2022年  にっぽん復興へのシナリオ

日本が復興を遂げていく道筋を描いた近未来小説と、今日の様々な政治や社会問題についての私なりの考えや提案を順次掲載します。

五.子供の誕生(4)

2012-01-29 16:40:57 | 小説
 「明日の10時に来院してください」
 週が明け、医師から出産スケジュールが告げられた。妻から出産スケジュールの連絡が入ると、磯村は上司の神部にそれを告げた。
 「そうか、いよいよだな。出産手続きを忘れるなよ」神部に促されて、磯村はタブレットを開いた。

 以前は出産時の手続に、健康保険出産手当金請求書、健保被保険者・家族出産育児一時金請求書、健康保険被扶養者異動届、健康保険・厚生年金保険育児休業取得者申出書、育児休業給付受給資格確認票、育児休業基本給付金支給申請書など様々な書類を、健康保険組合やハローワークに提出する必要がありかなり煩雑だったが、今ではマイ・ページ上の母子健康手帳サイトから『出産手続』のアイコンをタッチするだけで、必要な情報が健康保険組合に転送される。
 あとは、子供が誕生した時点で、医師が入力する電子カルテの情報と自動的に照合され、健康保険組合を通じて必要な情報が転送され、手続きは完了する。

 かつては、これらの手続のために必要な、健康保険被保険者証、母子健康手帳、住民票の写し、戸籍謄本、賃金台帳などの証明書類の交付を受け、それを添付して届けることになっていたが、必要情報は全てクラウド上に保管されているため、そうした煩わしさから一切解放された。

 「いよいよ磯村君も父親だな。どうだい?父親になる心境は」向井が磯村の肩に手を置いて尋ねた。
 「いやー、子供の顔を見るまでは特に実感が湧きませんね」
 「今日は酒は厳禁だぞ。まっすぐ家に帰るんだな」
 「部長、課長。明日から育児勤務に入らせていただきますが、よろしくお願いいたします」磯村は、二人に向かってぺこりと頭を下げた。

 育児勤務の取得は、男女ともごく当たり前になっていた。ネットを利用して緊急時の連絡や、当人でしか対応が難しい仕事は、リモートから行うことが可能になったことも大きな要因だが、会社にとっても育児勤務中の給与負担が軽減される。育児勤務中の給与負担は平均で俸給の8割に抑えられ、その差額は健康保険組合や雇用保険の枠内で補てんされる。従って、育児勤務中であっても本人の俸給には変化は生じない。

 以前は、有給休暇などを使って産休を取っていた時代もあったが、今日では育児のために有給休暇を費消することはまずありえない。2022年の今日、育児勤務の取得率は男女ともに過半数を超えた。
 しかし、個人事業者や熟練工など、育児勤務の取得が困難な人も数多くいる。そうした人には、協会けんぽや国民健康保険組合などがヘルパーを派遣している。ヘルパーの人件費は組合が負担するため、本人の負担はない。