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第3話(1)

 ムルデカ・アタウ・マティ(1)

 いろいろな理由で、敗戦直後の日本軍を離脱し、インドネシア独立軍に身を投じた日本軍将兵は約2千名に及んだ。

 軍人や民間人の復員が進む中、残留日本兵への帰投勧告がなされた。

 しかし、北村の腹は決まっていた。
“投降して自分の運命を他人に委ねるより、この地の独立という大義にかけてみよう。”
“一度は捨てた命、おもしろそうな方にかけるのも悪くない。”

 イギリス軍は1946年11月に撤退、かわってオランダ軍の増強が続いた。

 12万人に達したオランダ軍は、ジャワとスマトラのインドネシア共和国の支配地域に進軍を開始し、共和国軍との衝突が相次いだ。
47年7月、オランダ軍は共和国に最後通牒を突きつけ、全面攻勢に出た。(オランダ軍の第1次軍事行動)

 西部ジャワでは、近代装備のオランダ軍は兵器もろくに無い共和国軍を蹴散らし、ジャカルタ、バンドン、スマランなどの都市を占領した。
共和国軍は山岳地帯に撤退し、農村部でゲリラ戦を展開する。

 北村らの哨戒艇隊もジャカルタから撤退し、東部ジャワのスラバヤ地区に移動した。
東部ジャワでも、オランダ海軍に支援されたオランダ軍が電撃戦を展開、共和国軍を押しまくっていた。

 北村らは、取り残された部隊を海路脱出させる任務を命ぜられた。

 深夜、岸に沿ってゆっくり進む。
沖合には、真っ黒いフリゲート艦か哨戒艇が遊弋している。
陸上からは、腹に響く砲撃音が断続的に聞こえる。

 「ラフマット、あそこだ。」
スカルディが指さす方向を見ると、小さなカンテラの灯りがちらちら見える。
後進をかけ、艇を停止させる。
艇の周りに、夜目にもはっきりと白い空気の泡が広がる。

 折りたたみ式のボートを降ろし、岸に向かわせる。
艇に引き返してきたボートから兵士を引き上げる。
何往復かして、30人ほどの兵士が乗り込んできた。

 船室は急に賑やかになった。
「静かに!」

 参考図:「残留日本兵の真実」、林英一、作品社、2007
     
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