舞い降りた、黒い影が自分の背をとん、と押せば、起きたばかりの足では踏ん張ることも出来ず、たまらずロイドは草の上に倒れ込んだ。

「ああ、これは相当凝ってますね」
「ひゃっ」

肩と背中の凝りを確かめるように、優しく揉まれると、なんだかくすぐったくて思わず体が跳ねてしまう。
そのうちツボを見つけたのか、ぎゅぎゅ、と強く押される度に痛みが走り…それでもみっともない声を上げたくなくて、必死に我慢していたのだが。

「こっちむけよ」

こっちの都合もお構いなしで、無遠慮に覗き込んできたり。
そもそもやることが山積みなのに、勝手に眠らせたりと、目の前の精霊様には言ってやりたいことがいっぱいあるのだけれど。

「でないと、ちゃんと効いてるかわからないだろうが」

その緋色の瞳が、時折不安げに、揺れるから。
顎を捉える、この手が。たまに、ほんのたまに。震えているから。

「うん、大丈夫」
(今日も俺は、生きてるよ)

一番欲しいであろう言葉を、その耳にそっと囁く。
当たり前だ、と呟く時の緋色の瞳の彩は、泣きたいほどに美しく。

結局。
綺麗なものに、自分は弱いのだ。


◇ラタさんとロイドはむずかしい…!

消えぬ泡沫

2008-07-26 | ラタトスク小説
◇ラタさんとエミルとテネブの話。

それは、隠れ蓑。
ラタトスク様が力を取り戻すまで、それまでの。
泡沫の、存在。

「あのね、泣いてるんだ」

たまに、ほんとにたまになんだけどね、と前置きして。
エミルはその翡翠の瞳を、そっと瞬いて…そして閉じた。
混乱、しているだろうに。
明らかに自分とは違う心を、自分を――喰おうとしているあの方を。
感じているだろうに。

「ひとりぼっちだって」

私の覚えている限り、ラタトスク様はそのような弱音を吐かれたことは、一度もない。
あのハーフエルフの少年に裏切られた時すら、その存在は揺らぐことはなかった。
むしろ鋭さと透明さを増して――誰も、センチュリオンである私達ですら、近づけないほどに。

「エミルは、どう思いますか?」
「んー?え、と…」

久々に泊まれた宿屋のふかふかのベッドは、戦いで疲れた体を眠りに誘う。
それでも律儀なこのこどもは、私の問いにこたえようとその欲求に抗っていた。

「…馬鹿だなぁ、って…」

その瞬間、どこかで誰かの思念が弾けたと感じたのは、気のせいではないだろう。
すぱっと笑顔で言い切ったのには、流石の私も少々驚いた。
ゆるゆると上がる腕が、優しく空気に触れる。
まるで誰かを抱き締めるように。

「僕が、いるのに。もう大丈夫…なの、に…」

ぱたり、とその腕がまっさらなシーツに落ちると同時に。
エミルの意識もまた、沈んでいく。
そしてその後を追ったラタトスク様の、その御心は…。

「完敗ですね」

あまりにも、長い間、あなたはひとりだった。
我々センチュリオンは従うものであって、分かち合うものではないから。
本当は私はずっとね、待ち望んでいたのですよ。

護ってくれなくていい、手を引いてくれなくてもいいから。
ラタトスク様と一緒に歩んでくれる、そんな存在をね。

「ありがとうございます、エミル」
(どういたしまして)

その声が、届いたのか。
深い眠りについているはずのその顔が、一瞬、ふわりと綻んだ。


◇イメージは「たった一つの想い/KOKIA」テネブはラタさん大事にしてたっぽいので。でもあの人、エミルのこと大好きだよね…!ED後もふたりの様子を見にちょくちょく顔を出してもらいたいものです。ちなみに「ひとりで進むには長すぎる道程 誰かがこの扉開けないか待ってる」のトコの歌詞はラタさんの心情に聴こえてしょうがないですよ…!

