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デラシネ魂

ジャンルよろずな二次小説サイトです。
ネタバレ満載、ご注意を。

02:あともう少しが踏み出せないまま

2009-02-06 | ラタトスク小説
◇このお話は思いっきりパラレルです。そういうのが苦手な方はご注意を!


――かつて世界には 精霊王より遣わされし時の魔剣が在った
古の勇者がその剣を用い 魔王に引き裂かれた世界をひとつにした伝説は伝承の詩となったが
今や…その剣の行方は…杏として知れぬまま…



いつもはただ冷たいだけの風に、ふわりと春の香が漂った気がして。
クレスはふと、足をとめた。

(君に、預けるよ)

総司令官が自分を呼び出した、ということは。
またなにかとんでもない厄介事を押し付けられるものと、覚悟はしていたが。

(わかってると思うけど、これは僕たちの陣営の切り札だ。もしも奪われたら、その場で)

今回のこれは、その中でも最悪だ。
しかし哀しいかな軍人である自分は、上官の命令には絶対に逆らうことなど出来ない。

(――チェックメイト、だからね)

大体、自分などよりもこれを持つにふさわしい人物はいるだろうに。
口で反抗出来ないならせめて、と恨めしい目を向ければ。
しょうがないよ、本人にやる気がないんじゃね、と相手は肩を竦めた。

確かに。
ちょっと目を離すとふらふらとどこかに行ってしまう我が隊長殿に、この剣を託すのはちょっと…いやかなり不安ではあるが。
それでも、自分よりは。ずっと。

(護るのが、君の仕事だよ。クレス=アルベイン…古の勇者の血を引く、一族のね)

すべてを失った、あの日から。
肌身離さずつけているペンダントを、ぎゅっと握り締める。
この剣を手にすれば。ずしりとこの肩に重くのしかかるのは、期待と、それから。
それでも、もう迷いなんてなかった。

大樹を巡る、ながきに渡る戦乱の。
最初の引き金を引いたのが、誰なのか。
それを突き止めても、意味などない。

大樹を解放すれば、それは異世界へと飛び立ち、この世界は滅ぶ。
だから、自分は護るだけだ。
故郷の村を滅ぼした、あの男の。
希、など。誰が叶えさせてやるものか。
そのためなら、僕は。

「…隊長?」
「ん…、もう、ちょっと…」
詰め所に備え付けられた、小さな机に突っ伏して。
束の間の眠りを貪る、その人の。
指先に触れるのは、かつての幸せ、そして。
この人が自ら手放した――。

「泣いてるの…?」

僕も、そしてあなたも。
あともう少しが踏み出せないまま。
また。大切なものをうしなってしまうのかな。
そう、思ったら。

その身に纏ったしろ、が。
なんだかとても、かなしく見えた。


◇というわけで一転してロイドSIDE。ほとんどクレスの一人称ですが、そこはご愛嬌(ええー)冒頭はサンホラの争いの系譜から。大樹解放軍と大樹保護軍、互いの総司令官はダオスとミトスということで。ロイドとクレスが着てるのは、マンキンのリゼルグが着てたX-LAWSの制服。半ズボンかどうかは皆様のご想像にお任せします。いや、海軍服も萌えるんですけどね!

お題は「戦場での執着で100題(Type : 5)」を追憶の苑/牧石華月さま からお借りしました。

01:手が届く範囲にいるのに、

2009-02-05 | ラタトスク小説
◇このお話は思いっきりパラレルです。そういうのが苦手な方はご注意を!


しあわせだった、幸せだった。
だから。
その日々が――あんなにもあっけなく砕け散るなんて、思いもしなかった。


長引く戦乱の中、親と死に別れたこどもなんていっぱいだった。
それでも、孤児院と呼ばれる場所に辿り着けるのはたった一握り。
きっと僕だけだったら、野垂れ死にしてたと思う。
生き残れたのは口は悪くて、手が早くて――でも誰よりも優しくて寂しがり屋の片割れのおかげ。
だから、僕は。
引き取られるならラタトスクと一緒に、と決めていた。
どちらかひとりなら、という声はぽつぽつとあったけど(そのほとんどが僕だけなら、だった。まったく大人って騙されやすいね)僕たちはそれを突っぱねて。
そろそろ追い出されるかな、と思った矢先に。

『なあ、お前ら。俺のトコに来ねぇ?』

見たところ適性ありまくりそうだし、仕事手伝ってくれたらすっごく助かるんだけどなー。うーん、よし、決まり!と。
あの人は文字通り、僕らの元に舞い降りて来たと思ったら、面倒な手続きとか一気に踏み越えて、その日には家に連れ帰っちゃったんだ。

ロイド=アーヴィングと名乗った彼は、本人曰く『ちょっとは』名の知れた細工師で。
僕とラタトスクは、その原料となる石を採掘する仕事を任された。
最初はどこに埋まってるのか、まるで見当がつかなくて、1日中掘ってもなんにも出て来ない!なんてこともしょっ中だったけど。

『焦ることはないさ。お前たちなら直にいしのこえがきけるようになるって』

ロイドは泥だらけの僕たちを叱ることなく、優しく洗ってくれて。
あったかいミルクを用意してくれた。
ラタトスクも、僕も。
言葉にしては、言わなかったけど…ううん、言えなかった、けど。

だいすき、だった。


「…エミル?」
上官に呼び出されたはずなのに、いつの間に戻って来たのか。
肩に置かれた手の、そのあたたかさに、知らず詰めていた息を吐く。
「また、見てたのか?」
抑揚のない声がなすのは、主語のない問いかけ。
そして僕は、いつものようにこたえない。

少し澄ました顔をした僕と。
腕組みをして、少し拗ねたような顔をしたラタトスクと。
そんな僕たちの肩に、そっと手を置いて。
微笑んでいるのは――。

「生きてるはずがない」
ぴしり、と。
過ぎる力で握り締められた写真立てに、幾度目かの亀裂が走った。
「あれだけの砲撃だったんだ」
その日は、雲ひとつない晴天で。
ただいつもと違っていたのは、採掘する場所を、ロイドが指定したことと。
――それが、不自然なほど遠かったこと。
「お前だって、わかってるんだろう?」

