向日葵
僕は向日葵が苦手だ 人の顔みたいで
それは舞台の上から眺める客席のようだ
僕は幼いころから日舞を習っていた
母が若いころ習っていたらしいが
交通事故で足を怪我してやめてしまった
だから僕がまだお腹にいる時から
男の子でも女の子でも日舞を習わせると
強く父に断言していたらしい
そして生まれた僕は 人形のような
肌も白く眼がぱっちりとした赤ん坊だった
僕は自分の顔が嫌いだ 僕を見た人は
まるで女の子みたいねと必ず言うから
それなのに母はとても嬉しそうだった
出かける時にはいつも僕を連れて行く
髪も伸ばし可愛い服を着せていた
それでも母が喜ぶのならと思った
小学校に入ってからは随分と
クラスの男子にからかわれた
それでも僕は気にしてなかった
だって僕は舞台の上で踊る人形だから
中学に入るとすぐに 成長痛がひどく
稽古もできなくなった 母はとても心配した
治まるころには僕の身長は170cmを超えた
けれど身長と手や足は長くなっても
男らしい体つきにはなれなかった
顔も顎がほっそりとして目が切れ長になった
姐さんたちからは化粧映えのする顔だと言われた
これはきっと母の呪いだと僕は思った
高校の入学式の日 お前って凄いなと言われた
振り向くと小学生の時僕をからかっていた奴だった
僕は向日葵が苦手だ 人の顔みたいで
けれど小さい頃のように眼を背けることはない
高校に入って新しい友達もでき
いじめっ子だった奴から 凄いと言われ
なんだか少し恥ずかしかった
鏡に映る姿は僕の望んだ姿ではないけれど
いつの間にかそれに慣れてしまったのか
或いは自分自身を認められたのか
空っぽだった僕の心の中に何か温かい
そして懐かしい感情が芽生えた気がした