かろうじて飛び込んだ実験棟の窓という窓を急いで閉めて回って、報知器に
マッチの火を近づけて入り口防火シャッターを降ろしたところで、膝が
ガクガクして階段の冷たい手すりにしがみつくようにもたれ掛かった。
これって怖いから俺震えてんのかな。階段を上がってこない啓太の背中を
軽く叩いて環が自らの肩を貸すように腕をとり、小柄な啓太の身体を引っ張る
ようにして階段を駆け上った。
屋上にも黒い塊は居た。
細すぎる窓からの隙間からはさすがに入り込めないらしいが、
シャッターや教室の引き戸の隙間からゲル状態の黒い塊が進入してくる
のもそう遅くはない。
校舎の壁をゲル状の黒い液体が伝い登り始めていた。
「なんか、スライムが大量発生したって感じだな」
「いーやむしろこれってラヴ・クラフトでしょう」
「なにそれ」
窓ガラス越しに壁を眺めていた環と洸輝の会話に啓太が割り込む。
「暗黒の宇宙から悪霊の神様が得体のしれない怪物の姿で地球のあちこちに
現れる話を書いた人」
「現れてどうすんの」
「人間を襲うの。ここは自分達が先に居た場所だからっていろいろ理由をつけて、
とんでもなく残酷な方法で殺したり消し去ったり食べちゃったり」
一息に言うとくたびれるわーと、洸輝には緊迫感のかけらも無い。
「ふーん。正義の味方はいないの? 洸輝さん」
「いなーい。人間はなすがまま」
洸輝は啓太に向かって降参のように両腕を上げ、ホールドアップの姿勢をとる。
「ええっ!?、それじゃ俺たちもアレになすがままっ?」
「いや、少なくともあんなヘンなのに何かされんのヤダから俺は逃げるけど?」
「そうすると、どうやってここから逃げようか」
「そうだねえ・・・校舎の中に木は生えてないし。
啓太が増えても今はあんまり役には立たないだろうしー」
洸輝の言葉にじとっと環は啓太を見る。
「え!? オレ役に立つよ!?」
「よし、じゃお前分身して『おとり』になれ。洸輝さん、コイツ残して逃げよう。
啓太なら一人ぐらい逃げ遅れても大丈夫じゃね?」
「ざけんなーっ!! 一人が怪我したら俺自身のみんなが怪我すんだよ!」
「”俺自身のみんな”ってのが啓太語録って感じだよなー。
判ってるって、冗談に決まってんだろ」
立ち上がった環は啓太を羽交い絞めにして、その硬い髪の毛をばさばさと乱暴に
逆立てる。
「啓太の毛ってヤギみたいだよな。柔らかそうでがびがびしてて」
「ヤギってなんだヤギって! 環の言ってることはワカンネことだらけだ」
「まぁ、ヤギって悪魔の化身みたいなとこあるしー。肉はうまいけどな。
臭いから食べてみないと判らないトコロがまた何とも言えないっていうか」
マッチの火を近づけて入り口防火シャッターを降ろしたところで、膝が
ガクガクして階段の冷たい手すりにしがみつくようにもたれ掛かった。
これって怖いから俺震えてんのかな。階段を上がってこない啓太の背中を
軽く叩いて環が自らの肩を貸すように腕をとり、小柄な啓太の身体を引っ張る
ようにして階段を駆け上った。
屋上にも黒い塊は居た。
細すぎる窓からの隙間からはさすがに入り込めないらしいが、
シャッターや教室の引き戸の隙間からゲル状態の黒い塊が進入してくる
のもそう遅くはない。
校舎の壁をゲル状の黒い液体が伝い登り始めていた。
「なんか、スライムが大量発生したって感じだな」
「いーやむしろこれってラヴ・クラフトでしょう」
「なにそれ」
窓ガラス越しに壁を眺めていた環と洸輝の会話に啓太が割り込む。
「暗黒の宇宙から悪霊の神様が得体のしれない怪物の姿で地球のあちこちに
現れる話を書いた人」
「現れてどうすんの」
「人間を襲うの。ここは自分達が先に居た場所だからっていろいろ理由をつけて、
とんでもなく残酷な方法で殺したり消し去ったり食べちゃったり」
一息に言うとくたびれるわーと、洸輝には緊迫感のかけらも無い。
「ふーん。正義の味方はいないの? 洸輝さん」
「いなーい。人間はなすがまま」
洸輝は啓太に向かって降参のように両腕を上げ、ホールドアップの姿勢をとる。
「ええっ!?、それじゃ俺たちもアレになすがままっ?」
「いや、少なくともあんなヘンなのに何かされんのヤダから俺は逃げるけど?」
「そうすると、どうやってここから逃げようか」
「そうだねえ・・・校舎の中に木は生えてないし。
啓太が増えても今はあんまり役には立たないだろうしー」
洸輝の言葉にじとっと環は啓太を見る。
「え!? オレ役に立つよ!?」
「よし、じゃお前分身して『おとり』になれ。洸輝さん、コイツ残して逃げよう。
啓太なら一人ぐらい逃げ遅れても大丈夫じゃね?」
「ざけんなーっ!! 一人が怪我したら俺自身のみんなが怪我すんだよ!」
「”俺自身のみんな”ってのが啓太語録って感じだよなー。
判ってるって、冗談に決まってんだろ」
立ち上がった環は啓太を羽交い絞めにして、その硬い髪の毛をばさばさと乱暴に
逆立てる。
「啓太の毛ってヤギみたいだよな。柔らかそうでがびがびしてて」
「ヤギってなんだヤギって! 環の言ってることはワカンネことだらけだ」
「まぁ、ヤギって悪魔の化身みたいなとこあるしー。肉はうまいけどな。
臭いから食べてみないと判らないトコロがまた何とも言えないっていうか」
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