しあわせだった、幸せだった。
だから。
その日々が――あんなにもあっけなく砕け散るなんて、思いもしなかった。

「うん、もちろんわかってるよ」
だから僕たちは、軍に入った。
あの人を殺した奴らに、復讐するために。
「…もうすぐ食事だ。遅れるなよ、食いっぱぐれるぞ」
ふわりと頭を撫でる手は、どこまでも優しくて。
どこか、あの人を思い出させる。

「こんなに、近くにいるのにね」

写真なら、手が届く範囲にいるのに。
あなたのことを、包んで、護ってあげられるのに。
なんて。

もう7年も経つのに。
吹っ切れていない自分がおかしくて、惨めで。
――ラタトスクに申し訳、なくて。

なにがかなしいのかわからないまま、僕は泣いた。

「02:あともう少しが踏み出せないまま」 に続きます。


◇はにゅ~さんの日記で軍服に萌えたので、思わず走り書き。大きなタイトルはもし続けばそのうちに(汗)
ラタエミなのに、ロイドを出さずにいられないのは仕様です(笑)というかこのエミル、ロイドのこと慕い過ぎです、ラタさんかわいそう!(←書いたのお前だろ)続きが読みたい奇特な方がいらっしゃいましたら、その旨拍手でお伝え頂けると嬉しいですv

それでは今回も妄想にお付き合い下さいましてありがとうございました。この話が気に入った、お前の妄想と響き合ったZE☆という剛毅な方がいらっしゃいましたら、下のロイドくんをぽち押しして下さいませv

「…で、俺は一体どうなってるんだ?」「それは後のお楽しみv」

お題は「戦場での執着で100題(Type : 5)」を追憶の苑/牧石華月さま からお借りしました。

01:手が届く範囲にいるのに、
02:あともう少しが踏み出せないまま
03:過ぎ去る影を見つめることしか出来ない
04:腕を伸ばしてみても
05:空を切るだけで
06:こみ上げる言葉も音にならず
07:息が詰まる
08:捕らえることが出来たらいいのに
09:そうすれば、この胸の痛みも
10:願いは、いつも儚く消えて

狭い狭いも罠のうち

2008-12-28 | ラタトスク小説
知らなかった。
バスタブって結構、狭いんだ。

白い泡に隠されて、その、大事なところ?はなんとか見えないんだけど。
膝頭とか、鎖骨とか、しなやかな腕とか…なんか目のやり場に困っちゃうんだよね。

「おい。なんでそんなに縮こまってんだ」
「え、ええ?」

泡の上に散らされている花びらをひょいとつまむ、そんな何気ない仕草にさえ反応してしまう自分が恨めしい。
なんとかごまかそうと泡を掬い取って、目の前に掲げたけど…真っ赤な顔は、きっと隠せてないんだろうな。

「足。伸ばせばいいだろ」
「でも、そしたら君が狭くなっちゃう…!ひゃっ」

足首を掴まれ、引っ張られて。
気がつけば、目の前には。
綺麗、だけど。魅入られるとロクなことにならない…赤い、瞳。

「わかってねぇな」
「な…なにが?」

がっちりと腰に回った腕を、振り解くことなんて出来やしない。
ここで逃げなきゃ、抵抗しなきゃ。
後はゆるゆると溶かされていくだけなのは、わかっているんだけど。

「いいのかよ…今日はやめてやらないぜ?」

うん、もういいや。
合わせた肌が、気持ち良いから。
ただね、ラタトスク。

「あの…栓を抜くのはやめてもらえるかな?」
「このままじゃ泡が邪魔で見えねぇじゃねぇか…色々と」

ああもう、これだもの!
やっぱりちょっと、早まったかもしれない。


◇ものすごく今更ながら1126企画で頂いたあの素敵絵をイメージして。いつもながら尻切れトンボで申し訳ない。ラタさんが「今日は~」って言ってますが、深い意味はありません(笑)
うう、もうひとつのイラストのお話も書きたい…お湯に映ってるのが金色の月だったのでフレユリで。とすると銀色の月ならデュクユリ…?いっそ分岐にして両方ともとかどうだろう。前者はお酒弱そう、後者は強そうなイメージなんですが、本編だとどうなのかな。クリアした人、どなたか教えて下さい!(笑)

いつかの理由

2008-11-26 | ラタトスク小説
◇ED後。例の温泉イベント関連です。


ゆっくりと、あたたかい湯に体を沈める。
前に来た時は、ロイドが覗き疑惑をかけられたり、マルタに男湯に乱入されたりさんざんだったが。
「いい湯だな…」
隣で足を伸ばしてるロイドも、気持ち良さそうに目を閉じていた。
いつも立てられてる前髪が湯気でだろうか、垂れている。
そうするとなんだか幼く見えて、思わずくすりと笑ってしまった。
「どうした、エミル?」
気配で察したんだろうか、ロイドが不思議そうな顔でこっちを見ている。
まさか正直にかわいいと思ったなんて言えないから、僕はあははー、と笑いながら必死で言い訳を探した。
「ごめんなさい。前にここに来た時思い出しちゃって」
そう水を向ければ、あーあれな…とロイドは困ったように笑った。
よし、いい機会だからきいちゃおう。

「どうして、あの時逃げなかったんですか?」

ずっと気になってたんだ。
時間は、あったはずなのにどうしてって。
「もしかしたら僕を庇って…?」
「えーっと、な。そうじゃないんだ、あれは…」
何かを言いかけて、ふっと黙り込む。
伏せられた鳶色の瞳が、なんだかとても切なくみえて。
「あそこはみんなと行った想い出の場所だったから」
ロイドは仲間に剣を向けなくちゃいけなかった。
誤解されても、それを解くことすらゆるされず。
ずっとずっと、ひとりで秘密を抱えて。
「だから」
にぎやかだった前の旅。
温泉で起きた、どたばたを再現することで、ロイドは。

