1.前線
ハッサンは仲間と共に、岩陰に身をひそめる。
敵の哨所は近い。
あたりは静まり返っている。
しかし、張り詰めた空気が漂う。
かすかに“ブンブン”という音が聞こえる。
「敵のドローンだ!」
耳障りな音が上空に近づいてきた。
同じ部落出身のアリーが上空に向けAK-47を発射する。
「退避!」
ハッサンたちは近くのくぼ地に駆け込む。
間髪を入れず、ヒュル、ヒュルと不気味な音と共に、迫撃砲弾が降ってきた。
“ズズン、ズズンッ”
腹に響く爆発音とともに、土砂が降ってきた。
ハッサンはサヌア近郊の村落の出身だ。
父親は鍛冶屋をやっており、ハッサンはその手伝いをしていた。
内戦が始まり、氏族の長の命令で駆り出され、フーシ派の兵士になった。
今、首都サヌアの東120キロにある、ハーディ政権派がおさえている
マーリブ油田地帯に攻撃をかけようとしていた。
しかし、ハーディ政権派はサウジアラビアや湾岸諸国の支援を受けており、
重火器を持たないフーシ派は苦戦を強いられていた。
さらに、ハーディ政権派は大型軍事ドローン(UAV、無人機)を使用して
偵察、攻撃を行い、前線の上空を支配していた。
参考図:https://www.bing.com 「イエメン内戦」