ふれるこころ

2008-07-26 | ラタトスク小説
*5章プレイ済みの方推奨。ロイドとセレスの語らいです。

その人は。
自分のせいで怖い思いをさせてしまったと、静かに頭を下げた。
初めて会った時の輝くような笑顔は、今は遠く。
それでもあの時、力強くこの肩を抱き寄せてくれた手は、あたたかく。

「いいえ。謝るのは私の方ですわ」

世界再生後、真っ先にエクスフィアを返したのは。
少しでも、その夢を叶える手伝いをしたかったから。
兄と違って弱いこの体では、彼の背中を見送ることしか出来なかった、から。

「罰を与えられなくて、ごめんなさい」

一瞬、その鳶色の瞳が見開かれ、そして。
ゆるりと閉じられるのを、私はただじっと見ていた。

半年前。
救いの塔の跡に向かった彼の人は、それきり兄の元には帰って来なかった。
心配するな、と笑っていたけれど。
どれだけその心が傷を負ったのか、負わせて、しまったのか。
誰よりこの人は良く知ってると、思うから。

「お逃げなさい。お兄様に見つからないうちに」

ロイド=アーヴィング。
貴方の戻りたい場所はここでは、ないでしょう?
少なくとも。今は、まだ。

「…」

ふわりと風に舞うカーテンの向こう。
飛び立った天使の口から零れたのは、感謝の言葉だったのか、それとも謝罪の言葉だったのか。

私には、わからなかった。


◇いやなんというかセレスがね…!いい娘さんになって…!(ほろり)ロイドがあの時すんなり引いたのは、セレスの体調を心配したからだと思うんだ、うん。個人的にはあのふたりのコンビも好きです。諸事情でゼロスとは面と向かって話せないから、せめてその妹のセレスに責められることで、罰を与えてもらおうとしたのかなとちょっと妄想してみたのがこの話だったり。ロイセレまではいきませんけれども、このふたりは互いを大事に想ってると思うよ…!

伝えたかったこと

2008-07-26 | ラタトスク小説
*2日遅れですが、一応七夕話のつもりです。EDネタバレ注意。


つたえよう、伝えよう。
あの子の言葉を、みんなに。

大樹の加護を受けた、自分なら。
きっと出来るはずだから。

清く澄んだその水に、そっと足を踏み入れる。
いつもは口やかましい守人も、今日だけはただ、見守るだけ。

まだ、大樹は不安定で。
けれど確かに、この大地に根付いているから。
…繋がって、いるから。

もう二度と会えなくても。
存在し続ける限り、ずっと想い続ける、と彼の者は言ったという。
それはきっと、自分の頭を撫でていった、あの人と同じ。

思い出は今もこの胸にあって。
貴方はいつまでも変わらぬ姿でここにいて。
だけど。

もう一度だけでいい。
その姿を見たい、声がききたい。
触れたい、と。

願う気持ちは、抑えきれるものではないことを。
自分は知ってるから。

「    」

たった一言。
彼がみんなに、伝えたかったこと。

届けられたのだ、と安堵したら急に体の力が抜けて。
大樹の精霊と、その守人が自分の名を呼ぶけれど、もうこたえを返せそうもなかった。

『…どうして』

頭に響くのは、もうひとりの。
まるであの時の自分の怒りを、パルマコスタの炎を、写し取ったような。
緋の、瞳が。戸惑いに揺れていた。

『どうしてお前はそこまでするんだ』

そう言われても。
きっとお前を納得させるこたえなんて、どこにもない。
ただそうだな、星空があまりにも、綺麗だったから。

あの人を想って泣いていた…過去の自分と、あの少女が。
重なって、見えてしまったから。

だからこれは。
自分に、優しくしただけなのだ。

苦笑交じりに呟いた言葉は、伝わったのか、伝わらなかったのか。
まったく仕方のない奴だな、と。
どこかで誰かが、笑った気がした。


◇いえノーマルエンドのマルタってロイドと同じだよな…とふと思ったもので。うう、いくら世界に存在するとはいえもう二度と会えないのは切ないよね(泣)