「俺は変わったりしてないって、自分で確かめたかったのかもしれないな…」

僕は、きっと泣いてたんだと思う。
責められてもしょうがないのに、ロイドはやさしく頭を撫でてくれて。
「ま、痛い目には遭ったけど、スケベ大魔王の称号はエミルに譲れたからよしとするか」
「ひっく、そんなの譲られて、ません…」
僕たちのせいで。
ロイドは色々と諦めなければいけなかったのに。
今でも、パルマコスタでフラノールで、辛く当たられてるのを知ってる。
危険が及ぶから、仲間達と会おうとしないことも。
「もう泣くなエミル。俺は…後悔はしていない」

やさしく包み込んでくれる、ロイドの腕。
今はただまもられているだけだけど。
いつか、この人を護れるようになりたいと。

この日ほど強く思った日はなかった。


◇いやあの温泉イベント、ロイド逃げるの遅すぎだろ!(笑)と思いましたので、ちょっとその背景を捏造してみました。
仲間の下に戻っても、やっぱり前のようにはいかなくて、表では平気な顔してても宿屋でふとひとりの時間を持った時とかにそのことに傷ついてるとか切ないけど萌えます。

でもこの話
「嘘はよくないなー、ロイドくん?」
「おっ、お前…なんで…!」
「ハニーには逃げたくても逃げられない理由があったんだよな~?」
「ゼロス…ッ!」
とゼロロイでオトそうと思ってたのはナイショです(笑)
「逃げられない理由」は各自お好きに考えて下さいませ~。

(2008.11.27 追記)

◇拍手で「ゼロロイでオトそうとしたお話が読みたい」というありがたいお言葉を頂いたので、調子に乗って走り書いてみました。エミロイの切ないカンジの読後感を大事にしたい方は、回れ右をお願い致します。

よろしいですか?それではどうぞー。


(困った…)
腕の中でしゃくりあげるエミルに、その涙に。
元来正直者のロイドの胸はちくちくと痛んでいた。
(いやそれも本当なんだけど、でもなあ…)
あの時。
自分が動けなかったのは、他にも理由があったのだ。

確かに。
親父ぼこりイベント(違)前に、プロポーズですか?と言わんばかりの熱心さで約束させられた(いや俺も嫌じゃなかったけどさ、むしろ嬉し…げふんげふん!)ふたり旅を一方的に反故にし、そして書置きのひとつも残さず失踪、やっと会えたかと思えば問答無用で剣を向けた挙句「今は、何も言えない」の一点張り(ここまでノーブレス推奨)じゃ、ああなるのもしょうがなかったかもしれないけどさ…それにしたって…!

「ロイドさん?」
「あ、え?何だ?」

頬に感じるあたたかさにようやく我に返る。
見下ろせば、いつの間にか泣きやんでいたエミルの緑の瞳が、じっとこちらを見つめていた。
「どうしてこっちを見てくれないんですか?」
「いや、その…」
…さすが実質生後○ヶ月、純粋無垢という言葉がぴったりくる澄んだそれは、隠し事をしている自分には少々眩しすぎる。

「はっはっはっ!嘘はよくないなー、ロイドくん?」

温泉効果でなく汗をたらたら流しているロイドと、不思議そうに小首を傾げるエミルの、その頭上で。
高らかに響いたのはふたりの良く知る…けれどこの状況では「どちら様ですか?」ととぼけて逃げたいくらいに恥ずかしい格好(仮面剣士称号選択)をした、仲間の声だった。
「おっ、お前…なんで…!」
「とぉっ!」
温泉を囲む鋭い岩肌から華麗に飛び降りたゼロスは、やはりというかなんというかそのままどぼーんと温泉に突っ込んだ。
「うわ、今のモロ頭からいきましたよ…って、浮いてきませんね…」
「いっそこのまま沈めといた方が世の為人の為かもな」
どこから取り出したものか(多分オリジンの気配り)ハリセンを手に殺る気マンマンです、とばかりに水面を見つめるロイドに、さすがにそれはまずいですよ、ロイドさんが殺人犯になっちゃいます!とエミルが笑えない突っ込みを入れる。
ふたりともゼロスが無事だと疑わないのは信頼しているのかなんなのかコメントは差し控えたいところであるが…。

「うひゃっ?」
何かがそろりと腰を撫でていった感触に、かく、とロイドの膝は砕けそうになる。
「おんや?しばらく会わないうちにぃ、随分とガードが甘くなったんでねーの、ハニー?」
くすりと微笑むゼロスの吐息と、髪から滴る熱い雫が、首筋をくすぐって。
ぞく、と背を駆け上ってくる覚えある感覚に、鳶色の瞳が切なげに細められた。
「ハニーには逃げたくても逃げられない理由があったんだよな~?」
「ゼロス…ッ!」

まさかこいつ、ここで俺をあの時の状態にするつもりじゃないだろうな!
「やめろ…っ…て…!」
マズイことに、自分の制止の声も、払いのけようとした手も。
力の抜けかけた今では泣けてくるほど弱々しく、とても効き目があるとは思えなかった。
「おや抵抗する気?『また』俺さまに黙って雲隠れしてたハニーちゃん?」
っていうかむしろ逆効果?
マズい怖い、振り向きたくない!
「え、それってどういうことですかロイドさん?もしかしてこれって修羅場?」
でも目の前には、興味津々という顔でこちらを見上げてくるエミルが…!(っていうかその知識はどこから仕入れてくるんだ?)
ああもうこの状況ってあれだよな、禅門の虎、校門の狼…?
なんかどっちに転んでもバッドエンドな気がする!助けて第3勢力!
(ばーか、詰めが甘いんだよお前は…ついでにその漢字変換間違ってるつーの)
「え…?」
きぃん、と耳鳴りがしたと思ったら。

