山岳地帯を抜けると、広大な平原に出た。
左前方に、頂が雪に覆われた巨大な独立峰が遠望された。
「あれが聖書に出てくる”ノアの箱舟山”(アララト山、海抜5123m)」だ。」
マルコ達は世界を飲み込んだ大洪水のあと、ノアの箱舟がたどり着いたという山の麓を、何日もかけて進んだ。
遊牧民が羊の群を追っている。
高原を抜けると、道は非常に狭い山間の隘路となった。
この急峻な坂道は20キロも続いた。
突然、緑豊かな大平原が目の前に現れる。
メソポタミア平原だ。
ここには多くの町があり、様々な民族が住んでいる。
アラブ人、ペルシャ人、クルド人、トルコ人などだ。
そして、彼らはそれぞれの宗教―イスラーム教、キリスト教、ユダヤ教、仏教、ゾロアスター教など―を信じている。
支配者であるモンゴル人は少数で、その地方の総督府と駐屯軍にいる位だ。
「モンゴル帝国は征服地で、その地方の首長を任命して税を取り立てるだけで、あとは自治に任せている。宗教も自由にさせているようだ。」
父が説明してくれる。
「但し、反乱を起こせば、一人残らず殺される。」
「帝国は東西貿易を奨励している。我々商人にとってはありがたいことだ。」
やがてイスラーム世界の中心地、バグダードに着いた。
街の傍を大河がゆったりと流れ、城壁に囲まれた広大な街中には、青色のモスクがそこかしこにそびえている。
バグダードは商業、宗教、学問の都として栄えており、マルコの目にしたどんな街よりも大きな都市だった。
マルコ達は運んできた交易品を宝石に換えようと、バザールに出かけた。
そこで、ある商人から20年前、この都を襲ったモンゴル軍襲来の話を聞かされた。
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