痛みの在り処

2008-07-26 | ラタトスク小説
*ロイドとラタトスクの関係というか、触ると起きる現象についてとんでもなく捏造してるので、そういうのが嫌いな方はご注意下さい。


SIDE:エミルⅠ

ああ、まただ。
いつもあの人は震えている。

「今は、何も言えない」

かつての仲間に剣なんて向けたくないはずなのに。
なにが貴方を縛っているの?

きっと僕はこたえを知ってる。
ううん、正確には心の奥底にいる『もうひとりの僕』が。

最初はすごく怖かった。
自分が自分でなくなっちゃうみたいで。
でも。

俺が…消えればいいんだろう。みんな…俺が邪魔なんだ…

響いた、そのこえは。
ルインでの僕と、同じだったから。

そう、きっと、あの人も。
初めて会った時だって、叫んでた。
こえなき、こえで。

どうしてこんなことをするんだ、同じ人間なのに、どうして…!

年上だからとか、世界再生の英雄だからとか、そんなの関係ない。
泣きたいなら、泣けばいいんだ。

僕はもっと。ロイドのことを知りたい。
あのひとに、ふれたい。

(そうすることで、あいつが傷つくとしてもか)

大丈夫だよ。
僕はもうロイドが母さん達の仇じゃないって知ってる。

(そうじゃない。お前は…いや、なんでもない)

それきり口を噤んでしまった彼の。
その言葉の、本当の意味を知ったのは。

「うぁああ!ぁ、ああっ!」

アルタミラで再会した、あの人に。
触れた、時だった。

SIDE:エミルⅡ

アリスの罠に嵌って、僕はマルタを奪われ、正気を失ったデクスと共に部屋に閉じ込められてしまった。
「あ、開かない!」
ソルムのコアに狂わされた人間の、その力はすさまじいもので。
「うわぁ!?」
壁に容赦なく叩きつけられた衝撃で、視界が霞む。
いけない、このままじゃマルタを助けるどころか、自分まで…。

「こんなところで、なにをしている」

一撃、だった。
眩い光と共に現れたその人は、たった一撃でデクスを床に沈めると。
ひとかけらの感情すら浮かべぬその鳶色の瞳で、みっともなくもその場にへたり込んだ僕を見下ろした。
「ロイド、さん…」
会うのはメルトキオ以来だ。
でも、なんだろ。何か、引っかかる。
「…ゼロスたちもここに来ている。協力して、マルタを救い出せ」
「…」
こっちの反応がないことに焦れたのか。
ふぃ、と身を翻したロイドの背中はいつも通りぴん、と伸びていた。
髪の毛一筋ほども揺らぐことなどないと、そう思ってたのに。
それなのに。

「どうして、どうしてなんですか…」
「うぁああ!ぁ、ああっ!」

自分の声なのに、それはひどく聞き取りづらかった。
信じたくない、と。心が、叫んでいる。

この腕から逃れようと暴れるその人から伝わってくるのは、痛みと苦しみ、ただそれだけ。
いっぱいに見開かれた鳶色の瞳からはとめどない涙が流れ。
尽きることのない悲鳴を紡ぐその口からは、透明な糸が伝う。

泣きたいなら、泣けばいいって。
そう、確かに思ったよ。
だけど僕が望んでいたのは、こんなことじゃない!