「…まあ、うすうすとはわかってたけどな」

綺麗な緋色の瞳が、呆れたように細められる。
「ラタトスク…?」
「不本意ながら助けてやるよ。これ以上エミルに妙な知識をつけて欲しくないんでな」
大体ただでさえマルタとかリヒターとか、あいつの周りには偏った知識の奴が集まってくるんだからよ…心配でおちおち封印にもいられねえ、とため息をつく精霊様はどうやらエミルがかわいくて仕方がないようだ…無理もないが。
「おや?それってここからとっとといなくなってくれるっていう意味?」
「誰がそんなことを言った。大体『俺』はまだ温泉に入ってないんだぞ」
「ははは…、は…」

あれ?おかしいな?
言い争いをしているふたりの姿が。
なんだか…歪ん、で…。

「熱い風呂の中であんなことをされれば当然だ、馬鹿が」
「自分の体力過信すっからこんなことになるのよ、ハニー?」

口では散々なこと言ってるけど。
抱きとめてくれるふたつの手のあたたかさが、その優しさが、嬉しくて。
温泉でのぼせるのもたまには悪くないな、と思った。


◇ゼロロイでオチてるか激しく疑問ですが、このお話は続きを望んで下さった浅月さんに捧げますvありがとうございました!

1126企画作品を読んで頂いてありがとうございました。「頑張ったな!」(ぽん)な肩たたきしたい方、または万が一さらなる1126作品を望む!という剛毅な方がいらっしゃいましたら、下の人をぽち押しして下さいませv



精霊様は苦労性

2008-11-26 | ラタトスク小説
◇多分ED後。エミルとラタトスクはふたりで封印と世界を行ったり来たりしている設定です。リヒターさん不幸!(笑)


「マナ不足…?」
「ああ、だから今日は、お前と俺のふたりの姿は保てないんだ」
ま、一日だけだしな。
俺は久し振りにリヒターの様子でも見てくるか…と思っていたのだが。
がしっと腕を掴まれ、何事かと振り返れば。
「あのさ、僕一回試してみたいことがあったんだよね…?」
子供特有の残酷さを、その緑の目に宿した片割れが、いた。

「もー、そんなところにいないでこっちにおいでよ」
「…」

笑顔で手招きする片割れに、ラタトスクは無言でそっぽを向いた。
ふわふわと目の前を浮遊するしゃぼん玉に映るのは。
普段の自分とはかけ離れた…。
「いいじゃない。今日だけなんだし。まさかずっとそのままってわけじゃないんでしょ?」
それに君はそのカッコの方が可愛いよ?
いっそのことこっちの世界に来る時は、いつもその姿でってどうかな?
(どこかだ!)
しゃっと鋭い爪が、しゃぼん玉、そして湯気を裂く。
ちいさな猫の姿とはいえ、流石はゴーイングマイウェイな精霊様、そのオーラはただ人なら背筋が震え上がるほどおそろしいものなの…だが。
この事態を引き起こした張本人は呑気に泡風呂の泡を掬い上げ、ふーっと息を吹きかけていた。
「わ!また飛んだ!綺麗だねえ、ラタトスク!」
このはしゃぎようじゃ、のぼせても自分じゃ気づけねえかもしれないな…。
ラタトスクはがくーっと肩を落とした。

「…そろそろ出るぞ」
「えー、やだよ。まだ君入ってないでしょ?」
お前は酔っ払いか?
生まれて初めての泡風呂に、雰囲気酔いしたか、ええ?
「一緒に入ろ?ね?」
ここで見捨てていくのは簡単だが、その後がおそろしい。
せめて最後の抵抗とばかりに、ラタトスクは重い口を開いた。
「今の俺じゃ…おぼれるだろうが…」
そんなことになったら、最近(いや前からか?)主を主とも思わないあの黒い悪魔にせせら笑われるのがオチだ。

「だから僕の膝の上に乗ればいいって言ってるじゃない、ほら!」

穏やかに見えて実は気が短いエミルは、実力行使とばかりに俺の首根っこを引っ掴んだ。
そのまま自分の膝に乗せると、ゆっくりゆっくりと下げていく。
「んー、こんなもんかな?」
じわりと体にしみてくるあたたかさと、その優しさは嬉しい、嬉しいのだが!
「そんなに緊張しなくても…」
あのな、バランス取るのは結構大変なんだぞ!
しかも泡風呂だから滑るし、お前の柔肌に爪なんか立てられねぇし…。

「上がったら今度はこたつであったまろうね!僕、かわいい猫を膝に乗せて、縁側でおせんべいとか干し柿食べるのが夢だったんだ!」

つるっ。
すってーん。

どこだ、お前の人格を作る過程のどこでバグが入ったんだ。
やっぱあれか?アステルの天然最凶ぼけウィルスが侵食したのか?

「え、どうしたのラタトスク?もうのぼせた?」

お前この期に及んでそのぼけは…まあいい。
エミルの自分を呼ぶ声と、その包み込むようなあたたかさは心地良いから。
もう少しこのままでいてやるか、とラタトスクはその緋色の瞳を瞬いた。


◇はにゅ~さんが手ブロで素敵なイラスト描いて下さったので…!思わず響き合ってみました。泡風呂いいよね泡風呂!ラタさんが猫なのは単なる趣味と、拍手絵のエミルのあれから妄想してみました。1126布教して下さってありがとうございました!えろいユーリとラタエミも楽しみに待ってます…!

