gooブログはじめました!

第2話(5)

混乱(5)

 兵藤らは、はしけに乗って、沖合いに停泊している貨物船に向かう。
同乗者は、復員兵らしき人間が多い。
気持ちよい潮風に吹かれ、雑談が始まる。

 「やれやれ、一汗かいたな。」
「あんたはどこに居たんだい?」
ビルマ、ニューギニア、中国----―
「セレベスでね、激戦で20万人も死んだよ。」
戦地での話をしたがるのは、戦闘体験のないやつで、ホラ話が多い。
ひどい体験をした人間は、多くを語らない。

 貨物船は499トン級の内航船だ。
ウィンチではしけの荷物を吊り上げ、船倉に落とす。
兵藤らは、船倉に入り、荷物を積み替える。
足場が悪いうえ、船が揺れるので、よけい疲れる。
皆、無口になり、もくもくと作業する。

 一日の仕事が終わると、体中が痛く、バラバラになりそうだった。
肩の皮は剥け、赤くはれ上がっている。
それでも4、5日すると身体がなれ、へまもしなくなった。

 その日は、岸壁での徹夜作業だった。
薄暗がりの中、作業をしていると、100メートルほど離れた倉庫のあたりが、急に騒がしくなった。

 怒号、多数の人間が走り回る音、“パン”というピストルの発射音。
皆、手を休め、中腰になっていると、手に手に棒や刃物を持った十数人の一団が、ドッと襲い掛かってきた。

 皆、わっと逃げ出す。
兵藤は、運悪く荷物に足を引っ掛け、転倒した。
男が日本刀を振りかざし、切りつけてきた。
間一髪よけて、そばにあった鉄棒で足払いを掛ける。
跪いた男の頭に、鉄棒を叩きつけた。

 駆けつけた警官隊に十数人が捕まった。
兵藤もその中に含まれていた。
襲ってきたのは、港で兵藤の働いていた組と勢力争いをしているグループだった。
散々搾られたが、一週間後、正当防衛ということで保釈された。
警察も犯罪多発で、余裕がなかったのだ。
    
     
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「大西洋」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事