(そうすることで、あいつが傷つくとしてもか)

もうひとりの僕の言葉がよみがえる。
ああ、君は、知っていたの?
『エミル』はこの人に近づいては…触れては、いけない存在なんだってことを。

「ロイド、さん…」

貴方を傷つけたくなんてないのに。
どうして。

痛みに痙攣するその体を、そっと冷たい床に横たえる。
「…ぁ」
色を失ったその唇から、かすかな安堵の声が漏れたかと思うと、それきりロイドからはすべての力が抜けた。
「ごめん、なさい…」
かたく閉じられた瞼はぴくりとも、動かなかった、けど。
マフラーをかけてあげれば、その顔は少しだけほころんで。

(落ち込んでる暇はねぇぞ)

めずらしくどこか優しい、その声に。
僕は泣きじゃくることでしか、こたえが返せなかった。

SIDE:ラタトスク

俺は、間違っていたのかもしれない。
ずっと旅をしてきた。人間を、世界を知った。
だからこそ、わかる。

力を与えてくれと乞うた、ハーフエルフの少年に裏切られ。
その彩を持った、人間の青年を殺した。
きっとそれが、すべてのはじまり。

マルタの叫びで覚醒したのは、事実。だけど。
彼の者に与えたエターナルソード、その契約者の怒りが、精霊である俺を人間として具現させた。

ギンヌンガ・ガップで魔族の侵入を阻み、マナを操り生きとし生けるものに恵みをもたらした。
俺はいつでも与える存在で…だから、だったのかもしれない。
大樹を枯らした、裏切った、ひとを。拒絶することしか出来なかったのは。

精霊である自分の弱さを認められなくて、人であるロイドの強さを認めたく、なくて。
仇、と。憎むべきものとして記憶を作った。

「…ロイドさん!」

ふらり、と揺らいだその体を支えたのは、もうひとりの俺。
人間として生きてきたエミルには、マナを操ることは出来ない。
そして。

「――ッ!」

その流れを『視』ることも。
元からそれは、明らかに普通とは違っていたのに。
エミルが…いや『ラタトスク』が触れたことで、まるで激流のように荒れ狂う。

「どうして、どうしてなんですか…」
「うぁああ!ぁ、ああっ!」

制御を失った体内のマナは、その中身をめちゃくちゃに食い荒らし。
ロイドの意識は痛みのみに支配され――それをもって情報を読み取られるのをガードしているのだ。

脳裏に響く、エミルの悲痛な叫び。
大丈夫、ちゃんとわかってる…だから今は、その手を離すんだ。

俺はもう、これ以上。
自分を生み出してくれた、こいつを。傷つけるだけの存在でありたくない。

(落ち込んでいる暇はねぇぞ)

間違った自分と向かい合い、それを正す勇気。
教えてくれたのは。

(勇気は夢を叶える、魔法)

もう一度、出来るだろうか。
何もかも捨ててここに降りてきた時と同じように。
この星を、愛することが。

何言ってんだよ、当たり前、だろ…?

まるで涙を吸い取るかのように。
ふわりふわりと舞い散る白い羽根が、そっとそっと。

俺達を、包んだ。


◇日記での続き物。短いのでひとつにまとめました。
ラタのロイドは強くてカッコ良いのですが、なんか裏がありそうな気がしてしょうがなかったので…。というかロイドを泣かせたかっただけなのに、なんでこんなロイド苛め話になったんでしょう…(汗)

以下は日記で書いてた後書きです。

◇アルタミラのゼロスの台詞(「俺さまたち、ロイドを見つけたんだよ。ま、相変わらず何も話しちゃくれなかったけどな」)は意味深だよね…。どうしても色々妄想しちゃいます…うん、アレな方向に(笑)そしてここでのエミルはロイドのことをロイドさん呼びしてるのが個人的にはとても萌えます。というか最後のアレはいつか見た画像にデクスを取り押さえてるロイドのシーンがあったと思うのですが、それってカットされちゃったのかな?W主人公スキーにはちょっともったいなくね?と思って書いたもので深い意味はありません(ナンダッテー)気が向いたら続きを書くかもですが、今回はここまでということで。