1126企画作品を読んで頂いてありがとうございました。「頑張ったな!」(ぽん)な肩たたきしたい方、または万が一さらなる1126作品を望む!という剛毅な方がいらっしゃいましたら、下の人をぽち押しして下さいませv



まっしろいゆきのなかで

2008-10-08 | ラタトスク小説
◇ラタバッドエンディング後のゼロロイということで。


まっしろいゆきのなかに。
あかいてん、ひとつ。

あるところに一匹の狐がいました。
綺麗な紅色の尻尾を持つ彼は、狐神子として崇め奉られていました。
周りにはその権力と力を求めて群がってくる大人がたくさんいました。
けれど、だからこそ。狐はひとりぼっちでした。

ある日、雪が降りました。
窓から外を見ていた狐は、まっしろな雪原に浮かぶあかを見つけました。
それはぴょんぴょん、と跳ねる兎でした。
冬になれば、雪と同じ色になるはずの毛並みは、赤みを帯びた茶色のまま。
白に映えるその兎は、とてもあたたかく、しあわせそうに見えました。
けれど。

さむい、ここはさむい。
あたためて、だれか。

その鳶色の瞳は、涙で濡れていました。
いてもたってもいられなくなった狐は、屋敷を飛び出しました。
兎はものすごい勢いで駆け寄ってくる狐の姿を認めると、くるりと背を向け、一目散に逃げ出しました。
それはそうでしょう、狐が兎を追いかける理由なんて「食べる為」それだけです。

「…つかまえた」

兎は必死に逃げましたが、狐にかなうはずがありません。
前足でその体を押さえつけ、首筋を軽く噛むと、兎は観念したのかおとなしくなりました。
「さむい」
狐の口から零れ落ちた言葉に、鳶色の瞳がそっと伏せられました。
こんなに大きくて、綺麗なのに。
「…もう、殺さないって決めたんだ。誰も」
昔話の兎のように、この身を焼いて差し出せればどんなに楽でしょう。
でも、それはゆるされないことです。
「俺のせいで、死んだから」
淡々と紡がれる言葉に、狐は必死で首を横に振りました。

紅蓮の炎につつまれた、港町が。
怨嗟の声が木霊する、雪の街が。
そして、儚げな笑みをのこして逝ってしまった彼の者が。

兎の心にはずっと消えない傷跡として残り、そして出口のないこの雪原を彷徨わせているのです。
狐はそっとその体を抱き締めようとしました。
けれど兎はするりとその前足を擦り抜け、そして言いました。
「ごめんな、お前のことあたためてあげたいけど」
その、願いは。もう、叶わないんだ。
「俺は、弱いから」
お前に触れたら、歩き出せなくなってしまう。
その熱は俺をあたためて、しあわせという水にこの心を溶かしてしまう。
でも、それじゃだめなんだ。
俺はずっとずっと、凍えていなくちゃいけないから。

「さよなら」

傷ついた狐の、その蒼氷色の瞳を兎はそれ以上見ていられませんでした。
ゆらゆらとまるで水の底から太陽を見上げているかのように、狐の姿が歪んで。
それから。
それから――。

まっしろいゆきのなかに。
あかいてん、ひとつ。

「いい夢見れた?ロイドくん」

冷たさから引き剥がされ、あたたかい腕に包まれて。
心なしか寂しそうなその顔に、ぼんやりと指先をすべらせる。
あれ、いつ外になんて出てきたんだろう。

「ああ、あれはゆめ、だったのか…」

かなしくて、でも。
ひどく、あんしんするゆめだった。

そう呟いたら見上げる顔はくしゃりと歪んで。
どうしたんだろうと思う間もなく、息が止まるくらいにぎゅうぎゅうと抱き締められた。


◇昨日のつれづれなるままに~に書いたネタ。ラタのバッドエンドの後、少しずつ狂い始めてるロイドの話。一緒に眠っててもいつも間にかふらふらと外に出て行ってしまうので、ゼロスは軟禁するかどうか考え中。なんだか意味不明な話ですみません。

夢の中のふたりが狐と兎なのは単なる趣味です(笑)

それでは今回も妄想にお付き合い下さいましてありがとうございました。この話が気に入った、お前の妄想と響き合ったZE☆という剛毅な方がいらっしゃいましたら、下のロイドくんをぽち押しして下さいませv

ありがとうございます、励みになりますv

星に祈りを

2008-09-08 | ラタトスク小説
◇本編沿い…?なエミロイ(多分)。終盤の頃です。


それは。
ロイドと旅をするようになって少しした頃…そう、ふたりで薪拾いをしていた時のことだったと思う。

すっと頭の上に手が伸びてきたんだ。
それはまるで兄が弟をほめるような、やさしい仕草。
でも。

「…ッ!」

びくっと体が強張るのが、自分でもわかった。
鳶色の瞳が、ゆっくり伏せられる。

「エミル」

この人は、違う。
おじさんやおばさんや、街の人たちみたいに、僕を傷つけたりしないって。
そう、わかっていたのに。

『だから俺はエミルを――ラタトスクの良心を守る』
『一緒にみんなが幸せになれる方法を探そうぜ!』

そうだ、あの時も一歩下がっちゃったんだっけ。
ごめんなさい、ロイド。
でも、僕はまだ…怖いんだ。

謝ることも出来ない僕は、立ち止まり、俯くことしか出来ない。
離れていく気配に、なんだか泣きそうになったその時。

「エミル」

ふわり、と髪を撫でるのは、大きなあたたかい、手。
でも。
(あれ?怖く、ない?)
「やっぱりな」
狐につままれたような気持ちでふと下を見れば、いたずらっぽく笑ってるロイドと目が合った。
(…うわ!)
こんな表情見たのは、初めて、だったから。
僕は思わずふらついてしまって、背伸びしてたロイドは支えきれなくて。
ふたりで地面に転がってしまった。

「いたた…」
「悪い、大丈夫か?エミル」
手を差し伸べようと、一歩踏み出したロイドの顔が一瞬、歪む。
ほんとに、わずかだったけど。
それでも意地っ張りの堪えているだろう痛みを伝えるには、充分だった

「…重くないか?」
ああもう、何回目か数えるのも馬鹿らしくなってきた。
怪我してるんだから、おとなしく背負われてればいいのに。
そんなことを考えていたら。
「ごめんな」
すまなそうな声と、ため息が、耳をくすぐった。
まったく普段は鈍感なくせに変なところで敏いんだから…。

「ええと…うまく、言えないんだけど」
だんだん、段々と。背中に重みがかかってくる。
眠いのかな?
それとも。
「なんかさ、まだまだちいさいと思ってた息子に背負われてるよう、な…」
じわり、とあたたかいものがにじむ。
…甘えられてるのかな、僕。

「俺も、背負ってやればよかった」

こんなに嬉しいものなら、とぐすんと鼻をすするロイドの。
ずり落ちてくる体を背負い直して、ふと空を見上げれば。

手が届きそうで、届かない星の光が。
やさしく、そして力強く。
僕たちを見守っているように、瞬いた。


◇遅れに遅れましたが、9/6でしたので、クラロイ前提っぽくエミロイ。エミルは頭撫でられそうになったら逃げちゃいそうだなあと。上から手が→殴られる!って体が覚えてるというか(泣)
それでは今回も妄想にお付き合い下さいましてありがとうございました。この話が気に入った、エミロイいいよね!お前の妄想と響き合ったZE☆という剛毅な方がいらっしゃいましたら、下のロイドくんをぽち押しして下さいませv

拍手サンキュな!

天使の天秤

2008-09-04 | ラタトスク小説
◇このお話は所謂ED後捏造です。細かい設定とかしてないので、さらっと読み流してもらえれば幸いです。


「何度も同じことを言わせるな。いいか、お前には無理なんだ」
「だから!なんでそうやって決め付けるのさ!そんなの、やってみなくちゃわからないだろ!」

冷ややかな赤い瞳と、怒りに煌く緑の瞳の視線がぶつかり合う。
(…ふむ)
様子をずっと見守ってきたテネブラエだが、思わず、は、とため息をついた。
どうやら『この件』に関して、ふたりの主は、互いに折れるつもりはないようだ。
これではいつまでたっても平行線、そしてこのぴりぴりした雰囲気は精神衛生上非常によろしくない。

「おふたりとも。では公平に、第3者に判定してもらったらいかがですか?」

と、すれば。
ここは、誰かに押し付けるのが得策だろう。

「そうか!その手があったよね!ありがとうテネブラエ!」
「まあ、それも面白いか」

にこやかに成されたテネブラエの提案は、即採用となり。
騒がしかったギンヌンガ・ガップには再び平穏が訪れたのだった。


「邪魔するぞ」

突如現れたラタトスクとエミルの姿に、一瞬硬直したものの。
そこは腐っても自称大樹の守人、表面上はいたって普通に訪問の意を問う。

「あ、あの…僕たちロイドに会いに来たんです!」

真っ赤な顔で叫ぶエミルに少々の違和感を感じたが、ここで下手に突っ込むと要らぬ火の粉が降りかかってくるのは学習済みだ。
ユアンはそうか、と言葉少なに頷くと、ちらりと視線を大樹に向けた。

「…眠っているのか」

その大きく成長した幹に寄りかかって。
ロイドは、すうすうと健やかな寝息を立てていた。
水浴びでもしていたのか、ツンツンのその髪は、めずらしく垂れている。
外された手袋とブーツが無造作に放り投げてあるのが、なんとも彼らしい。

「気持ち良さそう…」

さわさわ、と大樹の葉がやさしく奏でる音はまるで子守唄のよう。
うっかり眠りに引き込まれそうになったエミルを、からかうような声が引き戻した。

「なんだ、不戦敗か?」
「…誰が!」

そうだ、自分は負けられない。
ラタトスクよりも手先が器用だと、その証拠を叩きつけてやるのだ。
そしてあの条件を飲んでもらう、絶対に!
でないと、こっちの身がもたないよ…。

「こうなってしまってはちょっとやそっとでは起きないが…どうする?」

なにやら楽しそうなラタトスクと、思いつめたように拳をぐっと握るエミルから目を逸らし、ユアンはぽつりと呟いた。
それは暗に出直して来い、むしろ厄介ごとを持ち込むな、ということなのだが。

「いや、眠ってる方が好都合だ…この賭けにはな」
「そ、そうだよね!ロイドには悪いけど…」

すっかり盛り上がっている精霊様(×2)には、通じなかったようだ。
そして迫り来る魔の手には、とんと気づかずに。
賭けの対象である鳶色の髪の天使は。

「…ん」

相変わらず、すやすやと眠っていた。


◇(次回予告)なにかとぶっそうなこのご時世、危機感ナッシングなロイドに迫り来る魔の手!天使はこのピンチを切り抜けることは出来るのか?

ええと、頼むから終わるまで起きないでね…?
なに遠慮してんだ。こういうのは勢いなんだよ!
近づかないほうがいい。今のロイドは防衛本能に基づき(以下略)

…ってな選択肢があってもいいなあと思うのですが(笑)すみません、下線はフェイクです。需要があれば書くかもですが、予定は未定ということで!いやぁエミ(ラタ)×ロイって本当にいいものですね!(笑)あ、ちなみにこの話はラタエミ前提です。

エミ(ラタ)ロイがアンケートで票伸ばしてたのでそれっぽいのをと思ったんですが、そこまでいきませんでした(笑)
それでは今回も妄想にお付き合い下さいましてありがとうございました。この話が気に入った、もしくは万が一さらなる妄想を望む!という剛毅な方がいらっしゃいましたら、下のロイドくんをぽち押しして下さいませv

拍手サンキュな!