いやあの、エミルがロイドに触れると色々わかっちゃうのかなと妄想しまして。ほらエミルってアレだし。ロイドはコレだし(指示代名詞が多いのは仕様です・笑)そうさせないためには何か他の感情で心をいっぱいにしてガードするのかなあと…。そんなこんなでここではエミルが触れるとロイドの体には激痛が走る設定だったり。

個人的にはラタさんはロイドが生み出したも同然な捉え方をしてるので、ラタさんはロイド大好きというか無意識に精神的拠り所にしてればいい。VSゼロスなんてのもいつか書いてみたいかも。ああ、またマイナー方向に…。

◇というわけでラタさんのターン、略してラターン、いかがでしたでしょうか?これにてこの一連のお話は終わりです。ロイドは前作から色々無茶してるので、ラタED後はもう大樹の傍で普段は眠ってればいいと思います。エクスフィア探しはきっとラタさんがセンチュリオンとか魔物使ってやってくれるよ!(笑)というか真面目な話、ロイドの体ってどうなってるのか心配です。ラタさんはマナの流れを操る人なので、こうかかりつけのドクター気分でロイドの世話焼きしてればいいと思います。なんだかラタでは、ラタさんとロイドが好きみたいですよ…?この組み合わせってマイナーなのかな?教えてクリアした人!(笑)

否定と皇帝

2008-07-26 | ラタトスク小説
*イセリアに流れ着いた辺りの話です。


ルインにいた頃は、ただ憎んでればよかった。
お母さんを、パルマコスタのみんなを殺した、ロイドを。
僕がみんなに疎まれるのは、友達が出来ないのは。
みんなみんな、あいつのせいなんだって。

それだけが、僕に遺された、たったひとつの。

「勇気は、夢を叶える魔法」

リヒターさんの教えてくれたその言葉は。
ルインという自分を否定する世界から、僕を連れ出してくれた。
だけどそれは。

ロイド=アーヴィングという存在が。
世界にどれだけ肯定されているのか、思い知ることでも、あって。

「そんなこと言うエミルは私の好きなエミルじゃない」

初めて出来た友達、だったのに。
それすら、ロイドは奪うんだ。

血が繋がってないダイクさんに、あれだけ誇りに思われてる…愛されている、ロイド。
親戚なのに、僕のことを閉じ込めて、外に出さないようにしていた…恥ずかしいって僕を殴ったおじさんたち。

旅を続けていくうちに、たくさんたくさんロイドを知ってる人に会って、話した。
みんな、ロイドのことを、信じてた。パルマコスタの人ですら。
「あいつがそんなことするはずがない」ってはっきり言われる度に、自分が否定されてるみたいで。

こわくて、かなしかったんだ。
自分の心の中に逃げこんでしまいたいと。そう、思ってしまうまでに。


◇イセリアに来てからエミルがこう、追い詰められていくのが辛くてですね…。後はこの辺からラタモエミルがひとり歩きしてるカンジがしたものですから、つい。エミル味方いないから(マルタもコレット効果でほんとにロイドって悪い奴なの?って揺れ始めてるし)護ってやってくれよ、と。だって自分、もうひとりの人格ネタ大好きなんだ…!古くは虎王と翔龍子様、最近では王様と遊戯さんとか覇王と十代とか、いずれはそんなカンジになってくのかなあ?

タイトルはロイドを信じる世界に否定される存在→エミル、世界に肯定された皇帝→ロイドみたいなカンジで。実は変換間違いだったというのは内緒です(笑)

翼折れても

2008-07-26 | ラタトスク小説
*第4章クリアした辺りの話…?妄想激しいですので、閲覧にはご注意を!