ぼくらがいつか還る場所

2008-09-03 | ラタトスク小説
◇この話はパラレルです。ED後、マナが少なくなった世界でふらふらしてるラタさん(通称ふらふラタさん)が書きたくて書いた話です。趣味でファンタジアのクレスが出てきますが、辻褄ははっきり言って合ってません、すみません。

また、高声はにゅ~さまのサイト「ステキ☆界面世界」の残暑見舞いイラストを、挿絵のように使わせてもらっています。いつも本当にありがとうございますなのです!そしていつも事後報告でごめんなさい…(汗)

それではどうぞ。


01

戻りたい、場所があった。

「せかいは、ほろびるの?」

幼きその身で振るうには大き過ぎる剣を、その胸に抱き締め。
まっすぐな視線を、問いを。突きつけてくるのは。
マナの恩恵から切り離された世界に生まれた、こども。

かつて、大樹にはマナがあふれていた。
自分が大切に想う者たちの笑顔も、また。

けれどそんな優しい、時は。それ故に長くは続かなかった。

「…滅びる」

もっともこんなにはやくとは、思いたくはなかったが、と。
かなしげに呟いた青年の、その足元で。

「…ぁ!」

またひとつ。
世界が壊れる音が、響いた。

   おはよう おやすみ またあした
   そんな言葉を繰り返しながら、変わらぬ明日を願ってた



02

ゆめを、みる。とてもかなしいゆめ。

その人は、大きな木に腰掛けていた。
たったひとりで。

はらはらと散る、生きる力を失った枯れ葉。
せめて、と伸ばした手を擦り抜けて、大地へと還るそれを。
光を失った緋色の瞳が、じっと見つめている。

この世界はいつか滅びるのだという。
自分によって理が変えられ、マナの恩恵から切り離されたからだと。
そう、彼の人は言った。

そして。
精霊ラタトスクの封印が消えれば、人は魔族に支配されるだろう、とも。

(お前は、どうする?)

ああ。
幼かった自分が振るうには、大き過ぎる剣に視線を走らせ。
静かに問うた彼の人に、自分はどんなこたえを返したのだったか。

(…そうだな。戻りたい場所があれば、人は戦える)

ふっと口元だけで笑んだ、その人の。
合わせられた手の、卵の形にも似た、柔らかい檻の中に在るのは。
瑞々しい、緑の葉と、そして。

(俺は…)

その、ちいさな呟きを。
最後まできくことは、叶わなかった。

「…ッ!」

階段を踏み外したような衝撃と共に、少年の意識が覚醒する。
そのいまだ定まらぬ、視線の先で。

まるで彼の人の瞳の色を写し取ったような、緋色の蝶が。
ふるり、とその身を震わせた。


   大事にしたいと思っているのに、なんでかな。
   君の泣き顔しかみたことがないんだ。


03

本当は、気づいてた。
君が、僕を僕のままでその傍らに留めたいと、思ってたこと。

マナが減り続けるこの世界で、大樹は段々と元気をなくし。
世界を見守ってきた、やさしい天使も、その微笑みを遺していなくなった。

ギンヌンガ・ガップの封印を維持するだけでも大変なのに。
寂しがり屋の君は『僕』を離そうとはしなかった。

ああ、どうしたらいいんだろう。

どうしたらきみを、まもれるの。
もう二度と傷つけずにすむの。

だから、僕は探すよ。
君を支えてくれるもの。
たとえこの体に、二度と戻れなくても。

(ごめんね)

今みたいに、向かい合っては話せなくなるけど。
大丈夫。ずっとずっと、傍にいるから。

それが、もう一度人を信じてくれた君に出来る、僕の。
たったひとつの贖罪。

   恋には、ならなかった、のに 
   愛には、できなかった、から


04

世界は。
どれだけ自分を試せば気が済むのだろう。

「…、ッ!」

突如自分を襲った激しい目眩に、ラタトスクはがくりと膝をついた。
ずきずきと痛む胸を、ぎゅっと押さえることでやり過ごし、ぜいぜいと喘ぐ。
まるで手のひらから零れ落ちる砂のように、急速にうしなわれていくマナ。
これではギンヌンガ・ガップの扉が開くのも、時間の問題だ。

(大樹まで、もう少しだから、ね…?そうしたら楽に、なるから…)

緋色の蝶が羽ばたく度に、その身に纏った水滴が、乾き切った唇に落ちる。
けれど霞んだ視界に映る燐光は、弱々しく。
…もはや、飛ぶ力も残っていないのか。
ぽとり、と地に落ちてもなおもがく蝶を、ラタトスクはそっと掬い上げた。

「もう、いい…エミル」

再び動き始めた滅びに向かう、歴史の歯車を。
とめることなど、出来ないのだから。

(…避けて!)

切羽詰った叫びと共に、弱った体にほんのわずか力が戻る。
それがなにを意味するのか、知っていた。それでも。

呼吸をするように、自然に。
抜き放った剣は、斬りかかってきた魔族の体を、正確に貫いていた。

「エミル」

しずかに、ただ静かに。その名を呼ぶ。
避けそこねた刃が、こめかみを掠ったのか。
じわじわと、鮮やかなあかに侵食されていくのは滅びゆく世界と、それから。

(ラ…タ、…)

自分をまもってくれていた、やさしい気配がぷつん、と途切れる。
緋色の蝶は、消えてしまった。
まるで、世界に溶けてしまったかのように。

変わらぬ人間の行いに、絶望した俺は。
あの頃のようには笑えない。だから。

お前の姿も。もう一度護ろうと誓った、世界も。
…もう、見えないんだ。

「     」

ああ、このまま。瞳を閉じれば。
戻れる、だろうか。
お前達がいた、あのやさしいときに。

還れる、だろうか。

   いかないで。そばにいて。
   懇願は、音にならずに毀れるばかり


05

(せかいは、ほろびるの?)

思い出すのは。
まっすぐに、ただまっすぐに向けられた澄んだ瞳。
精霊ラタトスクを責めることも、縋ることも、そして崇めることもしない。
この世界にひとり。
自分の、足で立つ――。

(…?)

さわさわ、と心地良い音が、耳に響く。
誘われるように歩を踏み出した、ラタトスクの。
その手に舞い降りるのは。

失われた、緑の葉。

「…ッ!」



緋色の瞳が、いっぱいに見開かれる。

かつての緑を取り戻した、大樹の下で。
大切な人たちが、笑っていた。

戻りたい場所が、そこにはあった。

会いたかった、と震える唇がこえなきこえを紡ぐ。
本当は手を伸ばしたかった。けれど。出来なかった。
自分の弱さが見せた、夢だと。幻だと。
…気づいてしまうのが、怖くて。

(どうしてそう思うんだ?)

俯いてしまった自分をふわりと包むのは、懐かしいあたたかさ。
ん?と覗き込んでくるその眼差しに、頭を撫でてくれるやさしい、手に。
涙を堪えきれる自信がなくて。ぎゅうっとその胸にしがみついた。

(大丈夫、僕は消えないよ)

ひとつ。またひとつ。
零れ落ちる、なみだを受けとめて。

(いつだって、傍にいる)

生まれるのは。
たったひとりで世界を護ってきた精霊を、支える、もの。

マナを生み出す大樹とそれを支える大地の、いろの。
澄んだ瞳が映し出すのは。

いつか来るかもしれない『未来』――。

(だって、ひとりはさびしいだろ?)

…大丈夫。
戻りたい場所は、まだ、ここにある。


「…世界は、いつか滅びる」

耳元できこえる、こえに。
ふっとラタトスクの意識が浮上する。
ああそれは。
かつて、自分が幼きこどもに告げた言葉だった。

わかってるじゃないか。だったらさっさとそいつを渡せ、と。
嘲るように笑う魔族に、まっすぐに剣を向けて。

「だけどそれは今じゃない!」

凛と言い放つ、少年の。貸された、肩から伝わってくる想いは。
こんなにも、あたたかい。

気を抜けばすぐにでも、倒れこんでしまいそうになるけれど。
いつだって、戻りたい場所は。
この心の中に、確かに在るから。

「ああ、そうだな」

ふらつく自分を力づけるように、ひらりと、緋色の蝶が舞う。
ゆっくりと、それでもしっかりと。構えられた剣に映るのは。

あの日、手の中に閉じ込めた緑の葉と。
どこまでも真っ白な、天使の、羽根だった。   

   さよなら、てわらうから、ちゃんとわらってみせるから。
   頬を伝う涙には、気づかなかった振りをして。



◇というわけでアンケートの「世界はどれくらい僕を試しますか、なED後捏造」話でしたが、いかがでしたでしょうか。イメージソングは「果て無きモノローグ/angela 」でお届け致しました。ラタさんがありえないくらい弱いのは、色々あったからってことでひとつ(す、すいません…)仔クレスは書くの楽しかったです。はにゅ~さんのところのらくがき8.9のイラストをイメージして書いたのですがはてさて…。

それでは今回も妄想にお付き合い下さいましてありがとうございました。ラタさんに幸せを!な方、万が一さらなる妄想を望む!という剛毅な方がいらっしゃいましたら、下のロイドくんをぽち押しして下さいませv

拍手サンキュな!

本文内の各タイトルは(空詩(カラウタ)/陽沙真珠(ヨウサマジュ)さま)からお借りしました。

例えば繋ぐもの

2008-08-29 | ラタトスク小説
◇捕らわれのエミル、な逆行もの。いきなり始まるのでご注意。


逃げられない、と悟った時に、僕は咄嗟に彼を『突き飛ばして』いた。
僕たちの体はひとつだけど。
互いを認め合ったあのときから、その意識は明確に分かたれていたから。

「逃げて」

この言葉は、きっと彼を傷つける。
でも、今はラタトスクだけでも逃がさなきゃ。

「僕らの世界に『精霊ラタトスク』は必要なんだ。…僕と、違ってね」

じりじりと後退されば、エミル、と震える唇が声なきこえを紡いだ。
緋色の瞳が、苛烈な光を宿し、僕をこの場に縛りつけようとする。

いくな、と。
切ないまでの叫びと、共に。

ごめんね。
寂しがり屋の、君を。ひとりになんて、したくはなかったけど。

「エミル!」

僕が、嫌なんだ。
君とミトスの間に何があったのか、きいてはいたよ。
でも。

こんなにも、君が。
傷ついてるなんて。思わなかった。

だから、僕は、僕が赦せない。
君を傷つけるものすべてを、僕は絶対に。

ゆるさない。

(お願い、ロイド…!)

なんの相談もなく勝手に過去に来ておいて、助けを求めるなんて。
我ながら虫が良すぎるとは、思うんだけど。
でも、今頼れるのは、貴方だけだから。

(来て!)

空より大地に突き立ったのは。
眩いほどの、光の柱。

「まさか…」

信じられなかった。
ラタトスクの片割れの祈りに呼応して現れたのは、いまだ顕現していないはずの翼をその背にひろげた…。

「悪いな、こいつは連れていく」

自分が良く知る鳶色の髪に、鳶色の瞳を持つその青年は。
父の裏切りに、小さな翼をふるわせて泣いていた、無力なこどものはずだった。
それなのに。

暴れるラタトスクを優しく包み込む、白い翼は。
とても大きくて力強い美しさに満ちている…!

「ごめんな…連れて、いけなくて」

ぽつりと零された、その呟きは。
どちらに向けられた、ものだったのか。

光に溶けるように、ふたりの姿は消えた。
エターナルソードの力を使って『跳』ばれては、その後を追えるはずもない。
けれど。

切り札は、まだこちらが握っている。

「…少し、眠っておいで」

安心して?
お前はあいつらをおびき寄せる餌だから、殺しはしないよ。
でもただ捕らえておくんじゃ面白くないから…それまでは、せいぜい僕の役に立ってもらうとしようか。

「なに、を…」

抵抗も空しく。
孤独な支配者に捕らえられた蝶の、その意識は。
ゆっくりと、沈んでいった。


◇某所で書いた走り書きにちょっと追加してみました。イメージソングは「ハジマリのクロニクル」この後はエミルを逃がしに来たロイドが入れ替わりで捕まって、ミトスと対峙したりするといいなあとか。エミルに責められるラタさんとかも書いてみたい…!

タイトルは(loca(ロカ)/冴空柚木さま)からお借りしました。