さくさくと草を踏む音に、マーテルはふと視線を上げた。

「やはり…来ていたのか」
(うん。ロイドは、来る気はなかったみたいだけどね)

まるで、慰めるように、その頭を、撫でるように。
さわさわとまだ年若き大樹の葉がやさしい音を奏でる。

「…また、間に合わなかったらしいな」
「ええ…」

自分の膝に頭を預け、疲れきった顔で眠るロイドは、目覚めない。
涙で凝ってしまった鳶色の髪を優しく梳くと、マーテルは辛そうに、その瞳をぎゅっと瞑った。

ラタトスクとの共存が出来るとは思っていない。
彼が目覚めれば、芽吹いたこの木は、きっと。
不要なものとして、処分されるだろう。

(センチュリオン・コアの存在に仲間が気づいたからね。それにあっちには陰険テネブラエがついてる。状況は…圧倒的に不利だ)

ロイドは。
たすけたいと、言ってくれた。
ミトスは、ともだちだから、と。

「ん…、あれユアン、来てたのか…」
「それはこっちの台詞なのだがな。とりあえずはマーテルから離れてもらおうか」
「あー、悪い。また俺、眠っちまったんだな…」

気だるげに立ち上がるロイドの、その体がふらりと泳いだ。
目眩でも起こしたか、と咄嗟に手を差し伸べたが、ぴしりとそれは跳ね除けられた。

「出かけてくる。僕たちがいないからって姉さまに甘えないでよね、ユアン」
「それはお前だろう。…まあいい、さっさと行け」

ミトスの心は、大樹とロイドのエクスフィア、両方に半分ずつ宿ったという。
そのことを目の前の青年が知っているのかどうかは、わからない。

俺、ラタトスクとの取引の材料として、センチュリオン・コアを集めようと、思うんだ。

半年前、ロイドはそんなことを提案して我々を驚かせた。
エクスフィア探しも断念して、ノイシュもイセリアのダイクの元に預け。
その鳶色の瞳に宿るのは、誰にも覆すことのかなわない、決意。

ラタトスクが目覚めなければ、世界はいずれ滅ぶ。
けれど、彼が目覚めれば。大樹は再びの、死を迎える。

どちらも救おうと、掬おうと。
ロイドは仲間達に背を向けてまで、コアを集めることに執心した。
文字通り、不眠不休で。

「ぼやぼやしてると、エミルたちに先を越されちまう…。じゃ、行って来るな!」
「ロイド」
「ん?」
「翼は…出来るだけ使うな」

移動手段として、レアバードを貸した。
けれど、マナの不足しているこの統一世界では、それは満足に動くものではなくて。
そして、それに代わるものといえば。

「…わかってる。ありがとな、ユアン」

かえってきたのは、木漏れ日のような、やさしくそしてささやかな微笑み。
大樹が芽吹いてから2年、ロイドは文字通り自分の身を削って、その成長を見守ってきた。
そしてこれからも、身も心も削り続けるのだろう。
すべての生きとし生きるもののために、命をかけて大樹をまもろうとするだろう。

たったひとりで。

「行って来ます」

ひらりと翻る、そのしろは。
伸ばした手に触れることなく、蒼穹に溶けた。


◇というわけで某Hにゅ~さんのユアンがロイドのサポートしてたら萌えます説に便乗してみました(笑)リフィル先生たちがレアバードを返して今手元になく、ロイドだけ(多分)が再レンタル出来たということはそういうことでいいんじゃないかな?
いえイセリアでダイクさんが「半年前ふらりと帰って来て『ともだちを助けたい』って言ってな、身軽になりたいからってノイシュを置いてった」みたいなことを言ってたので…。ともだちがミトスのことで、大樹だったらいいなあという妄想です。シンフォニアのラストでロイドはミトスを殺しちゃったわけだけど、ロイドのことだから「他に方法はなかったのか」ってずっと悩み続けてると思うので。ああ、ほんとラタがクラトスルートじゃなくてほんと良かった!
ミトスはロイドにエクスフィアを介して時々憑依してたり。イメージ的にはエミルとラタモエミルのチェンジみたいになるといいなあなんて。

ラタさんと取引するロイドもちょっと見てみたかったなあ…。謎のジュエルハンター云々な口上で(笑)